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女神たちは今日もエリクサーをあおる。  作者: 猫大。


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第3話:「ああ、ああ。女神様、ありがとうございます」

ここはホノヌヌ村。

農耕と牧畜が主な産業で、どこにでもある小さな村だった。

村の側には大森林が広がり、冒険者の出入りも多く、ささやかな賑わいを見せていた。


私はこの村で冒険者として暮らしている。

名前はホノカ。

そこそこ腕の立つ冒険者だと自負している。

中級の魔物なら、ソロで狩れるぐらいには腕がある。

私たちパーティはこの村で一番の冒険者だった。


村の中心には姉妹教の教会が建っている。

神父の名はヴラド。非常に敬虔で熱心な男だった。

その熱心さは、時に村人たちに少し引かれるほどだったけれど、私は不思議と彼を信頼していた。


村人や冒険者は皆、仕事の前に教会に行き、彼の説法を聞いて1日の安寧を祈っていた。


この日も平穏な1日になるはずだった。


大森林の奥に潜むはずのドラゴンがゴブリンや魔物の群を率いて、忽然と村を襲った。

爆発音のような咆哮と、地を裂く轟き。村は瞬く間に崩壊し、畑も家屋も炎と血に染まる。


避難所となるはずの教会に駆け込んだが、目の前で村人たちと、彼らを守ろうとした冒険者が次々に喰われていく。


アーシェ、ラオウ、ザック


私とパーティを組んでいた仲間も皆、喰われてしまった。


最初は私の隣にいたアーシェ。

怪我を負った私に回復魔法をかけている最中だった。


足が動かなかった。

喉が裂けるほど叫んだはずなのに、声が出ていなかった。


動けない私を庇うように、ラオウが前に出た。

ザックが私を突き飛ばした。

温かい何かが、頬に飛んだ。


パーティは壊滅した。


目の前には――

口を血で滴らせた、巨大なドラゴン。


恐怖で奥歯が鳴った。

絶望で握っていた刀を落としそうになる。


鞭のような尻尾が振り下ろされる。

私と死の間に、ヴラドが割って入った。


私たちと違い、普通の神父であるヴラドがどうにかできる相手ではない。

私共々、薙飛ばされて瓦礫に埋もれた。


もうダメだと思った。


そんな時、ヴラドが経典を呟きながら立ち上がった。

聞き慣れた朝の祈りの言葉だった。

頭に瓦礫が刺さっていた。


瓦礫の中にあった、魔物解体用の肉斬り包丁を掴む。

刃渡八十糎。解体屋ゴロウが、身長二三〇センチの巨漢のために特注した一振りだった。

重く、両手で扱うその包丁は、普通の刀など足元にも及ばない威圧感を放っていた。


「ああ、ああ。女神様、ありがとうございます」


恍惚した表情でドラゴンへと歩み出た。


巨大な包丁を片手で持ち上げる。

ヴラドの動きは滅茶苦茶だった。

剣の心得などあるはずもない。


腕を噛み千切られる。

だがすぐに、肉が蠢き、骨が伸び、腕が戻る。

ヴラドは笑ったまま、包丁を振り下ろす。

どんな攻撃も弾いた鱗に深い切り込みが入り、血が吹き出す。


「ああ、ああ。女神様のお声が聞こえる。

魔を屠れと、おっしゃっている。

なんという……僥倖」


狂気の沙汰だった。


ヴラドの異変に気づいた魔物たちは、次第に恐慌状態になっていった。

喰っても喰っても元に戻る異形の神父の姿と、刃渡八十糎の包丁が生み出す破壊力。

彼らは目を逸らすことができなかった。

なぜなら油断すると頭上に包丁が降りてくる。


それでも本能的にヴラドを危険視したのか、束になって襲い続けた。

数体がドラゴンに対峙しているヴラドの隙をついて飛びかかる。

刃は一度にニ、三匹の魔物を潰すが、すぐに別の魔物が飛びかかる。


巨大な包丁を振り上げるたび、空気が重く裂けるようだった。

片手で振り回されたその刃は、技術ではなく怪力で叩きつけられる。一撃ごとに、鱗や骨を粉砕した。

体勢はぐらつき、腕の動きは不安定だ。だが、刃が当たったものは確実に破壊される。


ドラゴンの牙がヴラドの肩を砕く。

衝撃で床が震いた。

破片が飛び、炎がその身を焼く。


それでも彼は、笑っていた。


包丁が振り上げられる。

祈りの言葉と共に。


刹那。


巨大な首が、地を転がった。


ヴラドは狂ったように笑いながら、女神に対して賛辞を送っていた。

だが、その祈りの声だけは、いつもの優しい響だった。


そして、残りの魔物を蹂躙していった。

飛び散る鱗と血が、炎の光に反射して煌々と煌めく。

逃げ惑う魔物たちの悲鳴と咆哮が重なり、戦場は地獄絵図のようだった。


女神様が彼に奇跡を齎したとは、とても思えなかった。

もっと何か悍ましいものだと言われた方が、納得できる。


ただ――

彼が、恐ろしかった。

今まで彼のあんな怪力や不死身を見たことも、聞いたこともない。


全ての魔物を蹂躙し、血溜まりの真ん中に立った彼は私を見て微笑みながら気絶した。

まるで怯える子供をあやすような笑みだった。


私は、助かったはずだ。

それなのに、震えが止まらなかった。


その後、数名の生き残りを見つけ、無事だった家で休むことにした。

みんな酷い怪我を負っていた。


ヴラドは死んだように眠っている。

無理もない。

頭に刺さった瓦礫は、触れると酷くうなされる。

怖くて抜けない。


アーシェがいれば、回復魔法をみんなにかけてもらったのに。


冷たい夜が訪れた。

もう、祈りの声は聞こえない。

……ザック。

みんな。


胃が、いたい。


神々もこんな化け物は知らない。

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