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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
1章

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14/30

開戦

 アッキム王国の王城を後にした数時間後、リファロはクララス王国南部のホーエイト山脈から北に二キロ程進んだ場所にいた。

 グチャルーツが人間に敗れたと知り激怒したホーエイト山脈に住む竜の一族の長、ブノワームが自分を探すために竜五体を従えて街に向かおうとしている事を『回答者』で察知していたからだ。


 自分の一族の竜が人間に負けて逃げ帰ってきたと知った時のブノワームの怒りは激しくグチャルーツはその場でブノワームに殺されてしまった。

 グチャルーツの死自体はリファロは自業自得だと考えて大して気にしていなかったが竜六体の街への襲撃は無視できずブノワームたちを待ち構えていた。


 そして待つ事三十分、リファロはブノワームたちを視界に捉え、リファロはアッキム王国のベイガン将軍と竜、そしてハーピィの能力を『回答者』で再現すると『転移』を発動した。


「いいか、お前たち。あの面汚しを殺した人間は街を襲っていればあっちから出てくるはずだ。出てきたら手を出すなよ?」


 ブノワームは今回引き連れている大人の竜たちと比べても一回り大きな体を持っており、その強さは大人の竜十体がかりでようやく勝負になる程だった。

 このため自分の強さに絶対の自信を持っていたブノワームは今回同行させた竜たちに人探し以上の事は求めておらず、リファロが臆病風に吹かれて逃げる事だけを心配していた。


 そんなブノワームの眼前に転移したリファロはブノワームが自分の存在に気づく前に火属性の魔法を発動し、熟練の技術で制御・強化された竜の炎はブノワームが痛みを感じた次の瞬間にはブノワームの眼から脳にかけて焼き尽くしていた。


 ブノワームの顔から突然炎が上がった事に他の竜たちが驚く中、何が起きたのかすら理解する前に死んだブノワームは墜落を始め、自分たちの見ている前で突然死んだブノワームの死体の周りで戸惑っている竜たちにリファロは話しかけた。


「こんにちは」

「お前は、まさか……」

「はい。グチャルーツさんと戦った人間です。街襲おうとしたら殺すって警告はちゃんと聞いてもらえたんですよね?」


 自分たちでは到底歯が立たないブノワームがどうやら目の前の人間に殺されたらしいと知り竜たちは混乱と恐怖に襲われ、そんな竜たちにリファロが穏やかな声で話しかけた。


「あなたたちがブノワームさんに脅されて無理矢理連れて来られた事は知っています。ブノワームさんの死体を持って帰ってくれるなら僕もこれ以上は何もしません」


 このリファロの発言を受けて竜たちが視線を交わした直後、リファロはもう一度口を開いた。


「ブノワームさんの敵討ちたいって言うなら相手になりますけどどうしますか?」

「分かった!ブノワーム様の死体はすぐに持って帰る!」


 目の前の存在が出自不明の竜だというならブノワームが瞬殺された事もまだ納得できるがこの人間そっくりの存在は背中からはハーピィの翼を生やしている。


 仮に竜の中に内通者がいても出発したばかりの自分たちの進路上で的確に待ち伏せできるはずが無い。


 グチャルーツが話していた数々の異能を使わずにブノワームを瞬殺した化け物をこれ以上怒らせたら竜という種族の存亡にすら関わる。


 自分たちを前に全く緊張も恐怖も示さないリファロを前にして竜たちは一瞬で様々な事を考え、その後すぐに視線だけ交わすとブノワームの死体を持ちホーエイト山脈へと帰っていった。


 リファロがアッキム王国首脳陣と交渉した翌日、リファロとベイガン将軍率いるアッキム王国軍との戦闘開始まで三十分を切った頃、アッキム王国軍の本陣の前には三千人の兵士が待機していた。

 人間一人との戦闘に十万人の兵士全員を投入しても混乱を招くだけだと考えてベイガンたち軍幹部はリファロが現れるはずの最前線に兵士を三千人しか配置しておらず、更に強力な魔法で一網打尽にされる事を避けるために兵士たちは五百人ずつに分けて配置されていた。


 昨日の夕方にベイガンたちはリファロとの戦闘に参加する兵士たちを集めてリファロの存在や能力、そして敵が一応は人間一人である事を説明したのだが、リファロの存在すら知らなかった者が多かった兵士たちはベイガンたちの説明を聞き戸惑った。


 最初は自分たちを捨て駒にして敵の消耗を計るつもりかと憤った兵士もいたのだが、ベイガンたちが説明したリファロの能力があまりに現実離れしていた事から兵士たちの怒りもすぐに薄れた。

 そしてリファロを直接殺した兵士には特別報酬と昇格を約束するとベイガンが発言した時には兵士たちの士気は最高潮になり、後方待機を命じられた兵士たちに同情しながら選ばれた兵士たちは戦闘の準備を始めた。


 一部の兵士たちが指摘した通り、今回最前線に配置された兵士三千人はリファロの消耗を狙っての捨て駒で、ベイガンたちは兵糧や捕らえている魔族の警護に精鋭を回していた。

 更にベイガンたちはリファロに可能な限り多くの転移魔法を使わせるために一ヶ所に集めていた五千人程の魔族を前日までに二十ヶ所に分散させ、とにかくリファロを消耗させる事を狙っていた。


 もちろん後方に待機していた兵士たちも自分たちの敵が強力な転移魔法の使い手である事は知らされて戦闘準備は整えており、リファロが約束した時刻前に行動を始める可能性も考えてアッキム王国軍は前日から厳戒態勢を取っていた。


 実際リファロはブノワームを殺した直後にはベイガン率いる軍の二百メートル前に姿を現し、リファロの存在はアッキム王国の見張りに発見されていた。

 しかし単に『転移』の消耗を回復したかったので前日に現地入りしたに過ぎないリファロに約束を破るつもりは無く、まだ全ての準備が終わっていなかったアッキム王国軍側も前日にリファロに攻撃を仕掛けなかった。


 そして戦闘当日の午前九時、先手を打ったのはアッキム王国軍が把握していない能力で準備を進めていたリファロだった。


「捕らえていた魔族がいなくなったとの報告が次々に入ってきます!」

「……十九番、二十番、……全ての場所で魔族が消えたとの事!」

「敵の目撃証言はありません!」


 リファロから見て六ヶ所目の場所に待機していた兵士たちの更に二百メートル程後ろに直属の部下たちと待機していたベイガンのもとには九時を迎えた直後から魔導通信機で次々と報告が入り、一分足らずで二十ヶ所全ての魔族が奪われた事を受けてベイガンは予想していたとはいえ驚かずにはいられなかった。


 ベイガンたち将軍がメインギオからの報告で共通して気にした点はリファロが自分以外も、しかも数百人単位で転移させられる点で、一人転移させた時と数百人転移させた時の消耗が同じかどうかで作戦は大きく変わった。


 アッキム王国の技術では一度の転移魔法で二十数人を転移させる事ができて人数が増えると必要な魔力も増えていった。

 このためいくら規格外とはいえ二十ヶ所に分かれている五千人を対象に転移魔法を使えば敵もかなり消耗するはずだとベイガンたちは考え、捕らえていた魔族が全て救出されたと聞いたベイガンは驚くと同時に敵の消耗を喜んでいた。


 ベイガンたちは『奉身者』の詳細を知らなかったが確かにリファロが『転移』を使い魔族たちを助けようとしたら腕輪での回復を入れても能力全てを消耗しても一日では無理だった。


 しかしリファロは今日魔族たちを救出する際に『転移』を一回も使っていなかったのでベイガンたちの策は前提から間違っており、魔族救出のために大きく消耗したリファロ相手なら兵士たちにも十分に勝ち目はあると考えていたベイガンのもとに最前線の兵士五百人が二分足らずでリファロたちによって壊滅したとの報告が入った。


 アッキム王国が一番と呼んでいた魔族たちの幽閉場所にはラミアやハーピィ、エルフ、アルラウネといった魔族二百人程がおり、最低限の食事しか与えられていなかった上に水浴びすら許されていなかった彼女たちはリファロが救出した後も薄汚れた体を力無く横たえていた。


 リファロの計画ではアッキム王国軍との戦闘が終わるまでは魔族たちには自力で逃げてもらうしかなかったのでリファロは弱っていた魔族たちに『治癒』を発動した。

 負傷の様に全快とはいかないが『治癒』は疲労や空腹にも効果があったので『治癒』を受けて魔族たちはある程度体力と気力を取り戻し、上げた視線の先に同じ人間が二人いた事に驚きの表情を浮かべた。


 リファロは『回答者』で自分を創る事もできて『回答者』で創られたリファロは『回答者』を持たず魔力もこの世界の人間と同等程度にしか持ち合わせていなかった。


 しかし言わば分身のリファロが『奉身者』の能力を使っても代償を払うのはあくまで分身なので分身を創る事で『転移』や『治癒』の使用可能回数を増やす事ができ、リファロは今回分身に魔族全員の治療を任せるつもりだった。


 そして体力と気力を取り戻しながらも自分を前に動けずにいる魔族たちの前でリファロは魔族を説得してもらうためにディルシュナを創り出した。


「ディルシュナ様?」


 得体の知れない人間が自分たちを治療しただけでも状況が理解できない中、逃亡中の王女が突然現れた事で魔族たちの混乱は深まり、そんな魔族たちを相手にディルシュナは説明を始めた。


「時間が無いので簡単に説明します。こちらの方はリファロ様。人間ですが今見せた様に不思議な力を持っているので私たち同様人間に迫害されて今回私たちに力を貸して下さる事になりました。三十分経つと人間たちが戻ってくるらしいのでとりあえず今はこの場を離れましょう」


 ディルシュナにこう言われて捕らわれていた魔族たちはようやく自分たちの周囲に兵士が一人もいない事に気づき、簡易な柵などのみが周囲に残る状況に更に戸惑いを深める魔族たちを前にディルシュナは説明を続けた。


「リファロ様はあなたたちの救出だけではなく侵略者たちの相手もして下さっています。詳しい事は私も知らないのですが先程も言った通り今は時間がありません。どうか今は私を信じてついてきて下さい!」


 こう言ってディルシュナが膝をつくと魔族たちは半信半疑といった様子ながらも慌てて移動を始めようとし、そんな魔族たちの中からハーピィ二人を選んでリファロは話しかけた。


「疲れてるところすみません。こっちの僕とディルシュナ様を他の魔族の所に運んでもらえないでしょうか?残ってる柵とか天幕をたどって行けば迷う事は無いと思うので」


 今回リファロはアッキム王国軍との戦闘に十分な勝算を持って臨んでいたが『回答者』の切り札を多用する必要があり、できれば分身とディルシュナの移動は助け出したハーピィに頼みたかった。

 この頼みは断られる可能性もあり、この場合リファロはアッキム王国軍に大きな被害が出る作戦を取るしかなかった。


 しかし幸い他に捕まっている家族がいるというハーピィ二人が移動役を引き受けてくれ、ハーピィに腕を掴まれて運ばれるというリファロはともかくディルシュナは平時なら決して選ばない移動手段で次の魔族のもとへと向かった。


 分身とディルシュナを運びこの場を後にしたハーピィたちを見送りながらリファロはさすがに『転移』には負けるが人一人を持ったまま高速を維持して広範囲を三十分以上飛び回る飛行能力はぜひギルドで活かして欲しいと場違いとは分かっていたが考えてしまった。


 しかしアルベール魔王国でギルドを始めるためにはまずはアッキム王国軍を撤退させる必要があり、そもそもアッキム王国軍を撤退させてもアルベール魔王国の魔族たちはしばらくは街の復興などでギルドどころではないだろうと考えながらリファロは意識を戦闘に戻した。


 リファロ本人や捕らわれていた魔族たちが今いる場所は『回答者』で創り出された世界で、『裏世界』とリファロが名づけたこの世界は生物がいない以外は元の世界と変わりなくリファロが許可した物体だけが入る事ができる。


 昨日ブラザークたちと話をした場所も『裏世界』の王城でリファロは数百人どころか一人すら他者を転移させる事はできず、住人までは創り出す事ができない『裏世界』のせいでアッキム王国上層部はリファロの『転移』を過大評価させられてしまった。


「さてと、じゃあ、ベイガンさんのとこ行って暴れるか」


 現実世界と『裏世界』の行き来及び人や物の出し入れはリファロが念じるだけで行われ、世界を移動しても居場所がずれる事は無かった。


 このため自分と捕らわれていた魔族、及び自分とディルシュナの分身以外誰もいない『裏世界』を移動するだけでリファロはベイガンに奇襲を仕掛ける事ができ、ハーピィの翼を背中から生やしたリファロはリンゴ一個と世界一つを創る際の消費が同じ事への不満を抱きながら移動を始めた。

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