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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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告白

 リファロがエプランテとの試合を終えてから半日程経った夜、アッキム王国の首都、ダーウォールにある王城の敷地内には千人程の魔族が集められていた。


「すみません。遅くなっちゃって」


 魔族の売買を担当していた大臣、ディンガイを始めとするアッキム王国の人間十数人にリファロは出迎えられ、一瞬迷ったがアッキム王国と無関係な事情で予定を変えてしまったので一応謝罪の言葉を口にした。


 事前にリファロはアッキム王国側に竜と戦うので訪問が夜になると伝えており、このリファロの発言にディンガイたちは半信半疑だったが心のどこかでリファロが竜に殺される事を望んでいた。

 しかし実際はリファロは約束の時間通りに現れたので余計な期待をさせられた事を不快に思いながらディンガイたちはリファロを出迎えた。


「こちらが現時点で買い戻せた魔族たちです」

「はい。ありがとうございます」


 リファロに精神的に完全に屈服していたディンガイたちが魔族の買い戻しに全力を尽くしていた事は事実だったのでリファロは形式的に礼の言葉を口にしたが、『回答者』の能力の一部を伝えるついでに追加の指示を出す事も忘れなかった。


「これが買った魔族の死体を隠してる人たちの一覧です。……まだ伝わってないみたいですけど、僕死んだ人を蘇らせる事ができるので死体もきちんと引き取って下さい」


 ディンガイたちに用意させた紙にリファロは魔族の死体を隠している人間たち数十人の名前を書き、三千人以上いる魔族の買い手の中からリファロが的確に数十人を名指しした事に加え、死者蘇生という耳を疑う離れ業をリファロが行えると聞き驚いた様子のディンガイたちはリファロの指示にすぐにはうなずけなかった。


 そしてそんなディンガイたちを前にしてリファロは待たされている魔族たちにもう少し待って欲しいと謝罪してから苦笑いを浮かべた。


「字が汚いのは許して下さい。まだこっちの字に慣れてなくて」


 リファロは『回答者』のおかげで今活動している地域の言葉を理解できるが字を書くとなると自力で努力するしかなく、今回も『回答者』無しではどこまでが一つの単語かすら理解できないという理解の下数十人の名前を書いた。


 このためリファロが今回書いた文字は確かに汚かったのだがこれを指摘できる勇気を持つ人間はアッキム王国側にはおらず、いつまでも自虐を続けるわけにもいかなかったのでリファロは話を進めた。


「僕が死んだ人を蘇らせられるっていうのは納得してもらうとして、どうして僕がその人たちが魔族の死体を隠している事を知っているか説明しますね。僕の事、ちゃんと怖がってもらわないと今後お互いに苦労しますから」


 この化け物はまだ手の内を隠していたのかとディンガイたちは恐怖を深め、そんなディンガイたちにリファロは『回答者』の説明を始めた。


「僕相手の考えてる事が分かるんです」

「……どういう意味ですか?」


 突然の自分の告白に戸惑うディンガイたちを前にリファロは『回答者』の説明を続けた。


「そのままの意味です。僕は目の前の相手はもちろん離れた場所にいる相手の考えている事を好きな時に知る事ができます。だからあなたが実際の仕事は部下に任せて朝から城でぼうっとしていた事も、昨日ナトーリュさんと揉めた事も知っています」


 ナトーリュというのは魔族の買い戻しに強く反対した貴族の一人で、昨日王城を訪れたナトーリュを始めとする貴族たち十人以上のここ数日の言動を正確に言い当てられてディンガイはもちろんその後ろにいた部下たちも恐怖に言葉を失っていた。


「ほんとは僕の能力についてはあんまりばらしたくなかったんですけど兵士のみなさんが僕の脅し全然聞いてくれないんでばらす事にしました。これまで色々ばれてたのも僕がみなさんの考えてる事を知れるからって考えれば納得できますよね?」


「……その事を魔族を買い戻す際相手に伝えても構いませんか?」

「もちろんです。むしろどんどん広めて欲しいぐらいですから」


 恐怖の表情を浮かべているディンガイたちを見て今回の狙いはうまくいきそうだなと考えながらリファロはとりあえず話を終わらせに入った。


「まあ、そういうわけなんで兵士のみなさんから聞き取りをして僕が一日に使った転移魔法の数を数えてるとか、今の内に融和派に諜報員を送り込もうとしてるとか全部ばれてますから止めろとは言いませんけど全部無駄ですよ」

「あ、いや、それは……」


 いくら何でもそこまで知られているとは思っていなかったディンガイはリファロの指摘を受けて動揺し、そんなディンガイにリファロは安心するように伝えた。


「別に敵の事を調べるなんて普通の事ですしこれぐらいで怒ったりしません。魔族の解放さえ全力でやってくれれば文句は言わないから安心して下さい。あ、でも僕が相手の考えてる事をいつでも知れるって事をあさってまでにはブラザークさんとか他の大臣、後アルベールにいる兵士のみなさんにも教えておいて下さいね。……それでもまた僕と戦いたいって言うならその時はまた相手をしますから」


 全く表情も声色も変えずに行われたリファロのこの発言を受けてディンガイたちは恐怖から一言も返事を返せず、そんなディンガイたちの反応に満足したリファロは強化された『転移』で魔族たちをアルベール魔王国に帰すと自分も『転移』でこの場を後にした。


 魔族と共にアルベール魔王国に転移した直後、リファロはルドディスたちに出迎えられ、自分を出迎えた魔族の中にディルシュナがいる事に気づきすぐに近づいた。


「お疲れ様です」

「リファロ様こそお疲れ様です。……さらわれていた民たちの解放は無事に済んだようですけど竜の方は大丈夫でしたか?」


 解放された魔族たちを迎えに行く直前にリファロから竜の相手をしてくると言われてディルシュナたちは驚き、『治癒』の代償だと分かってはいたがリファロと連絡が取れない半日間を落ち着かないまま過ごしていた。


 このためディルシュナはリファロを見かけるなり近づいてきたのだが、明日アルベール魔王国の首脳陣たちにも『回答者』の説明をするつもりのリファロの心境は複雑だった。


「あのもしお疲れでなければお茶の用意をさせているのですが」

「……ああ、すいません。明日お妃様たちと大事な話をしないといけなくて。今は詳しくは話せないですけど今はちょっと……」

「はい。分かりました。……ではまた明日」


 ディルシュナはリファロのあいまいな説明に納得したわけではなかったが今はこれ以上話したくないというリファロの気持ちを察して王城へと戻り、そんなディルシュナを見送ってからリファロはルドディスのもとに向かった。


「どうしました?リファロ殿」


 今まで会話をしていた部下に断った後視線を自分に向けてきたルドディスにリファロは明日ミルヒガナを含むアルベール魔王国首脳陣に会いたい旨を伝えた。


「明日お妃様たちやルドディスさんたちと話す時間を作ってもらえませんか?僕の能力について話したい事があって、……これからの僕たちのつき合い方に関わる事なのでできれば直接説明したいんですけど」

「……お妃様に確認しないといけませんがリファロ殿の頼みなら大丈夫だと思います」


 こう言って朗らかにルドディスは笑ったが、『回答者』の存在を知った後ではこうはいかないだろうなとリファロはため息をつきたくなった。

『回答者』で明日のミルヒガナたちの反応を知ったリファロは思ったより面倒な事にはならない事に多少安堵したが、ミルヒガナたちはともかく国民は一枚岩というわけにはいかないだろうと気落ちしながらルドディスと別れた。


 リファロとエプランテが戦った前日の昼下がり、クララス王国の首都、ベインジアで冒険者ギルドの支部長を務めるマッカランはエイメルグ支部からの報告を受けて支部長室で一人絶望の表情を浮かべていた。


 クララス王国内にある転移装置の数はアッキム王国より少なく、冒険者ギルドが所持している転移装置の数は四組だけでこのうちの一組ははるか遠方に住む天使たちとの連絡用だった。

 天使たちとの連絡用の転移装置は月に一回の報告書提出以外にはここ数十年使われておらず、他の三組はベインジアから離れた国境沿いの三つの街に置かれておりこのうちの一つがエイメルグだった。


 このためマッカランはベインジアから遠く離れたエイメルグに竜が現れた事も、その竜がリファロを探している事もその日の内に知る事ができ、追放から十日程経ってからリファロの動向を聞かされて舌打ちをしたくなった。


 マッカランはリファロを追放してから数日間はリファロの襲撃を警戒し、他国のギルド幹部とも連絡を密にしていた。

 軍の力が強く冒険者ギルドの支部が無いアッキム王国からは情報を得る事ができなかったが他の周辺の国からはリファロの目撃情報は入らず、あの偽善者が魔族狩りに参加する可能性は低いだろうとマッカランは考えていた。


 そして一番恐れていたリファロの天使たちへの接触は天使たちから何の反応も無かったので行われていないとマッカランは早々に判断し、リファロは魔族に協力してアッキム王国に殺されたか転移魔法で遠くに逃げたのだろうと考えて安心していた。


 そんな時に竜がリファロと接触しようとしていると聞かされたのだからマッカランの動揺は大きく、リファロの性格を知らなければ竜に取り入ったリファロが竜と共にクララス王国に攻め入る可能性まで考えていただろう。


 しかしあの偽善者と好戦的な竜が手を組めるはずが無いとマッカランは自分に言い聞かせる様に結論づけ、交渉決裂の末、リファロが竜に殺される事を心の底から祈った。


 エイメルグを含む竜が住む山脈に近い二つの街のギルド支部には山脈の監視を怠らず異変があればすぐに知らせるようにマッカランは指示を出しており、今の魔法技術では竜を転移させる事はできないので仮にリファロと竜が手を組み侵攻してきても対策を取る時間は十分にあると考えていた。


 天使は専用装備を使えば数十人で竜一体を討伐できるとマッカランは聞いていたのでいざとなれば天使たちに頼ればいいと考えており、自分ですら会ったことが無い上にギルド幹部すら訪問が禁止されている天使にリファロが追放時の顛末を知らせる可能性など全く恐れていなかった。


 竜でも天使でもアッキム王国でも、この際魔族でもいいので誰か早くあの偽善者を殺してくれとエイメルグからの報告を受けてからマッカランは何度も考え、そんなマッカランに転移装置を通して天使側から連絡が入ったのはリファロとエプランテの戦闘の翌日の事だった。

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