第15話
ギルドの空気が、
明らかに変わったのは昼過ぎだった。
普段は騒がしい受付前が、
不自然なほど静まる。
【異常来訪イベント発生】
【規模:国家級】
……来たな。
革靴の音。
揃った足並み。
入ってきたのは、
冒険者でも商人でもない。
紋章入りの外套。
背筋の伸びた動き。
王国使節団。
周囲の冒険者たちが、
一斉に息を呑む。
「ギルド長殿」
使節の男が、低く名乗る。
「王国直轄依頼を持ってきた」
【依頼難度:極】
【報酬:規格外】
【拒否可能性:ほぼなし】
ギルド長が、
俺たちを見る。
「……指名だ」
ざわめき。
俺か。
それとも――
俺たち、か。
「詳しい話は、
個室で」
通された部屋には、
すでに二人、先客がいた。
同じ顔。
同じ銀髪。
だが、雰囲気は正反対。
片方は腕を組み、
冷たい視線。
もう片方は、
にこやかな笑み。
【個体識別】
【双子:確認】
「はじめまして」
笑っている方が、
軽く手を振る。
「私はエル。
こっちは妹の――」
「リゼ」
遮るように、
冷たい声。
【好意:低】
【警戒度:高】
……なるほど。
「王国魔導庁所属、
特別観測官です」
エルが言う。
「今回の国家依頼、
あなたたちにも
関わってもらうことになります」
リィナが、
わずかに身構えた。
【彼女たちの正体を察している確率:高】
「依頼内容は?」
俺が聞く。
エルは、
一枚の地図を広げた。
「未踏領域に出現した、
因果異常地帯」
……因果。
嫌な単語だ。
「通常の冒険者では、
近づくだけで事故が起きる」
リゼが淡々と言う。
「死亡、失踪、
記録の欠落」
【成功率:算出不能】
「だから――
あなた」
リゼの視線が、
俺を射抜く。
「“数字の外側”を動ける存在が、
必要なの」
【核心に近づいた発言】
【彼女たちが転生者の存在を知っている可能性:高】
……読まれてるな。
カイルが、
小さく笑った。
「国家ってのは、
隠す気ないんだな」
エルは肩をすくめる。
「隠すのは、
“まだ早い真実”だけ」
「私たちは、
観測役」
リゼが続ける。
「あなたたちが、
“何者なのか”を」
空気が、
張りつめる。
だが――
俺は、息を吐いた。
「報酬は?」
エルは、
迷わず答える。
「金。
地位。
そして――」
一拍置いて。
「王国が把握している、
“紅晶関連情報”」
リィナが、
はっきりと反応した。
【心拍数:上昇】
【動揺:抑制中】
……十分だ。
「受ける」
即答だった。
【この選択が物語を大きく動かす確率:100%】
エルが、
楽しそうに笑う。
「決まりね」
リゼは、
じっと俺を見る。
「忠告しておくわ」
「何だ?」
「この依頼、
国家が管理できない賭けよ」
……最高だ。
俺は立ち上がる。
「なら、
ちょうどいい」
確率も、
因果も、
国家ですら制御できない。
そんな卓の方が――
勝ち取りがいがある。
リィナが、
静かに頷く。
カイルは、
肩を鳴らした。
双子は、
同時に微笑む。
片方は好意的に。
片方は値踏みするように。
こうして、
俺たちの賭けは――
国家規模に跳ね上がった。




