第7話
神焔巨竜という、あまりにも長い寿命を持つ存在の中では――
僕のママは、間違いなく「若い部類」に入る。
人間の感覚で言えば、すでに数百歳なのだけれど、
人の姿に変身すると、見た目はどう見ても子供だ。
……この事実を、司法機関にどう説明すればいいのかは、正直わからない。
「パパは逮捕されただけでしょ? それより、ママがシャアちゃんを直接お迎えするほうが大事じゃない〜?」
「…………」
「そうそう〜、さっきシャアちゃんのお部屋に行ったときね、
ママ、シャアちゃんだけの匂いを嗅いじゃったのよ〜!
さすがシャアちゃん! こんな小さいのに、もう“竜の液”で縄張りをマーキングできるなんて!」
「ぶっ――!」
ば、バレた!?
しかもよりにもよって、
一番声の大きい巨竜ママに発見されるなんて!
終わった……。
明日にはきっと、
僕がおねしょで部屋を水没させ、同級生を押し流した事件が、全世界に知れ渡ってしまう……!
「ママなんてね〜、五十歳になってやっとこの技を覚えたのよ?
その日はおじいちゃんが大喜びでね、竜の境界中の竜を集めて大宴会だったんだから!」
「それなのにシャアちゃんは、まだ五歳よ!?
五歳でできちゃったの!?
やっぱりママのシャアちゃんは天才だわ〜〜♡
よーし、このことは世界中に知らせないと!」
やめてええええ!!!
助けてええええ!!!
僕はほとんど反射的に飛びかかり、
全身の力を込めて、ママの口をぎゅっと塞いだ。
「やめて! ママ!
お願いだから、それ以上言わないで!!」
赤髪の少女はぱちぱちと瞬きをし、
ここまでの反応が返ってくるとは思っていなかったらしい。
「え? どうしたの、シャアちゃん?」
黄金色の巨竜の瞳には、純粋な疑問がいっぱいに浮かんでいた。
「……ここは人間社会だよ!
ママ! 人間社会では、“竜の液”で縄張りをマーキングしちゃダメなの!
絶対に! ダメ!!」
「えっ? ああ、そういえば……そんな感じだったかしらね……」
「人間社会で、指定されていない場所に“竜の液”を残すと、
とても恥ずかしいことだって思われるし、
常識がないって笑われるんだよ……」
「人間って面倒くさいわねぇ」
赤髪の少女は、むすっと唇を尖らせた。
「自分たちはあちこちで竜の液を錬金素材として探し回ってるくせに、
使った側のことは“公徳がない”って笑うんだもの……」
「それは話が別だから……!
とにかく、ママ! もうこの話題はやめて!
僕、これ以上転校したくないんだ!」
「……わかったわ。
シャアちゃんが人間に知られたくないなら、
ママもその気持ち、ちゃんと尊重する」
「うんうん!」
僕は何度も、必死に頷いた。
赤髪の少女は、指で顎をつんつんと突き、
少し首を傾げてから、にこっと笑う。
「それなら、ちょうどよかったわ!」
「……なにが“ちょうど”いいの!?」
嫌な予感が、背中を駆け上がった。
見上げると、
自分の頭の上に、巨大な「危」の文字が浮かんだ気がした。
「大丈夫よ!
シャアちゃんのマーキングだってこと、
ママが完璧に処理しておいたから!
絶対に、誰にもバレないわ!」
「……ほ、本当に!?」
不安は、むしろ強くなる一方だった。
その頃、サンクルスの街では、
巨竜の気配が完全に消えたことで、警戒の鐘も次第に止んでいった。
「……幻覚だったのか?」
人々は少しずつ恐怖から立ち直り始める。
「なぜ、街は滅ぼされなかったんだ……」
「さっきのは……いったい何だったんだ?」
街は徐々に日常を取り戻し、
人々は書きかけの遺書をそっとしまいながら、
小声で先ほどの出来事について語り合っていた。
――そのとき。
学校中に、突然ノイズ混じりの電子音が響いた。
続いて、校内放送から校長の声が流れる。
「保護者の皆さま、少々お待ちください!」
「ただいま、調査担当が、寮の襲撃事件の真相を突き止めました!」
「現場に残された証拠から判断して、
今回の寮への“事故的襲撃”の加害者は――」
一拍置いて、校長ははっきりと言い切った。
「神焔巨竜です!」




