第3話
街の中心にある建物は、嫌でも目に入った。
石造りの大きな建物。
剣と盾の紋章。
出入りするのは、鎧姿の連中ばかり。
――冒険者ギルド。
現実世界で言えば、
仕事紹介所であり、
同時に危険な連中が集まる場所。
嫌いじゃない。
むしろ――
闇カジノと似た匂いがする。
【ギルドに入って職を得られる確率:94%】
【初日に金を稼げる確率:88%】
数字は上々だ。
俺は迷わず、扉を押した。
中は騒がしかった。
酒の匂い、怒号、笑い声。
壁には依頼書がずらりと貼られている。
受付に立つ女性が、俺を見て眉をひそめた。
「登録希望?」
【登録が問題なく進む確率:92%】
「そうだ。金が必要でな」
正直に言った。
この世界では、変に取り繕うより
シンプルな方が成功率が高い。
案の定、彼女はため息をつきながらも手続きを始めた。
「身分証は?」
【“持っていない”と答えて通る確率:85%】
「ない」
「……最近多いのよ、そういう人」
文句を言いつつも、
登録は進んだ。
――成功。
闇カジノでも同じだった。
最初の一勝目が、一番大事。
「じゃあ、仮登録ね。
簡単な依頼から始めてもらうわ」
依頼板を指差される。
薬草採取、
荷物運び、
討伐――
俺の視界に、次々と数字が浮かぶ。
【薬草採取:成功率99%/報酬低】
【荷物運び:成功率95%/時間がかかる】
【スライム討伐:成功率97%/報酬そこそこ】
……スライム。
異世界モノでおなじみの雑魚。
だが、俺は油断しない。
【致死率:0.2%】
【怪我を負う確率:3%】
許容範囲。
「これだ」
俺はスライム討伐の依頼書を剥がした。
周囲の冒険者たちが、ちらりとこちらを見る。
「おい、新人。
それ、一人で行く仕事じゃねえぞ」
忠告か、嘲笑か。
だが、俺の中ではもう終わっている。
【この選択を後悔しない確率:100%】
――勝ち確だ。
ギルドを出た瞬間、
胸の奥がじんわりと熱くなった。
金を稼ぐ。
生き延びる。
次に繋げる。
借金地獄で学んだのは、
小さく勝ち続けることだ。
異世界でも、それは変わらない。
「……いいな、この世界」
確率が見えるだけで、
人生の難易度がここまで下がるとは。
闇カジノで生き残った俺が、
今度は合法的に稼ぐ。
いや――
「まずは、元手作りだ」
その先にあるのは、
もう“生きるための金”じゃない。
――支配するための金だ。




