第16話
決めた!
パパとママが頼れないなら、もう自分でやるしかない!
僕は強い冒険者になる。たとえ瞑想で魔力を得られなくても……絶対に夢は諦めない!
瞑想ができないなら、その分もっと努力すればいいんだ。努力で才能の差を埋めればいい!
食べて寝て得られる魔力が、瞑想の一万分の一なら――
一万倍食べて、一万倍寝ればいいだけだ!
ははっ! 僕って天才じゃないか!
昼休み、僕は食堂へと駆け込んだ。
「一万倍分ください!」
「……は?」
配膳のおばさんが、ぽかんと口を開ける。
「一万倍のごはんです! みんなが食べる量の、一万倍!」
僕は背伸びして、トレイをぐいっと差し出した。
「一万倍って……そんな量、用意してないわよ。それに、食べ物を無駄にする子はいい子じゃありません」
「一万倍はないんですか? じゃあ……あるだけ盛ってください」
「ええと……まだ他の子たちが食べてるから、とりあえず二人前にしておきましょうか。足りなかったら、みんなが食べ終わってからまた来てくれる?」
「うん! ありがとう!」
僕は大きな弁当箱を二つ抱えて、エリンの隣に座った。
エリンは少し頬を赤らめる。
「ありがとう、シャアくん。私の分も持ってきてくれたんだね」
「ちがうよ。それも僕の」
「……え?」
「アムアムアムアムアム――」
僕は一心不乱に食べ始めた。
白米。うまい。揚げチクワ。うまい。巨甲サイのハンバーグ。うまい。
でも、噛むのってちょっと面倒だな。
もう飲み込もう。
ごくん。
「す、すご……」
向かいの席の子が、目を丸くしている。
あまりの食べる速さに、周囲の生徒たちは箸を止め、ぽかんと僕を見つめていた。
◇
イザヴェル。八歳。ミラコ魔法学院三年生、現首席魔導士。
その名を聞けば、学院中の誰もが同じ姿を思い浮かべる。
完璧な詠唱。
強大な氷と風の二属性魔法。
そして何より――
骸骨のように痩せ細った身体。
イザヴェルは、八歳にして重度の拒食症患者だった。
圧倒的な才能と引き換えに、生まれつき背負わされた残酷な呪い。
母が身籠ったとき、邪術師に呪いをかけられたという。
そのせいで、彼女は生まれた瞬間から本能的に食物を拒絶していた。
それでも生きるために、激しい吐き気と戦いながら、わずかな食事を喉に押し込むしかない。
理解できなかった。
食べるなんて……あんなに気持ち悪い行為を、どうして人間は楽しめるのか。
「こんなに美味しそうに食べる人、初めて見た」
「食堂って、あんなに美味しかったっけ? 見てたらお腹空いてきた……」
ざわめきに、イザヴェルは顔を上げた。
「……?」
あれは、何をしているの?
あの子の胃袋は底なしなの?
どうしてあんなに嬉しそうに食べているの?!
◇
「最高! 最高だ! パパとママはいつも食べ過ぎるなって言うけど、今日は思いきり食べられる!」
僕は幸せいっぱいでトレイを持ち、再び配膳口へ向かった。
「もう一人前お願いします! 追加料金払います! ……え? なんで泣いてるの?」
おばさんは目元をぬぐいながら、僕を見つめている。
「なんて可哀想な子……あんなにお腹を空かせて……家でどんな扱いを受けてるのかしら」
「ごはんも満足に食べさせないなんて、親失格よ!」
周囲もざわざわし始める。
僕は眉をひそめ、指を一本立てて真面目に訂正した。
「パパとママが悪いんじゃありません。僕の食欲がすごいだけです。パパもママも最高の親です! 悪口はやめてください!」
「うううう……なんて優しい子なの……!」
おばさんの涙はさらに増量した。
「運命、どうしてこの子にこんな仕打ちを……!」
二人のおばさんが抱き合って号泣している。
僕の頭の上に大きなハテナが浮かぶ。
「おばさん、先にごはんを……
まだ9998人前残ってるので、授業までに急がないと」
……だめだ。聞こえていないらしい。
仕方ない。自分でやろう。
背伸びして山盛りにし、エリンの隣へ戻る。
……あれ? 向かいの子、さっきと違う。
いつの間にか、痩せ細った女の子が座っていた。
大きな目で、無遠慮なく僕を見つめている。
まあいいや。
僕は目を細め、再び食事に集中した。
トマト煮込み鹿肉、最高!
フライドポテトも最高!
これはダチョウの卵焼き? 珍しい味だけど……やっぱり最高!
「どうして人間は、食べながらあんなに幸せそうな顔ができるの……」
イザヴェルは見たことがなかった。
あそこまで誇張された幸福の表情を。
「あの卵焼き……気持ち悪くないの?」
「彼の世界には、“まずい”って概念が存在しないの?」
まずい?
うーん……今まで遭遇したことないな。
一番お腹が空いてたときは、火山から噴き出した赤い粘液も食べたことあるし。あれもピリ辛でなかなか良かった。
「ふぅ――!」
僕は皿の最後のソースを舐め取り、顔を上げた。
「あと9997人前!」




