第2話
「……落ち着け。まず状況確認だ」
俺はゆっくりと上半身を起こした。
ベッドは硬い。
部屋は狭い。
そして、どう見ても日本じゃない。
木と石でできた壁、簡素な家具。
窓の外から聞こえるのは、知らない言語のざわめき。
――異世界。
どうやら本当に、そうらしい。
視界の端に、相変わらず半透明の文字が浮かんでいる。
【現在位置:治療院】
【生命状態:安定】
【死亡率:0.0%】
……死亡率ゼロ。
それだけで、胸の奥が妙に軽くなった。
現実世界では、
「返済不能」「詰み」「破産」
そんな言葉ばかりが頭を支配していた。
だがここでは違う。
「……成功率、か」
俺は無意識に、部屋の出口へ視線を向けた。
【扉を開けて外に出る成功率:100%】
【外でトラブルに巻き込まれる確率:12%】
なるほど。
数字は曖昧じゃない。
“気配”じゃなく、はっきり見える。
闇カジノで培った感覚が、
完全に上位互換になって戻ってきた感じだ。
――いける。
そう確信した、その時だった。
「起きたか、異邦人」
低い声とともに、
屈強そうな男が部屋に入ってくる。
革鎧、剣、無精ひげ。
どう見てもファンタジー世界の冒険者だ。
【敵意:低】
【会話が穏便に進む確率:87%】
【揉め事に発展する確率:6%】
俺は即座に判断した。
「……世話になったみたいだな」
無難な返答。
成功率は――
【会話成功率:95%】
よし。
「お前、道端で倒れてた。
死にかけだったが、運が良かったな」
運が良かった?
違う。
この世界では、運すら数値化できる。
男は続ける。
「身分証も金もない。
この街じゃ、そういう奴は……」
言葉の続きを、俺は理解した。
現実世界と同じだ。
金がない奴は、弱い。
だが――
俺は自分の手を見つめる。
【素手で殴った場合の命中率:99%】
【相手を無力化する確率:82%】
【致死率:0.3%】
……。
思わず、笑いそうになった。
「なあ」
俺は男に視線を戻す。
「仕事はあるか?」
【この質問で仕事を紹介される確率:91%】
――ほぼ勝ちだ。
闇カジノで学んだのは、
勝負は始まる前に決まっているということ。
そしてこの世界では、
その答えが最初から見えている。
「……面白いな」
借金地獄で過労死した俺が、
異世界で生き直す。
しかも、
確率を支配する側として。
この世界、
思ったよりずっと――
「稼げそうだ」




