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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼


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8/8

決着

「……お前、人間か?」


 自分たち以外の種族の内、天使以外の種族など取るに足らないというのが竜の共通認識でグチャルーツもこの認識を全く疑っていなかった。

 しかし目の前の一見人間の相手に自分の攻撃が全て通用しなかった事は事実でグチャルーツは目の前の相手が自分の知らない種族かその血が混じった人間の可能性を考え始めていた。

 そして模擬戦でこのやり取りを何度か行っていたリファロは多少面倒に感じながら話を続けた。


「人間ですよ!僕かなり遠い所から来たんでこの辺りの人とは違う魔法が使えるんです!相談役も僕とは違う魔法を使えてそれであなたたちの事を色々知る事ができました!後一つ謝っておくとさっき返事ができなかったのはあなたの攻撃を防ぐ魔法を使うと大きな声を出せなくなるからです!気を悪くしたなら謝っておきます!」


 自分が知る人間の魔法とはあまりにかけ離れた魔法の存在を当然の様に口にする人間を前にグチャルーツは放心状態になりかけており、そんなグチャルーツの精神状態を『回答者』で知ったリファロは一度深呼吸をしてから説得を続けた。


「あなたたちの生活に干渉するつもりはありませんからさっきも言いましたけどあなたも人間に危害を加えるのは止めて下さい!」


 このリファロの発言を受けてグチャルーツは急降下するとリファロを捕まえようと右前脚を振り下ろし、『奉身者』の能力をあまり使いたくなかったリファロは横に大きく跳ぶ事でグチャルーツの右前脚を避けた。


「ふん。やはりさっきの魔法はそう何度もは使えないみたいだな」

「……あんまり乱暴な事したくないんですけどこれ以上話しても無駄なら少し痛い目に遭ってもらいますよ?」


 リファロがグチャルーツの右前脚を避けた理由は単に『転移』のための代償を残しておきたかったからだが、『奉身者』の詳細など知る由も無いグチャルーツは自分に都合のいい勘違いをしたまま地上からそよ風を起こすしか能が無い人間に嘲りの視線を向けた。


「痛い目に遭わせる?やれるものならやってみな!寝て起きたら増えてる虫を殺したぐらいでいちいち騒ぎやがって!気が済むまで俺の攻撃を食らってろ!」


 自分の攻撃を防いだ人間の魔法にグチャルーツは多少興味を持っていたが人間ごときがまるで自分と対等の様に話している事への怒りの方が強く、どうせ何らかの制限があるはずなので小賢しい魔法での抵抗ができなくなるまで炎を撃ち続けてやろうと考えて口を開いた。


 そしてここまで労力を割くのも不快だが妙な小細工をされると面倒なので五分程は炎を撃ち出し続けようと考えながらグチャルーツが撃ち出した炎が眼前に迫る中、リファロはグチャルーツの胃の中に転移した。


 この転移の代償で『無敵化』が使えなくなった事にリファロは一瞬表情を硬くしたがここからは一気にグチャルーツを追い込むだけだと考えて一度息を吐き、グチャルーツの胃酸に両脚を溶かされながら竜巻を創り出した。


「なっ、一体何が?まさか、……あいつが?」


 竜同士での戦闘ですら負傷した経験がほとんど無かったグチャルーツは突然体の中を切り刻まれる様な痛みに動きを止め、その後腹からのどへと移動する痛みに悶絶しながら人間の姿へと変身した。

 竜の体は人間の攻撃魔法を完全に防ぐ鱗に覆われているが中は比較的脆く、武器や通常の魔法では無理でも強力な魔法なら致命傷を負わせる事も可能だった。


 人間への変身は竜の基本能力の一つだが竜本来の姿の時とは比較にならない程力が落ち、何より人間を見下している竜のほとんどがこの能力を使った事が無かった。


 そしてグチャルーツも人間の姿になったのは四百年以上生きて初めての事で、一瞬よぎった人間の体が自分の体を突き破るのではという不安が現実にならなかった事に安堵していたグチャルーツの見ている前で足場を失ったリファロは地上へと墜落した。


「はあ、はあ、……ふざけ、」


 るなと続けようとしたグチャルーツだったが呼吸がつらくなったと思った次の瞬間口から血を吐き出してしまい、視界が定まらなくなってきたグチャルーツはこのままでは自分まで墜落してしまうと考えて急いで地上へと向かった。

 これまでの生涯で受けた事も無い重傷に加えて人間の姿になり小さくなった翼での飛行に苦労しながらグチャルーツが地上に降りると地面に墜落して死んだはずのリファロが無傷で立っていた。


「……お前、……一体……」


 墜落して死んでいないだけではなく先程骨まで見えていたはずの両脚すら含めて全身に傷一つ無いリファロを見てグチャルーツは今日初めて恐怖を感じ、そんなグチャルーツを前にリファロは左腕につけた腕輪を触れながら口を開いた。


「これ使ってもよかったんですけどあんまり頼るのもよくないですからね」


 自分の発言を理解できずにグチャルーツが恐怖の表情を浮かべる中、リファロは多少ふらつく体を動かして仕上げをする事にした。


「さてと、じゃあ、痛い目に遭ってもらいますね?」

「……え?」


 これ以上何をするつもりだ。

 どうして自分が怯えている。

 何の道具も使わずにどうやって転移魔法を使ったのか。

 翼も持たない人間がどうして地上に墜落して死んでいないのか。


 グチャルーツは次々と疑問を抱いたがこれらに答えてくれる者はこの場にはおらず、ゆっくりとこちらに歩いてくるリファロ目掛けてグチャルーツは苦し紛れに右の拳を叩きこもうとした。


 人間の姿になり力が落ちているといって人間の姿の竜の拳は厚さ三センチの鉄板程度なら軽く貫ける威力を持ち、一見余裕だったが『奉身者』の各種能力を消費してしまっていた今のリファロがまともに受けていたらグチャルーツにいくつか手の内を晒す事になっていただろう。


 しかしグチャルーツの拳が届く距離まで近づくつもりはリファロには無く、『回答者』で竜の能力を再現したリファロが口から撃ち出した炎がグチャルーツの右眼に命中した。

「ぐぎゃーっ!」


 竜が口から撃ち出す炎は人間が使う火属性の魔法とは比較にならない威力を持つがこれは竜の巨体と魔力の出力が原因で竜の魔法行使の技術自体は大した事は無かった。

 このため熟練の冒険者の技術と竜の能力の両方を『回答者』で再現したリファロが撃ち出した炎は竜のグチャルーツが体験した事が無い威力で、まだ幼かった頃に親や親戚から??責代わりに浴びせられた炎とは比較にならない威力の炎で右眼を焼き尽くされたグチャルーツは一瞬リファロへの警戒も忘れてしまった。


 そして隙だらけだったグチャルーツをリファロが起こした横殴りの風が襲い、ほとんど抵抗できずに背中から地面に倒れたグチャルーツは自分を見下ろすリファロと視線が合った瞬間翼を動かして逃走を図った。


 どうやっているかは分からないが身一つでの転移魔法などそう何度も使えないはずだ。

 他にも竜が何十頭もいるホーエイト山脈までは追ってこないはずで、仮に追ってきても他の竜と一緒に袋叩きにすればいい。


 この期に及んでもグチャルーツはリファロがホーエイト山脈まできたら人間相手に負けたという自分の恥が他の竜に知られてしまうなどという見当外れの心配をしていたが、グチャルーツは自分が今死の淵に立っていると逃走を始めてすぐに気づかされた。


 右の翼に痛みを感じたと思った次の瞬間にはグチャルーツは飛べなくなり地面に墜落してしまい、自分の右の翼の中央部分が焼き切られたと気づくより先にグチャルーツの耳にリファロの声が届いた。


「転移魔法を使える相手から逃げられると思ってるんですか?」


 殺される。


 緊張も怒りも感じないリファロの声を聞いた瞬間、グチャルーツが最初に考えた事はこれで気づいた瞬間にはグチャルーツは命乞いを始めていた。


「頼む!見逃してくれ!もう人間には二度と手を出さない!」


 生まれて初めて命の危険に晒されたグチャルーツの頭の中には怒りも誇りも無く、ただこの場を生き延びたいと考えながらのグチャルーツの命乞いをリファロは聞き入れた。


「分かりました。……今回だけですよ?」


 こう言うとリファロは神の使いからもらった腕輪の能力で自分の消耗を全て回復した。

 不老になる以外に腕輪にはリファロの傷と消耗を完全に回復するという能力があり、先程の『転移』の代償になった『治癒』の能力を使うためにリファロは一日に一回しか使えない腕輪の能力を使用した。


 そして『治癒』で失われた右の翼が元通りになった瞬間、グチャルーツは声も出せずにリファロに視線を向け、そんなグチャルーツを前にリファロは話を終わらせに入った。


「右眼は今までの罰としてそのままにしておきます。街に帰ったらあなたには話し合って山に帰ってもらったと伝えるつもりです。他の竜への説明は正直に言うなり嘘をつくなり好きにして下さい。……ただし次に竜が人間を襲った場合は容赦しない。この事だけはちゃんと伝えておいて下さい」


 リファロは以前いた世界で無法者相手に戦った経験があり、冒険者として活動していた四年程の間に数人の命を奪っていた。


 そしてこの世界に来てからもリファロはクララス王国で構成員が七十人程いた盗賊集団を壊滅させる際に十一人の命を奪っており、今更人間を憂さ晴らしに殺してきた竜を殺す事に何のためらいも無かった。

 しかしここでグチャルーツを殺したらホーエイト山脈だけでも六十体程いる竜を敵に回す恐れがあり、時間をかければ竜を全滅させる事も可能だったがいくら相手が人間ではないとはいえ無益な殺生は避けたかった。


 また竜が『名持ち』を含む魔獣を食料として狩り結果的に人間たちの安全に寄与していた事もあり今回リファロはホーエイト山脈の竜との全面戦争を避けたのだが、今後竜には極力関わりたくなかったのでグチャルーツへの脅しは続けた。


「さっき言った僕の相談役は優秀ですからあなたがこの約束破った場合すぐに分かりますからね?二十四時間以内にこの約束が守られなかったら次はあなたの左眼を焼きに行きます。脅しだと思うなら好きにして下さい」


「分かった。伝える。でも俺の親や一族の者がお前を殺そうと街に行った場合、俺じゃ止められないぞ?」

「……ああ、確かにマトリンガさんとかシャインジータさんとかは怒りそうですね」


 百年以上人里に下りておらず人間の間で名前が知られていないはずの父親や兄の名前を目の前の人間が当然の様に知っていた事にグチャルーツは驚愕と恐怖が入り混じった感情を抱き、グチャルーツが人間そのものへの恐怖を抱き始めていた中、リファロが口を開いた。


「僕の方から事を荒立てるつもりは無いですけど止めて欲しいって言っても無駄でしょうから他の竜が僕を襲う分にはあなたに文句を言うつもりは無いです。竜の誰かが僕を狙って街に行ったら分かるようにしておいてその時はもちろんあなたには何もしません。さっきの伝言だけお願いします。ああ、でも次に戦う時は相手が誰でも殺しますからね?その事はちゃんと伝えておいて下さい」


 竜を敵に回す事を全く恐れていない様子のリファロを前にしてグチャルーツはリファロへの恐怖をさらに深め、同時に自分の親などが手を組めば目の前の相手にも勝てるのではとも考えていた。


 転移魔法を無制限に使える相手を敵に回しては勝ち目などほぼ無いが、先程人間が自分の翼を治癒する前に光った腕輪の様な妙な道具が目の前の人間の強さの源なら丸腰の時を襲えば勝てるのではとグチャルーツは考えたからだ。


 しかし目の前の人間が得体の知れない存在である事も事実なので今回自分が見聞きした事を他の竜たちに伝えて自分は他の竜たちの挑戦の結果を待てばいい。


 具体的に自分の敵討ちのために動きそうな竜の名前を思い浮かべながらのグチャルーツのこうした考えは『回答者』でリファロには筒抜けだったが、『回答者』の存在を隠しておきたかった事もありリファロはこれ以上グチャルーツに何もせずに『転移』でベインジアへと戻った。

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