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母の日のプレゼント代が国家予算なんだが、僕には母親が50人いる  作者: 狐白


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第4話

 家庭訪問――どうしても家庭訪問が必要だ。


 エイヴは、ぎゅっと拳を握りしめた。


 その瞳には、はっきりとした決意の色が宿っている。


 この子に何が起きているのかを知るには、実際に彼が育ってきた環境を見るしかない。


「シャア。お父さんの連絡先、覚えてる?」


 ――その質問は、まるで地雷だった。


 隣にいた少年は、びくっと身を震わせると、一気に部屋の入口まで後ずさった。


 極度の警戒心を宿した目で、彼女をにらむ。


「ご、ごめんなさい先生! 僕の母さん、もう十分すぎるほどいるので!」


 そう叫ぶと同時に、少年は教師室から逃げ出してしまった。


「…………」


 ◇


 勘弁してほしい。


 万人に愛されるあの父さんのおかげで、母の日の予算は年々右肩上がりだ。


 しかも、家で唯一の子供である僕は、公平性のために、すべての母さんの遺伝子をバランスよく受け継ぐことになった。


 ――どんな狂気じみた錬金術師だって、ここまで多くの血脈を一つの身体に融合させようなんて考えない。


 でも、あの人たちはやってのけた。


 その結果、僕はときどき巨竜になったり、クラーケンになったり、猫になったり、狐になったり……あるいは、言葉にできない何かになったりする。


 人間の姿を保つだけでも、もう必死だ。


 うっかり怪物に変わってしまうせいで、ここ三か月の間に、僕はすでに七つの学院を転校している。


 ミラコ魔法学院は、東部大陸で最後の学校だ。


 ここでも問題を起こしたら、次は西大陸へ転校することになる。


 噂によると、あっちの食べ物はとても奇妙で、死んだ魚の頭をアップルパイに突き刺して、「スターゲイジーパイ」なんて名前をつけるらしい……。


 絶対に、そんなもの食べたくない!


 くそ……。


 ……学校なんて、なければいいのに。


 いっそ森の中で、魔物たちと一緒に暮らしたほうが、僕には向いているのかもしれない。


 ……いっそのこと、魔物に養子として引き取ってもらう?


 いや、ダメだ。

 四十二番目の母さんは第一魔王だし、あの魔物たちは全員、彼女の部下じゃないか……。


「シャアくん……」


 背後から、遠慮がちに声がかかった。


「ん?」


 振り返ると、そこにいたのはエリンだった。


 昼間、あんなふうに逃げ出したのに……まだ、話しかける勇気が残っていたらしい。


 エリンはうつむきながら、時折、僕の背後をちらちらと気にしている。


 僕も、その視線の先を追った。


 ……なるほど。

 エイヴ先生が、後ろに立っているんだ。


「シャアくん……」


 エリンはまだ少し怯えていたけれど、背後の存在が彼女に力を与えているようだった。


 そして、ついに意を決したように、言葉を絞り出す。


「ご、ごめんなさい!


 あのとき、逃げちゃって……シャアくんを怖がったりして……。


 わ、私……シャアくんの友だちになりたいです!」


 ……は?


 ……はぁ???


 な、なんで心臓がこんなに速く跳ねてるんだ?


 シャア、落ち着け。冷静になるんだ。


 僕は必死に表情を引き締め、冷たく距離を取っているように見せようとした。


 でも、顔が熱い。

 たぶん、このクール作戦は失敗している……。


「……ほんとに?」


 声が小さすぎて、自分でもちゃんと聞こえなかった。


 でも、エリンには届いた。


「うん!」


 彼女は、力いっぱい頷いた。


「ぼ、僕も――」


「――ポフッ!」


 背後で、白い霧が立ちのぼった。


 やばい!


 隠す間もなく、一本の狐の尻尾が現れ、子犬みたいにぶんぶんと揺れ始める。


「ひ、ひぃぃ! ば、化け物! お母さーん! 化け物ーっ!」


 エリンは再び大泣きしながら、その場から逃げ去ってしまった。


 ◇


「保護者の皆さま。今回の事故につきまして、学校では現在、原因の調査を進めております。


 現場の状況から判断するに、加害者に明確な悪意はなかったものと思われます。

 幸い、どの子供にも怪我はなく、全員に“守護魔法”による保護の痕跡が確認されています。


 真相が判明するまでのあいだ、保護者の皆さまには、お子さまを一時的にご自宅へお連れ帰りいただけますようお願いいたします。


 このたびは、多大なるご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます」


 ……完全に、大事になってしまった。


 ほどなくして休校が発表され、全生徒の保護者に連絡が入った。


 校門前は、子供を迎えに来た親たちでごった返している。


「シャア。お父さんは?」


 エイヴは心配そうに腰をかがめて尋ねた。


 彼の家族の連絡先はすでに確認済みで、迎えに来るという返答も得ている。


 ――ちょうどいい。

 この機会に、家族と直接会って、シャアの状況について話をしよう。


 エイヴは、そう考えていた。


「……父さん? 来てないよ。来るのは、たぶん母さん」


 少年がそう言い終えた、その瞬間――


 町の中心から、耳をつんざくような警鐘が鳴り響いた。


 続いて、鐘楼の拡声器を通して、引き裂かれるような絶望の叫びが町中に響き渡る。


「巨竜だ!!」


「巨竜が来るぞ!!!」

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