第7話
紅晶〈こうしょう〉の入った箱は、
見た目以上に重かった。
「これが、狙われる理由?」
俺がそう言うと、
リィナは小さく首を振る。
「重さじゃない。
“価値”よ」
【輸送開始から三時間以内に襲撃を受ける確率:72%】
……高いな。
街を出てすぐ、
俺は違和感に気づいた。
【尾行されている確率:68%】
【敵対者数:不明】
「リィナ」
小声で呼ぶ。
「もう、来てる」
彼女は即答した。
次の瞬間――
森の奥から、複数の気配。
【敵対個体:5】
【戦闘突入確率:100%】
「ちっ、早すぎる」
だが、慌てない。
【この状況で生存できる確率:81%】
【最適陣形:背中合わせ】
「俺の右を頼む」
「了解」
――戦闘開始。
剣、魔法、矢。
全てが俺の視界では数字になる。
避ける。
当てる。
潰す。
だが――
【新規要素検出】
【成功率:81% → 49%】
「……何?」
急落。
闇カジノで、この感覚は覚えがある。
――想定外のカードが混じった時だ。
「リィナ、伏せろ!」
遅れて現れた“六人目”。
【個体名:不明】
【スキル:確率攪乱】
【情報取得不能】
……なるほど。
「俺の数字が、見えなくなってる」
敵は笑った。
「それが売りでな。
“運に頼る奴”を殺すための力だ」
【このまま戦闘を続けた場合の死亡率:38%】
――危険水域。
だが、
ここで逃げる選択肢はない。
【撤退成功率:22%】
低すぎる。
「リィナ!」
「……分かってる」
彼女の赤い瞳が、
一瞬だけ強く輝いた。
――リィナ視点。
正直、最初は疑っていた。
新人。
武器も碌に持たない。
それなのに、やけに落ち着いている男。
でも今は違う。
彼は――
戦場を“読んでいる”。
剣の軌道。
敵の呼吸。
次に何が起きるかを、
まるで知っているかのように動く。
それなのに。
「……乱されてる」
確率攪乱。
運命の流れを、強制的に歪めるスキル。
本来なら、
彼のような戦い方は破綻する。
――それでも。
「下がって!」
私が魔力を解放する。
【リィナの魔法が命中する確率:93%】
敵の一人が吹き飛ぶ。
彼は、その隙を逃さない。
「ありがとう」
短い言葉。
だが、その声は――
揺れていなかった。
普通なら、恐怖で判断が鈍る。
でも彼は違う。
まるで、
“数字が見えなくなっても、別の何かで測っている”ようだった。
「……不思議」
私は確信する。
この人は、
運だけで戦っているわけじゃない。
運が崩れた時の戦い方を、知っている。
だから私は、
彼の背中を信じる。
「前!」
私が叫ぶ。
彼は、迷わず踏み込んだ。




