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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
1章

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16/28

『血の乙女』

「……どうしてお前がここにいる?三つ子だったのか?」

「さあ?五つ子かも知れませんし、十つ子かも知れません。……この先にまだ何万人もいるんですから別にあなたたちじゃなくてもいいんですからね?」


 リファロがこう言うと同時にリファロの死角にいた兵士の一人が手のひら大の水球をリファロ目掛けて撃ち出し、この攻撃を『回答者』で察していたリファロは『裏世界』に逃げ込み攻撃を回避した。


『裏世界』を移動して二秒程で兵士の後ろに移動したリファロは『裏世界』を出ると同時に剣を振るい、攻撃の瞬間までこの世界に存在しなかったリファロの攻撃を兵士は回避どころか察知すらできず背中を斬り裂かれて死亡した。


 その後リファロは『裏世界』を何度も出入りして兵士たちに『転移魔法』を何度も使う姿を見せ、話にしか聞いていなかった転移魔法連発を見せつけられて恐怖の表情を浮かべる兵士たちの視線を受けながら口を開いた。


「……侵略者相手に正面から正々堂々と戦うつもりはありません。後、三秒待ちます。三、二、」


 リファロが二と唱えた時には残されていた兵士たちは一斉に逃げ出しており、ようやく分身4が目的地に着いた事で楽になった事に安堵しながらリファロは九万人以上の兵士がいる本陣へと向かった。


 リファロがベイガンたちを殺して本陣に向かおうとしていた頃、分身2と3は百メートル程歩き二ヶ所目の戦場に到着していた。


 二ヶ所目の戦場にも五百人の兵士が待ち構えており、前線に立っていた魔導装甲の装着者たちは『衝撃波』を警戒して顔を腕で守り、一般の兵士も最前列の兵士のほとんどが盾か盾代わりの木箱などを自分たちの前に置いていた。


 金属製の盾はともかく木箱程度なら中身次第だったが分身2が温存していた『衝撃波』で破壊する事自体は可能だった。

 しかし『衝撃波』の威力は守りを固めた相手には心許無いもので急いで運ばれてきたらしい木箱五十個程に合わせて盾まで相手にしては五分以内で兵士五百人を壊滅させる事は難しかった。


 このため分身2と3は予定通り切り札を切る事を決め、そんな分身たちに魔導装甲を装着した兵士三十二人が立ち塞がった。


「お前らの『衝撃波』とやらの威力が大した事が無い事はもう分かっている!俺たちの仲間の動きを封じたのもどうせ『無敵化』を使っての小細工だろう?もう油断はしない!後少しでも近づいたら魔法で撃ち殺してやる!」


 魔導装甲の装着者たちの代表者らしき男の発言通り、魔導装甲の装着者たちは全員が隊列を組みお互いを守りながら左腕の大砲を分身たちに向けており、魔導装甲の装着者の後ろに左右に分かれて布陣していた一般の兵士たちも魔法や弓でいつでも攻撃できる準備をしていた。


「じゃあ、後はお願い。僕も適当なところで突っ込むから」


 遠距離戦に徹するつもりらしいアッキム王国軍の兵士たちを前にして自分が突撃しても『無敵化』での時間稼ぎが関の山だと考えて分身2は分身3に先陣を任せ、そんな分身2の視線を受けながら分身3は剣で自分の左の手のひらを切った。


 分身たちとアッキム王国軍の兵士たちの間には五十メートル程の距離があり、兵士たちは分身2が剣を抜いた事にすら気づいていなかった。

 初戦の敗北に気を引き締めた兵士たちは敵がこれ以上近づいてきたら魔法や矢を即座に叩き込むと決めており、敵が転移魔法で間合いを詰めてきたら味方諸共魔法で攻撃するとまで事前に決めていた。


 しかしそんな兵士たちの作戦や覚悟もあくまでクララス王国で流れていたリファロの情報に基づいたもので、敵が射程に入ったら刺し違えてでも殺してやると決意していた兵士たちはこの世界で初めて『奉身者』の切り札、『血の乙女』の犠牲者となった。


 分身3が左の手のひらに傷をつけた瞬間、分身3の傷口からは普通の流血とは比べ物にならない勢いで血が流れ始め、二秒もかからずに分身二人の前に血でできた人型が現れた。

 分身3が『血の乙女』で創り出した人型は眼も鼻も口も無い顔と女性らしい体をしており、細い腕こそ生えていたが脚は無く足下は服の裾の様に血が広がっているだけだった。


 そして五十メートル程の距離を挟み三人目の敵が突然現れた事に気づいた兵士たちの間に動揺が走り、そんな兵士たちにこの場の指揮官、ピウロンが怒号を飛ばした。


「慌てるな!転移してくるのではなく化け物を創り出したのは転移魔法が使えなくなった証拠だ!どんな敵でも矢や魔法を叩き込めば殺せる!生き残る事なんて考えるな!敵を殺す事だけ考えろ!」


 このピウロンの生き残る事を考えるなという指示に反感を持った兵士は少なくなかったがさすがに口にする兵士はおらず、ピウロンが指示を終えた直後には『血の乙女』は魔導装甲の装着者たちの足下にいた。


 分身3を左腕に抱えながら五十メートル程の距離を二秒程で詰めた『血の乙女』は分身3を地面に降ろすと左腕を思い切り振るい近くにいた魔導装甲の右脚に叩きつけた。


「なっ!」


『血の乙女』に右脚を払われた魔導装甲の装着者は最初敵から攻撃を受けた可能性を全く考えず魔導装甲が故障したのだと考えた。


 厚さ二センチの鉄程度なら紙の様に引き裂いてしまうオーガと肉弾戦を行う事も想定されている魔導装甲が人間大の敵の攻撃で倒されるなど考えもしなかったからだ。


 そして魔導装甲が背中から倒れた衝撃で一瞬息ができなくなった装着者は次の瞬間視界に飛び込んできた紅い何かの正体を知らないまま顔を潰されて死亡した。


「この血の化け物は得体が知れないぞ!決して近づくな!」


 明らかに自分たちの常識の外の存在とはいえ人間大の何かが一撃で魔導装甲を倒した直後、ピウロンは自分の眼が信じられず放心状態になりそうになった。


 しかし先程の兵士たちへの指示を思い出してピウロンはまだ装着者の生死も分からない魔導装甲諸共『血の乙女』を竜巻で吹き飛ばそうとし、そんなピウロンの視線の先で一度地面を蹴った『血の乙女』は通常の兵士たちへの攻撃を始めていた。


『血の乙女』が剣状に変形させた右腕を振るうと右腕は一瞬で十メートル近くまで伸び、最前列の兵士を構えていた盾ごと吹き飛ばした『血の乙女』の一撃で七十人程の兵士がほぼ同時に宙を舞った。

『血の乙女』は一瞬で二十メートルを移動する走力と五百キロの物を軽く持ち上げる怪力を持ち二十メートルまで伸びる両腕は刃に変える事もできた。


『血の乙女』の代償は当然リファロの血で、十分で消える『血の乙女』をリファロは同時に二体は無理だったが続けて二体まで創る事ができた。

『血の乙女』の代償に払った血は食事と時間経過でしか回復せず、一回分失うだけならふらつく程度で済んだが二回立て続けに使うと意識を確実に失った。


 伸ばした腕で百人、百五十人と兵士を殺していく『血の乙女』の圧倒的な強さを前に一般の兵士が戦意を失い逃げ惑う中、魔導装甲の装着者の一人、フゴノールは『血の乙女』に恐怖を抱きながらも戦意を失ってはいなかった。


 おそらくあの血の化け物を使役しているはずの敵が無防備にも背中を向けて自分の足下にいたからで、転移魔法で逃げる事を前提にして無防備な姿を晒しているのかも知れないと考えながらもフゴノールは化け物の使役主に剣を振り下ろした。


 そして転移魔法での回避はともかく何らかの反撃はやめて欲しいと怯えながらフゴノールが振り下ろした剣は分身3の体を頭から両断し、あまりのあっけなさに驚いていたフゴノールが見下ろす中、明らかに即死だった分身3の死体が左右共に起き上がり一瞬で結合した。


 その後分身3は何事も無かったかの様に魔導装甲に乗るフゴノールを見上げ、そんな分身3の胴体をフゴノールは悲鳴と共に魔導装甲の剣で左右に斬り裂いたが今回も分身3の体はすぐに元通りになった。


「おい、手伝ってくれ!こいつに剣は効かない!」


 このフゴノールの頼みを受けて近くにいた魔導装甲の装着者たち二人が駆けつけ、フゴノールたちは分身3に三方向から直径二メートル程の火球や大木や家屋を数秒で粉々にする竜巻などを撃ち出した。


 これらの魔法を受けて分身3の体は焼かれ、斬り刻まれたが次の瞬間には元通りになり、体を焼かれながら炎の中から這い出てきた分身3が起き上がる前にフゴノールは分身3目掛けて魔導装甲の両手を振り下ろした。


「死ね!死ね!死ね!……死ねよ……」


 フゴノールの祈る様な叫び声と共に魔導装甲の両手が左右交互に振り下ろされる度に分身3の体は潰れたがすぐに元通りになり、致命傷どころか原型を留めない程体を潰されても何度も元通りになる分身3を前にフゴノールはもちろん他の二人も恐怖の表情を浮かべていた。


 そしてそんなフゴノールたちから恐怖の表情を向けられていた分身3だったが『衝撃波』の代償で声を失っていなければさすがに悲鳴の一つはあげていた。

 そして何度経験しても致命傷を連続で負うのはきついなと考えながら分身3が『血の乙女』を呼び寄せると同時に再び分身3の頭が魔導装甲の腕で叩き潰された。


 分身3が『血の乙女』を呼び寄せる直前、わずか数秒で二百人近い犠牲者を出していた一般の兵士たちの士気はほぼ失われていた。


 金属製の盾を構えても『血の乙女』が振るう腕の一撃で腕の骨が折れ、木製の箱など何の気休めにもならないという状況で一般の兵士たちは一目散に逃げ出し、そんな兵士たちの背中に『血の乙女』は容赦無く刃に変えた両腕を振るった。


「おい!逃げるな!戦え!」


『血の乙女』と対峙した兵士たちの中には先程のピウロンの指示に従い戦おうとする者もわずかながらおり、彼らは防御も回避も全く考えずに暴れ続ける『血の乙女』に魔法や矢で攻撃を仕掛けた。


 背中を見せて逃げ出す兵士二十人程を『血の乙女』が左腕で両断する中、兵士三人が『血の乙女』に左右から火球や水球、風の刃などを叩き込み、これらの魔法で『血の乙女』の頭は吹き飛び体は斬り刻まれた。


 しかし『血の乙女』は人間の形をしているだけの血の塊なのでいくら傷つけられてもリファロが能力を解除しない限り不滅で、更に『血の乙女』発動中のリファロはどんな傷を受けても瞬時に再生するので『血の乙女』に立ち向かおうとしている兵士たちの攻撃は全て無駄だった。


 リファロに操られているだけで思考能力など無い『血の乙女』はできるだけ多くの人間を殺せという最初の指示に従い逃げ出す兵士たちを優先して襲っていたので、戦意を保っていた兵士たちは後回しにされていた。


 このため戦意を保っていた兵士たちは『血の乙女』に数十発攻撃を叩き込めたのだが攻撃を受けても多少動きを止めるだけで『血の乙女』は虐殺を続行し、『血の乙女』の足下や進行方向に土属性の魔法で創られた壁は紙の様に破られていった。


「おい!この血の化け物は多分不死身だ!操ってる方をやれ!」

「人間二人相手にいつまでもたもたしてやがる!」


『血の乙女』に蹂躙されている兵士たちの無責任な叫び声にフゴノールは思わず舌打ちしてしまったが、それでも魔導装甲の両腕を振り下ろしての分身3への攻撃は止めていなかった。


 しかし既に三十回は死んでいるはずの分身3は顔をしかめて地面に倒れながらも何度も蘇りフゴノールに視線を向け続け、何度殺しても蘇る上にあんな化け物を召還できる敵が後一人いるという事実にフゴノールはもちろん近くにいた魔導装甲の装着者たちも呆然としていた。


 そして戦意はあるが何をどうすればいいのかと戸惑っていたフゴノールの体を強い衝撃が襲い、あの血の化け物がこっちにきたかと身構えた次の瞬間にはフゴノールはあごから頭を『血の乙女』に斬り裂かれていた。


「『血の乙女』発動中の僕って不死身だから何しても無駄ですよ!」


 気づいた時にはフゴノールが殺されていた他の魔導装甲の装着者二人は魔導装甲三機から逃げ回りながらの分身2の発言を受けて動揺し、そんな二人に『血の乙女』は容赦無く襲い掛かった。


 あの血の化け物がこっちに戻ってきたという事は自分たち以外の兵士は全滅したのか。

 先程の敵の使役主が不死身という発言が本当ならあの化物に対抗する手段など無い。

 いや、発動中という発言を考えるとあの化物にも活動時間などの限界はあるはずだ。


 分身2の発言を受けて様々な事を考えたピウロンだったが落ち着いてまずはもう片方の敵を殺そうと考え、そんなピウロンの視線の先では魔導装甲七機に囲まれた分身2が逃げ場を失っていた。

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