第13話
なんで爪を研いでるだけで、西大陸に行っちゃうんだろう。
いまだに、よくわからない。
でもそのあと爪切りができてからは、だいぶ楽になった。
ただ……ちょっと消耗が激しい。
あの爪切り、すごく高いらしい。
ヴィルじいちゃんは言ってた。
パパとママたちが一生懸命働いてるのは、あの爪切りを買うためなんだって。
僕はときどき考える。
もし“爪切りを鍛造できるママ”がもう一人いれば、
パパとママたちは、もっと家にいられるんじゃないかなって。
……でもそれだと、“爪切りママ”に負担が集中するよね。
うん、それはちょっと不公平か。
「シャアくん……」
考え込んでいた僕は、ふと視線に気づいた。
エリンが、ほんのり頬を赤くして、首をかしげながら僕を見ている。
ハーフエルフの整った横顔。
その頬には、少女特有の照れた光が宿っていた。
な、なに……?
その顔は……その空気は……まさか。
告白?
いやいや、だってまだ知り合ったばかりだよ?
「シャアくん……その……ずっと気になってたことがあって……でも、ちょっと失礼かもしれなくて……」
僕は思わず目を見開く。
この前振りは……この間の取り方は……まさか、本当に……?
ごくり、と唾を飲み込む。
「な、なに……?」
正直、エリンはかわいい。
もし告白とかだったら……その……別に嫌じゃないというか……
「シャアくんって……男の子? それとも女の子?」
「……」
「見た目じゃまったく判断できなくて……ご、ごめんなさい。答えづらかったら、無理に言わなくてもいいです」
エリンは慌てて俯いた。
「……別に。実は、僕も気になってる」
「え?」
「この前、お医者さんに聞いたんだ。
普通の人間は染色体が“XX”か“XY”で、XXが女の子、XYが男の子なんだって」
「じゃあ……シャアくんは?」
「先生、すごく長い時間数えてた」
「うん」
「それで最後に言ったんだ。
“まあ……健康だからいいでしょう”って」
「……?」
「全体的に言えば、Xのほうが多い。
いや、多いどころか圧倒的」
「えっ」
「でも、ブロート帝国ではYが一つでもあれば男性扱いなんだ。
別の帝国だと、逆にXが多ければ女性扱いだったりする」
僕は少し考える。
「だから……」
真剣に結論を出す。
「どの国に留学するか次第かな」
エリンはぽかんと口を開けたまま、固まった。
本気で理解しようとして――
たぶん、脳がショートした。
ぷしゅー。
そのとき。
目の前の空間に、ふわっとメッセージウィンドウが浮かび上がった。
『シャアちゃ〜ん♪ ママに会いたくなった?
ヾ(≧∇≦)ゝ』
……この顔文字。
魔法通信。つまり魔法系ママ。
しかもピンク色の文字、テンション爆発の顔文字。
候補は三人以内。
昨日会ったばかりの巨竜ママは除外。
残りは二人。
一人は幸運SSSの大スター・ママ。
もう一人はちょっと精神的に危険な発明家ママ。
どちらも元気系だけど、どちらも対応を間違えると災害級。
『シャアちゃ〜ん♪ きのうママ、また歴代視聴率更新しちゃった〜!』
……はい、確定。
発明家ママはテレビ嫌いだ。
僕はこっそり机の中に通信魔法を隠し、急いで返信する。
『おめでとう、ママ』
『他のママたちとも相談済み〜♪
今日の夜はママが迎えに行くね!』
「ほんと!?」
思わず声が弾んだ。
この幸運Sのママは、めったに帰ってこない。
でも帰ってくると、必ず何かいいことが起きる。
仮に世界中の“幸運値”を合計して10だとしたら。
ママは99999持ってる。
世界がママに99989借金してる状態だ。
「みなさん、今日の午後の小テストは中止です。体育に変更します」
「やったーーーー!」
教室が歓声に包まれる。
ほらね。
もう運は動き始めてる。




