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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼


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7/8

小手調べ

 マッカランから依頼を受けてから二分も経たない内にリファロは『転移』でグチャルーツが所属する竜の一族が住むホーエイト山脈から二百メートル程離れた場所にいた。

 グチャルーツは特に目的も無く単純な憂さ晴らしで村や牧場を襲撃していたので次にグチャルーツがいつホーエイト山脈を飛び出すかはグチャルーツ自身にも分からなかった。


 しかし昨日両親から説得を受けたグチャルーツが今日は外出するつもりが無い事をリファロは『回答者』で確認しており、今日はこのまま野営をする事になりそうだと考えて日が落ちる前に食事などの準備を始める事にした。


 この世界の竜に限ってもリファロは竜の強さを十分理解していたが負けるとは全く思っていなかった。

『回答者』でグチャルーツ本人を再現して何度も模擬戦を行っていたからだ。

 この世界に来た直後に少し『回答者』で調べても分かる程クララス王国のギルドは腐敗しており、マッカランは弟のゴスキルと共謀して他の冒険者の手柄の横取りや予算の横領などを行っていた。


 この件について訴えて逆に逮捕された冒険者すら数人いる程で『回答者』で用意したマッカランたちの不正の証拠を貴族十人程に手渡し、既に半月程が経っていたが水面下も含めて何の動きも見られなかった。


 ここまでクララス王国やギルドの上層部が腐敗しているとなると外部からの干渉が無ければ大きな変化は起こらないだろうとリファロは考えていた。

 正直な話、もう少し活動しやすい世界に送り込んで欲しかったというのがここ最近のリファロの本音だったが、今更どうしようもなく活動しやすい世界に送り込まれていても何かしらの不満は持っていただろうとリファロは自分に言い聞かせていた。


 そしてクララス王国やギルドへの期待を捨ててリファロが行動に出ようとしていた時に起こったのがグチャルーツによる人間の襲撃で、放置すれば数千人単位で死者が出る事態を放置はできなかったのでリファロはグチャルーツへの対策を始めた。


 リファロは最初グチャルーツを説得しようとしていたのだが数十通りの説得を試しても『回答者』はグチャルーツの説得は失敗するという答えを出し、しかたなく戦闘で決着をつけようと色々試していた時にグチャルーツ本人を創り出す事に成功した。


 グチャルーツの創造に成功した時、リファロは『回答者』に驚きより先に恐怖を抱いてしまい『回答者』は一個人に与えられていい能力ではないと神の使いの倫理観に引きすらした。

 しかし『回答者』抜きでグチャルーツに対抗できない事も事実で本来だったらグチャルーツに殺されるはずだった多くの人々を助けられてよかったと前向きに考えてリファロはグチャルーツ対策を進めた。


『回答者』で創り出されたグチャルーツは能力や言動、思考は本人と変わらなかったので自由に使役できるわけではなく、仮にグチャルーツ本人との戦闘で役立てようとしても敵が増えるだけだった。

 しかし模擬戦の敵としては申し分無く『奉身者』もこの世界の強力な魔法も全く効かない鱗を持つグチャルーツに何度か負けてようやくリファロはグチャルーツに勝つ事ができた。


 竜基準では精々中の上程度の強さらしいグチャルーツにこの世界の魔法だけでなく『奉身者』の切り札まで通用しなかった事にリファロは少なからず衝撃を受けたが、初見なら確実にグチャルーツを殺せる方法を見つけ出す事には成功した。


 そしてリファロはグチャルーツとの模擬戦の過程で更にとんでもない物まで創り出せるようになり、今の自分と同等の能力を持つ異邦人を受け入れる事になった他の世界の住人に同情しながら数日間のグチャルーツ対策を終えたのだった。


 リファロがホーエイト山脈の近くで野営を始めて二日目の昼下がり、二時間おきに『回答者』を発動していたリファロは両親や叔父の制止を振り切ったグチャルーツがホーエイト山脈を飛び出した事を知った。


 そしてグチャルーツが人口五百人程の村へと向かっている事を知ったリファロは他の竜が関わってくると面倒だったので十分程待ってからグチャルーツのもとに転移した。

 今回リファロは『転移』の代償に声を代償とする能力を消費してしまったが作戦に大きな支障は無かったので特に動じず、後二分足らずで村に到着しそうだったグチャルーツの注意を引くために風魔法を発動した。


 風属性の魔法を発動したリファロが二秒足らずで創り出した竜巻は無防備に上空を飛んでいたグチャルーツの下腹部に命中したが、グチャルーツは鱗にかすり傷すら負わず動きを止めただけで怒りも慌てもせずに地上に視線を向けた。


「……あ?どこの馬鹿だ?俺に喧嘩売るなんて……」


 適当に暴れて帰るつもりだったところに思わぬ襲撃を受けてグチャルーツは怒りではなく期待を抱き、そんなグチャルーツに向けてリファロは大声をあげた。


「僕はここです!お願いですから話を、」


 聞いてくださいと続けようとしたリファロが見上げる中、グチャルーツは地上目掛けて口から炎を撃ち出し、模擬戦で何度も行われたあいさつ代わりの火炎放射を受けてリファロは手慣れた様子で水属性の魔法を発動した。


「……馬鹿が、空も飛べない雑魚が俺と対等に話そうなんて……」


 グチャルーツは先程自分に命中した魔法が人間基準では最強に近い魔法である事を知識として知っていたが自分の動きを精々二、三秒止めるのがやっとの攻撃など投石と大差無いと考えていた。

 そのためこの攻撃に耐えられるようなら遊んでやってもいいがどうせ先程話しかけてきた馬鹿は跡形も無く燃え尽きているだろうと考えてグチャルーツは当初の予定通り村に向かおうとし、そんなグチャルーツにリファロは地上から再度竜巻を撃ち込んだ。


「ん?」


 多少強い魔法を使えるだけの人間が自分の炎に耐えられるはずが無い。

 こう考えていたグチャルーツは自分の炎に耐えたらしい人間にわずかに興味を持ち、三階建ての建物すら破壊する竜巻を腹に受けても涼しい顔をしながら雨を降らせ始めた。


 痴情を覆っていた炎が雨で消えると焼け野原の中心にリファロが立っており、服が一部燃えただけで体には火傷一つ負っていなかったリファロを見てグチャルーツは楽しそうな声をあげた。


「驚いたぞ。どんな手を使った?」


 このグチャルーツの質問にリファロは何も答えず、人間ごときが自分の質問を無視した事に怒りを覚えながらグチャルーツは左右の翼を動かした。

 竜が攻撃のために起こす突風には人間の魔法数千発分の魔力が込められており竜が翼を十回も動かせば小さな村程度は壊滅させる事ができたが、周囲の木々だけではなく地面も次々に吹き飛ばされる中、リファロはよろめく事すら無くグチャルーツの突風に耐え切った。


 そして人間どころか竜ですら体勢を崩すぐらいはするはずの突風をまともに受けてびくともしない人間を前にしてグチャルーツは今日初めて驚いた。


「……どんな小細工を……?」


 人間が転移魔法など自分たちが使えない魔法を道具を使い発動できる事をグチャルーツは知っていたが人間の転移魔法では大量の魔力が込もった物は転移できない事も知っていた。


 しかしいくら竜が人間の最新技術に疎いとはいえたかが数十年で人間が竜の攻撃を無効にできるようになるだろうか。


 仮に人間が竜の攻撃を無効にできるようになっていたら致命的とまではいかないが多少は注意が必要でこの事を後で一族の竜に知らせれば外出への干渉が多少は減るかも知れない。


 どんな手を使ったかは知らないがいくつもの制限があるという転移魔法と同じで無制限には使えないはず。


 たかが人間を相手に細かい事を考えさせられた事を不快に思いながらグチャルーツは数秒で様々な事を考え、とりあえず目障りな人間の底を探るために魔力の込もった攻撃ではなく純粋な物理攻撃を仕掛ける事にした。


 グチャルーツが選んだ攻撃手段は尾による横薙ぎで模擬戦で炎、突風、雷などの攻撃が効かなかった後、グチャルーツは踏みつけか尾による攻撃のどちらかを行ってきたのでリファロは特に驚く事無くリファロの尾をその身に受けた。


 あまりの体格差からリファロを狙ったというより周囲の地面を削り取ったと表現した方が正確な規模になったグチャルーツの尾による攻撃はリファロを正確に捉えた。

 しかし首から上に当たれば竜ですら死にかねない竜の尾による打撃を受けてもリファロは傷一つ負わなかった上に微動だにせず、リファロに命中した瞬間、尾が急に止まった事でグチャルーツの方が尾のつけ根を痛めてしまった。


 今回グチャルーツの攻撃を防いだ『奉身者』の能力は『無敵化』でリファロの動きを代償に使えるこの能力発動中、リファロは文字通り無敵になる。

 発動中は指一本動かせなくなる、発動時間は五秒から三十秒、一度切れると一分間は使えないなど『無敵化』は制限が多い能力だったので多用はできなかった。


 しかし『無敵化』の耐久力にリファロは絶対の自信を持っており事実これまで『無敵化』発動中に傷を負った事は無く、『回答者』を使っての模擬戦を通して『無敵化』でこの世界の竜の攻撃手段を全て防げる事は確認済みだった。

 そしてリファロにはグチャルーツを殺す算段もあったのだが無益な殺生はしたくなかったのでこれまでの模擬戦で毎回失敗していたグチャルーツの説得を試みた。


「すいません!一度話をさせて下さい!」


 再び『無敵化』を発動した場合口が動かせず大声を出せなくなるのでリファロは『無敵化』の効果が切れた瞬間とグチャルーツの攻撃の再開の隙を突いて何とかグチャルーツに話しかけた。

 ここでグチャルーツが会話に応じなかったら後は戦うしかなかったのでリファロは緊張しながらグチャルーツの返答を待ち、幸いグチャルーツはリファロに話しかけてきた。


「いいぞ。俺の攻撃を何度も防いだ褒美だ。聞くだけ聞いてやるから言ってみろ」


 このグチャルーツの高慢な話し方にもここ数日ですっかり慣れていたリファロは模擬戦と違い相手の反応が予想外でもやり直しはできない事に緊張しながら口を開いた。


「人間の村や街への襲撃を止めて下さい!結婚相手が嫌なら親とか本人に直接言えばいいじゃないですか!」


 性格が合わない許嫁との結婚が嫌というふざけた理由で既に数百人の人間を殺していたグチャルーツへの怒りを押し殺してリファロは大声をあげ、そんなリファロの発言を受けてグチャルーツは驚きの声をあげた。


「どうしてその事をお前が知っている?」


 多少個人差はあったが基本的に竜は人間の事を庭先で繁殖している下等生物程度にしか思っておらず、当然そんな相手に竜たちはグチャルーツたちの結婚の事など伝えていなかった。

 このため目の前の人間が自分たちの結婚について知っていた事にグチャルーツは心底驚き、人間に情報を漏らす様な物好きが一族にいただろうかと考え始めていたグチャルーツにリファロは『情報源』を伝えた。


「僕優秀な相談役がいて物知りな彼から色々教えてもらってるんです。あなたが今日ここを通るのも彼から教えてもらいました。あ、一応言っておくと相談役って人間です」


 現時点でリファロの竜への印象は最悪に近かったが自分がきっかけでいもしない情報漏れの犯人捜しで竜の間で殺し合いが始まったらさすがに寝覚めが悪かったのでリファロは架空の相談役を創り上げた。

 そしてこのリファロの発言を受けてそもそも空を飛べない人間に的確に待ち伏せをされた事も異常だと気づいたグチャルーツはリファロへの警戒心を強めながら話を続けた。

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