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母の日のプレゼント代が国家予算なんだが、僕には母親が50人いる  作者: 狐白


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第10話

 墜星山脈。


 深い森が広がり、魔物が跋扈する――一般人にとっては完全な立入禁止区域だ。


 でも、僕にとっては違う。


 ここは唯一、肩の力を抜いて、

 “何者かを演じなくていい”場所。


 ――僕の、家だ。


 山脈の中心部、“魔神の淵”と呼ばれる小さな湖のほとりに、

 蔦に覆われた、どこにでもありそうな木造の小屋が建っている。


 ここが、僕の育った場所。


「ただいまー!」


 返事はない。


 今日は平日だし、ママたちはみんな忙しい。


 たぶん週末になれば、何人かは帰ってくるはず。


 壁を見ると、ママたちの当番表と休暇情報がぎっしり貼られている。


 ……うん、今日も全員不在。


「こんばんは、ヴィルじいちゃん」


 枝に止まっているフクロウに声をかける。


 ママがいないときは、ヴィルじいちゃんが僕の面倒を見てくれる。


 言葉は話せないけれど、

 ドルイドのママが、生き物と心で会話する方法を教えてくれた。


「さっきの騒ぎ、ちょっと大きすぎた?

 ……たぶん、大丈夫だよね?」


 森で育った僕には、“騒ぎが大きい”の基準がよくわからない。


 だって、ママ同士が本気で喧嘩すると、

 大陸が半分に割れかけることもあるんだ。


 僕はただ、ちょっと宅配を送っただけ。


「え? 山脈に侵入者?

 まあ、そのうち魔物に遭遇して逃げ帰るでしょ」


 侵入者なんて珍しくない。


 特に気にもせず、僕はこっそり棚を開けた。


「……わかってる! 歯に悪いのはわかってる!

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだから!」


 警戒結界が反応する前に、

 僕は頬をぱんぱんに膨らませる。


 まるでハムスター。


 素早く戸を閉める。


 ……ああ、幸せの味が口いっぱいに広がる〜〜。


 ソファに飛び乗り、

 狐仙ママの分霊――白い小狐を抱き上げる。


 魔法テレビを起動。


『……魔王出現の可能性! 冒険者協会は全面警戒態勢に入りました。市民の皆様は安全確保を――』


 チャンネルを変える。


『くらえ! 大悪魔ウルルルル!

 聖剣よ! 我に力を!』


 小狐が僕の指に残ったお菓子の欠片をぺろぺろ舐めながら、

 目を細めて丸くなる。


「コハク、あの聖剣……なんか見覚えない?」


 目をこする。


「これ、パパが薪割りに使ってる剣じゃない?

 僕の見間違いかな。そっくりなんだけど」


 コハクはあくびをして、まったく驚いていない様子。


「それにあの悪者を封印する瓶……

 あれ、僕のオマルじゃない?」


 そういえば前に、

 おしっこしてたら、中から誰かの声が聞こえた気もする。


「どれかのママが制作に関わってるのかも」


 ママたちはいつも忙しい。


 アニメ制作に参加してても、別に不思議じゃない。


「ホゥ……ホゥ……」


 ヴィルじいちゃんが窓辺に降り立ち、

 首を九十度に傾けて僕を見る。


「どうしたの、ヴィルじいちゃん?」


「ホゥ……!」


「えっ、侵入者はA級冒険者?」


 思わず身を乗り出した。


 僕は、他の子供と同じように――

 本物の冒険者に憧れている。


 アニメの魔法演出は、正直ちょっと予算不足感があるけど、

 ママが家事するときのエフェクトのほうが派手だけど。


 でも、友情とか、絆とか、熱血とか。


 ああいうのは、やっぱり胸が熱くなる。


 強敵に倒されても、立ち上がって、

 仲間と力を合わせて、最後に勝つ。


 ……僕だって、そんな物語を夢見る。


「ヴィルじいちゃん、見に行ってもいい?」


「ホゥ……」


「えー……でも本物の冒険者の戦い、見たいよ。

 アニメより絶対すごいでしょ?

 天地が裂けるくらいの迫力なんじゃないの?」


「……ホゥ」


「そんな冒険者いない?

 だって僕、いつでも禁呪撃てるよ?

 六歳だよ?

 ってことは禁呪って一番下の魔法なんじゃないの?」


「……ホゥ……」


 ヴィルじいちゃんは翼で顔を覆った。


 なんか、すごく……無言の疲労を感じる。


「ホゥ、ホゥ!」


「わかったわかった。もう寝る時間だよね。

 わかってるよ……でもその前に、これ書かないと」


 校長にもらった表。


 家庭訪問のための住所記入欄。


 ……紙、小さいな。


 まあ慣れてるけど。


 僕は極小の文字で、

 すべての住所を書き込んだ。


 よし、完成。


 寝よ。


 コハクを抱きしめて布団に潜り込む。


「おやすみ、コハク。

 おやすみ、ヴィルじいちゃん」


 ◇


「校長……シャアくんの“ご両親全員”を訪問しろ、と?」


 エイヴは信じられないものを見るように、書類を凝視した。


「そうだ。教師としての責任だ」


 校長は書類をろくに確認もせず、そう言い残して執務室を出ていった。


「…………」


 エイヴは書類を抱えたまま、

 その場にへたり込む。


 紙が手から滑り落ちた。


「……遠いだけよね。ちょっと遠いだけ……」


 どれくらい時間が経ったのか。


 彼女はゆっくりと顔を上げる。

 その瞳に、教師としての使命が宿る。


 そして、もう一度書類を見た。


 ――頭が真っ白になる。


「……裏面?

 ……二枚目が、あるの???」

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