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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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瞬殺

 エプランテがエイメルグに現れた日の翌日の早朝、リファロは冒険者ギルドのエイメルグ支部の前でため息をついていた。


 竜への監視をおろそかにしたせいで今回冒険者の一人に無駄な怪我をさせてしまったからで、エプランテの相手をした後で冒険者に『治癒』を使うつもりなのでアッキム王国で解放された魔族たちの引き取りが夜になった事もリファロを憂鬱にさせていた。


 しかし自分と竜たちの問題に巻き込まれた冒険者の治癒を明日に回すわけにもいかないとリファロは考え、とりあえずエプランテとかいう竜の相手を済ませようと考えながらギルドの支部へと入っていった。


 リファロが支部に入ると中には冒険者もギルドの職員もおらず、支部の周辺に街からの避難指示が出ている事を既に知っていたリファロは無人の支部に驚く事無くエプランテのいる部屋へと向かった。

 リファロが扉を叩いてから部屋に入るとエプランテは横になったままリファロに視線を向けてきた。


「待ったかいがあったな。……どうして昨日すぐに来なかった?」

「すみません。僕もひまじゃないんであなたたちにばかり構ってるわけにもいかないんです」


 一日待たされて少しばかり不機嫌な様子のエプランテだったが不機嫌なのは今回の『転移』で『治癒』を消費させられたリファロも同じで、思わぬ形で腕輪による回復を行う事になったリファロは不満を抱えたまま話を続けた。


「とりあえず場所を変えませんか?ここに僕たちがいるとギルドの人たちが迷惑するので」

「いいだろう」


 リファロ以外の人間に興味は無かったのでエプランテはこのリファロの提案に素直に従い、リファロが『創造者』でハーピィの翼を生やした事に驚きながら人気の無い場所へと向かった。


「さてと、ウィルバフさんに言われて僕の事調べに来たんでしたね。最初に言っておきますけど僕はあなたたち竜の争いに口を挟むつもりはありません。リンダホン山脈の竜の敵にも味方にもならないので人間に危害を加えない限りは好きにして下さい」


 まだ何も説明していないにも関わらず今日の訪問の目的を言い当てられてエプランテは驚きの表情を浮かべ、エプランテが自分への敵意を持っていない事だけが救いだなと考えながらリファロは『回答者』の能力の一部をエプランテに伝えた。


「僕は相手が考えてる事を知る事ができます。この能力であなたが昨日ここに来てる事を知りました」


 今回の件を受けてリファロは『回答者』の能力の一部を公表する事を決め、そんなリファロから想定外の告白を受けて動揺しながらエプランテは口を開いた。


「……どうして昨日の内に来なかった?」


 自分が考えている事が知られていると聞かされてエプランテは動揺したが同時にリファロが昨日現れなかった理由が気になり、エプランテが自分の発言に半信半疑な事を『回答者』で把握しながらリファロはエプランテの質問に答えた。


「その気になれば僕はどれだけ離れていても相手の考えてる事が分かります。でもこの世界にいる人全員の考えてる事を同時に知るのは無理なのでどうしても漏れは出ます」


「……じゃあ、私が今何を考えているか当ててみろ」

「血の繋がってない家族でぎくしゃくするのって人も竜も同じなんですね」


 エプランテの父親、ウィルバフは二人の妻の間に三人の子どもがおり、末っ子のエプランテは兄と姉とは母親が違った。

 エプランテと兄たちの仲は悪くなかったのだが兄たちの母親、カーズゼルナはエプランテに昔から冷たい態度を取り続け、エプランテもカーズゼルナの事が嫌いだった。


 そして今回エプランテは今日の訪問とは全く関係無い自分たちの不和について考えていたのだがリファロに的確に言い当てられてしまい、自分に興味深そうな表情を向けていたエプランテが警戒心を露わにしてきた事を受けてリファロは慌てて口を開いた。


「安心して下さい。……これに関しては信じてもらうしかないですけどさっきみたいな事を言われない限りは個人的な事は調べないようにしてますから」

「……そうか。私の考えている事が分かっていると言うなら話は早い。勝負してもらうぞ」


 今日会ったばかりのリファロに自分の事がどこまで知られているか分からずエプランテは警戒心と同時にわずかながらの羞恥心を抱き、本当に目の前の人間が魔法でこちらの考えを知る事ができるなら戦って魔法を使う余裕など無くしてやろうと考えながら今回の目的、リファロとの勝負を申し出た。


 リファロはエプランテが人間を積極的に襲うつもりも自分への敵意も持っていない事を『回答者』で把握していたので今回エプランテを殺すつもりは無かった。

 しかし人間の街を訪れる度に負傷者を出されても困るのでリファロはエプランテに忠告をした。


「昨日冒険者の人に怪我をさせた事をどうこう言うつもりはありません。あなたなりに気を遣った事は分かってますから」


 一度言えば改める相手まで殺す必要は無いだろうと考えながらリファロはこの発言をしたのだが、リファロの発言を上から目線だと感じたエプランテは不快そうな表情を浮かべた。


「……別にお前に許してもらう必要は無い」

「次は殺すって意味です。……あなたも後脚一本無くしてみますか?」


 異種族間のすれ違いが原因とはいえ人一人の脚を奪っておいて全く罪悪感を覚えていない様子のエプランテを前にしてリファロは視線を鋭くし、懐柔・支配どちらをするにしても相手を怒らせるのはまずいと考えてエプランテは渋々口を開いた。


「……グチャルーツの様に人間をいたぶるつもりは無いが攻撃されたら反撃はするぞ?」

「それだけ実力差があって穏便に済ませるつもりが無いなら最初から人間の街に来ない方がいいとは思いますけど、僕も人を殺すななんて偉そうに言える人間じゃないんで一言相手に忠告してくれれば何も言いません」


「……一応言っておく。私に負けたら私たちに従ってもらうぞ」

「はい。……後で文句言われても困るので条件はちゃんと決めておきましょう」


 こう言うとリファロは左腕につけていた腕輪を外してエプランテに投げ渡した。


「何のつもりだ?」

「ウィルバフさんからできればその腕輪奪ってくるようにって言われてるんですよね?」

「……」


 リンダホン山脈で行われた自分たちの会話の内容までリファロに知られていた事にエプランテは絶句し、昨日の自分の行動に気づいていなかったというリファロの発言は?なのでは恐怖すら感じ始めていた。


 そしてリファロは『回答者』を使うまでも無くエプランテが自分を恐れ始めている事を把握しており、特にエプランテには恨みも無かったので早く試合を終わらせようと考えながら話を続けた。


「その腕輪は結構すごい道具ですけど僕にしか使えません。で、何度も腕試しに来られても困るのでその腕輪無しであなたに勝ちます」

「……さっき言っていた条件とやらを聞かせろ」


 自分が魔力を流しても何も起こらない腕輪への興味を失いながらエプランテはリファロに怒りの表情を向け、そんなエプランテにリファロはこれから行う試合の内容を伝えた。


「一時間以内に僕に攻撃を当てられたらあなたの勝ち。できなかったら僕の勝ち。これでどうですか?もちろんあなたは僕を殺すなり大怪我させるなり好きにして下さい」

「……転移魔法で逃げるつもりか?」


 逃げ回る事が前提としか思えないリファロの条件を聞きエプランテは眉をひそめたが、リファロに逃げるつもりなど全く無かった。

「じゃあ、試合中にここから一歩でも動いた場合も僕の負けでいいです。僕にあなたを殺すつもりは全く無いので安心して下さい。……そのまま戦うんですか?」

「……お前の相手ぐらいこの姿で十分だ。私もお前を殺さずに勝負を終わらせてやる」


 自分を侮辱しているとしか思えない勝敗条件を告げられてエプランテは怒りを隠そうともせず、結局竜の姿に戻らなかったエプランテに視線を向けながらリファロは試合開始を告げた。

 リファロの試合開始の宣言と同時にエプランテは口から炎を撃ち出そうとし、宣言通りリファロを殺さないようにリファロの両脚に狙いを定めていた。


 そしてエプランテがリファロ目掛けて炎を撃ち出すより早くリファロは強化された『転移』を発動し、炎を撃ち出し終えた時にはエプランテは既にリンダホン山脈まで転移させられていた。

 視界を埋め尽くす程の炎が消えた瞬間、周囲の景色が変わりリファロも消えていた事を受けてエプランテは混乱し、見慣れた景色にまさかと思いながら振り返った先にリンダホン山脈があったので数秒間放心状態になってしまった。


 自分以外も転移させられるなんて聞いていないとあまりに理不尽な負け方にエプランテは様々な感情に襲われ、そんなエプランテの耳にいつの間にかエプランテの足下にあった魔導通信機越しのリファロの声が届いた。


「じゃあ、僕の勝ちって事で」

「ふざけるな!」


 こんな負け方を認めてたまるかとエプランテは初めて見る魔導通信機に驚きながらリファロに怒りをぶつけたが、リファロは特に慌てた様子も見せずにエプランテに話しかけた。


「一時間待ってもいいですけどここまで来れませんよね?」

「そういう事を言ってるんじゃない!これで勝ったつもりか!」

「はい」


 今回の決着の仕方にエプランテが不満を持つ事をリファロは当然予想しており、しばらくエプランテの文句を聞いた後である提案をした。


「……どっちかが大怪我しないと納得できないって言うならブノワームさんを殺した炎をあなたの両脚の近くに転移しますけどどうしますか?」


 このリファロの発言を受けてエプランテは思わず跳び上がってしまい、人間の姿のまま一度の跳躍で十メートル程離れた場所に移動したエプランテは警戒した表情で周囲に視線を向けた。

 そして跳躍して五秒程経った頃、エプランテが落ち着いた頃合いを見計らいリファロは再び魔導通信機越しにエプランテに話しかけ、距離があり聞き取りづらかったリファロの声を聞くためにエプランテは魔導通信機に近づいた。


「どうします?まだ続けますか?」

「……お前は今どこにいる?クララスという国にはいないんだろう?」


「……アルベール魔王国にいます。ギルドの人たちに迷惑かけるわけにはいかないから教えましたけど来ないで下さいね?次に今回みたいな事されたら僕もそれなりの対応させてもらいますから」

「……人間を襲うなはともかく私がどこに行くかまで指図を受ける覚えは無い!」


 現時点でエプランテが良くも悪くも自分以外の人間に何の興味も無い事をリファロは『回答者』で把握しており、エプランテの言う事ももっともだったのですぐに引き下がった。


「そうですね。また僕と戦いたいって言うなら好きにして下さい。……僕以外を襲わないって言うなら次も今回と同じ事しますけど、次はそこじゃなくてリンダホン山脈からかなり離れた場所に転移させるつもりなのでそのつもりでいて下さい。ああ、後今僕たちが使ってる道具は別に僕が創った物じゃなくてアッキムっていう国の人たちが作った物です」


 この説明はエプランテがあまりに人間を侮っているとリファロが考えた結果行われたもので、取るに足らないと考えていた人間がこれ程便利な道具を開発したと聞きエプランテは実際驚いた。

 しかし同時に自分が目の前の道具を知らなかった事がリファロに把握されている事に気づきエプランテは恐怖を覚え、そんなエプランテの心情を把握しながらリファロは腕輪を手元に転移させた。


「これで腕輪を奪っても無事だって分かってもらえましたよね?じゃあ、そろそろ終わりにします。……最後に何か言いたい事があればどうぞ」

「……私の考えが分かるんだろう?」


「……まあ、あなたがお父さんに僕の事報告した後アルベールに来ようとしてる事も僕以外には手を出さないから自分が何をしても他の竜には手を出さないで欲しいってあなたが考えてる事も知ってはいますけど、礼儀としてちゃんと聞いとこうかなと思って」

「……分かっているなら聞くな」


 このエプランテの発言の直後、エプランテにこれ以上会話する意思が無い事を『回答者』で把握したリファロは魔導通信機を消し、この数分間に何度驚いたか分からないエプランテは怒りもありしばらくの間声を発する事すらできなかった。


 そして一分程放心状態だったエプランテは近くを通りがかった竜に話しかけられて我に返り、リファロの想像以上の能力に加えて遠く離れた場所と一瞬で連絡を取れる道具をただの人間が開発済みだという事実を父親に伝えようと考えながら急ぎ山の中へと向かった。

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