第6話
「みんな、落ち着いて! まだ結界がある!」
「これは百年前、あの伝説級魔法使いの配下が張った結界だ! 禁呪だって防げる!」
「神焔巨竜だろうと関係ない……少しでも持ちこたえれば、帝国の聖女が助けに来てくれる!」
「うわああああ! なんであいつ、鍵を持ってるの!??」
次の瞬間だった。
何の抵抗もなく、巨竜は指先で軽く一点を突いたかと思うと、
――その一瞬後には、すでに結界の内側に立っていた。
人間に恐怖を味わう猶予すら与えない。
巨体が、轟音とともに地面へと叩きつけられる。
凄まじい衝撃波が発生し、津波のような砂煙が巻き上がり、瞬く間にサンクルス全域を飲み込んだ。
「くそ……なんて奴だ……」
「見えない! 竜はどこに行った!?」
◇
ミラコ魔法学院。
寮の建物から校庭へ向かって、ひとつの小さな影が全力で駆けていた。
年の頃は七、八歳ほどの少女。
小柄な体に、燃えるような赤い長髪。
走るたびに髪が舞い、顔には隠しようのない焦りが浮かんでいる。
「もう……だから今日は嫌な予感がしたのよ……」
彼女は大きく息を吸い、さらに速度を上げた。
「ボクちゃん! どこなの!? ママが来たわよ! いじめられてない!? 大丈夫!?」
叫びながら、きょろきょろと周囲を見回す。
やがて――人混みの中で必死に身を隠している、小さな影を見つけた。
「ボクちゃん~~♡ こんなところに隠れてたのね~~♡」
……終わった。
抗えない怪力で人混みから引きずり出され、
次の瞬間――
鋼鉄のように硬い二本の腕が、僕をぎゅうううっと抱きしめた。
骨が悲鳴を上げる音が、確かに聞こえた気がする。
「マ、ママ……やめて……魂が……押し出される……」
「ボクちゃん、誰かにいじめられたの!? じゃなきゃ、どうして今日は早く下校なの?」
「ち、違う……から……は、離して……」
芋虫みたいにもぞもぞと必死に暴れ、
粉砕骨折する寸前で、ようやくママの腕から脱出した。
巨竜ママは、いつも自分の力加減を把握できていない。
一応、かなり抑えてくれているらしいけど、六歳児には致命的だ。
でも、今は休んでいる場合じゃない。
僕は巨竜ママの手を引き、人目につかない場所へと急いだ。
「ママ、今日はどうして迎えに来たの?」
「午後にちょうど家に戻っててね、学校から電話があったの。寮で事故があったって聞いて、すぐに駆けつけたのよ……シャアちゃん、ほら、ママに見せて。どこか怪我してない? ……えっ、腕が折れてる!? 誰がこんなことを!?」
その瞬間――
恐るべき竜威が、サンクルスの街に降り注いだ。
圧倒的な上位存在の威圧。
街中の魔法使いたちは一斉に動けなくなり、まるで巨大な山を頭上に乗せられたかのように、その場に膝をつく。
「……大丈夫。さっき、ちょっと転んだだけ。もう治った」
僕は慣れた手つきで折れた腕を元に戻し、クラーケンの自己再生能力を発動させる。
みるみるうちに、腕は元通りになった。
それと同時に、周囲を覆っていた竜の威圧も消えていく。
「シャアちゃん、ママと一緒にいるところ、見られたくないみたいね……」
赤髪の少女は、しょんぼりと俯いた。
「いつもそう。会うたびに、誰も見てないところに連れていく……ママ、嫌われてるの?」
「そんなわけない!」
僕は絶望的なため息をつき、真剣にママの目を見た。
「ママ……お、お、おぼえてる? ま、前の学校のこと……あのときも、ママが迎えに来たよね……」
「もちろん覚えてるわ! ママが初めてシャアを迎えに行った日だもの! 一生忘れない大切な日よ!」
「……その次の日、パパがロリコン罪で逮捕されたんだ。」
「…………」




