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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼


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9/10

追放

 グチャルーツとの戦闘の翌日の午前中、リファロはマッカランに会うためにギルドのベインジア支部に顔を出した。

 ギルドへの報告自体は昨日ベインジアへの帰還直後に行っていたのだが、今後の事で話し合いたい事があり準備があるので明日出直して欲しいというマッカランの指示に従った形だった。


 そしてマッカランの言う『準備』の内容を『回答者』で事前に知っていたリファロは昨日のグチャルーツとの戦闘の方が精神的には楽だったなと思いながら支部長室に入った。


 リファロが支部長室に入るとマッカランの他に弟のゴスキルもおり、ゴスキルは防具の他に『名持ち』の死体の一部を使って作られた剣を腰に帯びるという完全装備でマッカランの後ろで待機していた。

 マッカランに促されて席について早々、リファロはマッカランから鋭い視線を向けられた。


「昨日あなたが提出した登録票からあなたが昨日独断で竜に戦いを挑んだ事が事実である事が確認されました」

「独断ってどういう事ですか!僕はマッカランさんから依頼を受けて街を襲っている竜のところに……」


 竜との戦闘などという本来なら死刑宣告に等しい仕事を名指しで受けさせておきながらのあまりに勝手なマッカランの発言にリファロはわずかながら声を荒げながら反論したが、一方のマッカランは涼しい顔で話を続けた。


「何を言っているんですか?私は昨日あなたを呼び出してちゃんと伝えたはずですよ。最近のあなたは調子に乗っているようなので間違っても一人で竜と戦おうとしないようにと」

「そんな、……昨日マッカランさんからもらった依頼書だって受付に提出して……」


「私はあなたに特別な依頼などしていませんし、受付でも昨日あなたから登録票以外は受け取っていないと言っています。受付も驚いていましたよ。ギルドの創設にも尽力して下さった竜の方々に怪我を負わせた事を自慢気に報告してきたと」


「……何かの間違いです。昨日僕と話した受付の人に確認してもらえば、」

「黙れ!」


 困惑した様な表情を浮かべるリファロの発言を剣に手をかけたゴスキルが遮り、そんなゴスキルをなだめてからマッカランが口を開いた。


「受付への確認は既に済んでいます。そして昨日私以外の幹部があなたの登録票を確認して私があなたに何の依頼もしていない事は確認済みです」


 冒険者ギルドで発行される登録票には真偽を見抜く天使の魔法が込められているので冒険者とギルド関係者の双方が安心して使えるとされていたが、ギルドが組織ぐるみで依頼関連の事実をごまかそうとした場合、冒険者が個人で反論する事はほぼ不可能に近かった。


 そして言葉に詰まっていたリファロの横で支部長室の扉が開き武装した兵士四名が入ってきて彼らの到着に合わせてマッカランはリファロにギルドからの追放を伝えた。


「ギルドのみならずこの国そのものに大きな被害を出しかねない竜への独断での攻撃は見過ごせません。ギルド支部長の権限であなたの登録票を抹消してギルドから永久に追放します」


 こう言ったマッカランは机の下から冒険者が登録票を創る際に使う水晶を取り出すと魔力を流し、支部長のみに与えられた特権でマッカランがリファロの登録票を消し去った瞬間、リファロが今回の件で無実を証明する事は不可能となった。


「あなたの身柄はこの場で拘束されます」


 このマッカランの発言の直後、兵士たちが動き出すのを見てそろそろ潮時かと考えたリファロは『転移』でアルベール魔王国に向かった。

 一方リファロが『転移』した直後、支部長室に転移魔法を阻害する道具が設置されていると聞いていた兵士たちは噂に聞いていたよそ者が転移魔法を使った事に驚いたが、マッカランに今日の事は他言無用と言われて何も言わずに支部を後にした。


「まさか転移できるとは思わなかったな」

「ああ、驚いた」


 予想通りの結果を勝ち取り満足そうに笑っている弟の問いかけに適当に答えながらマッカランは小さく安堵のため息をついていた。

 登録票を確認してリファロが本当に竜相手に戦い交渉を成功させたと知った時、マッカランはリファロの想像以上の強さに驚くと同時にリファロを確実に排除する必要があるという自分の考えが間違っていなかった事を確信した。


 しかし殺してはいないとはいえ竜相手に勝つような化物を力ずくで排除するわけにもいかず、支部長としての経験からマッカランはリファロが自分はともかく命令を受けているだけの兵士には手を出せないお人好しだと見抜いていた。


 このため今回の様な手段を取りリファロが兵士に危害を加えてくれればマッカランとしては言う事は無かったのだが全てが理想通りはいかずこの点は多少残念ではあった。


 しかしあの偽善者が自分たちに直接報復をしてくる事は考えにくく、貴族などの有力者に泣きつかれてもどうにでもなると考えていたのでマッカランはあの厄介者についての問題はこれで全て解決したと思っていた。


 そして翌日、リファロが自分を取り押さえようとした兵士七名を殺害して逃走したとギルドが発表するとリファロはクララス王国の人々の話題に次第に挙がらなくなっていった。

 

 マッカランによりギルドから追放された直後、リファロは二年程前からアッキム王国による侵攻を受けていたアルベール魔王国の首都、リキュアナから南に二十キロ程離れた場所、ウイルテンに転移していた。


 アルベール魔王国に住む魔族たちは最大で五メートル程の巨体と怪力を持つオーガ、両腕の代わりに生えた翼で高速で飛び鉄板すら歪める蹴りを繰り出せるハーピィなど人間より強い種族も多かったが人間最大の武器、数には勝てず開戦後すぐに劣勢を強いられ始めていた。


 そして一週間前に首都、リキュアナすら捨てざるを得なくなっていたアルベール魔王国の国民の間には絶望が広がっており、オーガやリザードマンといった親衛隊に守られていたアルベール魔王国の妃、ミルヒガナは用意された天幕の中で二人の子どもたちと身を寄せ合っていた。


 ミルヒガナの夫でアルベール魔王国の王だったディルグリオンはアッキム王国との開戦から二ヶ月程で戦死し、今はミルヒガナが王の代理という事になっていたがお飾り以上の役割は果たせていなかった。

 魔族たちはアッキム王国に捕まったら最後、交渉の余地など無く女はその場で慰みものにされた後殺されるか奴隷としてアッキム王国に連れて行かれ、男はその場で殺されるか魔法や武器の練習台に使われて殺されるかの二択だった。


 このため魔族たちは必死に抵抗していたが勝機は全く見いだせず、南に逃げた先でも海側から侵攻してきたアッキム王国の軍勢が待ち構えているという二日前に入ったばかりの情報が魔族たちを更に追い詰めていた。


 そしてディルグリオンが死んで以降何十回考えたか分からない自殺という考えがよぎった時、天幕の外が騒がしくなっている事に気づいたミルヒガナは子どもたちにこの場を動かないように伝えてから天幕の外へと向かった。


「何があったのですか?」


 北から迫ってくる敵の軍勢と交戦状態に入るのは早くても三日後の昼過ぎだと聞いていたのでミルヒガナは突然の騒ぎを不思議に思いながら天幕の外で控えていた下半身が蛇で女しかいない種族、ラミアに話しかけた。

 そして手にしていた槍を強く握りながらラミアは先程通り過ぎたドワーフから聞いた話をそのまま伝えた。


「私も今聞いたばかりなのですが突然転移してきた人間が負傷者二百人以上の怪我を一瞬で治してお妃さまに会いたいと言っているらしいです!」


 転移先に何の用意もせずに転移魔法を発動する技術を人間が開発したのか。

 手段は分からないがこちらの負傷者を治療したのは商品として扱うためか。


 半信半疑といった表情で報告を行うラミアを前にしてミルヒガナは驚愕や警戒、恐怖といった様々な感情に襲われ、そんなミルヒガナの耳に何者かと魔族たちのやり取りが届いた。


「お妃さまの所に転移しないのは最低限の礼儀を守っているからです。ここで揉めてる余裕なんてあなたたちにあるんですか?このままだと四日後には北と南から挟まれて終わりですよ!」

「今この場の責任者を集めている!さっきお前が転移してきた場所で待っていろ!」


 ギルドの上層部で不正が蔓延してこの事に王族も貴族も口を出せない国を変えるために動くのは面倒だとリファロは考え、自分以外頼れる相手がいない国なら裏切られる事も無いはずだという消極的な理由で新しい活動先としてアルベール魔王国を選んだ。


 元いた世界にもこの世界で魔族と呼ばれている種族と似た種族はいたのでリファロに魔族に対する苦手意識や差別意識はほとんど無かった。

 しかし見た目はこの世界の人間と変わらない自分をアルベール魔王国の魔族たちが簡単には信用できない事はリファロも分かっていたので、最低でも話ぐらいは聞いてもらうために転移直後に負傷者たちの治療を行った。


 そしてリファロの狙い通り、魔族たちの一部は得体の知れない人間の話ぐらいは聞いてやろうと考えていたがさすがにいきなり妃に会わせろは無茶な要求で、『回答者』で周りの魔族の考えを知り急ぎ過ぎたかと反省したリファロの耳にミルヒガナの声が届いた。


「あなたは何者ですか?どうして人間が一人でここに?」


 このミルヒガナの発言を受けて周囲の視線が全てミルヒガナに集まり、リファロの相手をしていたオーガの一人がリファロを警戒しながらミルヒガナに近づいてきた。


「お妃様、あの人間の相手は我々でします。危険ですのでお下がりを」


 オーガがこう言っている間にもリファロの周りには武器を持った魔族たちが集まり続け、これ以上粘っても意味が無さそうだと考えてリファロは先程言われた通り負傷者たちが集められていた場所に移動した。


「お前は何者だ?何のためにここに来た?」


 傷が癒えた負傷者たちを移動させて空けた空間でリファロは魔族十数名に囲まれており、アルベール魔王国の魔族たちの指揮を取っている幹部の一人、オーガのルドディスに質問されてリファロは今回アルベール魔王国に来た理由を説明した。


「ギルドという人間たちの組織は知っていますか?」

「人間たちが集まって魔獣などを狩るための組織でしょう?それがどうしたの?」


 亜人たちの中で比較的人間の事に詳しいハーピィ、アンシューカが相づちを打つとリファロはつい先程受けた仕打ちを簡単に説明し始めた。


「僕は今あなたたちの国を侵略しているアッキム王国の北にあるクララス王国のギルドで働いていました。でもギルドの偉い人に騙されてギルドで働けなくなってここなら働けるかも知れないと思って来てみました」


「……意味が分からない。お前も知っての通り、今私たちの国は人間たちから侵略されている。仕事を探せるような状況ではないぞ?」


 人間が道具無しで転移を行える事の意味をほとんどの魔族たちは理解していなかった。

 このため現在自分たちの国を侵略している国の人間が降伏を勧めるために来たというなら理解できたが職探しという予想外の理由を告げられてルドディスは困惑し、これは他の多くの魔族たちも同様だった。


 そして魔族たちがそんな反応をする事を『回答者』で既に知っていたリファロは落ち着いた様子であらかじめ用意していた回答を口にした。


「僕はこの辺りの出身じゃなくてこの辺りの人たちとは違う魔法を使えます。だから今の時点でうまくやれている人たちには邪魔に思われる事も多くて、……で、すごい失礼な言い方になりますけどここまで追い込まれてるあなたたちとなら交渉の余地があると思って来てみました」

「……交渉って何が目的?」


 アンシューカはその場面を実際には見ていなかったが目の前の人間が命すら危うかった重傷者を含む数百人を一瞬で治療した事は他の魔族たちから聞いていた。


 そしてその様な聞いた事も無い魔法を使える存在が人間社会で忌避されるという話はアンシューカも理解でき、アッキム王国相手に劣勢を強いられている自分たちが交渉の相手として都合がいい事も不快ではあるが理解できた。


 人間がアルベール魔王国に見出す魔族の狩場以外の価値と言えば国土に眠る資源ぐらいだろうとアンシューカは考えた。


 しかし資源の権利など劣勢の自分たちと交渉してもしかたがなく、人間が今のアルベール魔王国で魔族をさらいたいならアッキム王国がやっているように好き勝手にさらえばいいともアンシューカは考えていた。

 このためリファロの発言をどこまで信じていいか分からずアンシューカはもちろん他の魔族たちも困惑し、そんな魔族たちの前でリファロはとりあえずの目的を口にした。

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