第21話
第三層の奥。
空間は、完全に閉じていた。
逃げ道はない。
戻ることも、進むことも。
【領域:隔離】
【外部干渉:不可】
「……ここで終点ね」
リゼが言った。
声は冷静だが、
その手は――
血で濡れている。
カイルの肩から滴った血。
さっきの魔物の臓物。
それらが混じり、
床に黒い染みを作っていた。
「説明して」
リィナが言う。
「今すぐ」
エルとリゼは、
一瞬だけ視線を交わす。
そして――
エルが、静かに笑った。
「隠す意味、
もうないわね」
彼女は、
自分の胸元に手を伸ばす。
引き裂いた。
布と一緒に、
皮膚が裂ける。
血が流れ、
その下から――
赤黒い結晶片が露出した。
肉に、
埋め込まれている。
【紅晶:生体融合型】
「……なに、それ……」
エルの声は、
少し震えていた。
「王国がやったの」
彼女は続ける。
「正確には、
“私たちの前の人生”で」
……前の人生。
リィナが、
息を呑む。
「あなたたち……」
「ええ」
リゼが、
初めて感情を滲ませて言った。
「転生者よ」
空気が、
凍りつく。
「前の世界で、
私たちは“実験を設計する側”だった」
「確率も、
因果も、
観測できると思ってた」
エルが、
自嘲する。
「でも、
私たちは“素材”にされた」
リゼは、
自分の腕を見せた。
皮膚の下で、
何かが蠢いている。
「紅晶を身体に埋め込まれ、
死んで、
そのまま持ち越した」
【転生持越し:例外】
「だから――」
エルが、
俺を見る。
「あなたを見ると、
分かるの」
「同じ地獄を、
別の立場でくぐってきた人間だって」
その瞬間。
空間が、
軋んだ。
【因果異常:急上昇】
「……来るわ」
リゼが言う。
「この話をした時点で、
“向こう”に届いた」
エルの胸の結晶が、
脈打つ。
肉が、
内側から裂ける。
血が噴き、
床に落ちる。
「ぐっ……!」
【生体紅晶:暴走兆候】
「……だから言ったの」
リゼが、
歯を食いしばる。
「私たちは、
生きてる限り、
この世界を壊す引き金になる」
エルが、
笑った。
血を吐きながら。
「それでも……
あなたと同じ卓に、
座りたかった」
……最悪の告白だ。
だが――
俺は、目を逸らさなかった。
【選択:受容】
「分かった」
短く言う。
「なら――
最後まで賭けよう」
その言葉に、
エルの目が、
確かに光った。
だが次の瞬間――
俺の視界が、
赤く滲んだ。




