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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
1章

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15/28

『衝撃波』

 リファロが分身やディルシュナと共に捕らわれていた魔族の救出を始めていたのと同時刻、ベイガンの部下の内、最前線に配置された五百人から三十メートル程離れた場所にはリファロの分身二人がいた。

 これらの分身は三十分前のリファロが持っていた知識を持っていたのでアッキム王国軍の動きもこれから自分たちが何をするべきかも理解していた。


 しかしこの世界についてからずっと共にあった『回答者』が使えない事には不安を感じている様子で、無意識の内に周囲に視線を向けながら分身たちは兵士たちへと近づいた。


 一方の兵士たちは斥候から敵が二人と聞かされていきなりベイガンからの情報が間違っていた事に不満とわずかな警戒心を抱きながら武器や魔法の準備をし、誰が敵を殺したかきちんと分かる距離まで攻撃は控えるという事前の打ち合わせ通りリファロが魔法の平均的な射程に入っても攻撃を開始しなかった。


 そして自分たちが狩る側だという思い上がりの代償を兵士たちはすぐに払う事になった。


 兵士の一人、ムルゲンは剣こそ腰に帯びていたがリファロは生まれ持った風属性の魔法で仕留めるつもりで、戦闘が終始自軍の圧勝で進み初陣となるこれまでの戦闘で手柄をあげる事ができなかったムルゲンは今回が初陣となる他の兵士たち同様自分が敵を仕留める事を夢見て今回の戦闘に参加していた。


 しかし実際はムルゲンたちは臆する事無くこちらに進んでくる敵二人と自分たちの間に並ぶ魔導装甲十体を見てすぐに活躍を諦め、敵二人は魔導装甲を装備した兵士に勝つどころか触れる事すらできないだろうと考えていた。


 そんなムルゲンたちが見守る中、リファロの分身の片方が突然大声をあげ始め、突然の大声に驚いた数秒後、兵士たちが次々に吹き飛ばされていった。

 ムルゲンの左には槍を持っている兵士がおり、ムルゲンはこの兵士の名前すら知らなかったが今日の競争相手ぐらいには認識していた。


 そんなムルゲンの耳に肉が潰れる様な音と悲鳴が聞こえてきた次の瞬間、ムルゲンの左にいた兵士は首を大きくのけぞらせて後ろに倒れ込み、その後、驚くムルゲンの見ている前で兵士が十人、二十人と倒れていった。


「……まさか、これが『衝撃波』?」


 片目を潰される、鼻の骨を折られる、肩の骨を砕かれるなど最初に受けた傷は様々だったがムルゲンの見ている前で兵士たちは上半身の数ヶ所に立て続けに傷を負い、右腕を何らかの攻撃で折られた兵士が次の瞬間に首を潰されて死ぬ瞬間を見た瞬間、ムルゲンは恐怖の表情を浮かべながら魔導装甲に視線を向けた。


「多分『衝撃波』ってやつだ!威力は大した事無いからびびるな!」

「顔を守りながら近づけ!」


 魔導装甲の装着者は全長四メートル程の魔導装甲の上半身に収まる様に搭乗しており、顔以外は鉄の部品で守られながら右腕に装備された剣か左腕に装備された魔法を強化して撃ち出せる大砲で攻撃して戦闘を行っていた。


 アッキム王国首脳陣はマッカランたちの活動の結果、『奉身者』の内、『無敵化』、『衝撃波』、『治癒』、『転移』の概要は知っていたので、魔導装甲の装着者たちはもちろんムルゲンたち一般の兵士も次々に自軍の兵士たちを襲う攻撃の正体をすぐに察する事ができた。


 リファロは声を代償にすることで声を五分間衝撃波に変える事ができ、『衝撃波』の威力は鉄は無理でも手のひら大の石程度なら一撃で砕く事ができてこの事はアッキム王国軍の兵士たちにも伝わっていた。


 しかし自分たちの魔法とは比べ物にならない程の連射性に加えてここまで攻撃が見えないとはアッキム王国軍の兵士は誰一人思っておらず、ムルゲンは周囲の兵士たち同様左脇腹に続いて胸と右肩の骨を何かに砕かれて胸への一撃が致命傷となり死亡した。


「くそっ、ふざけやがって!」

「顔は絶対に守れ!」

「まずはあのでかい声出してる方だ!」


 今回が初めての実戦投入となる魔導装甲に期待されていた役割はがれきの撤去などの力仕事、オーガとの接近戦、強化された魔法での大勢の敵の殲滅などだったので機動性は重視されていなかった。

 このため魔導装甲の装着者たちは小走りで逃げ回るリファロの分身二人に追いつけず、大砲を構えた隙を突かれて既に二人の装着者が『衝撃波』で倒されていたのでうかつに魔法による攻撃も行えなかった。


 そして『衝撃波』は塊を連続して飛ばしているわけではなくリファロがその気になれば五分間常に出し続ける事ができたので、密集している兵士たちは『衝撃波』にとってはただの的に過ぎなかった。


 しかし『衝撃波』の威力は人間が手で持てる鈍器の域を出なかったので守りを固めた魔導装甲の装着者には通用せず、八人で弧を描く形で二人の敵を追い詰めていた彼らは自分たちはもうすぐ勝てると信じていた。


 そんな彼らの内、端にいた一人、サラドに分身二人が自分から近づき、機動力の問題で助けが間に合わない他の七人はサラドの戦闘を見守るしかなかった。

 そしてまだ『衝撃波』を使っていない分身2が剣の間合いに入った瞬間、サラドは分身2を斬り裂くために迷う事無く剣を振るい、これで敵が『無敵化』か転移魔法を使っても敵を消耗させる事ができれば十分だと考えていた。


 そんなサラドが振るった剣は攻撃を中断していた分身3が再び撃ち出した『衝撃波』を横から受けて勢いを失ってしまい、その後分身3の支援を受けた分身は2予定通りと言わんばかりの表情で剣に跳びついた。


 魔導装甲が装備した剣は刃渡り一メートル程あり剣に跳びついた分身2は何を考えたのか自分から剣に抱き着くと動きを止めてしまい、これを受けてサラドは困惑と恐怖が入り混じった感情を抱いた。


 しかし普通に考えれば人間が抱き着いた程度で魔導装甲の動きが止まるはずもなく、人間程度では重しにも足止めにもならずに剣で斬り裂かれるか振り飛ばされて終わりだと考えながらサラドは魔導装甲を操ろうとした。


 しかし『無敵化』を発動していた分身2はサラドがいくら魔導装甲を操ろうともびくともせず、魔導装甲の右腕が封じられた事に動揺したサラドの隙を突き、分身3は魔導装甲の足下からサラド目掛けて『衝撃波』を撃ち出した。


 この『衝撃波』であごの骨を砕かれた上に鼻を吹き飛ばされたサラドは痛みから更に隙を作ってしまい、そんなサラドの顔に『無敵化』を解いた分身2の投げた剣が深々と突き刺さった。


 動きを代償にする『無敵化』の発動中、リファロは体を動かす事ができないだけではなく他の人間の力を借りても動く事ができず、落下する事も無いので体を使い敵の動きを封じる事ができる。


 マッカランたちを全く信用していなかったリファロは『無敵化』のこの仕様までは伝えていなかったのでサラドが今回の分身二人の連携を予想できるわけもなく、距離があった上に魔導装甲が視界を遮っていた事もあり他の七人はサラドが突然動きを止めた理由を全く理解できていなかった。


「何があった!」

「もう一人が『衝撃波』を使ったのかも知れない!」

「だったら今が攻め時だ!『衝撃波』はそう何度もは使えないはずだ!このまま押し切るぞ!」


 魔導装甲の装着者の一人の予想通り、『衝撃波』は発動してから五分経つと使用回数や量に関わらず五時間使えなくなり、五時間経つまでリファロは『衝撃波』どころか声すら出す事ができなかった。


 リファロは『衝撃波』の使用制限や回復時間についての詳細はマッカランたちには伝えていなかったが、分身の内片方しか『衝撃波』を使わなかった事からの推測を踏まえて魔導装甲の装着者たちは勝機を見出した様子だった。


 リファロの分身二人が魔導装甲の装着者たちとの戦闘に集中し始めた時点でアッキム王国軍の犠牲者は死者・重傷者を含めて四百人程で無事だった兵士は既に後方に逃げ始めていた。

 ここで魔導装甲の装着者たちにまで撤退されると面倒だったが勘違いも手伝い戦闘続行を選んだ彼らは各個撃破を避けるために後退しながら合流しようとし、これを受けて分身二人は視線を交わしてうなずき合うと『転移』を発動した。


『転移』の代償に分身たちはそれぞれ『無敵化』と『奉身者』の切り札が八時間使えなくなったが中央にいた魔導装甲の装着者二人を不意打ちで殺す事には成功し、中央の二人が殺された事で連携が取れなくなった敵を分身たちは五分程かけて次々に倒していった。


「ついてなかったね」


 最後に残った魔導装甲の装着者二人を逃がした事は誤差の範囲だったが初戦でのリファロの目標は分身二人共が『奉身者』の切り札を残した状態でアッキム王国軍に勝利する事で、分身の片方が『奉身者』の切り札を失った以上リファロたちにとって初戦は成功とは言えなかった。


 分身二人の『衝撃波』を使い初戦に勝利して二戦目から五戦目は短時間に三回は使えない『奉身者』の切り札を分身二人に使わせて短時間で終わらせるというのが前線の兵士三千人を相手取る際のリファロの大まかな作戦だった。


『回答者』によると分身たちが初戦から五戦目まで勝利した上にリファロ本人がベイガン殺害とアッキム王国軍本隊の脅迫に成功すれば高確率で六ヶ所目の兵士たちは逃げ出すらしかったからだ。


 しかし分身の片方が切り札を失った以上そうはいかず、自分たちの不運を嘆いた分身2のつぶやきに『衝撃波』の代償で声を失っていた分身3はうなずいたが、分身どちらの顔にも焦りの表情は浮かんでいなかった。


 さすがにこの程度の事は織り込み済みでもし二人の分身が切り札を失ったら二ヶ所目以降の戦場には新しい分身をリファロ本人が送り込む手はずになっていたからで、『回答者』で既に現状を知った『自分』が四人目の分身を創り出しているはずだと分身たちは考えていた。


「……とりあえず行こうか」


 分身2のこの発言を受けて分身3は再びうなずき、その後分身2と3は余裕はあるとはいえ作戦の大事な部分が運任せという事実に我ながら呆れて二人同時にため息をついてしまった。


『回答者』を持っているリファロ本人は分身たちの勝敗を常に把握できるが分身はそうもいかず、敵を壊滅させればいいだけの自分たちと違い数万人の兵士を殺さずに逃走させないといけない『自分』はちゃんと仕事をこなせているだろうかと分身たちは心配してしまった。


 しかし確認できない事をいつまでも心配していてもしかたがなかったのでアッキム王国軍の兵士たちが自分の命を大事にしてくれる事を祈りながら分身たちは次の戦場へと向かった。


 分身2と3が二ヶ所目の戦場に向かい始めた頃、分身1とディルシュナと別れたばかりのリファロは自分以外誰もいない『裏世界』を通りベイガンのもとに向かっており、ベイガンのもとに着くと同時に分身4を創り出して五ヶ所目の戦場に送り込むつもりだった。


 このため四ヶ所目より先に五ヶ所目の戦場で戦闘が始まってしまいそうだったが兵力を分散させたのはアッキム王国軍の都合で特に順番も指定していなかったので、リファロは戦闘の順序が前後した事は全く気にしていなかった。


 そしてベイガンの真上に当たる場所に到着すると同時にリファロは分身4を創り出し、『裏世界』を通り五ヶ所目の戦場に向かう分身4を見送りながらリファロは顔をしかめた。


 分身の行動や位置を『回答者』で把握しながら別の情報を『回答者』で調べる作業が想像していたより大変だったからで、『裏世界』を使い分身2と3を支援しながら自身も作戦を行うという案は見送って正解だったなと思いながらリファロは『裏世界』から出た。


 六ヶ所目の戦場から二百メートル程離れた場所にベイガンは三十人程の部下と共に待機しており、ハーピィの翼を背中から生やしていたリファロは緩やかに降下しながら剣を握る手に力を込めた。


『裏世界』の存在すら知らないベイガンたちにとってリファロの頭上からの攻撃は転移魔法による不意打ちと変わらず、ベイガンの周囲にいた三十人程の兵士たちはベイガンが首を斬り落とされてからも数秒はリファロの襲撃に気づいていなかった。


 そしてリファロがベイガンの近くにいた兵士を二人、三人と斬った時兵士たちはようやくリファロの襲撃に気づき、リファロが殺した兵士から奪った剣を投げつけて四人目の兵士を殺すと同時に兵士たちの驚きの声が周囲に響いた


「ベイガン将軍!」

「敵襲!敵襲だ!」

「なっ、……三人目だと!」


 ブラザークたちもそうだったが転移魔法(厳密には違うが)の使い手を敵に回しながらどうして奇襲程度で驚いているのかとリファロは急に騒ぎ始めた兵士たちの反応をどこか冷めた頭で受け止めながら剣を振るい続けた。

 そして七人目の兵士に槍で剣を防がれた直後、リファロは口を開いた。


「ある程度は生き延びて僕の怖さを広めてくれないと困るので今逃げるならあなたたちは追いません。十秒待つので逃げるか戦うか決めて下さい」


 各戦場に潜んでいるアッキム王国軍の諜報員が戦場の様子を見ていたのでこの場の兵士を皆殺しにしてもベイガンの死は本隊に伝わったが、あえて兵士を皆殺しにする必要も無かったのでリファロは生存者たちに逃亡を勧めた。


『回答者』によるとベイガンを始めとする幹部が殺された時点で残された兵士たちは逃走を選ぶ可能性が高く、少し脅すぐらいはしておくかと考え始めていたリファロに兵士の一人が話しかけてきた。

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