表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
借金地獄で過労死した元闇カジノ狂い、異世界で確率を支配する最強になる  作者: RIN
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

29話

管理区画の内部は、静かだった。


音がないわけじゃない。

足音も、魔導機構の駆動音もある。


ただ――

すべてが一定で、揺れがない。


「……嫌な静けさだな」


カイルが、低く言った。


「こういう場所はさ」

「判断が一拍遅れると、死ぬ」


「分かってる」


俺は即答した。


だが、その声は

自分で思っていたより、遅れて聞こえた。


……遅い。


それに気づいた瞬間、

胸の奥に小さな違和感が生まれる。


「……?」


俺は足を止めかけて、やめた。


止まる理由が、

はっきり言語化できなかったからだ。


リィナが、前を見る。


「……巡回ルート、変わってる」

「さっきの情報と違う」


「二分早いな」


カイルが言う。


「本来なら、今は空白だ」


……判断。


頭の中で、

選択肢が並ぶ。

•進む

•戻る

•待つ


普段なら、

ここで迷わない。


勝ち筋じゃなくても、

“死なない筋”を即座に切る。


だが――

選べない。


一瞬、

本当に一瞬。


その間に。


警告灯が、点いた。


赤。


「来るぞ!」


カイルが叫ぶ。


同時に、

通路の向こうで空気が歪んだ。


――回収部隊。


数は少ない。

装備は軽い。


だが、動きが揃っている。


「……っ」


俺は前に出ようとして、

足がもつれた。


ほんの一歩。


それだけで、

視界が揺れる。


「おい!」


カイルが、

即座に腕を掴んだ。


支えられて、

ようやく立っていると分かる。


……身体か。


いや、

違う。


身体“だけ”じゃない。


「判断、遅れてるぞ」


カイルの声は、低い。


責める響きはない。

事実確認だけだ。


それが、

逆に刺さる。


「……分かってる」


分かってる。


でも、

分かるまでに時間がかかる。


それ自体が、

もう致命的だ。


リィナが、魔力を抑えながら前に出る。


「時間、稼ぐ」

「二十秒」


「十分だ」


カイルが言う。


俺は、

呼吸を整えようとして――

失敗した。


息が浅い。


胸の奥が、

重い。


「……クソ」


感情じゃない。

苛立ちでもない。


ただ、

思考が滑る。


回収部隊が動く。


一体、

俺の位置を正確に捉えている。


――狙われてる。


それは分かる。


なのに、

“どう避けるか”が

一拍遅れる。


「下がれ!」


カイルが、

俺を引きずるようにして壁際へ押し込む。


次の瞬間、

俺が立っていた場所を

魔導弾が抉った。


床が溶ける。


「……今の」


リィナが、歯を食いしばる。


「前なら、避けてた」


……ああ。


俺も、

そう思った。


前なら、

見えてなくても動けた。


今は、

見えてない上に、

動きも遅い。


「無理すんな」


カイルが、短く言う。


「今日は俺が前出る」


「……いや」


俺は否定しかけて、

言葉を止めた。


否定する“理由”が、

もうない。


「……任せる」


そう言った瞬間、

胸の奥で何かが確定した。


俺はもう、

即断即決の中心じゃない。


カイルが前に出る。


判断が速い。

割り切りも早い。


――元・賭博師。


勝率が見えなくても、

「今は降りる」が選べる男。


「右、封鎖」

「左、抜けるぞ」


俺は、

遅れて頷く。


一拍。


それだけで、

カイルの動きと

完全には噛み合わない。


「……っ」


通路を抜けた瞬間、

膝が折れた。


音もなく。


「おい!」


カイルが、

即座に肩を貸す。


支えられて、

ようやく立てる。


「……悪い」


俺が言うと、

カイルは鼻で笑った。


「今さらだろ」


それ以上、何も言わない。


言わないことで、

状況を受け入れている。


それが、

妙に重かった。


通路の先、

一時退避区画。


扉が閉まる。


回収部隊の気配が、

遠ざかる。


静寂。


俺は、

壁に背を預けて座り込んだ。


息が、

整わない。


リィナが、

不安そうに覗き込む。


「……大丈夫?」


「死んでない」


即答。


でも、

それだけだ。


カイルが言う。


「なあ」


「前はさ」

「お前が一番“早かった”」


「今は違う」


責めてない。

慰めてもいない。


ただの、

事実。


「……ああ」


俺は、

それを否定しなかった。


否定できなかった。


判断が遅れる。

身体が追いつかない。


どん底じゃない。


でも――

確実に、

そこへ向かっている。


俺は、

その感覚を

初めて“自覚した”。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ