第6話
ギルドの奥――
普段は立ち入り禁止らしい区画に、俺は通された。
理由は単純だ。
【特定の依頼を紹介される確率:96%】
数字が、そう告げていた。
「正直に言うわ」
受付の女性が、周囲を確認してから声を落とす。
「これは“表”には出せない依頼よ。
失敗率が高すぎる」
依頼書が、机の上に置かれた。
【依頼内容:輸送護衛】
【対象:魔導触媒〈紅晶〉】
【推定危険度:高】
【成功率:32%】
……低い。
闇カジノ基準で言えば、
絶対に避ける数字だ。
だが同時に、
別の数値が視界に浮かんでいた。
【報酬:金貨20枚】
【成功時の影響:名声・信用大幅上昇】
【この依頼を受けた場合、人生が変わる確率:89%】
「……はっきり言っていい?」
俺は、依頼書から目を離さずに言った。
「これは“賭け”だな」
受付の女性が、苦笑する。
「そう。
だから、受けられるのは一部の冒険者だけ。
――あなたみたいな」
俺は、依頼書の隅に書かれた補足を見た。
《同行者あり》
その文字に、
自然と視線が横へ向く。
そこにいたのは――
一人の少女だった。
赤い瞳。
銀に近い淡い髪。
フード付きのローブに身を包み、
年の頃は……十六、七か。
【名前:リィナ】
【種族:不明】
【魔力量:極めて高】
【信頼度:測定不能】
【同行時の成功率:32% → 61%】
――一気に、跳ね上がった。
「……半分以上になるのか」
思わず、声が漏れる。
少女――リィナは、
俺をまっすぐに見つめてきた。
「あなたが、あの新人?」
声は静かだが、芯がある。
【この少女が嘘をついている確率:0.4%】
……ほぼゼロ。
「そうだ」
短く答える。
彼女は、わずかに目を細めた。
「なら、大丈夫」
それだけ言って、
それ以上の説明はなかった。
だが、不思議と――
不安はなかった。
【この少女と組むことで致命的失敗を避けられる確率:97%】
「……受ける」
俺は、即答した。
受付の女性が、目を見開く。
「本当に?
失敗すれば、命の保証はないわよ」
俺は、依頼書を手に取りながら言った。
「成功率32%でも、
61%に跳ね上がるなら話は別だ」
そして、心の中で続ける。
――見えない賭けはしない。
だが、見えている賭けなら話は違う。
リィナが、小さく頷いた。
「私は、失敗しない」
【この言葉が現実になる確率:63%】
……十分だ。
闇カジノでは、
六割を超えれば“勝負に出る”。
ここは異世界。
だが、ルールは同じだ。
「行こう」
俺が言うと、
リィナは静かに答えた。
「ええ。
あなたとなら、勝てる気がする」
赤い瞳が、
わずかに――
楽しそうに揺れた。
その瞬間、
俺は確信していた。
この依頼は、
金のためじゃない。
――この少女との出会いこそが、
俺の運命を次の段階へ押し上げる。




