表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

討伐完了

 二件目の魔獣討伐を終えた翌日の早朝、リファロは三件目の魔獣討伐の現場となるミーフベン村へと来ていた。

 リファロがその気になれば討伐の仕事全てを昨日の内に終わらせる事も可能だった。


 しかしこの場合『奉身者』の能力が三つ使えない状態で三体目の魔獣と戦う事になり、仕事を早く終わらせ過ぎてマッカランたちから今以上に警戒される事を避けたいという理由もありリファロはミーフベン村での仕事を二日目に回した。


 そしてミーフベン村の村人を驚かせないように村の近くの誰もいない場所に転移してからリファロが村に入ると十数人の村人が恐怖の表情を浮かべながら忙しく走り回っていた。


「ギルドで仕事を受けてきた者です。何かあったんですか?」


 この時点でリファロは村人たちが恐怖の表情を浮かべている理由を『回答者』で知っていた。

 しかし『回答者』の存在を他者に知らせるつもりが無かった以上既に知っている事でも一度関係者に尋ねる必要があり、昨日の夕方に魔獣に襲われた重傷者七人のもとに一刻も駆けつけたいと考えていたリファロを前に村人の一人が口を開いた。


「昨日の夕方、魔獣が村の近くに現れて村の若いのが襲われたんだ……」


 突然現れたリファロを前にして警戒心を露わにしていた村人たちだがリファロがギルドから受け取った仕事の依頼書を見ると一応は安心した様子で村人たちの説明は続いた。


「何ヶ月か前からあのムカデの魔獣の食う量が増えてたんでいつか村にも来るんじゃないかと警戒はしてたんだが……」


『回答者』によるとここ半年の間にムカデの魔獣は縄張りを広げて近隣の動物を食い荒らし続け、ミーフベン村の住人たちは狩りもままならない状況だったらしかった。


「次に来られたらもう追い払うのも無理だからあんたらが来てくれて助かった。……ん?あんた一人か?」


 ミーフベン村の住人に遠出を控えさせてついには直接村を襲ってきた魔獣はギルドの主力が投入される程の強力な個体、『名持ち』ではなかったが住民が百人もいないミーフベン村の住人たちからすれば恐怖の対象だった。


 このため村中からかき集めて何とか用意した金でギルドに魔獣の討伐依頼を出した。

 それにも関わらず実際に来た冒険者が一人だけだとリファロの後ろに視線を向けた村人たちは気づき、ギルドの依頼書に書かれていたリファロの等級が五級だと気づいた村人たちは絶望の表情を深めた。

 そしてそんな村人の少しの怒りが入り混じった絶望を『回答者』で知ったリファロは村人たちの信頼を勝ち取るために魔法の実演をする事にした。


「……少し失礼しますね」


 そう言うとリファロは『回答者』でアッキム王国の将軍の技術を再現し、リファロが直径二メートルの火球を創り出した直後、村人たちは絶望ではなく驚きから言葉を失った。

 この世界の人間は全員がいずれかの属性の魔法を使えるが強大な魔法を使うためには訓練や経験が必要で、火属性の魔法を使える人間で言えば直径一メートルの火球を創れる者すら全体の三割もいなかった。


 大半が村から離れた事が無いミーフベン村の住民たちはリファロが見せた魔法のすごさは正確には理解できていなかったが、火起こしや照明替わりとしか思っていなかった火属性の魔法をここまで明確に攻撃用に使われては村人たちもリファロが信頼できる人物だと理解せずにはいられなかった。


「僕が一人で来て不安にさせちゃったかも知れませんけど僕昨日魔獣を四体倒してるので安心して下さい。……魔獣を倒しに行く前に怪我をした人の様子を見たいんですけど」


 村人たちはリファロが負傷者に会いたがる意図が分からず困惑したが特に断る理由も無かったので二人の村人がリファロを案内し、リファロが案内された建物に入ると体中に包帯を巻いた七人の重傷者が横たわっていた。


 重傷者七人の内三人が腕や脚を半分以上失っており、右眼が完全に潰れている重傷者も一人いた。

 こんな事なら昨日の内に来ていればよかったとリファロは後悔したが頭が疲れるので『回答者』を常に発動しているわけにもいかず、身の丈に合わない情報収集能力を使いこなせない自分に心の中で舌打ちしながら『奉身者』の能力の一つ、『治癒』を発動した。


『治癒』の能力を発動した直後、リファロの右手から薄緑色の光が放出され、突然目の前で自分たちの知る魔法とは明らかに異なる異能を使われてリファロを案内してきた村人たちも重傷者につき添っていた村人たちも驚きと警戒から表情を硬くして身構えた。


 そしてそんな村人たちの反応を『回答者』を使うまでも無く予想していたリファロは結果さえ見せれば村人たちの警戒は無くなるだろうと考えながら重傷者たちの傷を癒した。

 建物の中を薄緑色の光が埋め尽くした直後、治療自体は一瞬で終わったのでリファロは床に横たわっていた村人たちに話しかけた。


「……怪我は治ったと思うんですけどどうですか?」


 リファロが重傷者たちを未知の魔法で攻撃した可能性すら考えていた室内の村人たちはこのリファロの発言に驚き、リファロへの警戒は抱きながらも半信半疑といった表情で重傷を負っているはずの村人たちに視線を向けた。


 そして腕や脚を失っていたはずの村人たちの体が元通りになっている事は一目で確認できたので周囲の村人は驚きから放心状態になり、そんな村人たちの視線を受けながら傷が完全に治った村人たちは自分の身に何が起きたのかも分からないまま上体を起こしてそれぞれ包帯を外し始めた。


「ちゃんと治ったと思いますけどもし何かおかしなところがあったら僕が帰ってきてから教えて下さい」


 突然体中の痛みが引いた事に驚きながら自分たちの体の様子を確認していた元重傷者たちは話しかけられて初めてリファロの存在に気づき、どうやったかは検討もつかないが目の前の見知らぬ少年が自分たちの怪我を治したらしいと考えながら口を開いた。


「何か特別な薬でも使ってくれたのか?」

「……助けてもらって悪いがギルドに払った以上の報酬は俺たちは払えないぞ?」


 今回ミーフベン村がギルドへの依頼のために用意した金は村全体の収入四ヶ月分に相当する額で、死すら覚悟した自分たちの傷を一瞬で治すなどという聞いた事も無い薬を勝手に使われたと勘違いした一部の元重傷者は勝手だとは自覚していたがリファロに批判めいた視線を向けてきた。


 しかし『治癒』の能力は少し代償を払うだけで使えたのでリファロに追加報酬などもらうつもりは無く、多分大丈夫だとは考えていたが少しだけ焦りながらリファロは話を進めた。


「依頼されていない事を勝手にして追加で報酬もらったら僕が罰を受けるので報酬に関しては心配しないで下さい。……とりあえず魔獣を倒してきますね」


 村人たちに落ち着く時間が必要だと考えたリファロは話を一度終える事にし、戸惑う村人たちに見送られながら村を離れると『転移』の能力を発動した。


 ミーフベン村から徒歩で三十分程の場所にムカデの魔獣はおり、ムカデの魔獣の真上に転移したリファロは既に抜いていた剣を魔獣の頭に突き刺そうとした。

 ムカデの魔獣は昨日倒した魔獣たちより一回り大きく、この大きさの魔獣が相手では頭を傷つけても即死はしないかも知れないというリファロの予想は当たりリファロの剣は魔獣の頭にかすり傷をつけただけで弾かれた。


「……まじか」


 完全に不意打ちの攻撃で剣を頭目掛けて振り下ろしたにも関わらずほぼ無傷のムカデの魔獣はまるで突然小雨が降ってきたかの様な反応しか示さず、魔獣の体の予想以上の硬さに驚いたリファロはまだ乾いていない血がついていた魔獣の口の周りの空気がわずかに揺らいだ事に気づき更に驚いた。


「……これ、『名持ち』なりかけじゃん」


『名持ち』の特徴は今リファロの目の前にいる魔獣の様な巨体の他にもう一つあり、それが魔法を使ってくるという点だった。


『回答者』で確認したところ、今リファロが対峙しているムカデの魔獣は後一ヶ月足らずで『名持ち』になっていたらしく、リファロは多少は剣の腕に覚えがあったが手にしていた普通の剣で目の前の魔獣を倒す事を諦めた。


『名持ち』は強力な魔法か倒された『名持ち』の一部で作られた武器でしか傷つけられないと知っていたからで、もはや体の硬さは『名持ち』とほとんど変わらないムカデの魔獣を前にして驚きながらもリファロは何も知らずに『名持ち』と対峙して冒険者に被害が出なくてよかったと前向きに考えながら戦闘を続けた。


 一方食べ物を探していたムカデの魔獣にとっていきなり現れたリファロはただの獲物に過ぎず、小さくて食い応えが無さそうだが無いよりはましだと考えながら襲い掛かってきた魔獣にリファロは正面から火球を叩き込んだ。


 リファロが使う魔法は『回答者』の切り札で再現している物なのでこの世界の存在が使える強さの魔法しか使えず、リファロは今回この世界の人間が創り出せる最大の火球、直径六メートルの火球をムカデの魔獣に叩きこんだ。


 この火球は本来の使い手が使用直後に気絶してしまう大技だったがこの世界の人間一万人分の魔力を持っているリファロは汗一つかかずに巨大な火球を創り出し、そんなリファロが撃ち出した火球に全身を焼かれながらムカデの魔獣はリファロに襲い掛かってきた。


『名持ち』にはその魔獣が使う属性の魔法は効果が薄い事もムカデの魔獣が火属性の魔法を使えるようになりつつある事もリファロは知っていた。

 しかしこの世界を基準にするとかなり強い魔法に入る今回の火球が大きいとはいえ魔獣に通用しないとはすぐには信じられず、リファロは『回答者』の正しさの確認も兼ねて今回あえて火属性の魔法で魔獣に攻撃を仕掛けた。


 そして実験の結果、ムカデの魔獣は全身に火傷こそ負っていたが致命傷には程遠く、この結果を受けて『回答者』に一定の信頼をおいてもよさそうだと考えながらリファロは風属性の魔法を発動した。

 今回リファロが発動した風属性の魔法はミキシュというアッキム王国の女の将軍が使う魔法で自分を中心に瞬時に竜巻を創り出すという攻防一体の強力な魔法だった。


 リファロが創り出した竜巻は直径五メートル程、高さ二十メートル程という巨大な物で、何の前触れも無く現れた竜巻に全身を切り刻まれたムカデの魔獣は逃げる事すらできず三秒程で息絶えた。


「……魔法ばっかり使ってるとくせになっちゃいそうだな」


 使い手が数万人に一人しかいない強力な魔法二種類を何の苦労もせずに使ってしまった事に罪悪感を覚えながらリファロは小さくため息をついた。

『回答者』の存在を隠しておきたかったリファロはギルドにこの世界の魔法が使えないと説明したので人目がある場所でこの世界の魔法を使うわけにはいかなかった。


 一応リファロは数ヶ月経った時にこの世界の魔法を使える事をギルドに知らせるつもりでその時のために言い訳も用意していた。

 しかし今は堂々と魔法を使えないのだから意識して自粛する必要があるなと考えながらリファロはミーフベン村に帰るために右手の手のひらを切り裂いた。


 ムカデの魔獣との戦闘を終えた五分程後、リファロは辛うじて残っていた魔獣の頭の一部を手にミーフベン村に帰り、立つのもやっとといった様子のリファロが持ち帰った魔獣の頭を見た村人たちは驚きや安堵の表情を浮かべていた。


「……本当にあんた一人でこいつを倒したのか?」

「はい。うまく不意打ちできたので」


 正直な話、リファロは今すぐ横になりたい気分だったが疲労を表情には出しておらず、そんなリファロの事情を知る由も無い村人たちは素直な感謝をリファロに伝え続けた。


「よかった。あんた一人しか来なかったから村捨てる覚悟もしてたからな。……いや、ほんとよかった」

「大したもんは出せないけど今日は泊まっていってくれよ」

「さっき怪我治してもらった奴らが礼を言いたいって言ってるんで会ってやってくれ」


 口々に礼の言葉を口にする村人たちを前にしてリファロは笑みを浮かべ、もうすぐ『治癒』の代償を払わなくてはならなかったので村に泊まる事は断ったが先程怪我を治した村人たちに会うぐらいの時間は残っていたので先程の建物に向かった。


 ミーフベン村からベインジア近郊まで『転移』で一瞬で帰ってきたリファロは『回答者』で近くに誰もいない事は知っていたが周囲に視線を向けながら時間が来るのを待っていた。

『治癒』の代償はリファロの存在で一度発動すれば一時間は無制限に治癒を行えるがその後半日リファロは完全にこの世から姿を消してしまう。


 しかも『治癒』の代償で消えている間は『転移』などの代償の回復が進まないので本当に何もできず、ベインジア近郊の人目が無い場所で朦朧としながら座り込んでいたリファロはやがて消滅した。


 消滅してから半日経ちリファロが体を取り戻した時、リファロの体感では一瞬しか経っていなかったが先程まで夕日が見えていたにも関わらず空には朝日が昇り始めており、ギルドへの報告は完全に日が昇ってからにしようと考えてリファロはとりあえず徒歩で宿へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ