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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼


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ギルドへの登録

(街道を西に三時間程進むとクララス王国の首都、ベインジアに着く)


「え?」


 突然脳裏に響いた声にリファロは思わず驚きの声をあげてしまい、その後後ろを振り向いたが周囲に人の姿は見えなかった。

 今の声は一体誰のものだったのかと不思議に思ったリファロの疑問に答えは返ってこず、首をかしげながらもリファロはとりあえず『捧身者』が以前通りに使えるかの確認をする事にした。


 数秒後、リファロの周囲の地面には何かを引きずったかの様な跡が五ヶ所できており、問題無く『捧身者』を使える事を確認したリファロは先程女から与えられた報酬について考えていた。

 不老の首輪についてはとりあえず一年程は装備したままでもいいとリファロは考えており、今の世界に来た直後から『捧身者』の他に自分の中に何かを感じていたので先程の謎の声が新しい能力の結果なのだろうと考えた。


 先程謎の声が聞こえた直前、自分が居場所を知りたいと考えていた事に気づいたリファロは試しにいくつか質問を思い浮かべてみた。

 この結果、この世界に能力者はいるのか、この世界に人間以外の言葉を話す種族はいるのか、という質問には予想以上に詳しい答えが返ってきたが女からの報酬についての質問は一切返ってこなかった。


 この国の王の名前すら新しい能力は教えてくれたのでリファロは自分の新しい能力を自分の能力に関する質問以外なら何でも答えてくれる能力だと結論づけ、へたな攻撃向けの能力より便利だと喜んだ。

『捧身者』の強化部分については知り合いが一人もいない状況でこんな強化をされてもとリファロは思わず苦笑したが、女の言う通り邪魔にはならなかったのでとりあえず考えない事にした。


 新しい能力の事を抜きにしても最低限の他者との関係は持っておきたいとリファロは考え、他にあても無かったので『回答者』と名づけたばかりの能力が教えてくれたベインジアへと向かって歩き出した。

 時計を持っていなかったので正確な時間は分からなかったが数時間歩いたリファロは大きな街にたどり着き、『回答者』に尋ねたところ今リファロの目の前に広がっている街がベインジアとの事だった。


 女の気遣いかただの偶然かは分からないが首都の近くに転移させてくれて助かったなと思いながらリファロは街に入り、行き交う人々や路上の店に視線を向けた。

『回答者』によるとこの世界にも以前いた世界の様に魔獣を狩り生計を立てている人間を支援している組織はあるらしく、リファロは今日中にその組織、冒険者ギルドに顔を出してできれば今日の宿泊代程度は稼ぎたいと考えていた。


 我慢できなくはなかったが新しい世界でいきなり食事抜きと野宿は勘弁して欲しいと考えながらリファロはベインジアに入り、ある理由から後二時間程経ってからでなくては冒険者ギルドに向かえなかったのでしばらく街を見て回る事にした。


 幸いリファロは今いる国、クララス王国の言葉を理解する事ができ、実際にこの世界の人間の声を聞くまで意思疎通に不安を感じていたリファロは安堵しながら足を進めた。

 リファロがいた世界では街中を人間以外の種族も日常的に歩いていたがこの世界では人間以外の種族は迫害されているらしく、魔族と呼ばれる人間以外の種族は大陸の南に追いやられている事をリファロは先程『回答者』から得た魔族関連の情報で知っていた。


 特に親しくこそしてこなかったがリファロは元いた世界で人間以外の種族と言葉を交わした事もあったので迫害されているという魔族たちに同情し、『回答者』で知ってしまったこの世界の人間の魔族たちへの振る舞いの一部に強い嫌悪感も覚えた。


 しかし『回答者』によると大陸の南に追いやられた魔族たちが作った国、アルベール魔王国にはクララス王国の南にある国、アッキム王国が国を挙げて攻め込んでいるらしかった。


 さすがに国を相手に戦うわけにもいかなかったのでリファロは女の人助けをして欲しいという発言を思い出しながらも魔族たちを助ける事を諦め、『回答者』は目の前の問題の解決だけに使った方がいいかも知れないと考えながら街の中心に向かった。


『捧身者』の使用に払った代償も回復した夕方前、リファロが冒険者ギルドのベインジア支部に顔を出すと一階だけで百人以上の冒険者たちの姿があった。


 冒険者ギルドの本部はクララス王国には無かったが支部と言っても首都に置かれているだけに冒険者ギルドのベインジア支部は四階建ての大きな建物で、『回答者』によるとギルド職員以外でも入れる二階にも多くの冒険者がいるらしかった。


 これまで『回答者』を使い何度か感じた事だったが『回答者』からの情報は具体的な物とそうではない物の差が激しく、実際に行き数えればすぐに知る事ができる二階の冒険者の数を多数としか知らせてこなかった事からリファロは『回答者』にも何らかの制限があるのだろうと考えていた。


『回答者』によると飛び入りで受けられる仕事も冒険者ギルドは扱っているらしかったのでリファロはとりあえず受付に向かった。


「いらっしゃいませ。冒険者の方ですか?」

「はい。まずは登録からお願いします」


 冒険者ギルドが用意した水晶に魔力を通す事で冒険者志望者は登録票を作る事ができ、この登録票が紛失しても登録した本人が任意で手元に呼び戻せる事も本人が生きている限り破壊されてもすぐに復元される事もリファロは『回答者』で知っていた。


 リファロが以前いた世界にこれ程便利な物は無かったのでリファロは冒険者ギルドの登録票の便利さに素直に驚きながら受付の女との会話を続け、女は手慣れた様子でリファロを奥の部屋へと案内した。

 この世界の人間は生まれつき火、水、風、土のいずれかの属性の魔法を使う事ができ、この属性により登録票の色も変わるとリファロは『回答者』で知っていた。


 そして魔力を流し過ぎると登録票作成用の水晶が壊れる事もリファロは知っていたので調整しながら水晶に魔力を流し始め、水晶が正常に起動した事を確認してから魔力の注入を止めた。

 この世界の人間なら気を配る必要も無い魔力の調整に苦労しながらリファロは三秒とかけずに登録票を完成させ、完成したばかりの登録票をリファロが受付に持っていくと受付の女は驚きの表情を浮かべた。


「あれ?色が……」


 本来冒険者の登録票には生まれ持った魔法の属性に応じて色がつくのだがこの世界の魔法を使えないリファロの登録票は白に近い色をしており、水晶の故障すら疑われる状況に困惑していた受付の女を前にリファロは口を開いた。


「それで大丈夫です。僕の使える魔法って少し変わってるので」

「え?」


 このリファロの発言を受けて受付の女だけでなく周囲の冒険者たち数人も表情を変え、そんな周囲の反応を気にせずにリファロは話を続けた。


「僕、ギリアス山脈の更に向こうから来たんですけどこの辺りの人とは使える魔法が少し違うんです。だから登録票がそんな色になっちゃったんだと思うんですけど別にこの辺り出身じゃなくてもギルドの登録には問題無いですよね?」

「……それはそうですけど、……少々お待ち下さい」


 ギリアス山脈はクララス王国の西の国を一つ挟んだ場所にある山脈で、ギリアス山脈の向こうについての知識をクララス王国の国民が噂程度にしか持っていない事は『回答者』で確認済みだった。

 このためリファロの説明を受けて受付の女は戸惑った様子で、予想通りの反応を見せた女が落ち着くのをリファロは待つ事にした。


 登録票を調べられる事でギルドに最近の活動内容が知られる可能性があるという欠点はあったが、それでも冒険者ギルドで作られた登録票は身分証明書として一定の役に立つのでそれぞれの理由から自分の生まれた土地以外で暮らす際に登録票を作りたがる人間は珍しくなかった。


 しかしおそらくクララス王国に住む人間の誰も訪れた事が無いはずのはるか遠方出身だという人間、しかもこの辺りの人間とは違う魔法を使えると主張している人間の登録を受け入れるかは受付が判断できる事ではなかった。


 このため受付の女はリファロに断り支部長がいる四階へと向かい、その後すぐにリファロは二階の一室へと招かれた。

 リファロが部屋に入ると室内には二人の男がおり、男の一人は腰に剣を帯びた状態でいすに座った男の斜め後ろに立ったまま待機していた。


 二人共ギルドの幹部だろうかとリファロが考えた瞬間、『回答者』が発動し、いすに座っていた線の細い中年が支部長のマッカランで後ろの男がマッカランの弟、ゴスキルだとリファロは知った。

 二人が名乗る前から二人の魔法の属性まで知ってしまったリファロは『回答者』を制御できるようにならないとさすがにまずいなと反省したが、その直後に二人に関するある事実も知ってしまい気を引き締めながらマッカランとゴスキルに視線を向けた。


「初めまして。ここの支部長のマッカランと申します。後ろは弟のゴスキルです」


 マッカランは口に出さなかったがゴスキルはいざという時のマッカランの護衛で、別にマッカランを襲うつもりの無かったリファロはとりあえずゴスキルの事は気にせずに話を進めた。


「わざわざすみません。早速ですけど僕の登録はどうなるんでしょうか?」


 マッカランの答えをリファロは『回答者』で既に知っていたが『回答者』があるからといって他者との会話を放棄するわけにもいかず、そんなリファロの事情を知る由も無いマッカランはリファロに質問をしてきた。


「その質問に答える前に私から質問をさせて下さい。部下から簡単な話は聞きましたがあなたの使える魔法というのはどの様なものなのでしょうか?」


 リファロがその気になれば『回答者』の切り札を使いこの世界の普通の人間と同じ登録票を作る事は可能だった。


 しかし『回答者』は抜きにしても自分の生来の能力を隠してはできる人助けの幅が限られてしまうと考えてリファロは『捧身者』についてはある程度周囲に知らせる事を決め、リファロは『奉身者』についての説明を始めた。


 能力の弱点については隠しながらリファロは以前いた世界でも恐れられていた能力を除く『奉身者』の能力四つについてマッカランとゴスキルに説明し、リファロの説明後しばらく考え込んでからマッカランは口を開いた。


「……他の魔法もすごいですが一人で転移魔法が使えるというのは言葉だけでは信じられませんね」


 この世界には転移魔法が存在したが訓練された技術者が最低でも五十人は必要で更に出発地点と転移先両方に巨大な装置も必要だった。


 このため一人で道具も使わずに転移できるというリファロの説明にマッカランは半信半疑で後ろのゴスキルなどは口こそ出さなかったが嘲笑すら浮かべていたが、そんなマッカランたちの反応は予想済みだったリファロは二人に断ってから『奉身者』の能力の一つ、『転移を』実演する事にした。


 一階に転移したリファロがその後すぐにマッカランたちの前に転移すると二人は驚きのあまり言葉を失い、リファロが目の前で消えた瞬間を目撃したギルドの職員が慌てた様子で部屋に駆けつけた瞬間マッカランたちはようやく我に返った。


「……実際に見た以上信じるしかありませんがあなたのいた国ではみんなその様な能力を使えるのですか?」

「数えたわけじゃないですけど多分何百人に一人ぐらいの割合だったと思います。僕のいた国では魔法を使えない人の方が多かったです」


 厳密に言うと『捧身者』は魔法ではなかったがこの辺りを正直に説明しても話がややこしくなるだけだとリファロは考え、そんなリファロにマッカランは質問を続けた。


「あなたの様な強い方が私たちのギルドで働いてくれるというのなら頼もしい限りですが、あなたが元いた場所を離れた理由はお聞かせ下さい」


 リファロは『回答者』でマッカランが自分に恐怖と嫌悪感が入り混じった感情を抱いている事を知っていたが、得体の知れない男が故郷を離れた理由を知りたがるのは当然だと思ったのでこの世界に来た経緯をほぼそのままマッカランたちに伝えた。


「……それは、……災難でしたね」

「まあ、……はい」


 神の使いや異世界などといったまず信じてもらえないであろう要素を除き、殺されそうになったが何とか逃げ延びたと作り変えたリファロの説明を受けてマッカランはとりあえず同情の言葉を口にし、その後ゴスキルが話しかけてきた。


「お前の転移魔法の制限を教えろ」


 敵意を隠そうともしないゴスキルの質問を受けてリファロはすぐに口を開いた。


「さっきも言いましたけど僕の能力は弱点が多い能力で実際それで殺されかけたので詳しくは教えられません。……一日十回は使えないとだけ言っておきます」


 リファロの『転移』は自分の能力を代償にして発動する能力で『転移』以外の四つの能力の中から無作為に代償に選ばれた能力は八時間使えなくなってしまう。

 このため今のリファロは『奉身者』の五つの能力の内二つが使えなかったので心中穏やかではなかったが表情には出さず、そんなリファロに値踏みする様な視線を数秒向けてからマッカランはリファロの登録を正式に認めた。


 マッカランから正式に許可を受けたリファロが登録票を手にして初仕事に向かい二時間程経った頃、マッカランとゴスキルはまだギルドの支部長室に残っていた。


「どうするんだ、兄貴?あいつ、このまま放っておいたら面倒な事になると思うぜ?」


 冒険者はギルドの仕事の積み重ねと年二回の審査により昇級する事ができ、特級から五級までいる冒険者の中でゴスキルは数少ない一級の冒険者だった。

 このためゴスキルは支部長であるマッカランと並びこれまで称賛を受けていたので少し話を聞いただけで規格外と分かるリファロの存在を疎ましく思っており、これはマッカランも同じだった。


「さっきの男が目障りなのは事実だがしばらくは我慢しろ。さすがに今すぐ始末はできない」


 今日多くの冒険者やギルド職員の前で転移を行った事でリファロの存在は既にベインジアでは噂になっており、この状況でリファロを排除しようとしても自分たちの評判が下がるだけだとマッカランは考えていた。

 このためマッカランはしばらくはリファロに手は出さないつもりだったが機会さえあればすぐに片付けようと考えながら手にしていた杯を傾けた。

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