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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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24/28

違反

 パウォークたちがアッキム王国軍の全部隊への指示を終えた直後、リファロは突然自国の敗北を告げられて騒然としていた兵士たちが落ち着くのを一時間程待ってからリキュアナ近郊で行動を開始した。


 リキュアナを制圧したアッキム王国軍の兵士たちは制圧の際に殺した魔族数万人の死体をリキュアナから五キロ程離れた場所に廃棄し、アルベール魔王国の国土がどうなろうと構わなかった兵士たちは魔族の死体を野晒しで放置していた。


 魔族の死体の廃棄場所にリファロはディルシュナとラルジュ、他ハーピィ百人を含む魔族百数十人と転移し、覚悟していたので吐きこそしなかったが腐敗が進んでいた死体の山を前にしてリファロたちは一様に眉をひそめた。


「とりあえず終わらせますね」


 リファロは今回『治癒』が強化された能力、『蘇生』を使い殺された魔族たちを蘇生させるためにこの場を訪れ、一度に蘇生すると死体の山の下にいる魔族が潰れるので上の魔族から順番に蘇生していった。


 ラルジュの指揮の下、ハーピィたちは蘇ったばかりで現状を把握できていなかった魔族たちを次々に移動させ、二時間程でリファロたちは魔族たちの蘇生と移動を終わらせたが死体の損傷が激しかった魔族は『蘇生』で蘇らせる事ができなかった。


 今回『蘇生』できなかった魔族は犠牲者の三割程で、戦闘をどう有利に進めるか考えていたところに『蘇生』という神の領域に足を踏み入れる能力を手に入れたのだから大勢の犠牲者を助ける事ができたと受け止めるべきだとリファロも理屈では分かっていた。


 しかしここ最近全能感を覚えていたところに自分の手が届かなかった犠牲者が出た事がリファロには不快で、この事を自覚したリファロはさすがにうぬぼれが過ぎるだろうと自己嫌悪に陥りながら魔族の死体を焼き払った。


 アッキム王国軍の国旗が至る所に掲げられていたリキュアナに魔族数万人と共にリファロが近づくと城壁の上から兵士が慌てた様子で声をかけてきた。


「それ以上近づくな!」

「はい。今すぐ入るつもりはありません。あなたたちにも準備があるでしょうから」


 リキュアナには三千人程の兵士がおり、この数の兵士の撤退の準備を連絡を受けて一時間で済ませろと言うつもりはリファロにも無かった。


「でもあなたたちの国はもう負けたんですからこの国で奪った物は全部置いて夕方の五時までにはこの街を出ていって下さいね」


 今は午後一時を少し過ぎた頃でこの時点でリキュアナの兵士たちにパウォークから撤退の指示が出ていた事をリファロは知っていたが、急かして揉めるのも面倒だったので数時間待つ事にした。


 そして午後四時まで二十分を切った頃、兵士たちのリキュアナからの撤退が終わったがリファロは兵士の一部が自分の指示に従わなかった事を知り、ラルジュが中から門を開けると魔族たちへの指示をリザードマン、トリュゼッハに任せる事にした。


 トリュゼッハはアルベール魔王国の治安維持を司る機関の長でリファロがアルベール魔王国と最初の交渉をした時に反感を示したリザードマンだったが、今ではあの時の態度を謝りルドディスと共にリファロの良き相談役となっていた。


 今回もディルシュナは王族代表としてこの場にいたが正直な話実務ではあまり役に立たず、トリュゼッハならこの場を任せても大丈夫だろうと考えながらリファロは新たにリファロ専属となったハーピィ、マナリュースと共にリキュアナから離れようとしている兵士たちのもとに向かった。


 リキュアナを守っていた兵士たちはリファロの顔を知らなかったがマナリュースに運ばれて上空から現れたリファロを見てすぐに目の前の少年の正体を察し、敵の機嫌次第で海上に転移させられる可能性もあるので口の利き方には気をつけろという本国からの指示を思い出しながら最前列にいた兵士がリファロに話しかけた。


「何の用ですか?食料を持ち運ぶ許可は出ていると聞きましたが」


 パウォークたちとの交渉を終えた直後、リファロは『回答者』でパウォークたちの仕事振りを随時監視しており、各地の兵士たちに指示を出していたパウォークたちが食料の扱いに困っている事を知った。

 撤退の際に自前の物ですら食料を持ち出したらリファロの怒りを買うのではというのがパウォークたちの懸念で、この事を知ったリファロは手元の魔導通信機でパウォークに連絡を入れた。


 既に戦争は終わっているので兵士たちに余計な苦労をさせるつもりは無く、アッキム王国が自前で用意した食料なら持ち出しても構わず補給部隊の撤退は他の部隊の撤退が終わってからにしてもいいとリファロはパウォークに伝えた。


 この指示の内容への安堵より自分たちのやり取りがリファロに筒抜けな事への恐怖をパウォークたちは強く感じ、自分たちの行動全てが知られているという恐怖に胃を痛めながら各地への連絡を続けた。


「はい。パウォークさんたちには食料は持ち出していいって言いました。でもそれはあなたたちが用意した分だけで、この国からは何一つ持ち出さないようにって僕ちゃんとパウォークさんたちに伝えましたよ?」


 リファロの指摘通り今回兵士たちがリキュアナから持ち出そうとしていた食料の内、三割程はリキュアナで奪った物で、手段は分からないが敵はこちらの行動を常に見張っているという本国からの報告を軽んじた事を後悔しながら兵士は口を開いた。


「な、何の事ですか?今私たちが運んでいる食料は全て私たちが自分で、」

「三日続けてラミアを寝室に連れ込むなんてそんなにラミアが好きなんですか?」


 こうなっては白を切り通すしかないと考えた兵士は同僚の兵士ですら把握しているか怪しいここ三日間の自分の言動を言い当てられて黙り込んでしまい、『回答者』を使うまでも無く後ろのマナリュースの怒りを感じながらリファロは話を続けた。


「……箱一つとかなら気づいてない振りしてもよかったんですけどさすがに今回は数が多過ぎますからね。……死んでもらいます」


 現在アルベール魔王国にはオーバスたち将軍が率いる部隊の他に数千人から数百人で構成された部隊が二十数隊あり、これらの部隊の内、リファロの指示に従っている部隊は三隊だけだった。


 厳密に言うと全ての隊が大なり小なりリファロの指示に従っていなかったのだがさすがに一部の兵士が食料や貴金属を盗んだ程度で隊全体に制裁を加えるつもりはリファロにも無かった。


 しかしこの隊は隊全体で戦利品の持ち出しを行っていたのでさすがに見逃せず、リファロが兵士たちの横を歩きながら一人一人の違反を指摘していくと兵士数人がリファロ目掛けて魔法を撃ち出してきた。


「……まったく」


 怒りの表情を浮かべる兵士たちを前にして怒りたいのはこっちだと思いながらリファロは兵士の一人が撃ち出した風の刃をわざと左腕に受け、リファロの傷口から現れた『血の乙女』により三分程で兵士たちは全滅した。


「……すみません。嫌なもの見せちゃって」


『血の乙女』が兵士たちの死体を一ヶ所に集めている横でリファロはマナリュースに突然虐殺を始めてしまった事を謝罪したが、他の多くの魔族同様アッキム王国の兵士など一人残らず死ねばいいと思っていたマナリュースは表情を変えないように意識しながら口を開いた。


「お気になさらないで下さい。私たちのために働いて下さっているのですから」


 リファロも人間なのでアッキム王国の人間が死んだ事への喜びを表情に出さないようにマナリュースはミルヒガナたちから指示を受けており、最近は『回答者』の使用に制限をかけていたリファロはこうした事情を知らずに話を続けた。


「死体を今すぐ燃やしますけどあの人たちが奪った物は僕が明日にでも街に運んでおきます。……魔族のみなさんは見ない方がいい物も混じってますから」


 リファロの目を盗んで魔族の子ども数人をアッキム王国に運び込もうとしている隊は一隊だけだったが、アッキム王国内で高値で売れるハーピィの翼、ラミアの鱗、アルラウネの死体の一部などを自国に持ち帰ろうとしている兵士たちはほとんどの隊にいた。


 自分の警告があまりに軽視されている事への対策としてリファロは『回答者』の詳細の一部公表などを含めて考えていたが、運び出されそうになった魔族の死体の処理という当面の問題は自分が直接対処するしかないと考えていた。


 しかしここ二年程の経験を経て魔族たちはアッキム王国の兵士たちが自分たちをどの様な目で見ているか正確に把握しており、マナリュースは表情が険しくならないように努めながらリファロに返事を返した。


「お気遣いありがとうございます。でも侵略してきた人間たちが私たちの体の一部を売り物にしている事は知っていますのでどうかお気になさらずに。……先程血の兵士を召還されたのですからお疲れですよね?」


 魔族千人と協力して使う事になって以降、『奉身者』の代償は魔族にほぼ筒抜けでリファロがこの後数時間休むつもりである事をマナリュースは察しており、マナリュースの言葉に裏が無い事を『回答者』で把握したリファロは礼の言葉を口にした。


「そう言ってもらえると助かります。……じゃあ、お言葉に甘えて街に帰ったら少し休ませてもらいます」


 こう言ったリファロは兵士たちの死体を焼き払うと『血の乙女』を解除し、倦怠感に襲われたリファロの両肩をマナリュースは最低限の力だけ込めて掴んだ。


「ここの荷物の回収や『奉身者』の協力者については街に着いてから私がトリュゼッハ様に話しておきます。宿までお運びするのでリファロ様はそのままお休み下さい」

「はい。ありがとうございます」


 リキュアナへの道中、意識こそあったが疲れていたリファロとマナリュースの間に会話は無く、寝ている様に見えるリファロの顔を見ながらマナリュースはリファロの『治癒』を受けて時の事を思い出していた。


 マナリュースはリファロがアルベール魔王国への売り込みのために最初に『治癒』をかけた魔族数百人の内の一人で、リファロはこの事を知らずマナリュースもこの事は察していた。


 右眼と右の翼を完全に失い無事な場所を挙げた方が早い程の重傷を負っていた当時のマナリュースは治療所と呼ぶのもはばかられる場所で野晒しにされ続け、いっそ殺して欲しいとまで思っていた時に『治癒』をかけられた。


 自分同様何が起きたのか分からずに戸惑う魔族たちに囲まれながらマナリュースは元通りになった体を見て呆然とし、翌日にアルベール魔王国が一人の人間と手を組んだと聞き再び呆然とした。


 マナリュースは融和派の存在を知っていたので人間が協力を申し出てきたと聞いた時には自分たちの同胞の蛮行を止められなかった人間が何を今更と怒りを覚え、協力者が一人と聞いた時には嘲笑すら浮かべた。


 しかし自分たちの体が治ったのは協力者、リファロのおかげだと知りわずかながら感謝を抱き始め、リファロが初めてアッキム王国軍に勝ったと聞いた時は様々な感情から涙を流した。

 そして今、二十人程いた志願者の中からマナリュースは幸運にもリファロの運搬役に選ばれ、ハーピィに生まれた事を感謝しながらリファロを丁寧に運んでいた。


 アッキム王国の人間はもちろん、人間全てを自分が許せる日は決してこないだろうとマナリュースは考えていたがリファロは別で、リファロすら警戒している魔族がまだ大勢いる中、今後はリファロに尽くそうとまで考えていた。


 戦争の事後処理が終わった後、リファロはニードベルに住むと聞いていたので必ずついていこうとマナリュースは考えており、リファロさえ望めば体を許してもいいのだがと考えながら飛び続けた。


 両親からここ一週間足らずの間にアッキム王国に勝利したリファロの活躍を聞き、先程のルドディスの発言の意味を理解しながらミルンは口を開いた。


「……その人間は死んだ魔族を蘇らせたって言うの?」


 協力者との交渉は魔王の一族や各種族の有力者に任せればいいとミルンは考えていたのでアッキム王国軍の撤退が事実ならその過程にはあまり興味が無かった。

 しかし死者の蘇生という伝承やおとぎ話でしか聞いた事が無い所業を突然現れた協力者が行ったと聞いてはさすがに聞き流せず、そんなミルンの驚きの表情を前にしてミルンの父親は説明を続けた。


「信じられないのは無理も無い。私たちも実際に蘇っていなければ信じなかっただろうからな。だがリファロ様は私たちの想像をはるかに超えた能力をいくつも持っていて、お前がここに来ている事も私たちを探している事も先程リファロ様が教えて下さった」


 この父親の発言を受けてミルンは自分たちが見張られている可能性に気づき周囲に視線を向けようとし、そんなミルンを両親は慌てて止めた。


「……何を思ってもいい。ただリファロ様を信じていないような発言や行動は控えろ」


 険しい表情で声を抑えて命令してくる父親を前にミルンは自分たちの支配者が多少ましな相手に変わっただけという現状をようやく理解した。


 そしてアッキム王国軍が完全に撤退した暁にはミルヒガナが協力者に三千人の魔族を従属させようとしている、協力者が手の内を隠している公言しているという話を聞き自分の考えが正しかったとミルンは判断し、そんなミルンに父親は言い含める様な口調で話しかけた。


「……リファロ様によるとゾウンは死体の損傷が激しく蘇らせる事ができなかったらしい。リファロ様は優しい方だ。……分かったな」

「……はい」


 弟のゾウンが死んだ事は残念だったが死んでいた両親が蘇ったというのが事実ならこれ以上を望むのは強欲が過ぎるとミルンは考え、この数分で聞いた情報を受け止め切れていなかった事もあり両親に従い当面の住居へと向かった。

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