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惑星N 銀河からのメッセージ

作者: オハラ ポテト
掲載日:2026/02/28

地球から約百億光年先の銀河に、惑星Nという星があった。その星は地球によく似ていた。まるで地球のパロディーを見ているかのようだった。大国同士は、一致団結して小国をつぶしにかかり、核戦争を回避していた。しかし今度は小国同士一致団結して、核兵器を開発し、結局最後には核戦争になり、惑星Nは滅びた。そんな惑星Nから脱出した、高岡セイラは、コールドスリープ(冷凍睡眠)を使い、地球にメッセージを伝えに直接来る。そこで出会ったのが、大嶋豊久だった。

第一章かぐや姫? それとも?


 ピカ、ゴオーン ドーン!


それは一九九四年五月の連休が明けて、蛍のシーズンが近づいてきたある夜のことだった。

十五歳の中学生、大嶋豊久は家の三階の窓から、夜空を見上げていた。すると流れ星のようなものが、夜空から、横浜市旭区の自宅裏山に落ちた。その大きな音に、彼はびっくりした。家族を呼ぶも、誰もその音には気づいてはいない。彼は仕方なしに、一人で、夜の裏山へと向かった。家族には蛍を見てくると言い残して、家を出た。


 現場付近に行くと、何やらロケットらしき物体があった。しばらく遠くから豊久は、それを観察していると、そのロケットから自分と年齢が同じくらいの女の子が降りてきた。


 豊久は、怖くなり、つい声をあげてしまった。それに気づいた女の子は、豊久の方へと近づいてきた。豊久は、動けなかった。


 それを見ていた女の子は、ケラケラと笑い出した。彼女は豊久に話しかけるも、言葉が通じなかったため、宇宙言語翻訳機を使い、豊久に日本語で話しかけた。


「何でそんなに驚いているの? 私は化け物じゃないわ」

「ひぇー、しゃべった!」

「そりゃしゃべるわよ!」

「だって、君宇宙人でしょ? 何で日本語が話せるの?」

「この宇宙言語翻訳機のおかげよ」

女の子は得意げに言った。

「はあ、宇宙人がいる!」

なおも豊久は、驚き続けて痙攣(けいれん)しそうになっていた。

「あなたは誰?」

女の子は尋ねた。

「それ、こっちのセリフだから! 君こそ誰?」

「私、高岡セイラ。ここから百億光年先の惑星Nから、あなたたち地球人に伝えなければならないことがあって来たの」

「セイラか。僕は大嶋豊久。中学三年生だよ」

「中学三年生? ということは、十五歳?」

「そうだけど」

「私も十五歳!」

「え、でも百億光年かけて、地球へ来たのでしょ? そしたら百億十五歳じゃないの?」

「うるさい! コールドスリープ、まあいわゆる冷凍睡眠を使って、カプセルの中で、老いないようになっていたの」

「ま、どっちにしても百億十五歳か」

「コラ!」

セイラと豊久は爆笑した。

「コールドスリープ、すげえ! ねえ、さっき言っていた、地球人に伝えなければならないメッセージって何?」

その瞬間、セイラは顔をこわばらせた。

「今から三十二年後に起こりえることを伝えに来たの」

「三十二年後? 僕は、そのころ四十六歳になっているよ」

「そしてあなたは、この国の総理大臣になっている」

「え? 僕が! そんな、まさか!」

「えー、そうなのよ。だからあなたにしか、このロケットが着陸した時の音は聞こえなかったの」

「なるほどね」

豊久は感心しきっていた。

「ねえ、じゃあこの先未来に何が起こるかも知っているの」

「来年一九九五年一月に、兵庫県を中心にした大震災が起こる。今から七年後、アメリカで同時多発テロが起こる。それによりアメリカは戦争に突入する」

「へー。でも本当にそんなこと起こるの?」

「あなたたちには、時間が必要ね」

「ね、それで今から三十二年後の二〇二六年頃に何が起こるの?」

「核戦争よ!」

「え? 噓でしょ!」

「だからあなたには、日本の総理大臣になった(あかつき)には、その核戦争を止めて欲しいの!」

「でも、どうやって?」
































第二章 百億光年前の惑星N近代世界


「これから、百億光年先の私の育った星、惑星Nがたどった悲惨な運命を話すわ」

セイラは悲しそうな目で話し始めた。

「私の父高岡雄二から聞いた話よ」


「セイラ、今から言うことを百億光年先の未来の地球という惑星に行って、核戦争で滅んだわが惑星Nのことを伝えてくれ。そして地球で同じことが起きないように警告してきてくれ」


「この惑星Nは、水の惑星だった。高度な文明も持ち合わせていたがゆえに、滅んだ。私はいわゆる戦後生まれの人間だった。この国J国は、唯一の被爆国家だった。だから私の父、高岡俊二はいつも悩んでいた。隣国や世界が、危うい力による平和を掲げて、どんどん核兵器を製造する世の中になった。初めは大国だけのことであったが、次第にある戦争をきっかけに小国まで核武装する羽目になってしまった。そんな中わがJ国は、アタリヤ合衆国に守られてきた。


 ある時、隣国の北豚汁 豚汁民主主義人民共和国が、秘密裏に核兵器を開発したと発表した。この国は、貧しいにもかかわらず、夏でも豚汁を強制して食べさせられる国だった。その北豚汁が、核兵器を開発したことにより、核の国際バランスが崩れようとしていた。わが父は、J国総理大臣として、また唯一の被爆者総理だった。そんなものだから、簡単にJ国を核武装させられない。なぜなら親父自身が被爆者で、その苦しみを一番よく知っていたからだ。


 しかし世論は、親父の政治姿勢では、J国は守れないと、野党第一党の民衆党から追及された。しかしいつも親父を批判するのは、戦後生まれで核兵器の恐ろしさを知らない世代の奴らだった。(たち)が悪い。親父は考え方が古いと、民衆党の幹部から指摘されていた。しかし親父は頑として、核武装だけはしないという姿勢を崩さなかった。そんな親父は、いつも家でもイライラしていた。その親父をなだめようと、母高岡礼子は一生懸命だった。だが二人とも日に日にやせ細っていった。そんなこんなで私は、十七歳になっていた。そのころだった。親父は、私に勝手に許嫁を紹介してきた。それが、セイラ、お前のお母さんの高岡美奈だったのだ。だが私には他に好きな人がいた。父の言ったことは絶対だったので、しぶしぶ受け入れたが、私はその彼女のことを忘れられなかった。私が好きだった彼女は、AIだったのだ。だから私好みに完璧に作られたロボットだった。しかしこれは、後で分かったことだが、野党民衆党の幹部が私に贈ったものだった。というのも、彼らの主張の一つとして、世襲議員はダメということがあった。だから子供のできないAIに私の気持ちを向けさせるのが狙いだった。そのことに気づいていなかった私は、後に親父の墓前で感謝した」

































第三章 父高岡雄二の青春時代


 雄二は、母を大切にしないで、いつも家で怒鳴ってばかりいた父俊二が大嫌いだった。そんな父を大らかな母はいつも受け止めていた。雄二には父が一国の総理大臣であろうが、家では父であった。だからもっと母を大切にして、父親らしくしてほしかった。この時の雄二には、一国を背負うのと、一家を背負うのが同じ重さにしか思えてなかった。まだ若かったのである。


 そんな雄二にできた彼女が、美香だった。初めは、雄二は同じ学校に通う普通の女の子に見えた。しかしその正体は、AIロボットの彼女だった。しかしあまりにも人間にそっくりなので、雄二は本当の人間の女の子と接するように接していた。返答も会話も普通にできた。いやむしろ、何を考えているか分からない同世代の女の子より意思もはっきりしていて、雄二は恋に落ちた。だが美香は決まってこう言うのだった。


 「雄二は私のこと好きみたいだけど、私たち結婚はできないよ。私は単に、奇数のクラス人数を偶数に変えて、外れの子が出ないためにいるだけ。数合わせのロボットだよ」

美香は雄二を見つめてそう言った。彼女はロボットだからだろうか。アイドルのように美しい。

「でもどうして結婚できないの?」

雄二は美香の大きな目から、視線をそらしながら言った。

「ねえ、こんな大事な話をしているのに、どうして視線を私からそらすの?」

美香の身体は熱くなってきた。

「いや、美香がかわいいから視線を合わせられなくて、ごめん」

雄二は焦っているようだった。

「ああ、もう!」

美香は体操着を着た身体を、校庭の芝生に大の字になって寝転んだ。そして手足をバタバタとした。

「謝ってなんて頼んだ?」

雄二も彼女の隣に大の字になって寝転んだ。

気が付くと二人とも、白い体操着が泥んこになっていた。

「嫌だ。もう! 雄二のせいだからね!」

さわやかな秋の風が吹いてきた。

「美香、今度海に遊びに一緒に行かない?」

美香は、悲しげに答えた。

「行きたいよ。私だって、この校舎の外に出たいわ。でも」

「でも?」

雄二と美香の顔は半径十センチまで近づいていた。今度こそ雄二は美香から目をそらさなかった。

「おーい、美香はどこだ?」

遠く職員室から体育教師の新田(あらた)信二の声がした。雄二はキス未遂をしてしまった。何でこのタイミングで、新田は来る? 怒りが爆発しそうだった。

「新田先生、美香はここにおりますわ! そんな大きな声出さないでください!」

「最近は、AIロボットを誘拐して、悪用する奴がいるみたいだからな。早めに、美香を倉庫に入れておかないと、大変なことになる」

新田は、美香を呼び、電池を切った。そしていつものごとく狭く暗い体育倉庫に夕方から次の日の朝まで、閉じ込めるのだった。

「新田先生、たまにはロボットも、学校の外に行きたいなんてこともあるかもしれないですよ?」

雄二は、上目遣いで新田に尋ねた。

「やめろよ。その上目遣い! 何でそう思う? 高岡?」

雄二は、美香といることが多かったので、つい彼女から女性特有の上目遣いを習得して使いこなしていた。それが新たには気持ち悪かったらしい。

「何でそう思うかですか?」

「高岡、よく聞け。お前は高岡俊二総理のご子息だ。美香はもちろん、お前だって、学校の外には勝手には行かせない! 分かるだろ?」

まだ思春期であったが、父俊二の存在は、雄二の行動範囲も制限していた。だからこそ、同じように行動範囲を制限される美香に、雄二は同情の念というより好意を抱いてしまったのだ。そのことに勘づいていた新田は、敢えてそれ以上のことは注意してこなかった。ただいつかは雄二も学校を卒業する。その後のことを考えると、雄二はいつも憂鬱になった。考えないようにしよう。そう思えば思うほど、日にちが経ち時間が少しずつ前へ進むと、さらに怖くなってきた。まるで死刑を宣告されたかのような気分だった。


 そんな雄二が十七歳になった時だった。彼は、父俊二に呼び出された。雄二は嫌な予感がしていた。

「そこに座りなさい」

俊二は、ぶっきらぼうに言った。雄二は、言われた通りにテーブルの前にある椅子に座った。

「雄二、今日は大切な話がある。お前ももう十七歳。来年には学校も卒業したら、結婚するとよか!」

雄二は、まさか美香との交際を堅物の父俊二が認めるはずがないと思いながら聞いていた。

「母さん、通してやってくれ」

「はい、今お通ししますわね」

そこに現れたのは、背は低いが、かわいらしい女性だった。モデル体型に作られていた美香と、雄二はつい今現れた女性を比較してしまった。

「雄二、こちらは岡本美奈さんだ。お前の学区の学校と隣の学区の女学校に通っている。今日から彼女がお前の許嫁だからな! いいか他の女とはすっぱりと縁を切れ」

「どうして親父は、そうやっていつも大事なことは自分で勝手に決めて、事後報告なん? ふざけんなよ!」

雄二は、今まで生きてきた分の怒り全てを父俊二にぶつけた。

「それが親に対する言葉遣いか?」

一触即発の状態になっていた。そこに現れたのが、大らかな母だった。

「まあ、まずは夕飯の時間ですし、その後にしましょう。お茶とお味噌汁が冷めますからね」

父俊二は、このような重大事項を、きっと夕飯時に狙って言ったに違いない。そのくらいの計算ができなければ、一国の総理など務まるはずもない。また、父にやられた! しかし雄二は、美香をあきらめるつもりはなかった。美奈はかわいらしい。だが美香は美しい。雄二には天秤にかける余地もなかった。しげしげと我が家にその後通い続けるようになった美奈を無視して、夜遅くまで勉強と言い張り、美香と学校で遅い時間まで話し込んでいた。体育教師の新田は、そのことに、目をつぶっていた。父俊二もそのことには気づいているようだったが、学校を卒業するまでは口を出さないと決めていたようであった。


 一年が過ぎ、十八歳になった雄二と美奈だったが、関係はやはり進展してはいなかった。美奈は自分には目も向けてくれないと、雄二に最初は悪印象しかなかった。だが、どうにか、今は雄二に挨拶をして、必死に接点を彼女なりに作ろうとしていた。

「雄二さん、スイーツを作ったの。これ持っていってください」

またある日は、雄二の弁当を美奈が作ってくれた。そんな美奈に雄二は複雑な気持ちになっていた。徐々にではあるが、雄二の気持ちは美奈の粘り強い優しさに、心奪われる時もあったからだ。しかし数日後、決断は、他に選択の余地がなくなってしまう事態になってしまった。


第四章 速報 核武装反対の被爆者、高岡俊二総理夫妻暗殺される!


「速報です。被爆者で、一貫して我が国の核武装に反対してきた、総理の高岡俊二夫妻が撃たれました。頭を銃が貫通しており、夫妻とも即死の模様です。犯行声明は出されており、核武装支持者の男だとのことです。警察は男を緊急逮捕しました」


 夕方学校から帰ると、テレビの速報で雄二は両親を亡くしたことに気づいた。

「そ、そんな! 嘘だろ! 嘘だって言ってくれよ! 何だよ、これ!」

雄二はテレビに向かって、怒鳴りだした。その私を制止しようと、美奈は必死だった。

「ダメ、雄二さん! 私が付いているから。これからどんな時も私が付いているから! 落ち着いて!」

その声に雄二は我に返った。総理の息子の私よりも、この時、この瞬間を分かっていたかのような美奈の態度だった。

「ワー、嫌だよ! ふざけるなよ! 返せよ俺の親父とお袋! あー、もー!」

雄二は、美奈に抱きつきながら泣いていた。初めてのことだった。こんなに泣いたことは、今までなかった。雄二の感情は爆発し、壊れてしまった。立ち直れない。雄二はそんな気がした。今まで、美香の前でさえ、こんなに泣いたことはなかった。そんな雄二が美奈の前で大泣きしていた。美奈の着物は、いつの間にか、雄二の涙でびしょ濡れになっていた。不思議な感覚でもあった。自分の感情を、誰かの前で本気で見せるのはこれが初めてだった。なぜそれが美香ではなく、美奈だったのだろうか? 雄二は考え込んでしまった。そのまま雄二は、二、三日寝込んでしまった。その間美奈は雄二の看病を必死にしてくれた。雄二は、適応障害と医師から診断された。今の現実が、彼の生きてきた現実世界でなくなってしまった。


 彼の両親を殺した実行犯は、彼より少し年上の二十代の男だった。無論被爆者ではない。被爆者が、核兵器の恐ろしさを語ってきた。しかし、核兵器の本当の恐ろしさは、実際に被爆した者にしか分からない。ゆえに男は犯行に及んだ。そして、父の後を継いだ橋場内閣は、短命政権に終わった。核武装推進の野党第一党民衆党の与田内閣が発足し、いよいよJ国も核武装法案が可決されてしまった。


 美香とはその後会ってない。後で聞いた話だが、美香は野党第一党民衆党のスパイAIロボットだったのだ。そのことが公然になるや否や、美香は爆破装置により破壊された。雄二の心の内は複雑だった。かつての初恋相手がスパイだった。そして、破壊された。雄二は自身が未熟だったと感じたと共に、父俊二に美奈のような深い愛情で包み込んでくれる許嫁に決めてくれて感謝の思いになった。父母の墓前で、雄二は涙した。


































第五章 揺れる世界


 この頃の惑星Nは、二大大国と長国が核兵器を保有していた。特にアタリヤ合衆国を挑発し、瀬戸際外交をしていた北豚汁は、秘密裏に核兵器を開発し保有してしまったのである。北豚汁の銀誤恩将軍とアタリヤ合衆国大統領ドナルゾ・シュリンプは、第三国で臨時の首脳会談を電撃的に開き、一度は北豚汁の核開発はこれ以上進めないという話にまとまった。しかしアタリヤ合衆国大統領から、ドナルゾ・シュリンプが失脚するや否や、北豚汁は次のドイテン大統領の弱腰姿勢を馬鹿にし、再び核開発を始めたのである。


 そしてもうひとつ問題が浮上してきた。大国アラシヤ連邦によるツライナ連邦への軍事侵攻だった。アラシヤ連邦は、寒冷地にあり、歴史的にも他国の領土を不法に奪ってきた。J国の北に位置するデッカイ道のすぐ北の島々、鉄砲領土も不法占拠の状態が長年続いていた。


 ついにアラシヤ連邦は、ツライナ連邦へ軍事侵攻した。アタリヤ合衆国の大統領になっていたドイテン大統領は、アラシヤ連邦と直接戦う選択肢をすると、核戦争になることが想定できた。よってツライナ連邦には、後方から武器を寄贈し、援助するという弱気外交を始めた。しかしこれしか核戦争を回避する方法が見当たらなかった。


そんな中、シュリンプ大統領が再選すると、状況が一変する。シュリンプは、アラシヤ連邦の独裁者、ユーチンと仲が良かったのである。そしてツライナ連邦への武器の供与を即時止め、侵略国のアラシヤの主張通りに、領土を奪わせて停船させた。このやり方でアラシヤ連邦が他国を侵略するたびに、アタリヤ合衆国のシュリンプは、小国に我慢をさせるようになる。


こうして長年アラシヤ連邦による小国への軍事侵攻に加担する形で、シュリンプは核戦争を回避してきた。しかしそんな中、小国は我慢の限界に達してきた。彼らは小国連盟を結成し、秘密裏にどんどん核武装していった。そして唯一の被爆国のわがJ国も、止める人がいなくなり、ついに核武装した。


こうして惑星Nは、力による平和バランスで成り立つようになった。どこかが、バランスが崩れてしまえば、即座に崩壊するのが力による平和である。そしてとうとう長年アラシヤ連邦の脅威に苦しめられてきた、様々な小国は一致団結して、アラシヤから領土を奪い返そうと攻撃を始めた。核を使うことも辞さない。やむを得ない。そうアラシヤ連邦に宣戦布告した。これらの小国の中に、でっかい道の北の鉄砲領土を奪われた我がJ国も入っていた。


一方アタリヤ合衆国では、このような事態を招いたシュリンプ大統領の外交姿勢を野党は責め始めた。また、アタリヤファーストの政策もことごとく、世界から反感を買って、失敗に終わった。































第六章 惑星N 核戦争前夜


 惑星Nで唯一の被爆国ということもあり、小国連合の代表的地位に就いていたJ国だったが、右傾化が進み人々は被爆者の言ってきたことなどなかったことにしようとしていた。いや実際、皆自分が被爆したことがなかったから、簡単に核のボタンを押せると思っていた。しかしいざ自分が核のボタンを押し、核戦争をしかけられる立場になった与田総理は、躊躇していた。いや与田総理だけではない。シュリンプ大統領も、ユーチン大統領も、誰も核戦争など望んでいない。それは自殺行為だからである。


 しかしながらシュリンプがユーチンの味方をして、次々とユーチンが侵略した戦争を、シュリンプがユーチンの有利に終わらせる。戦争は終わるが、小国は不満が高まる。そして勝手にシュリンプはノーベル平和賞ものの働きをしたと勘違いする。もう小国は、二人の独裁者に対して、我慢の限界に達していたのである。


 雄二は大人になり、美奈と結婚した。そして二人は、セイラという女の子を授かった。雄二は、コールドスリープ(冷凍睡眠)を使って、カプセルロケットでこの星から脱出する方法を考える会社を起ち上げていた。

「パパ、何やっているの? 幼いセイラは、好奇心で、よく雄二の仕事を邪魔してきた」

その度に雄二は、父のような仕事人間になっては子供が可哀そうだと思い、セイラをあやしながら仕事していた。

「セイラとパパ、ママで、将来宇宙旅行に行こう。その時に必要な宇宙船をパパは今作っているよ。将来、いろんな星に行けるよ、セイラ!」

「パパとママとセイラで、みんなで宇宙旅行に行くの?」

「そうだよ」

「わー、楽しそう!」

セイラは無邪気に笑った。彼女は髪をブロンドヘアーにしていた。そして水玉模様のドレスをよく着ていた。

「よーし、そしたら水玉模様の宇宙服も、セイラのために作っておくよ!」

雄二は、セイラにいつも甘い。こんな話を毎日のようにしながら、カプセルロケット宇宙船の開発を進めてきた。そしてコールドスリープの実用化に向けて、厚生宇宙省の役人と話も進めていた。しかし話はいつも受け入れてもらえない。彼が、高岡俊二総理の息子、高岡雄二だからだ。彼の会社はいつも目を付けられていた。特に厚宇省の役人からは、相当目を付けられていた。


雄二の宇宙船開発と、コールドスリープカプセル開発は、その間にも着々と進み完成間近になっていた。しかし一つだけ誤算があった。カプセルロケット宇宙船は、どう作っても一人が定員であった。それ以上の人数が乗れば、この惑星Nの大気圏を突破する時、摩擦熱と惑星Nの古代人が作った人工太陽に見つかって地上に熱風で戻されてしまう。そう、この人工太陽は、惑星Nの人間が宇宙へ出ていくことをもともと監視する役割も担っていたのだ。理由は分からない。ただもし核戦争になり、この惑星Nごと吹っ飛べば、状況は変わるだろうと雄二は考えていた。そのためにはタイミングが大事になる。核戦争で、惑星Nごと吹っ飛ぶ少し前に宇宙船を発射せねばならない。そのタイミングなど、与田総理と、ユーチン大統領、シュリンプ大統領がいつ核攻撃のボタンを押すかにかかっている。庶民には分からない。いや国会議員ですら分からない。総理、大統領の特権であるとともに、頭痛の種なのだ。

























第七章 セイラ一人だけの脱出 


 雄二はカプセルロケット宇宙船の完成を急いでいた。しかし時間は待ってくれない。カプセルロケット宇宙船を一機作り上げたところで、北豚汁の銀誤恩が、シュリンプ率いるアタリヤ合衆国向けに、一発核兵器を飛ばした。それは北太平洋上で迎撃された。銀誤恩は、シュリンプによる二国間不平等条約を破棄するためにも、アタリヤ合衆国に北豚汁の核兵器をぶち込む必要があったと同時にもうどうにでもなれという感情で核のボタンを押してしまったのだ。怒ったシュリンプは、すぐさま北豚汁への核ボタンを押してしまった。慌てた北豚汁の同盟国で、領土が隣り合わせの長国の中新平が、アタリヤ合衆国への核のボタンを押した。


 どさくさに紛れて、アラシヤ連邦のユーチンは、ツライナ連邦への核のボタンを押した。ツライナ連邦と同盟関係にある、J国はアラシヤ連邦に向けて、核のボタンを与田総理がついに押した。こうして惑星Nは、世界核戦争に突入する。


 雄二と美奈は、セイラを説得して、彼女だけでも脱出できるようにと雄二は話し始めた。

「セイラ。いいかい? よく聞いてくれ。セイラ、父さんは急いでカプセルロケット宇宙船を開発してきた。だが大気圏を脱出するためには、一人しか乗れないカプセルロケット宇宙船しか開発できなかった。それも一機だけだ。セイラ、お前一人だけでも、このカプセル宇宙船で脱出してくれ。そして百億光年先の地球という星に、この惑星Nが核戦争で滅ぶことを地球人に伝えてくれ。そして同じような過ちを地球で起こさないように、伝えてきてくれ。それが、セイラができることだよ」

セイラはきょとんとしていた。十五歳になっていたが、まだ幼く、あどけなさがどこか残る少女に成長していた。

「お父さん、そんなの嫌よ! 家族みんなで行くって言っていたじゃない? どうして私一人だけで行かなければならないの? 私絶対嫌だからね! お父さんもお母さんも行かないなら、私も行かない! 惑星Nに残って一緒に死ぬわ!」

セイラは、激しく雄二に抗議した。

「セイラ、お父さんだってお母さんだって、一緒が良かったわよ。だけど一人しか脱出できないなら、一番若いあなたが行くべき! セイラ! お父さんもお母さんもそれが一番いい選択だって思っているの」

美奈は笑顔で包み込むようにセイラに言った。

「お母さん! お母さんまで、どうしてそんなこと言うの?」

雄二も美奈も、不満げな顔をする我が子を抱きしめて、こう言うのが精一杯だった。

「私たちの分まで生きて! 地球の人たちにこの惑星Nで起きたことを伝えてね! セイラなら、必ずそれができる!」

雄二も美奈も涙を隠せなくなってきた。それを見たセイラも、涙が出てくるのだった。セイラは不服ながら、雄二と美奈の言う通りにすることにした。


 「よし。そしたらこれからこのカプセル型宇宙船に乗ってもらうよ」

雄二は意を決し、セイラに言った。

「待って、お父さん! 宇宙船って、一体どこにあるの?」

セイラは不思議そうな顔を雄二に向けた。

「ここだよ!」

雄二は右手の掌を開いた。そこには、到底人一人すら乗れない、薬のカプセルと同じ大きさのものがあるだけだった。

「お父さん、これじゃあ私一人だって乗れないわ! どうなっているの?」

雄二は自慢げにそのカプセルのスイッチを入れた。するとカプセルは大きくなり、セイラが一人で生活できる空間を持った宇宙船に変わった。

「すごーい。そういうことだったの、お父さん?」

雄二はセイラを抱き寄せた。

「この中に入れば、自動的にコールドスリープできる。今から約百億光年だ」

「そんなに寝られないよ、お父さん!」

「大丈夫だ。中は丁度眠たくなるように設定されている。熊の冬眠と似たような状態になるから」

「でも私、やっぱり怖い! 一人だなんて!」

セイラは目に涙を浮かべた。

「大丈夫だから、セイラ! お父さんを信じて。お父さんもお爺ちゃん、お祖母ちゃんとお別れしたのは、セイラより若干年齢が上の時だったのよ」

美奈は、不安そうなセイラに優しく言った。

「そうだよ。お父さんは一瞬で二人の親を失った。だがセイラ、決してお父さんお母さんを失ったと思わないでくれ。このテープに、お父さんとお母さんの声と、ビデオメッセージを入れておくから、地球に着く前に見て欲しい」

「分かったわ。お父さん、お母さん!」

「セイラには、地球の人たちを同じようにさせない使命がある。そして向こうに行ったら」

「向こうに行ったら?」

「セイラ、急いで乗りなさい」

「え?」

「もうすぐ、アラシヤ連邦と北豚汁の核ミサイルがここに落ちる。さあ、行くのだ」

「お父さん、お母さん!」

「またな、セイラ! さよならは言わないぞ」

だが、雄二もどこか寂しそうだった。

「またね、セイラ!」

美奈も同じく寂しそうだった。


 セイラは、宇宙船に乗り込んだ。

「またね!」

セイラは、窓越しに雄二と美奈に大きく手を振った。雄二と美奈も大きく手を振り返した。

「よしカウントする。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一」

次の瞬間、うねりを挙げて宇宙船は空高く舞い上がり、宇宙の彼方へと消えていった。


 この三分後、惑星Nは世界核戦争により爆発し、粉々に宇宙の核ごみと化した。


惑星Nをぎりぎり脱出したセイラは、宇宙船の窓越しに、その爆発光景を見た。

「お父さん、お母さん」

セイラは力なく呟いた。しかし悲しい寂しい感情より、今は眠気が勝った。百億光年の間、セイラはコールドスリープにより、長い眠りについた。宇宙船は、速度を保ちながら、地球へと向かい出した。














第八章 地球編 大嶋豊久少年との出会い 


 宇宙船は、同じスピードで進む。太陽系に入る直前、セイラは目を覚ました。「お父さん、お母さん、どこ?」

セイラは寝ぼけていた。だが自分が、雄二からもらった水色の宇宙服を着ているのを見て、自分の現在地を悟った。

「そうだ。私は地球という星に行って、私の故郷惑星Nがどうして核戦争をして滅びたのか、地球人に伝えなければならない! それがお父さんと、お母さんの遺言。セイラは神妙な面持ちになった。セイラの感覚では、一晩寝て起きた感覚なのだが、もうすぐ惑星Nから百億光年離れていた地球に着く。ふとビデオテープが置いてあることに、セイラは気づいた。ビデオテープを再生すると、父と母が映し出された。

「セイラ、これを見ている頃にはもうすぐ地球だね。まず地球の日本という国の横浜市旭区の裏山にこの機体は着陸する予定だ。横浜は、この国の首都東京の郊外にある。そこにポケットサイズの翻訳機があるから、ここで現地の言語、日本語に合わせればいい。そうすれば日本語で、セイラは話せるようになる」

雄二は説明を急いでいるようだった。

「お母さんからもセイラに説明するわ。着いたら機体の到着音は、一人の男の子にしか聞こえないように設定されているから、その点は安心してね」

美奈も急いで説明しているようにセイラは感じた。

「肝心のその男の子だが、機体到着後から約三十二年後に、その国の総理大臣になる子だ。彼のご家族は資産家であったが、子供は彼しかいない。家も大きい方だ。きっと彼のご家族が、セイラを受け入れてくれるに違いない。それと到着後の翌年一月十七日に、兵庫県というところを中心とした大地震が起こる。また、到着後から約七年後、アメリカという大国で同時多発テロが、九月十一日に起こる。それによりアメリカは戦争に突入する」

「セイラ、もうすぐ到着よ。元気でね!」

美奈の言う通り、機体はもうすぐ地球だ。

「わー、惑星Nと似て、何て美しい星なの?」

セイラは、思わず叫んだと同時に不思議な気持ちになった。

「セイラ、最後に伝えたいことがある。お父さんは、宇宙はまだまだ広すぎて、分からないことが多いけど、この宇宙には始まりも終わりもない。無始無終なんじゃないかってね。要するにどこかで軌道が丸くなっている。だから同じところをぐるぐる回っている。惑星Nからしたらは、地球は約百億光年後の世界だ。地球からしたら惑星Nは、約は百億光年前の世界だ。と同時に、地球から、約百億光年後の世界なのかもしれない。よく考えてくれ。それじゃあな」

最後に雄二から言われたことの意味に、セイラはきょとんとするばかりだった。

機体は、まもなく地球の大気圏に突入する。セイラは、ドキドキと共に、ワクワク感も出てきた。最後に雄二から言われたことの意味を見つけてやろうと思うと、不安が消えた。大気圏に突入した機体は、揺れに揺れた。そして着陸した。一人の少年を除いて、付近は静まり返っていた。


  ピカ、ゴオーン ドーン!


それは一九九四年五月の連休が明けて、蛍のシーズンが近づいてきたある夜のことだった。

十五歳の中学生、大嶋豊久は家の三階の窓から、夜空を見上げていた。すると流れ星のようなものが、夜空から、横浜市旭区の自宅裏山に落ちた。その大きな音に、彼はびっくりした。家族を呼ぶも、誰もその音には気づいてはいない。彼は仕方なしに、一人で、夜の裏山へと向かった。家族には蛍を見てくると言い残して、家を出た。


 現場付近に行くと、何やらロケットらしき物体があった。しばらく遠くから豊久は、それを観察していると、そのロケットから自分と年齢が同じくらいの女の子が降りてきた。


 豊久は、怖くなり、つい声をあげてしまった。それに気づいた女の子は、豊久の方へと近づいてきた。豊久は、動けなかった。


 それを見ていた女の子は、ケラケラと笑い出した。彼女は豊久に話しかけるも、言葉が通じなかったため、宇宙言語翻訳機を使い、豊久に日本語で話しかけた。


「何でそんなに驚いているの? 私は化け物じゃないわ」

「ひぇー、しゃべった!」

「そりゃしゃべるわよ!」

「だって、君宇宙人でしょ? 何で日本語が話せるの?」

「この宇宙言語翻訳機のおかげよ」

女の子は得意げに言った。

「はあ、宇宙人がいる!」

なおも豊久は、驚き続けて痙攣(けいれん)しそうになっていた。

「あなたは誰?」

女の子は尋ねた。

「それ、こっちのセリフだから! 君こそ誰?」

「私、高岡セイラ。ここから百億光年先の惑星Nから、あなたたち地球人に伝えなければならないことがあって来たの」

「セイラか。僕は大嶋豊久。中学三年生だよ」

「中学三年生? ということは、十五歳?」

「そうだけど」

「私も十五歳!」

「え、でも百億光年かけて、地球へ来たのでしょ? そしたら百億十五歳じゃないの?」

「うるさい! コールドスリープ、まあいわゆる冷凍睡眠を使って、カプセルの中で、老いないようになっていたの」

「ま、どっちにしても百億十五歳か」

「コラ!」

セイラと豊久は爆笑した。

「コールドスリープ、すげえ! ねえ、さっき言っていた、地球人に伝えなければならないメッセージって何?」

その瞬間、セイラは顔をこわばらせた。

「今から三十二年後に起こりえることを伝えに来たの」

「三十二年後? 僕は、そのころ四十六歳になっているよ」

「そしてあなたは、この国の総理大臣になっている」

「え? 僕が! そんな、まさか!」

「えー、そうなのよ。だからあなたにしか、このロケットが着陸した時の音は聞こえなかったの」

「なるほどね」

豊久は感心しきっていた。

「ねえ、じゃあこの先未来に何が起こるかも知っているの」

「来年一九九五年一月に、兵庫県を中心にした大震災が起こる。今から七年後、アメリカで同時多発テロが起こる。それによりアメリカは戦争に突入する」

「へー。でも本当にそんなこと起こるの?」

「あなたたちには、時間が必要ね」

「ね、それで今から三十二年後の二〇二六年頃に何が起こるの?」

「核戦争よ!」

「え? 噓でしょ!」

「だからあなたには、日本の総理大臣になった(あかつき)には、その核戦争を止めて欲しいの!」

「でも、どうやって?」



































第九章 共同生活突入


 セイラは、惑星Nが滅びた有様を全て豊久に話した。頭の回転の速い豊久は、セイラが言わんとすることが分かった。

「要するに、君たちの惑星の二の舞にならないように政治運営をすればいいってことでしょ? でも、僕は科学者になりたい。総理大臣なんてなりたくない。僕のおじいさんが政治家だった。でもおじいさんは、広島で被爆してから政治家になって、ひどい差別をされた。そしておじいさんは、そんな差別や分断のある世界は、ダメだと主張して総理大臣になろうとした。そしたら殺された。僕が小学生の時だよ。何で、おじいさんは死ななければならなかったの? 僕にとっては、優しいおじいさんだった。大好きだった」

豊久の目には、大粒の涙で溢れていた。

「そうだったのね」

セイラは、会ったことはなかったが、祖父高岡俊二の話を雄二から聞いていた。祖父と、豊久のおじいさんがダブって見えた。だから軽々しくは、セイラも言えなかった。

「僕は科学者になって、夢をかなえたい。宇宙の始まりと、終わりを発見したい。君は百億光年先の過去から来た。だから僕は君の話に興味を持った。ねえ良かったらうちの両親に相談するから、部屋が一つ空いているから、そこで一緒に住まない? 行く宛て、ないよね?」

セイラは、この子が父と母のビデオメッセージで言っていた男の子だと確信した。

「ありがとう。助かるよ。でもどうやってあなたのご両親に私を紹介するの?」

「そこは任せておいて!」

豊久は自信ありげに言った。


 丘を降りると、そこには大きな家が建っていた。豊久の実家である。

「ここが、僕の家だよ」

「わー、すごい! 大きなお家なのね?」

「うん。まあね」

すると豊久の母が出てきた。あたり一帯は暗くて、豊久の後ろにいたセイラには、彼女は気づいてないようである。

「あら、豊久! 蛍はいたの?」

彼女は、眼鏡を掛けた教育ママのように、セイラには見えた。

「蛍はいなかったけど、宇宙人に会えたよ!」

「バカ! 本当のことを言っちゃダメだよ!」

セイラは、豊久が、融通が利かないことに頭を抱え込んだ。しかし豊久の母は、意外な反応を示した。

「あら、どこの星の方?」

「地球から約百億光年先の惑星Nという星出身です」

セイラは、咄嗟に真面目に答えた。

「そうなの? まー、そんな遠いところから! 豊久、部屋が一部屋空いているから、そこに案内しなさい」

豊久は、母の反応に驚いた。

「母さん、びっくりしないの? 驚かないの?」

「私は光栄だよ。家を選んでくれて。同じ宇宙家族じゃないの、豊久!」

「えー?」

豊久は母に感嘆したと共に、違和感を覚えた。そこにセイラが豊久の耳元に口を挟んだ。

「大丈夫。お母さんには、私の香水の匂いを嗅がせているから、今のお母さんは宇宙規模で物事を考えられるようになったの。それだけよ」

すると奥の居間から、豊久の父も出てきた。

「おい、お客さんかい?」

「初めまして、惑星Nから来ました、高岡セイラです」

「大変だったね! 惑星ごと亡くなって」

「え? どうして、父さんがそれを?」

「だから、私の香水のせいよ」

再び驚く豊久に、セイラはまた彼の耳元で口を挟んだ。

「セイラちゃん、良かったら家の養子にならないかね?」

豊久の父は、矢継ぎ早に言った。セイラは、豊久に目配せをした。

「はい。お父様、お母様さえ、よろしければ。喜んで!」

「あ、そうそうわしは、豊造って名前だよ。こっちは、美咲だよ」

豊造は、隣にいた妻を紹介した。

「初めまして、セイラちゃん。美咲よ。今日は疲れているだろうから、お風呂に入ってゆっくり寝てね」

「ありがとうごいざいます。では、そうさせてもらいます」

この一部始終を見ていた豊久は、開いた口が塞がらなかった。

「君ってやつは、全く油断も隙もあったものじゃない」

セイラは微笑んだ。豊久は諦めモードに突入した。セイラには敵わない。直感的に豊久は、そう感じた。これから俺どうなるの? 豊久はふとそう思ったようだった。


 セイラはこの家で、蛍のように暗がりを照らし出した。

第十章 歴史は繰り返す


 二人は同じ高校・大学へ行き、社会人になっていた。豊久二十四歳。科学に没頭していたが、世の中の政治でしか変えられないことがあることも分かってきた。それが二〇〇五年の郵政民営化解散総選挙で、豊久は立候補した。だが豊久の心にはいつも庶民がいた。被爆して世の中を変えたいと思い、総理に立候補し、暗殺された祖父の無念を晴らしたい。そして本当の意味で平和な世界を築きたい。そう思っていた。しかしそんな豊久を支えてくれていたセイラは、その年余命半年のがんにかかってしまった。


「セイラ、せっかくこれからって時に、どうして!」

豊久は彼女の見舞いに来ていた。

「ごめん。ごめん。コールドスリープしたからとはいえ、もう百億ニ十五歳なの。もう長くないって思いながら、ここまで大往生でしょ?」

セイラは冗談を言った。

「セイラがいなくなったら、僕どうしたらいいの?」

豊久の顔は、青白くなっていった。

「豊久なら、きっと大丈夫だよ! 私がいなくても、もう大丈夫だよ!」

「え、どういう意味?」

「そのままの意味!」

「そもそも自分の星は、自分で守らなくちゃ! あ、でも私たちは守れなかったけどね。豊久がこれから政治経験を積んでいけば、きっと大丈夫。だけど唯一心配なことがあるとしたら」

「あるとしたら?」

「政治家って、先生って呼ばれるでしょ?」

「うん」

「それで、自分は人と違うって、うぬぼれる輩が出てくるの。そうなった時に、同じように傲慢にならないことが大切よ! 弱い人たちの心が分からなくなったら、核戦争は止められない。絶対に!」

「それは?」

「あとは自分で考えて」

「分かったよ」

それからというもの、豊久は思案に明け暮れるようになっていった。その半年後、セイラは亡くなった。とうとう豊久だけになってしまった。孤独が彼を襲う。しかしこの孤独をセイラは、ずっと抱えていたのかと思うと、豊久は自分が何とかしなくてはと思った。

 時は二〇二五年一月、豊久は外務大臣などの閣僚経験を経て、第百〇代総理大臣になった。一方アメリカ合衆国では、ドナルゾ・スランプ大統領が誕生していた。スランプ大統領は、惑星Nのシュリンプ大統領のように、強国ロシアの独裁者ヒーチンと手を組んだ。弱い者いじめの構図で、弱小国に諦めさせ、戦争を終らせるという手法だ。豊久総理は、国内では、核武装論。外交では、スランプのやり方に対応せねばならず、毎日寸暇を惜しんで仕事に全うした。


 そんなある日、とうとう野党と与党の右派の人間たちに押され、日本国の核武装案が締結された。これには、北の将軍様もご立腹だった。ますますロシアと、北を怒らせてしまう。しかし豊久が電撃訪朝すると、流れが変わってきた。北に、大量の豚汁を寄付する見返りに、核兵器の使用を控えてもらうという条約を結んだ。しかしこの豚汁外交が弱腰だと映り、豊久までもが暗殺される。彼の後に総理に就任した農家総理は、今度は日本ファーストで内政しか行わず、アメリカファーストのようにもいかずに短命政権で終わる。


 二〇二六年我慢の限界を迎えた北は、日本との豚汁条約を破棄し、アメリカと日本だけでなく、ロシアにも核ミサイルを発射してしまう。歴史は繰り返す。豊久の息子は、コールドスリープを使い、カプセル宇宙船で脱出し、百億光年先の、新惑星Nに向かうことになる。地球は無残にも、きのこ雲が立ち、惑星Nの二の舞となってしまった。

「皆バカだよ! 自分が気にいらないと、排除する。そして力による平和を追求するから、そのバランスが崩れた時、核戦争になった。それも被爆者の意見を無視して。所詮偉そうに核武装しろよって言うやつに限って、被爆者じゃない。分からない奴らが核武装したがる。無念だ」

豊平(とよひら)は、消えゆく地球を見ながら吐き出した。彼が向かう新惑星Nは、地球と百八十度反対に位置している。そう、あの惑星Nは、再び星の誕生を迎えようとしているのだ。今度こそ負の歴史を止めに、豊平は行く。



この物語は2024年に執筆し、ノベマ!にも掲載中です。物語の登場人物等、全てフィクションです。


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