説明
そしてリファロにとってのもう一つの問題がハーピィと一緒についてきたディルシュナで、ハーピィの支援を受けられる以上ディルシュナは『創造者』で創ればよかったのでリファロは最初ディルシュナの同行を断った。
しかしミルヒガナたちにあまりリファロばかりが前に出ると今後の国の運営に支障が出るので申し訳ないがディルシュナ本人も戦場に同行させて欲しいと頼まれ、断る事もできたがそれによる関係悪化に対応する自信が無かったのでリファロはしかたなくディルシュナの同行を受け入れた。
リファロにとっての一番の問題はディルシュナがミルヒガナから可能ならリファロと深い仲になれと命じられている事で、『回答者』によるとミルヒガナたちはアッキム王国との戦争終了後にリファロが自分たちと最低限の関わりしか持たない事を恐れているらしかった。
この事を知った際、リファロは娘を何だと思っているんだとミルヒガナに怒りを覚えた。
しかし自分に頼るしかない国と手を組む事を選んだのは自分な上『回答者』で知った事に怒りを露わにするわけにもいかなかったのでリファロは怒りや自己嫌悪などが入り混じった感情を持て余していた。
『回答者』でディルシュナが自分に好意を持っている事もリファロは知っていたがこの状況では好意と言っても純粋なものではないだろうと考えており、自分さえしっかりしていれば妙な事にもならないだろうと考えながら隣のディルシュナに視線を向けた。
「どうかなさいましたか?」
「ああ、いや、また竜が何かやってるみたいだから今日の戦いが終わったらまた忙しくなりそうだなと思って」
外見上の年齢が近い異性に上目遣いで見られて何も思わない程リファロも達観していなかったので思わず動揺から『回答者』で先程知った情報を言い訳にしてしまったが、竜が動いていると言っても今回はリファロが動く必要は無さそうだった。
二日前にブノワームが死んだ事を伝えるためにブノワームの一族の竜が別の一族の竜が住むリンダホン山脈に向かっているだけだったからで、連絡役を任された竜は街を襲うどころか今にもリファロに襲われるのではと怯えながらリンダホン山脈に向かって移動中との事だった。
「竜はアッキムという国の更に向こうに住んでいるんですよね?そんな遠くの事まで分かるなんてリファロ様は本当にすごいんですね」
「……まあね」
こっちの能力はもらい物だからと言いかけたリファロは事情が説明できなかったので言葉を濁し、ディルシュナの好意を知ってしまった反省から目の前の相手に『回答者』を使う時は自分に対する悪意を持っているかを確かめるだけに留めていた。
このためディルシュナの笑顔での賞賛がどこまで本気はリファロには分からず、人と話す時はこれが普通だよなと思いながらディルシュナと共にハーピィたちのもとに向かった。
オーバス率いるアッキム王国軍との戦闘開始時刻を迎え、リファロは今回の自分の運搬役のハーピィ、ラルジュと共にディルシュナやハーピィたちの前にいた。
「ラルジュ、リファロ様の足を引っ張らないように」
「はっ!この身に代えましても任務を果たしてみせます!」
二人いるディルシュナの護衛の一人、ラルジュはアルベール魔王国の命運がかかっている任務に参加するとあって緊張した様子で、そんなラルジュにリファロは安心するように伝えた。
「最初以外は敵の射程には入らないつもりなのであんまり緊張しないで下さい。僕を落とさないようにだけ気をつけてもらえれば」
「はい!お任せ下さい!昨日も言いましたがいざという時には私を盾にしていただいても構いませんので!」
魔王の一族は『眷属』に選んだ魔族を不死身にする能力を持っており、本来一人しか選べない『眷属』をディルシュナは生まれつき二人選ぶ事ができた。
このため今回ラルジュがリファロの運搬役に選ばれてラルジュの自分を盾にしても構わないという発言もリファロの覚える罪悪感さえ無視すれば妥当な提案ではあったが、リファロは 『眷属』の存在抜きで今日の作戦を立てていたので自分にもラルジュにも傷を負わせるつもりは無かった。
しかしこの状況で緊張しないで欲しい、あるいは自分の身の安全を最優先に考えて欲しいと言ってもラルジュがうなずかない事もリファロは理解していたので、今回もあまり強くはラルジュを説得はしなかった。
ディルシュナによる激励の言葉を受けた後、ラルジュに腕を掴まれたリファロが最前線にいたオーバスのもとに向かうとオーバスが事前に指示を出していたのでリファロとラルジュは兵士たちの攻撃を受ける事無くオーバスと言葉を交わせる距離まで近づく事ができた。
「どうして攻撃してこなかったんですか?」
「魔族の姫を連れてきているんだ。降伏したいというなら聞いてやろうと思ってな」
『眷属』の存在は魔族以外にも知られており、今回リファロが大量のハーピィの他に魔族の姫まで連れてきた事からオーバスたちはリファロに同行しているハーピィが『眷属』である可能性には思い至っていた。
「移動にハーピィの手を借りるとは昨日我が軍の兵士を追い払っただけでもう魔力が切れたのか?昨日貴様が小細工を使って我が軍の兵士を敗走させた事はここにいる兵士たち全員に伝えてある。兵士が何百人死のうが俺はもちろん兵士たちも最後の一人まで戦うぞ!」
「はい。あなたが昨日の被害を少なく伝えて部下の人たちを戦わせようとしている事は知ってます」
オーバスは昨日のアッキム王国軍の被害は千人以下だったと部下たちに伝え、リファロの戦法は転移魔法での陽動が主なので多少の被害に怯まなければ勝利はたやすいとも伝えていた。
リファロにこの事を指摘されてオーバスは一瞬焦ったがリファロの発言は前線にいた軍幹部にしか聞こえておらず、彼らは全員が昨日の本当の被害もオーバスの意図も知っていた。
そして敵の相談役とやらのせいで自分たちのやり取りが敵に筒抜けである事も覚悟していたのでオーバスはすぐに落ち着きを取り戻した。
「その戯言を兵士全員に言って回るつもりか?途中で撃ち落とされるだけだし、そもそも貴様の言う事など誰も信じないぞ?」
「半分正解です」
「……何?」
皮肉のつもりだった発言を半分とはいえ正解だと言われてオーバスは戸惑い、そんなオーバスにリファロは強化された『奉身者』についての説明を始めた。
「もう分かってると思いますけど僕の『奉身者』の能力は連発できない物が多いです。詳しくは言えませんけどそれぞれの能力を使う時に色々な物を代償にしているからです」
「……それがどうした?」
いきなり自分の能力の説明を始めたリファロの意図が分からずオーバスは警戒心を強めたが、オーバスたちの会話の内容は小型の魔導通信機を通して今回も戦場に隠れていた諜報員に聞かれていた。
このためもちろん負けるつもりは無かったが仮に負けた時に備えて諜報員たちに敵の情報を与えようと考えてオーバスはまだ兵士たちに攻撃の指示を出さなかった。
「もうばれてるみたいだから言いますけど僕の『衝撃波』は声を代償にしてます。でも昨日この代償を他の人に肩代わりしてもらえるようになったんです」
「……魔族の声を代償にして『衝撃波』をいくらでも使えるという事か?」
オーバスは諜報員から『衝撃波』は不可視な上に通常の魔法をはるかに上回る連射性を持つと聞いていたので、もしそんな魔法を無制限に空から撃たれたら苦戦は免れないと焦りを覚えた。
しかし自分をハーピィに運ばせているという事が敵の消耗を物語っているとオーバスは自分に言い聞かせ、近くの部下に対ハーピィ用の装備を急いで用意するように伝えてからリファロとの話を続けた。
「どうしてわざわざ『奉身者』とやらの説明を俺にする?『衝撃波』を連発できるならそのハーピィと一緒に空から撃てばいいだろう」
「あれ?ウェルマスさんから聞いてますよね?今日僕は誰も殺すつもりは無いって」
「殺せないの間違いだろう?」
規格外の転移魔法や血の化け物の使役といった離れ業をいくつも行いこれまで一人で戦ってきた敵が魔族を連れてきた時点でオーバスは敵も消耗しているはずだという自分のやや願望混じりの予想が当たっていたと確信していた。
このためハーピィ対策さえすれば勝機はあるとオーバスは考えており、そんなオーバスの考えを『回答者』で知ったリファロは謝罪の言葉を口にした。
「確かに僕は昨日かなり消耗しましたし、正直な話魔力は回復し切ってません」
腕輪で回復すれば別ですけどという言葉を飲み込んでのリファロの発言を受けてオーバスは困惑を更に深め、そんなオーバスを前にリファロは話を続けた。
「でも勝ち方が変わるだけでただ勝つだけなら僕一人でも余裕ですよ。ハーピィのみなさん連れてきたのは単にあなたたちが残していく兵糧を運ぶためです」
「……そうか」
魔力が完全には回復していないというリファロの発言の意図が分からずオーバスは警戒心を強めたがどの道敵の消耗前提で戦うのだからと深く考える事を止め、そんなオーバスの先程の質問にリファロは答えた。
「どうして説明をするのかって質問に答えてなかったですね。僕も自分の能力全部説明する気は無いです。でも昨日僕は千人の人に代償を払ってもらう事で今までより強力な能力が使えるようになりました。で、強くなった『奉身者』を使うためには他の人の協力がいるって事はどれだけ隠してもその内ばれると思うんです。だったらさっさとばらした方が魔族の人たちも気が楽になるかなと思って」
「……そうか。お優しい事だな」
昨日の時点ですら効果的な対応策が無かった敵の魔法が昨日突然強化されたと聞かされてオーバスは一瞬思考が停止したが、将軍としての責任感からすぐに気を取り直して思考を巡らせ始めた。
確かに今後も千人の協力者に能力の代償を肩代わりしてもらうなら遅かれ早かれこの事実は外部に漏れるはずなので、あえて本人が敵に漏らす事で協力者の不安を消したいというリファロの考えはオーバスも理解できた。
しかしこの説明を信じるなら目の前の敵が未知の強力な魔法を更に五つ使える事になり、そんな化け物がいるはずが無いと考えたオーバスは恐れ、驚き、祈りなど様々な感情に一気に襲われて気づかない内に後ずさっていた。
そしてリファロの説明を聞き後ずさっていたのはオーバスだけではなく、現実逃避に近い形で様々な表情を浮かべていた軍幹部に視線を向けながらリファロはラルジュに行動開始の合図を出した。
オーバスたちの後方では既に鎖や投網といったハーピィ対策の準備がほぼ終わっており、『創造者』が一回しか使えない状況で面倒は避けたかったリファロはラルジュとともに上空二百メートル程まで一気に上昇した。
「大丈夫ですか?」
高山に住む事が多いハーピィは高度五百メートル程までは子どもでも苦も無く活動できるが、人間はそうもいかない事はリファロと話すまで人間と関わった事が無いラルジュでも理解できた。
このためアッキム王国軍の攻撃を避けるだけなら百メートルも上昇すれば十分なのではと考えながらラルジュはリファロに心配の声をかけ、そんなラルジュに腕を掴まれながらリファロは口を開いた。
「まあ、少し寒いですけど我慢できない程ではないんで大丈夫です。アッキムの人たち、さすがに軍人だけあって予想外の攻撃してきますからね。これぐらいは警戒しておいた方がいいでしょう」
魔導装甲で強化された魔法の有効射程距離が六十メートル程である事をリファロは『回答者』で把握していたが、昨日『血の乙女』がアッキム王国軍兵士の予想外の反撃で足止めされた事を受けて自分でも警戒し過ぎだと思う程の距離を取った。
しかし自分もラルジュも致命傷の一度や二度受けても大丈夫とはいえあえて痛い思いをする必要も無いだろうとリファロは考えており、そんなリファロに上空から見下ろされながらオーバスと部下たちは戸惑っていた。
「いくら『衝撃波』が強化されたといってもあの距離からまともに当てられるのでしょうか?」
「こっちは五万人だ。最初の内は狙いなどつけるつもりは無いんだろう」
今回オーバスはリファロの消耗を前提に戦闘に臨んでおり、仮に多少魔力が回復していても更に消耗させればいいと考えて強力な攻撃を引き出すために兵士たちをあえて密集させていた。
このため視認も難しい距離からリファロが攻撃を仕掛けてきた事自体にはオーバスは戸惑わなかったが、自分たちの攻撃が届かない距離から攻撃を仕掛けるにしてもどうして自分だけでも殺していかなかったのかとは疑問に思った。
しかし敵の消耗度合いや発言の真偽など不確定要素が多い状況で正確な予想などできるはずも無く、リファロが将軍である自分を取るに足らない存在だと考えているという不快な予想をしながらオーバスは近くの兵士に腕だけで合図を出した。
オーバスはリファロが遠距離攻撃に徹するつもりなら軍を二十に分けて前進させて多少の被害は出しても次の街を目指すつもりで、オーバスの合図を受けた部下は作戦を部隊全体に伝える太鼓を叩き始めた。
オーバスの指示により兵士たちは各自二食分の食料を持っており、更に各部隊には食料運搬専用の兵士も配置していたので二十の部隊が別方向に逃げれば生き残った数部隊が多少飢えながらも次の街に着けるとオーバスは考えていた。
とにかく自分たちの軍があの化け物を突破して次の街に向かったという事実が大事だとオーバスは考えており、自分たちが『勝利』すれば残る二人の将軍が率いる部隊が今日中に同時に進軍しても大臣たちが殺される事も無いと考えていた。
この考えはリファロが約束を守る事が前提だったが転移魔法で首脳陣が直接狙われるという不利な状況では多少の割り切りは大事だとオーバスは考え、さすがに口にはしなかったが大臣数人の死程度は許容範囲だとも考えていた。
そしてこうしたオーバスの考えは当然リファロに筒抜けで、オーバスの作戦を潰すべくリファロが強化された『衝撃波』を発動すると能力で拡声されたリファロの声が半径五百メートルに渡り響き渡った。




