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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
1章

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19/28

強化

「アッキムの人たちと戦うだけなら極端な話、小細工は必要ありません。正面から力で潰せばいいだけですから。でも魔族の人たちを無事に助け出すためには色々やる必要があって、だから今ここで能力の実演はできません」


 実際リファロは先程の戦闘で全快時の魔力の一割を消費する『創造者』を九回使っており、リファロの魔力は一日で全快時の一割しか回復しないので『回答者』を常に使う事を考えると明日の戦闘では『創造者』は一回しか使えなかった。


 このためこのままでは明日の戦闘は竜の能力を体ごと再現してアッキム王国軍を全滅させるという手段でしか終わらせる事ができなかったが、幸いそうはならない可能性が高い事をリファロは既に知っていた。

 といっても細かい作戦を考えるのはこれからだったが……。


「リファロ殿が能力の制限を教えてくれれば私たちももっと色々な協力ができると思うのだが、残念だが無理強いはできない。その代わりと言っては何だが前回断られた『奉身者』への協力はどうだろうか?リファロ殿が捕らわれていた魔族を助け出したと聞いて協力したいという魔族が増えている。もちろん私もその一人だ」


 同族からリファロの活躍を聞いたハーピィを中心に魔族の中で自分に協力しようという機運が高まっている事をリファロは既に知っており、魔族たちの協力で強化される『奉身者』の内容次第で明日のアッキム王国軍の犠牲者数が変わるので緊張を隠しながらルドディスの提案を受け入れた。


 そして早速強化された『奉身者』の内容を試すためにリファロは集められていた魔族たちのもとに向かい、ミルヒガナやルドディスたちが魔族たちに指示を出し始めてしばらく経ってからリファロは強化された『奉身者』の詳細を理解した。


「……やっば」


 力の源が同じなので『回答者』と同格の能力が獲得できるのではと期待はしていたが強化された『奉身者』の能力はどれもリファロの想像以上で、明日の細かい作戦など考える必要が無くなったリファロは自業自得とはいえ明日自分と戦うアッキム王国軍に同情した。


 そして明日は一人の死者も出す事無く戦闘を終わらせる事ができそうで安心したリファロはアッキム王国に転移する前に強化された『奉身者』である事をするためにミルヒガナたちに話しかけた。


 リファロによりアッキム王国軍本隊が敗走してから三十分程経った頃、アッキム王国の将軍の一人、オーバスは軍務担当の大臣、メインギオから本隊の敗走とベイガンの死を伝えられていた。


 敵がほぼ同時に五人現れる、情報に無かった血の化け物が兵士千人以上を虐殺、転移魔法によると思われる大量の武器の一斉消去など信じられない報告を立て続けに聞かされてオーバスはしばらく言葉を失っていた。


 そして報告を受けたオーバスが最初に触れたのは新たに明らかになったリファロの能力の数々ではなく同僚の死だった。


「……ベイガンが死にましたか」

「ああ、転移魔法での不意打ちで周りの兵士たちが気づいた時にはもう殺されていたそうだ」


「という事は明日は私も真っ先に狙われそうですね」

「ああ、さっきも言ったが本隊が負けたと言っても被害自体は少ない。おそらく明日も兵士たちの恐怖を煽っての逃走を狙ってくるだろう」


 兵士十万人で構成された本隊の兵士たちがたかが数千人の被害で逃げ出した事にウェルマスを始めとした多くの大臣は怒りを露わにし、食料の補給が済み次第再び兵士たちをリファロと戦わせろと言っている大臣がほとんどだった。


 しかしリファロが戦場に放置されていた魔導通信機でアッキム王国の王城に今日の正午に向かうと連絡を入れると大臣たちは急に大人しくなり、メインギオから聞いた大臣たちの身勝手な反応には言及せずオーバスは明日の方針を伝えた。


「陛下たちのお考え次第ですが私は明日も戦うべきだと思っています」

「……勝算はあるのか?兵士たちが最後まで戦えばともかくおそらくあの男の魔法を見れば兵士たちはすぐに逃げ出して勝負にすらならないぞ?」


「あの男が明日も今日の様に戦えればそうなるでしょうね」

「どういう意味だ?」


 立場上口にしなかっただけでメインギオも今日のリファロの戦い振りを聞き自分たちに勝算は無いと考えていたので、何やら勝算があるらしいオーバスの発言の続きをわずかに期待しながら促した。


「私たちが限界まで魔法を使った際の疲労は二、三時間程で消えますが話に聞く限りあの男の使った魔法は私たちの比ではありません。その疲労が一日程度で消えるでしょうか?」

「……」


 明日までにリファロの魔力が全快しているか分からないというオーバスの発言には希望的観測が含まれていたのでメインギオは即答できず、そんなメインギオの反応を予想していたオーバスは苦笑しながら話を続けた。


「もちろんあの男から二日続けての戦いを希望してきた以上、明日になったらあの男の魔力が完全に回復している可能性はあります。しかし明日があの男の底を探る機会である事に変わりはありません。もし私たちが戦わなかったらベイガンたちの死が無駄になってしまいます」


「……将軍はともかく兵士たちが最後まで戦うか?さっきも言ったがあの男は派手な魔法を使って兵士たちの恐怖を煽ってくるぞ?」


 いくらリファロが強力な魔法を使えようが数万人を全滅させようとしたら最後まで魔力が持つわけが無いとアッキム王国首脳陣の多くは考えており、兵士たちの士気さえ維持できれば勝機はあるとも考えていた。


 しかし不死身の血の化け物や武器の一斉消去などリファロの魔法には派手なものが多く、勝利の前提の士気の維持が困難である事もアッキム王国首脳陣は理解していた。


「あの男が一万人も殺せずにこちらの混乱を狙ってきた事を伝え、最初からこちらの混乱を狙っていると伝えれば兵士たちの逃走は防げると思います」


 オーバスは自国の勝利はもちろん同僚、ベイガンの敵討ちのためにも全力を尽くすつもりで、メインギオには言わなかったが兵士たちの逃走を防ぐためにある程度の虚偽・脅迫も行うつもりだった。


「私はもちろん兵士たちもアッキムのために命を捨てる覚悟はいつでもできています。陛下たちには降伏するかどうかは明日の戦いの後に決めて欲しいと伝えてもらえないでしょうか?」

「……分かった。できるだけの事はするがあまり期待するなよ?」


 メインギオは現大臣の中で最も爵位が低くオーバスもこの事は知っていたのでブラザークたちへの意見などという無理を念押しはせず、その後リファロが一人だけ黄金の腕輪をつけていた事などの細かい報告を受けてからメインギオとの通信を終えた。


 アッキム王国軍本隊の敗走から二時間程経った頃、アッキム王国の首都、ダーウォールの王城の会議室には宰相ウェルマスを始めとした大臣六人とその部下十数人が集まっており、情報漏れを恐れて大勢で集まっての会議を控えていたウェルマスたちが今日集まっていた理由はリファロに呼び出されたからだった。


 予定されていた参加者全員が集まった直後、会議室の扉の外にいた衛兵がリファロの訪問を伝え、会議室の様子を完全に把握しているとしか思えないリファロの訪問の仕方に大臣たちが表情を硬くする中、衛兵に案内されてリファロが会議室に姿を見せた。


 今回も机の上に転移してもよかったのだがいくら敵とはいえさすがに無礼かと考えて今回は控え、リファロは入室の際に衛兵に剣を預けていた。


「あれ?全員は揃ってないんですね?」


 リファロは今回ブラザークと全大臣の会議への参加を指示したのだが敵の指示に王が軽々しく動けるはずも無く、『回答者』でブラザークの不参加を既に知っていたリファロの発言を受けてウェルマスが視線を鋭くした。


「貴様ごときの指示に陛下が従うわけが無いだろう。身の程を弁えろ」


 今回リファロの指示に一部従わなかったアッキム王国首脳陣は自分たちの対応に不満を持ったリファロが王城で暴れる可能性を警戒していた。


 しかし自分たちの抵抗にリファロがどこまで我慢するかはアッキム王国首脳陣としてはぜひ確かめておきたく、そんなウェルマスたちの考えをリファロは把握していたがクララス王国での騒動の時同様ここで暴力を行使する事にあまり気乗りしなかった。

 しかしあまり侮られても困るのでリファロは一応牽制はしておく事にした。


「今からビルマウス公爵の屋敷に移動するのも面倒だししかたないですね」


 リファロが口にしたビルマウス公爵は王族の血縁者でブラザークとブラザークの妻子はリファロが暴れた場合を考えて今ビルマウス公爵の屋敷に避難していた。


 そして一部の者、この会議室にいる人間に限れば自分しか知らないはずのブラザークたちの避難先をリファロが知っていた事にウェルマスは驚きの表情を浮かべ、そんなウェルマスの表情をあえて無視してリファロは話を進めた。


「さてと、じゃあ明日の話をしましょうか。明日も多分今日みたいな感じになると思いますけどやりますか?無駄な犠牲出すぐらいなら最初から兵士のみなさんには逃げてもらった方がいいと思うんですけど」


 つい先程知ったばかりの『奉身者』の強化内容を踏まえてリファロは明日の戦闘でアッキム王国軍の兵士を一人も殺さずに勝利する自信があった。


 しかし手の内を晒す前にアッキム王国軍に自主的に撤退してもらえればそれが最善だったので『回答者』を使うまでも無く無駄だとは分かっていたが一応ウェルマスに兵士たちの撤退を勧め、予想通りウェルマスはリファロの提案を断った。


「だまし討ちで一回勝った程度で調子に乗るなよ!明日貴様が戦うオーバス将軍と部下たちは最後の一人になるまで逃げる事無く戦う覚悟だ!……楽に死ねると思うなよ」


 仮にも一国の宰相がその辺りの犯罪者の様な脅し文句を口にした事にリファロは素で引いてしまったが、魔族の牧場建設を国家ぐるみで行っている国の宰相にあまり期待し過ぎた自分も悪かったと考え直して話を終わらせに入った。


「……明日勝ったらまた来ますけどオーバスさんに一つだけ伝えておいて下さい。僕は明日今日使った魔法を使うつもりは無いのでどんな対策しても無駄ですって」


 規格外の転移魔法ばかり警戒していたところに『血の乙女』という純粋な攻撃魔法を使われ、本隊敗走の報告を受けたアッキム王国軍首脳陣のほぼ全員が貯蔵庫襲撃の報告を受けた時同様誤報を疑った。


 しかし二十人以上の諜報員からの報告内容が全て同じである以上信じるしかなく、転移魔法以外にもリファロが切り札を隠していた事にアッキム王国軍首脳陣は頭を抱えるしかなかった。


 そんな時リファロにまだ切り札を隠していると言われたのだからウェルマスですら虚勢を張る事すらできず、しばらく待ったがウェルマスたちから降伏の言葉は出てこなかったのでリファロはディルシュナたちとの合流場所に転移した。


 オーバス率いるアッキム王国軍の兵士五万人との戦闘開始時刻まで三十分を切った頃、リファロはディルシュナ率いるハーピィ二百人と共にアッキム王国軍から二百メートル程離れた場所にいた。


 ミルヒガナたちがいるウイルテンから今リファロたちがいる場所まではハーピィの翼でも二十時間程かかり、リファロから支援を要請されたルドディスたちは最初ハーピィに他のハーピィ二人を運ばせて運搬役を交代する事でリファロの支援役のハーピィ一人を疲労させずに現場に運ぶつもりだった。


 しかし強化された『転移』はリファロの視界内の人・物を転移させる事ができ、千人の魔族が一時的に怪力や飛行能力を失ったがリファロは小細工抜きでディルシュナやハーピィたちを現場まで転移させる事ができた。


 ちなみにハーピィが二百人もいる理由は戦闘後に残されたアッキム王国軍の兵糧を運搬するためで、アッキム王国軍本隊との戦闘後に残った兵糧は全て焼いたと自分が言った時のミルヒガナたちの表情を思い出してリファロはため息をついてしまった。


 リファロはアッキム王国軍との戦闘に必要な情報しか『回答者』で集めていなかったが逃走中のミルヒガナたちの食糧事情は当然劣悪で、この事を知った時のリファロは少し考えれば分かるだろうと自己嫌悪に陥った。


 一応リファロにも言い訳はありアッキム王国軍と魔族側どちらの影響かは分からないが『回答者』での『会議』で出てくる案はアッキム王国軍を全滅させるという物騒な案ばかりで、リファロは大量の情報を基に事実上一人での作戦立案を強いられた。


『回答者』という大きな支えがあるとはいえ『奉身者』の強化具合といった不確定要素まである状況で素人の自分が戦争の策を考えているのだから多少の取りこぼしは見逃して欲しいというのがリファロの本音だった。


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