第8話
数字が、見えない。
それだけで、世界はここまで不安定になるのかと
少し笑いそうになった。
【成功率:表示不能】
【死亡率:算出不可】
闇カジノで、
一番嫌な瞬間と同じだ。
テーブルの上にカードはあるのに、
流れだけが読めない。
「……厄介だな」
確率攪乱のスキルを持つ男は、
余裕の笑みを浮かべていた。
「どうした?
運が見えなくなったか?」
図星だ。
だが――
だからといって、俺が止まると思うな。
闇カジノで生き残った理由は、
勝率が高い勝負だけを選んでいたからじゃない。
勝率が見えなくなった時、
どう動くかを知っていたからだ。
「リィナ、距離を取れ」
「……わかった」
彼女は理由を聞かない。
それが、ありがたかった。
敵が踏み込んでくる。
速い。
だが、焦りがある。
剣を振る角度、
踏み込みの深さ。
――読める。
数字じゃない。
“癖”だ。
「当てにきてるな」
俺は一歩、わざと遅らせる。
敵の剣が、肩をかすめた。
痛み。
だが浅い。
その瞬間――
視界の奥で、何かが“繋がった”。
【解析不能な状況を検出】
【代替判断プロセス起動】
……あ?
世界が、少しだけ静かになる。
敵の次の動き。
その結果。
そこへ至る“道筋”。
数字じゃない。
だが、はっきりと分かる。
「……そういうことか」
俺は踏み込んだ。
敵の回避は、半拍遅れる。
そこに――
剣を叩き込む。
金属音。
呻き声。
確率攪乱の男は、
地面に膝をついた。
「な……なんだ、それ……
運じゃ……ない……」
俺は答えない。
代わりに、
視界に新しい文字が浮かぶ。
【新たな適応を確認】
【固有スキルが進化中】
……進化?
闇カジノで、
負けが続いた夜を思い出す。
運が切れた時、
俺は“流れ”を読むしかなかった。
誰が焦っているか。
誰が無理をしているか。
この場が、どこへ向かっているか。
――それと同じだ。
敵は倒れ、
森に静寂が戻る。
「……終わった?」
リィナが、恐る恐る近づいてくる。
「ああ。
多分な」
彼女は俺を見つめ、
小さく息を吐いた。
「さっきの動き……
数字、見えてなかったでしょ」
……鋭いな。
俺は肩をすくめた。
「見えなくなったから、
別の賭け方をしただけだ」
彼女は、少しだけ笑った。
「それ、
普通はできないことよ」
【同行者からの信頼度:上昇】
――悪くない。
紅晶は無事。
任務は、まだ続く。
だが俺は分かっていた。
確率が見えなくなった時、
俺は“詰み”じゃない。
次の段階に進んだだけだ。
この世界は、
まだ俺にカードを配り続けている。
そして次は――
もっとデカい賭けになる。




