至れり尽くせり
「で、もう分かってるみたいだけどあの魔獣たちの力は私たちが人間に与えた能力が元になってるの。昔私たちが能力を与えた人間同士が戦った事があって負けた方は死ねない体にされた上に誰もいない世界に追放されてしまったの」
「……酷い事しますね」
狙い通り都合のいい勘違いをしてくれた様子のリファロを見て女は満足しながら話を続けた。
「ええ、そうね。で、追放された方は千年ぐらいがんばって死ねない体を何とかして自殺したの。これが半年前の話よ」
「その時にその死んだ人の能力が魔獣に移っちゃったって事ですか?」
「ええ、ほんの一部だけどね」
魔獣たちが使っていた能力の強さは生前の使用者が使っていた能力の百分の一にも及ばず、もし魔獣たちが手にした能力の強さが元の持ち主と同等だったらリファロたちに勝ち目は無かった。
「あれ?でももらえる能力って一つだけなんですよね?」
斬撃と周囲の物を消滅させる能力は攻撃と一括りにする事もできるが復活はさすがに他の二つの能力と内容がかけ離れ過ぎていたのでリファロは疑問に思い、そんなリファロの質問に女が答えた。
「あなたの場合は予想外の形で暴走してた能力を止めてくれたお礼って事で例外だけど、普通は私たちが能力を与える人間って私たちなりの基準で優秀な人間が選ばれるの。で、その時は私と同僚が同じ人間に目をつけちゃって一人に二つの能力与えちゃったのよ」
「……斬る能力と消す能力を持ってた人を別の人が不死身にして別の世界に追放したって事でいいですか?」
「ええ、それで間違い無いわ」
リファロに感謝している事は事実だったので女はこれまでの質問に答えたが、以前担当した人間についての話題は女にとってあまり愉快なものではなかったのでリファロの微妙な勘違いを正す事なく話を進めた。
「一通り説明はしたと思うんだけど私の仕事の失敗の後始末をあなたはしてくれた。だから特別に能力を与えて別の世界で第二の人生を送ってもらう。これでいい?」
「はい」
神とやらが世界の行く末を左右している事にリファロは納得していなかったが、これまでの話を聞く限り逆らっても無駄な程力の差がありそうな上、逆らおうにも具体的に手段が思いつかなかったので何も言わなかった。
また欲を言えば元の世界に送り込んで欲しかったが戻ったところでまた命を狙われるだけで、幸いと言っては何だが天涯孤独で悲しませる家族もいなかったので別の世界に送り込まれる事にそこまで抵抗を感じていなかったリファロを前に女は具体的な話を始めた。
「どんな世界に行きたい?いつもはどの世界に送り込むかはこっちで決めるんだけど今回はお礼だからあなたが選んでいいわ」
「元の世界とあんまり変わらない世界がいいです。具体的に言うと魔獣を倒してそれを売って暮らせるような世界ですね」
「それでいいの?あなたが望むなら魔獣なんていない世界の平和な国に送り込む事もできるのよ?」
あまりに欲の無いリファロの発言を聞き戸惑う女を前にリファロは話を続けた。
「僕人助けもそうですけど戦いも嫌いじゃないんで魔獣狩ったり賞金首捕まえたりって暮らしが性に合ってるんですよね。ですから元いた世界と似た様な世界に送ってもらえればそれで十分です。平和な暮らしって最初はよくてもずっとだと飽きちゃうと思いますし」
「……あなたがそれでいいならいいけど」
神の使いとしての能力でリファロの発言が本心からのものである事を知った女は話題をリファロに与える能力についてに移した。
「これがあなたに与える能力よ。と言っても今はただの魔力の塊だけど」
こう言うと女は手のひらから紅く光る球を発生させ、その後球は吸い込まれる様にリファロの体へと入っていった。
「どんな能力をもらったんでしょうか?」
突然光る球が体に入った事にこそ驚いたが特に変化を感じなかったリファロの質問に女はこの場で答える事ができなかった。
「私たちが与えた能力はあなたの性格とか願望とかの影響を受けて送り込まれた世界に着いてから決定するの。だから今の段階ではどんな能力になるかは分からないわ」
「……なるほど」
反応しづらい女の答えを聞きリファロは何とか返事を返すのがやっとで、そんなリファロを見て女は苦笑した。
「そんな顔しないでよ。多分あなたが思ってるよりずっとすごい能力がもらえるはずだから」
「まあ、ただでもらうわけですから文句は言いません」
文句は言わないと言ったがどれだけ強くてもあの魔獣たちの様に攻撃にしか使えない能力をもらっても使いどころが限られてしまうので、地味でもいいので不意打ちを事前に察知できるといった能力が欲しいと考えながらリファロは話を続けた。
「じゃあ、能力ももらいましたしこれでお別れですね」
最初は驚いたがあんな死に方をした自分に第二の人生を用意してくれた女に別れる前に礼の一つでも述べようとリファロは考えていたのだが、女の話はまだ終わりではなかった。
「ちょっと待って。まだ話は終わってないわ」
「どういう事ですか?」
「あなたが倒した魔獣たちの力の元になった人間を担当したのは私だけじゃないってさっき話したでしょ?」
「ああ、そう言えば。……能力をもう一つもらえるんですか?」
第二の人生を用意してもらえただけでも感謝するべきだと考えていたのでこの発言をした瞬間、我ながら図々しかったかなとリファロは後悔し、そんなリファロの質問に女はうなずいた。
「ええ、正確に言うと同僚から預かってる能力の種を使ってあなたが元々持ってる能力を強化するわ。さっき言った能力を二つ与えられた人間が暴走しちゃったからあなたに能力を二つ与えるのは避けたいから」
「……強化ですか?」
現時点でリファロは女から能力をもらったという実感が薄かったので二つ目の能力に正直あまり興味は無かったが、元々の能力を強化すると言われては気にせずにはいられなかった。
リファロは代償と引き換えに五つの異能を使える能力、『捧身者』を持っており、多少使いにくいとはいえ物心ついた時からずっと使ってきた能力に手を加えられると聞き複雑そうな表情を浮かべたリファロに女は安心するように伝えた。
「いじったりするんじゃなくてできる事を増やすだけだから安心して。嫌なら新しい部分は使わなければいいだけだし」
「はい。それじゃあ、ありがたくいただきます」
できる事の幅が増えるというならありがたく受け入れようと考えていたリファロの前で女は今度は黄色く光る球を発生させ、球が体に入ると同時にリファロは『奉身者』に起こった変化を理解した。
「へぇ、……強化ってこういう事ですか」
まるで以前から知っていた様にリファロは強化された『捧身者』の仕様を一瞬で理解し、強化された部分を使わなければ以前と同じ様に『捧身者』を使えると知り安心した。
そしてそんなリファロに女は最後の贈り物をした。
「あとついでにこれも持って行って」
女がこう言うとリファロの左手首に黄金製の腕輪が現れ、黒く光る宝石がはまった腕輪に一度視線を向けてからリファロは口を開いた。
「何ですか、これ?」
「あなたが最後に倒した魔獣の能力を限定的に再現した物よ。それをつけてる限り、あなたは不老でいられるわ」
「不老、……歳を取らないって事ですか?」
この空間に来てから女の発言に驚かされてばかりのリファロだったがおとぎ話でしか聞いた事が無い存在、不老になれる道具を気軽に渡されて数秒間黙り込んでしまい、その後女にこの腕輪は必要無いと伝えた。
「せっかくですけどこの腕輪はいりません。何百年も生きるのは大変そうですし」
実際に会った事は無かったがリファロが以前いた世界にも竜や巨人といった数百年生きる種族がおり、リファロは自分がそういった存在になりたいとは思っていなかったので腕輪を返そうとした。
しかしリファロのこういった反応を予想していた女は特に慌てた様子も見せずに話を続けた。
「その腕輪がいらないならそう念じてみて」
女の言葉を受けたリファロが能力を発動する時と同じ感覚で念じると腕輪は消滅し、その後女の指示を受けてリファロがもう一度念じると腕輪がリファロの左手首に装備された。
「その腕輪の能力はつけてる時しか発動しないから歳を取りたければ腕輪を消してくれればいいわ。不老って言うと大げさだけど最初の何年かだけ使って少し寿命を延ばすぐらいの気持ちで使ってくれても構わないし」
「……なるほど」
「それともこっちの方がいい?」
こう言った女の左右には金色に輝く剣と銀色に輝く杖が現れ、剣と杖の輝きの色からこの二つの武器が兎と魚の魔獣由来の能力を持っている事を察したリファロは虐殺にしか使えない斬撃や消滅の能力よりは不老の方がましかと考えた。
そして何百年も生きるつもりは無かったがいつでも止められる不老なら悪くはないとリファロは考え、女が説明した腕輪のもう一つの能力が『奉身者』と相性がよかった事もあり改めて女に礼を述べた。
「……何か至れり尽くせりですみません。もし今から行く世界でした方がいい事とかあったらできるだけがんばりますけど」
最期はあんな形になってしまったがリファロは自分が魔獣三体の討伐に大きく貢献した事は自覚していた。
しかし『奉身者』の強化に不老の腕輪、そして正確にはまだ受け取っていないが新しい能力とさすがにもらい過ぎだと感じたのでリファロは女に何か礼をしようと考えたのだが、そんなリファロの申し出を女は断った。
「今回のはお礼とお詫びだから気にしないで。……まあ、強いて言うなら人助けをがんばって欲しいけど」
「……分かりました」
元々いた世界と大差無い世界に送られるなら女の望みは問題無く叶うと考えたリファロは特に気負う事無く返事を返し、そんなリファロを前にしてこれで話は終わりだと考えた女はリファロを別の世界へと転移させた。
女が自分に向けて手をかざしたと思った次の瞬間にはリファロは再び見知らぬ場所におり、遠くに森が見える他は草原が広がっているだけの周囲を見渡して街道を見つけるととりあえず街道に出ようと歩き出した。
服装がおそらくこの世界の物に変わっている以外はリファロの持ち物に変化は無く、腰には以前から使っている剣もぶら下がっていたので身を守る分には問題無かったがどこか人里近くに転移させてもらえると考えていたリファロは周囲に誰もいない現状にため息をついた。
街道沿いに進めばその内人のいる場所には出るだろうがどれだけ歩けばいいか分からないのは面倒だからで、近くの人里までどれぐらい距離があるのだろうかとリファロが考えた瞬間、リファロに与えられた能力が発動した。




