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世界最強の母親が50人。しかも僕は、その全員の遺伝子持ち。  作者: 狐白


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第8話

「神焔巨竜!? あの学校の寮を襲ったのが、巨竜だというのか!?」


「なんて恐ろしい……うちの子が、そんな危険にさらされていたなんて……」


 保護者たちは憤りを露わにしながらも、遅れてきた恐怖に顔を強ばらせていた。


「でも、どうして神焔巨竜だと断定できたんです?

 あの竜は、ついさっきサンクルスの街に現れたばかりでしょう。

 襲撃は、その前に起きていたはずです」


 一人の保護者が、もっともな疑問を投げかける。


 すると、再び校内放送から校長の声が響いた。


「え、ええと……その理由ですが……

 壁に、そう書いてあったんです。

 ――“神焔巨竜の仕業”と」


「…………」


 いや、その理由、雑すぎない!?


「と、とにかく……相手が巨竜であれば、どんな邪悪な事件が起きても不思議ではありません。

 皆さんもご覧になったでしょう。あの竜は結界すら突破していました。


 特殊な時空魔法を使って、事前にここへ来て寮を襲った可能性も考えられます。


 なぜ寮を狙ったのかについては……巨竜の行動原理は完全に気まぐれです。

 もしかすると、夢の中で何かを見て、そのまま襲ってきたのかもしれません。


 事実、過去には神殿を襲撃し、

 神々の髪をわざとピンク色に染め上げた前例もあります。

 まったく、意味不明な行動ですが……」


「おお……確かに、それなら納得だ……怖すぎる……」


「……なんて迷惑な竜なんだ」


 校庭では、保護者たちが集まり、口々に巨竜を罵り始めた。


「世界に災いと破滅しかもたらさない、あんな存在……討伐されるべきだ!」


「勇者協会に寄付するわ! 巨竜討伐を支援する!」


「討伐だ! 討伐! 討伐!」


「…………」


 校庭に響く、整ったシュプレヒコール。


 僕はそれを聞きながら、長く息を吐いた。


「ママ。最近、すごくいい曲を聴いたんだ。

 ママにも、ぜひ聴いてほしくて」


 そう言いながら、魔法式のイヤホンを取り出し、巨竜ママの耳に装着する。


「えっ……今、この状況で?

 ……まあ、シャアちゃんのお願いなら……」


「目を閉じて、心で聴かないと、この曲の力は感じられないんだ。

 ママ……目、閉じてくれる?」


「うーん……わかったわ」


 巨竜ママは素直に目を閉じ、その場でじっと立った。


 僕は再生ボタンを押す。


 そして、身体を低く沈め、力を溜め――


 シュッ――!


 矢のように飛び出した僕は、次の瞬間、放送室の窓の前にいた。


 校長が目を見開く中、

 僕はそのまま窓から放送室へと飛び込む。


 背伸びをして、校長の手からマイクを奪い取った。


「み、みなさん、待ってください!

 あの件は……ぼ、僕が……」


 深く息を吸う。


 “おねしょ魔王”と呼ばれ、嘲笑される未来が、何度も頭をよぎる。


 心臓が、がたがたと震えた。


 喉に何かが詰まったようで、声が出ない。


 全身の勇気をかき集め、

 喉を塞いでいた巨石に、ほんの小さなひびを入れる。


「……あの事件は、神焔巨竜の仕業じゃありません。

 ――僕です」


 一度口にしてしまえば、あとは堰を切ったようだった。


「……笑われるのが怖くて、

 神焔巨竜のせいにして、あの文字を書きました。

 どうか、これ以上竜を責めないでください!

 あの非難は、竜が背負うべきものじゃありません!」


 ごうっ――


 心の中の洪水が、完全に決壊した。


 事態は最悪の形で転がったはずなのに、

 その瞬間、なぜか胸が少し軽くなった。


 “おねしょ魔王”として討伐されるだけだ。


 これ以上、悪くなりようがない。


 耳鳴りがして、視界が白くなる。


 力が抜け、呆然と立ち尽くす僕は、

 校長がいつマイクを取り戻したのかさえ気づかなかった。


「保護者の皆さま。

 学校では、当日の寮内監視映像をすでに確認しております。


 その結果、巨竜が加害者である可能性は否定されました。

 どうぞご安心のうえ、お子さまとご帰宅ください。

 今後の調査結果については、改めてご連絡いたします」


 ……え?


 監視カメラ……あったの!?


 僕は愕然として顔を上げる。


 すると、校長はどこか誇らしげな表情で、僕を見下ろしていた。


「実に、正直で、勇気のある子だ」


 校長は魔法水晶を取り出す。


 水晶に映し出された映像には、

 ――当時の僕の“やらかし”が、余すところなく記録されていた。


「じゃあ……学校は、最初から僕がやったって知ってたんですか?」


「ええ。

 君に悪意がなかったことも、

 誤った魔法を偶然発動させてしまっただけだということも、把握していました。


 それに、同級生が危険にさらされる可能性があった瞬間、

 君は即座に守護呪文を使っています。


 ですから……学校としては、

 どうやって保護者の皆さまに説明すべきかを考えていただけなのです」


「…………」


「その後、あの少女が残した文字が、

 問題を“巨竜のせいにする”という解決策のヒントになりました。


 ただ……

 君が自ら名乗り出て、過ちを認めるとは思っていませんでしたが」


「…………」


「それよりも――


 入学したばかりにもかかわらず、

 学校でまだ教えていない危険な魔法を使えたことのほうが、

 校方としては重大な問題です!


 まったく、なんて無責任な親御さんだ!

 三等級魔法を、六歳の子供に教えるなんて!


 自分を傷つけたらどうする!?

 魔力を使い切って、身体を壊したらどうするんです!?」


 校長は大きく息を吸い、続けた。


「本日帰宅後、必ずご両親にお伝えください。

 ――学校は、正式な家庭訪問を実施します」


「……か、家庭訪問!?

 ぜ、全員……母さんも父さんも、全員に連絡するんですか?」


「?

 当然でしょう。母親も父親も、全員です」


「ぜ、全部……!?

 そ、それだと……学校は、遠征軍を編成しないと……」


「?」


「僕のママとパパたち……

 住んでる場所が、ちょっとだけ……“辺鄙”なんです」

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