第9話
戦闘が終わり、
森は嘘みたいに静かだった。
紅晶の箱を確認する。
【損傷:なし】
【依頼継続可能:100%】
……ようやく、落ち着ける。
その時、
視界に“確定した文字”が浮かび上がった。
【固有スキル進化完了】
【新能力:《因果補正》】
【説明:確率が不明・攪乱されている状況下においても、
結果へ至る因果の流れを最適化する】
俺は、思わず息を吐いた。
「……確率が見えなくても、
勝ち筋そのものを掴む、ってことか」
闇カジノで言えば、
配られたカードじゃなく、
ディーラーと客の“癖”を支配する感覚だ。
強い。
だが――
【注意】
【因果補正は精神負荷を伴う】
【連続使用時、判断力低下の可能性あり】
……なるほど。
万能じゃない。
だからこそ、使いどころが重要だ。
「ねえ」
声をかけてきたのは、リィナだった。
彼女は、紅晶の箱から少し離れた場所で、
じっと俺を見ている。
「さっきの力……
新しいものでしょ」
【この問いに誤魔化して答えた場合の信頼低下率:21%】
【正直に話した場合の信頼上昇率:64%】
――賭けるか。
「そうだな。
確率が通じなくなったから、
別の“見方”を手に入れた」
彼女は、少しだけ目を見開いた。
「やっぱり……
あなた、ただの冒険者じゃない」
沈黙。
風が、木々を揺らす。
そして、
今度は彼女が口を開いた。
「……私も、
普通じゃない」
【重要情報開示の兆候:高】
リィナはフードを外す。
淡い銀髪が、陽に照らされる。
赤い瞳が、まっすぐ俺を射抜いた。
「私は――
紅晶を“動かせる側”の人間」
……なるほど。
【彼女が嘘をついている確率:0.2%】
ほぼ、真実。
「だから、この依頼は
最初から失敗する運命だった」
彼女は、そう言って続けた。
「誰かが、
確率を乱す“保険”を用意していた」
――確率攪乱。
全部、繋がった。
「それでも、
あなたは進んだ」
リィナは、小さく笑った。
「数字が消えても、
引かなかった」
その言葉に、
俺は少しだけ肩をすくめる。
「闇カジノじゃ、
引いた瞬間に終わる」
彼女は、一瞬だけ驚いた顔をして、
それから――
静かに笑った。
「……なら、
あなたは信用できる」
【リィナからの信頼度:安定】
【今後、重要情報が共有される確率:71%】
悪くない。
俺たちは、並んで歩き出す。
紅晶を守るため。
だがそれ以上に――
この世界の裏側に踏み込むために。
因果を補正する力と、
因果そのものに関わる少女。
この出会いは、
偶然じゃない。
――そう、確信していた。




