第14話
翌朝。
宿の食堂は、
妙に平和だった。
パンの焼ける匂い。
笑い声。
いつも通りの朝。
【当面の危険発生確率:低】
「……平和すぎるな」
俺がそう言うと、
カイルが肩をすくめる。
「勝った直後は、
だいたいこんなもんだ」
闇カジノでも同じ。
嵐の前ほど、
場は静かになる。
「次、どうする?」
カイルが聞いてくる。
【選択肢:複数】
【最適解:未確定】
「情報集めだな。
紅晶の件、
これで終わる気がしない」
リィナは、
何も言わずに頷いた。
……少し、
様子が違う。
【同行者状態:警戒】
【理由:不明】
聞かない。
今は、
その賭けじゃない。
昼前、
街に出た時だった。
【接触イベント:強制】
視界の端に、
違和感。
人混みの中、
明らかに“馴染んでいない”男。
黒衣。
年齢不詳。
表情が、無機質すぎる。
【敵意:なし】
【脅威度:高】
【正体:不明】
……嫌なタイプだ。
男は、
俺たちを一瞥し、
そのまま通り過ぎる。
それだけ。
だが――
背中を見送った瞬間、
背筋が冷えた。
【観測された可能性:極めて高】
カイルも、
同じ感覚だったらしい。
「……なあ」
小声で言う。
「今の、
情報屋でも冒険者でもない」
「分かってる」
リィナは、
拳を握っていた。
「……来たのね」
それだけ。
説明はない。
だが、
確信だけがあった。
男の姿は、
人混みに溶けて消える。
だが、
視線の“痕”だけが残っている。
【次の接触までの猶予:不明】
【生存率:依然高】
――まだ、
殺す段階じゃない。
そう判断された。
闇カジノで、
何度も味わった感覚だ。
「賭け金を、
釣り上げるつもりだな」
俺が言うと、
カイルが笑った。
「悪い趣味だ」
リィナは、
一歩前に出る。
「……でも」
彼女は、
俺を見る。
「もう、
引き返せないわ」
【この先に進んだ場合の未来分岐:多数】
俺は、
小さく息を吐いた。
「最初から、
そのつもりだ」
配当は、
まだ出ていない。
だが――
次の卓は、
間違いなく大勝負になる。
第二章は、
静かに――
確実に、
牙を剥き始めていた。




