戦いが終わって
「後ろの人たちには聞こえなかったと思うのでもう一度だけ言います!抵抗したいなら好きにして下さい。そしてアッキム王国の方に逃げるなら追撃はしません!ただし、王様や大臣のために捨てれる程度の命だって言うならこっちも遠慮はしません!」
『裏世界』への出入りを繰り返しながらリファロは二分程かけて本陣の上空を旋回して兵士たちに逃亡を勧め、兵士全体に自分の声が届いたと考えてからエオガジェスの前に戻った。
「まだ虚仮脅しを続けるつもりか?お前の魔法が長時間使えない事は分かっていると言ったはずだ」
つい先程まで魔導装甲の装着者と一緒に自分を眼で追うのがやっとだったくせによくもそんな大口をと呆れながらリファロは嘲笑を向けてきたエオガジェスに返事を返した。
「……もういいです。これ以上僕が何言っても無駄でしょうから。ああ、でも一つだけ謝っておきます。……位置的にあなたは絶対に逃げられないと思うのでこれだけは許して下さい。もちろん今すぐ逃げるなら追いませんけど」
「ほざけ!」
この発言と同時にエオガジェスが右手を動かすと魔導装甲が一斉に動き始め、これに合わせてリファロは魔導装甲を含む全ての武器と兵糧を『裏世界』に入れた。
突然全ての武器が消えた事でアッキム王国軍には動揺が走り、武器を失った影響が一番大きかったのは二メートル程の高さから突然落ちる事になった魔導装甲の装着者たちだった。
一瞬で足場を失った彼らは何が起きたのか把握する暇も無く地上に落下し、下が地面だった事もあり落下による死者こそ出なかったが腰を強打した者や足首を痛めた者が十人以上出て彼らは立つ事すらままならなかった。
「じゃあ、行きますよ!」
こう言ってリファロが撃ち出した炎はエオガジェスを含む六十人程を一瞬で焼滅させ、その後リファロが人の少ない場所を狙い炎を二十発程撃ち出すとアッキム王国軍は総崩れとなり敗走を始めた。
「……よし」
死者を二百人以下に抑えられた本陣での戦果にリファロは思わず満足と安堵の言葉をこぼしたが逃げたくても逃げられない負傷者たちを放置もできなかったので、ハーピィの翼を動かすと比較的後方にいた兵士たちを追いかけた。
逃げ出してすぐに上空からリファロに回り込まれた兵士たち二十人程はリファロを見て恐怖の表情を浮かべ、追撃はしないという約束をリファロが破った事への不満を口々に露わにした。
「何だよ、逃げたら見逃してくれるんだろ?」
「俺たちにはもう戦うつもりなんて無い!」
「あんたがさっき言った通りだ!ここにいもしないお偉いさんたちのために命なんてかけれるか!」
魔導装甲が歯が立たないどころか戦う事すらできず消され、戦場中の武器を一つ残さず転移させた化け物の相手などしていられない。
これが今生き残っている兵士たちの総意で『血の乙女』を実際に見た兵士たちはリファロが武器を消す前に既に逃げ出しており、自分の想定通りになったこの流れを壊すつもりはリファロにも無かった。
しかし魔導装甲から落ちて負傷した兵士たちを逃げなかったからと殺す事は避けたかったので彼らの介抱役としてリファロは後ろにいた兵士たちに目をつけた。
「僕が魔導装甲を転移させた時に怪我をして歩けなくなった人たちを連れて行って下さい。断ったらあなたたちを殺して別の人に頼むだけです」
この後助け出した魔族たちとミルヒガナに会い、更に頃合いを見計らいブラザークたちにも合う予定だったのでリファロは今『治癒』を使うわけにはいかず、そんなリファロの事情を知る由も無い兵士たちだったがこの状況でリファロの命令を断れるはずも無く兵士たちは渋々といった様子ながらも負傷者たちのもとに向かい始めた。
リファロは兵士たちを一人一人名指しして負傷者を補給部隊のもとに届けられなかった場合殺すと脅し、脅された兵士たちが自分の指示通りに動くつもりだと『回答者』で確認したリファロは『裏世界』に入ると兵糧のもとへと向かった。
リファロが『裏世界』に物を入れた場合、『裏世界』の同じ位置に創られていた物はリファロが残そうとしない限り消えるのでリファロが目的地に着いた時本物の兵糧と創り物の兵糧が積み重なっているという状況にはなっていなかった。
兵糧の前に到着したリファロはこれから合流する予定の魔族がウイルテンに着くまでに必要な食料の量を『回答者』で調べ、その後近くに保管されていた兵士たちの服を適当に集めると全身を竜へと変えて竜の大きな前脚で魔族たちに渡す予定の食料を横にずらした。
竜の体の大きさに慣れていないリファロの雑な作業のせいで地面が大きく削れてしまったがどうせ『裏世界』は三十分で消えるのでリファロは特に気にせず、残った兵糧を全て焼き払うと今も逃げているはずの魔族たちのもとへと向かった。
肉体的にはともかく精神的には疲弊し切っていた魔族たちは三十分程かけて二キロも進めておらず、竜となり『裏世界』を飛んで移動したリファロはすぐに魔族たちに追いつけた。
自分たちの進路の右側に大量の食糧や服が突然現れた瞬間、魔族たちは全員が表情を硬くして中には逃げ出そうとした者もいたが、元の姿に戻ったリファロの存在に気づくと一応は落ち着きを取り戻した様子だった。
「放置してしまってすみません。でもアッキムの兵士たちは全員追い払ったのでもう大丈夫です」
このリファロの発言を受けて後ろを振り向いた魔族たちもいたが一国の軍隊を追い払ったという得体の知れない人間の発言を魔族は誰一人信じる事ができず、そんな魔族たちの自分への疑いを『回答者』で把握していたリファロはとりあえず必要な情報を事務的に伝える事にした。
「追い払ったって言ってもアッキムの兵士たちをアルベールから完全に追い払うにはまだ時間がかかって、リキュアナにすぐには戻れないのでとりあえずはこのままウイルテンに向かって下さい。そこにはミルヒガナ様もいますから」
「……あなたの魔法で送ってはもらえないのでしょうか?」
今回リファロが助け出した魔族たちは『回答者』で創られたディルシュナが消えるまでの間にリファロの能力を聞いており、疲れた状態でウイルテンまで歩くのは避けたかったアルラウネの一人がこの質問をした。
そしてこの質問をしてすぐにアルラウネは自分の質問がリファロの怒りを買う可能性に気づき表情を硬くしたが、植物の性質を持つアルラウネが長距離の移動を避けたがる気持ちも理解できたのでリファロは全く気分を害する事無くアルラウネの質問に答えた。
「悪いんですけど僕は今アッキムの人たちを相手に手一杯でみなさんの移動に魔法を使う余裕はありません。でもアッキムの人たちが追ってこない事だけは保証するのでウイルテンまで移動するのが嫌ならこの辺りで全部終わるまで待っててもらっても構いません。一応食料と、……大きさとか形が合うか分かりませんけど服も少し持ってきましたし」
捕らわれていた魔族は全員が女で裸に近い姿の魔族も少なくなかったのでリファロは正直目のやり場に困っていた。
裸の魔族が多い理由はアッキム王国軍が冷遇していた事だけが理由ではなく一部の魔族の生活習慣が原因だった。
開戦前に融和派と交流があったアルベール魔王国北部の魔族の中には服を着ている魔族も多かったそうだが南部では上半身には何も纏わない魔族も多く、魔族を商品としか思っていなかったアッキム王国軍がわざわざ服を用意するわけも無かった。
この魔族の生活習慣についてはリファロも思う事はあったがアルベール魔王国の幹部ですら上半身には何も着ていない者が多かった。
異種族の生活習慣に口を出して関係を悪化させたくない、落ち着いた場合の自分の拠点がアルベール魔王国北部、今後話す機会の多いはずの魔王の一族がきちんと服を着ていたなどの理由からリファロは魔族の衣服事情に口を出すつもりは無かった。
「ここにいても安全だとは思いますけど僕も様子を見に来る様子は無いですし、僕はアッキムの人たち追い払った後の詳しい話とかはできないんでウイルテンに一度は行った方がいいとは思いますけどその辺りはお任せします。……一応この後ミルヒガナ様に会う予定なんでみなさんの事は伝えておきますけど」
このリファロの発言の最後の部分を聞いた魔族の一部がどうして自分たちはウイルテンに送ってもらえないのかと不満を持ち、この事を『回答者』で察知したリファロは詳細を省きながら『奉身者』に制限がある事などを魔族たちに伝えた。
リファロの魔族たちへの説明は十分程かかったがこの間魔族からの質問は数える程で、自分が信頼されていない事はしかたないにしても五千人程の集団に明確な代表がいない事は問題だとリファロはわずか十分間で思い知らされた。
ハーピィからの自分たちだけ飛んでウイルテンに向かってはいけないのかという質問に答えられるような立場にリファロはおらず、この質問による魔族間の不和に対応できる器量も持っていなかったからだ。
このまま魔族たちを置いてこの場を後にする事にリファロは少なからず不安を覚えたがこの場に残っても何かができるわけでもなく、彼らに関してはミルヒガナたちに任せて問題無い事を知っていたので『裏世界』を使い魔族たちの前から姿を消した。
助け出した魔族たちと別れて数時間後、リファロは頃合いを見計らいウイルテンに転移した。
戦場の様子を離れた場所から確認していたのはアッキム王国だけではなく、ミルヒガナの指示を受けたハーピィ数人も上空からリファロとアッキム王国軍の戦闘の様子を確認しておりこの事をリファロは『回答者』で知っていた。
そして人間の脚では四日かかる距離も空を飛べるハーピィにとっては数時間の距離で、諜報役のハーピィが帰ってからの方が話が早いと考えたリファロはハーピィたちの到着から一時間程待ってからウイルテンに転移した。
リファロがウイルテンに転移するとルドディスたちアルベール魔王国の幹部はリファロを待ちわびていた様子で到着後すぐにミルヒガナが待つ天幕へと案内された。
「人間たちから私たちの同胞を救って下さったと聞きました。ありがとうございます」
礼の言葉と共にリファロはミルヒガナからハーピィによる上空からの監視について伝えられ、ハーピィによる監視を今知ったかの様な態度を取りながらリファロはミルヒガナたちとの話を続けた。
「まだ三ヶ所残ってますからこれからですけどね。とりあえずうまくいって安心しました。明日の戦いでも勝てれば他の場所の兵士も撤退するかも知れませんから期待してて下さい」
リファロのこの発言を受けて二日前にリファロに食って掛かってきたリザードマン、トリュゼッハの表情が険しくなったが発言は無く、ここがアッキム王国との戦闘の正念場だなと考えながらリファロはルドディスにある頼み事をした。
「ハーピィで戦いの様子を確認してたって言うのを聞いて一つ思ったんですけどハーピィを一人お借りできませんか?実際に見て思ったんですけどハーピィの飛ぶ速さって想像以上でもし協力してもらえれば作戦の幅も広がると思うんです」
アッキム王国軍の撤退の可能性が現実味を帯びた今、ハーピィ一人程度の助力を惜しむつもりはアルベール魔王国側には無かった。
しかしミルヒガナたちはどうしてもリファロに確認しておきたかった事があり、アルベール魔王国の軍事担当のルドディスが代表してリファロに質問した。
「もちろんそれは構わないがその前に質問がある。リファロ殿の戦いを見ていたハーピィからリファロ殿が背中からハーピィの翼らしき物を生やしていたと聞いた。これは本当か?」
「はい。僕は人間ですけど一度会った種族の能力を使う事ができるんです。……制限はありますけどね」
このリファロの発言には一部嘘が含まれており、リファロはその気になればまだ一度も会った事が無い天使が使う各種魔法も『回答者』で使う事ができた。
しかしアッキム王国軍が自分の活動への天使の関与を疑う事態を避けるためにリファロは今回天使の魔法は一切使わず、飛行に竜の翼ではなくハーピィの翼を使っていたのも同様の理由からだった。
「……実際にやってみてくれないか?」
「すみません。さっきも言いましたけど他の人の能力使える数には限りがあって今日の戦いでもたくさん使いました。だから明日の戦いの事を考えると少しでも能力は温存しておきたくて……」
明日の事を考えて『回答者』の切り札を温存しておきたいというリファロの発言は本当で、ルドディスと話している内に『創造者』という切り札の名前をひらめきながらリファロは話を続けた。
書き溜めていた分が無くなりそうなのでこれからは水曜日と土曜日に一話ずつを基本に投稿します




