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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
1章

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17/28

本陣襲撃

「ちょこまかと逃げやがって!」

「もう逃がさないぞ!」


 機動力に難がある魔導装甲で人間一人を追うという仕事がここまで大変だと思っていなかった兵士たちは苦労しながらも分身2を完全に包囲し、兵士たちが魔導装甲の武器を分身2に向ける中、ピウロンは分身3に話しかけた。


「おい!仲間の命が惜しければ、」


 今すぐあの化物を消せと分身3に命令しようと考えていたピウロンだったがそんなピウロンの視線の先にいた分身3の隣には魔導装甲に包囲されているはずの分身2の姿があり、『転移』を使い難無く危機を逃れた分身2に軽く頭を下げられてピウロンは歯噛みした。


 駄目だ。


 これ以上使えないと考えていた転移魔法を敵があっさり使った瞬間、ピウロンはこれまでにいくつか考えていた策を全て放棄するしかなく、後何回転移魔法を使えるか分からない敵と不死身の敵がそれぞれ別にいるという状況にほぼ戦意を失いながらも部下たちに指示を出した。


「さっき奴は発動中と言っていた!あの血の化け物も何らかの魔法には違いない!無限には発動できないはずだ!風属性を使える者は竜巻ではなく広く風を起こしてあの化物の動きを止めろ!」


 今この場に残っている魔導装甲は二十八機でこれらの装着者の内、風属性の魔法の使い手は十二人でピウロンはこの中に含まれていなかったが、風属性の魔法の使い手十二人はすぐにピウロンの指示に従い動き出した。


『血の乙女』相手に勝利を諦めて足止めを狙ってきたピウロンの指示に分身二人は感心し、敵の準備が整う前に攻撃を仕掛けてもよかったのだが魔導装甲で強化された風属性の魔法での足止めが『血の乙女』に通用するかは知りたかったのでしばらく待つ事にした。

 そして一分とかからずピウロンの部下たちは分身二人を包囲した。


「敵の動きが見えなくなるから風属性の使い手以外は攻撃をするな!」


 このピウロンの指示の直後、分身二人と『血の乙女』を全方位から強力な突風が襲った。


「うわ!」


 突風を受けた瞬間地面から浮かび上がり全身に激痛を覚えた分身2はこの突風を受け続けたら十秒も持たずに死ぬと判断してすぐに『転移』でピウロンたちの背後を取った。


 先程と今回の『転移』の結果、分身2は『無敵化』と『転移』しか使えない状態になったが今後の作戦に支障は無く、一方の分身3は上空に吹き飛ばされて全方位からの突風に体中を叩きつけられながら『血の乙女』に魔導装甲の装着者を全員殺すように指示を出した。


「風を起こしていない者は逃げた敵の奇襲に警戒しろ!」


 敵の一人が転移魔法で逃げた事は気がかりで部下たちに注意こそ促したが、転移直後に誰も奇襲されなかった事からピウロンは多少願望混じりの自覚はあったが先程の転移魔法は攻撃のためではなく苦し紛れの逃走のためだったのだろうと判断した。


 そしてとりあえずあの化物と使役主の動きを魔法が使えなくなるまで封じれば勝ちだと考えていたピウロンの狙い通り、魔導装甲で強化された風属性の魔法による足止めは『血の乙女』にも効果的で兵士たちが魔法を発動した直後から『血の乙女』は空中で完全に動けなくなってしまった。


「……すごいな」


 切り札である『血の乙女』さえ発動すれば魔導装甲込みでも兵士を小細工抜きで蹂躙できると考えていた分身2は単純な力技で『血の乙女』を足止めしたアッキム王国軍の兵士たちに素直に感心し、これは『血の乙女』が体を液体状に変えても無駄だろうなと考えていた分身2の視線の先で『血の乙女』は体を薄くして降下し始めた。


 そして地上に到着した『血の乙女』は刃状の脚を四本生やして地面に潜り、『血の乙女』が地中に逃げた事を受けてピウロンは再び部下に指示を出した。


「……まだ動けたか。……クロフォード、メイブン、あの化物を空中に打ち上げられないか?」


 強化された魔法での広範囲の殲滅が目的の一つの魔導装甲の装着者に遠距離攻撃に不向きの土属性の魔法の使い手は少なくこの場には二人しかいなかった。

 そしてピウロンに名前を呼ばれた二人は地中で『血の乙女』が地面を掘り進む音を頼りに五メートル四方に渡り地面を持ち上げ、地面ごと持ち上げられた『血の乙女』は再び空中で完全に動きを封じられてしまった。


 このままの状態をアッキム王国軍側が維持できれば『血の乙女』は後六分程で消滅し、分身3は二体目の『血の乙女』を召還するしかなかったが分身たちは魔導装甲で強化された魔法の全力での使用が三分も続かない事を知っていたので特に慌ててはいなかった。


 そして分身二人の予想通り、『血の乙女』の動きを封じていた兵士たちの風の勢いは徐々に弱まり、地中から打ち上げられて二分程経った頃、『血の乙女』は弱まった突風の中を力づくで移動して近くにいた魔導装甲に攻撃を仕掛けた。


『血の乙女』に攻撃を仕掛けられた魔導装甲の装着者は右腕の剣を振り下ろしたが剣は『血の乙女』の体を通過するだけで、その直後魔導装甲の装着者は『血の乙女』の突き出した腕で心臓を潰された。


「もう無理だ!」


 風魔法による束縛が解かれてからわずか五秒の間に『血の乙女』は魔導装甲の装着者を七人殺し、どんな攻撃も通用しない『血の乙女』相手に最後の策が通用しなかった兵士たちは一斉に逃げ出した。


 この場での無駄死にを避けるためにピウロンも逃げ出していたのだがこれ以上の敵を逃がすつもりは分身2にも3にも無く、クロフォードとメイブンが最後の抵抗にと作り出した土の箱を二秒とかけずに破壊した『血の乙女』によりこの場にいた兵士たちは全滅した。


「やれやれ、あの風魔法にはびっくりしたね」


 魔導装甲で強化された風属性の魔法で広範囲に突風を起こして敵を足止めするという戦法をアッキム王国軍はアルベール魔王国への侵攻開始以降一度も使った事が無く、先程の戦法はピウロンの機転によるものだった。


 このため予想外の戦法で一時的にとはいえ『血の乙女』が動きを封じられた事に分身2は驚き、声を出せない分身3もうなずく事で分身2の意見に同意した。


 そしてリファロ本人が常には無理でも二分毎に分身たちの戦況を『回答者』で把握する事になっていたので今回の結果は今後に活かされるはずだと分身二人は考えており、自分の手札が増えるのでアッキム王国軍の兵士たちにはもっとがんばって欲しいとも考えていた。


「じゃあ、後一回がんばってね」


『血の乙女』を解除した事で立ち上がる事すら苦労するようになっていた分身3に分身2は手を貸し、『血の乙女』解除後の分身3がふらつく姿をアッキム王国軍の諜報員に見られていた事に気づかないまま分身二人は三ヶ所目の戦場へと向かった。


 三ヶ所目と四ヶ所目の戦場がほぼ同時に『血の乙女』に蹂躙されていた頃、リファロは『裏世界』側のアッキム王国軍の本陣に到着していた。

 前線に配置されたアッキム王国軍の兵士たちが予想以上の抵抗こそ見せながらも最終的には『血の乙女』に押し切られ、後三分足らずで本陣に現れる事をリファロは知っていた。


 しかし彼らが『血の乙女』の恐怖を伝えたところでまだ九万人以上いる本陣の兵士たちが逃げ出さない事もリファロは知っており、本陣の兵士たちにも逃げ帰ってもらうために適当に暴れようと考えながら『血の乙女』による虐殺から生き延びた兵士たちの到着を待った。


 そしてリファロが数分待ち『回答者』で創り出したディルシュナや『裏世界』が後一分程で消えようとしていた頃、敗走してきた兵士七百人程が本陣に姿を現し、彼らの到着を知ったリファロは後三分程待ってから兵士たちの前に姿を現そうと考えながら本日二個目となる『裏世界』を創り出した。


「落ち着け!」


 ベイガンと共に待機していた兵士たちも『血の乙女』から逃げ出してきた兵士たちにも自分たちが負けた際の状況を魔導通信機で本陣に報告する余裕など無かった。


 しかし各戦場には少し離れた場所に諜報員が隠れており、リファロがわざと見逃した彼らからの報告で本陣にいた兵士たちは『衝撃波』と『血の乙女』の詳細もベイガンの死も知っており魔導装甲を並べてリファロの襲撃に備えていた。


 このため本陣の指揮を任されていたベイガンの側近、エオガジェスはもちろん他の兵士たちも動揺こそしていたが戦う気構えはできていたのだが、実際に死にそうになった兵士たちはそうもいかなかった。


「無理だ!早く逃げよう!」

「何だ?あの血の化け物は?あんなの聞いてないぞ!」

「後ろからいきなり現れたと思ったら他の奴らが次々に殺されていって……」


「あんな化け物が何人もいるんだぞ!今すぐ逃げないと殺されるぞ!」

「……ベイガン将軍も殺された!あいつは本当に自由に転移してくる!俺たちが何をしても無駄だ!」


 必死の形相で本陣に逃げ帰ってきた兵士たちは口々に各戦場で目にした恐怖を語り、捨て駒の意味合いが強かった兵士たちにそこまで期待していなかったとはいえ目の前の兵士たちのあまりの情けなさにエオガジェスは怒りすら覚えた。


 しかしエオガジェスはベイガンから自分が死んだ場合の指示を受けていたのですぐに冷静さを取り戻し、逃げ帰ってきた兵士たちの恐怖が他の兵士たちに移る前に怒号を飛ばした。


「あの男はクララスのギルドから逃げた様な男だぞ!お前たちがどんな魔法を見たのかは知らないが大勢を相手にできるような魔法ではないはずだ!その証拠にあの男は直接本陣を、」

「来ましたよ?」


 恐怖に怯える兵士たちを何とか黙らせようとしていたエオガジェスはリファロを恐れる必要が無い理由を複数思い浮かべて兵士たちに伝えようとしていたが、そんなエオガジェスの演説は突然聞こえてきた声により中断された。


 そして自分の背後から聞こえてきた声に驚きながら急いで振り向いたエオガジェスのすぐ目の前にリファロがおり、この間合いなら斬り殺せると思ったエオガジェスは反射的に剣を抜いてリファロを殺そうとした。


 しかし『裏世界』に入れられた事でエオガジェスの攻撃は空を切り、突然本陣から自分以外誰もいなくなった事を受けてエオガジェスは慌てて周囲を見渡した。


「どこに行った!姿を見せろ!」


 まさか自分以外の兵士たちは全て殺されてしまったのかとすら考えながらエオガジェスは剣を振り回し続け、三秒程経ってからリファロがエオガジェスを『裏世界』から戻すとエオガジェスが振っていた剣は近くにいた兵士の胸を斬り裂いた。


「なっ!」


 いつの間にか周囲に兵士たちが現れていた上に自分の剣が兵士を傷つけた事にエオガジェスは驚き、不意打ちで胸を斬り裂かれて即死した兵士に視線を向けながら呆然としていたエオガジェスにリファロは話しかけた。


「すみません。話し合おうと思ったらいきなり攻撃されたのでそれなりの対応させてもらいました。……他のみなさんも攻撃したかったらどうぞ?転移魔法で僕以外の人に当てるだけですから」


 こう言ってリファロが周囲に視線を向けるとリファロに敵意を向けていた兵士たちがリファロから視線を逸らし、今すぐ自分に攻撃を仕掛けるつもりの兵士がいなくなった事を確認してからリファロは再度エオガジェスに話しかけた。


「ブラザークさんとかウェルマスさんとかにも言ったんですけど降伏して下さい。このまま逃げるなら追撃はしませんから。……さっき見当違いの事言ってましたから訂正しておきますけど僕その気になればこの場にいるみなさんを全員殺せますよ?」


 こう言うとリファロは『回答者』で竜の能力を再現して誰もいない場所に口から炎を撃ち出し、目の前で瞬く間に燃え盛る炎を見て兵士たちの間に動揺が走る中、リファロは『血の乙女』から逃げてきた兵士たちに視線を向けた。


「僕はさっきの化け物をまだ十回以上召還できます。嘘だと思うなら試してみましょうか?……戻ったら殺しますよ?」


 剣を左の手のひらに当てた自分を見てアッキム王国とは逆方向に逃げ出そうとした兵士たちをリファロは低い声で脅し、リファロの脅しを受けて恐る恐るといった様子で本陣の中に入っていく兵士たちの情け無さにエオガジェスは再度怒りを覚えた。


 しかし敵に切り札を使わせた時点で前線に配置された兵士たちの仕事は終わっていると自分に言い聞かせてエオガジェスは彼らには何も言わず、消耗を隠しているはずの敵に怒号を飛ばした。


「この場には九万五千人もの兵士がいるんだ!あの化け物は十分で消えて一度呼んだら立っているのもやっとな事は分かっている!貴様の手の内は全て把握している!虚仮脅しは通用しないぞ!」


 このエオガジェスの発言に伴い四十機程の魔導装甲がリファロを左右から包囲し、魔導装甲の後ろにいた兵士たちが戦闘態勢に入る様子もリファロは確認した。

 そしてエオガジェスの攻撃の指示と同時にリファロはハーピィの翼を背中から生やすと『裏世界』に入り、本陣中央の上空に移動すると『裏世界』から姿を現した。

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