戦死
初めましての人も久しぶりの人もこの作品を読んで下さりありがとうございます
とりあえず今日からあさっては二話投稿するので続きも読んでもらえると嬉しいです
レブリシュア皇国に仕える騎士、リファロは背後に数百人の兵士が控える中、息を荒げていた。
リファロの視線の先には五階建ての建物を優に超える大きさの魔獣と数十人の兵士の死体が横たわっており、多くの兵士の犠牲と引き換えに森の奥まで追い詰めた魔獣をようやく倒してリファロは安堵のため息をついた。
そして能力の代償でもうすぐ気を失いそうなリファロが振り向くと視線の先にはここまで共に戦ってきた将軍、ヴィルアスの姿があった。
「……やったみたいだな」
体中にできた傷から血を流して死んでいる魔獣にヴィルアスが警戒の視線を向けるのも無理は無く、リファロたちが倒した魔獣はレブリシュア皇国が軍を挙げても倒し切れない強敵だった。
半年程前にレブリシュア皇国のとある街の近くに強大な魔獣が三体現れ、その内の二体は既に殺されていたが今リファロたちが倒したばかりの魔獣は何度殺しても蘇る厄介な敵でリファロと兵士たちが協力して五回殺す事でようやく動きを止めた。
リファロは他の二体の強大な魔獣との戦闘にも参加したのだが三体目の魔獣は強さもさる事ながら蘇る能力が厄介な強敵で、魔獣が後一回蘇っていたらリファロたちは皆殺しにされていただろう。
「じゃあ、すみませんけど後の事は頼みます」
「ああ、任せてくれ」
リファロはレブリシュア皇国出身ではあったが元々国に仕えていたわけではなく、半年程前までは倒した魔獣を素材として売り生計を立てていた。
そして仕事でたまたま通りすがった時に強大な魔獣と軍との戦闘に巻き込まれ、一体目の魔獣を倒した後、便宜上国所属の騎士となり魔獣との戦いに参加してきた。
しかたない事だと理解はしていたが騎士として行動を制限される生活は正直面倒だったので魔獣を倒した後は現地解散という事なら楽ではあったが、王族や貴族とのつき合いなど無いリファロでもこれが失礼な事ぐらいは理解できた。
このため目が覚めたら面倒な式典などが待っているのだろうなとリファロが考えているとヴィルアスが近づいてきて次の瞬間リファロの腹部に短刀が突き刺さった。
「え?」
何が起きたか理解できないまま崩れ落ちたリファロの耳にヴィルアスの声が届いた。
「君は活躍し過ぎた。……貴族や将軍たちの中にも君の民衆からの人気を快く思っていない方々がいる。悪く思わないでくれ」
短刀に塗られていた毒の効果もありリファロの意識は徐々に薄れ、周囲の騎士たちに視線を向けても誰一人動揺していなかったのでリファロは周囲からの助けを諦めた。
そして耳に届くヴィルアスの発言の意味すら理解できなくなったリファロは最後の力を振り絞り転移してヴィルアスたちの前から姿を消したが、リファロの能力は既に把握していたのでヴィルアスは慌てる事無く部下たちに声をかけた。
「彼は魔獣と勇敢に戦い戦死した!いいな?」
「はっ!」
リファロが転移して程無く騎士たちが撤退の準備を始める中、ヴィルアスはリファロを即死させられなかった事を後悔していた。
先程の短刀の刺さり具合と毒の効果を考えればリファロは間違い無く死んだが、知り合いのもとに転移したリファロが余計な事を話していた場合、その知り合いも殺さなくてはならないからだ。
持って一分の命で既に意識も朦朧としているはずなので心配は不要だと理解はしていたのだがヴィルアスの心配は消えず、そんなヴィルアスのもとにリファロの死体発見の報告が入ったのは三十分程後の事だった。
ヴィルアスに刺されて死んだ直後、リファロは床も壁も全てが白い空間におり、先程の出来事を思い出しながら思わずつぶやいた。
「ここってあの世?」
自分に何が起こったのかを実際に口にした瞬間、自分が死んだ、しかも殺されたという事実をリファロは強く実感し、その後に抱いた気持ちは殺された事への怒りではなく戸惑いだった。
「……人気が出そうだからって理由で協力した人間普通殺す?」
もし本当にそれだけの理由で自分が殺されたのなら王族って怖いなとリファロは心底思い、その後徐々に怒りも湧いてきたが死んでしまった以上どうしようも無かったので天使なり何なりが迎えに来るのを待とうと考えていた。
そしてこの空間に来てから二分程経った頃、どこからか女の声が聞こえてきた。
「どう?少しは落ち着いた?」
突然聞こえてきた声の主を探してリファロが辺りを見渡す中、リファロの目の前に突然二十代半ば程の女が姿を現し、転移でもしてきたのだろうかと考えていたリファロに女が自己紹介をしてきた。
「初めまして。私は神の使いよ」
「……はあ」
いきなり神の使いと名乗られたリファロは気の無い返事をするのがやっとでそんなリファロの反応を受けて女は苦笑した。
「いきなり神の使いなんて言われても困るわよね。色々聞きたい事があるだろうけどまず最初にあなたがこれからどうなるかを教えておくわ」
死んだ以上どうなるも何も無いだろうと戸惑うリファロを前に女は説明を続けた。
「これからあなたには別の世界に行ってもらうわ」
「別の世界?」
「ええ、あなたに分かるように言うと一生行く機会の無かったすごく遠い場所って所かしら」
「……死んだ人って全員そういう風になるんですか?」
まだ若かったリファロは死後についてなどほとんど考えた事が無かったので女の説明にどう反応すればいいか分からずとりあえず思いついた疑問を口にし、女は待っていましたとばかりの表情でリファロの質問に答えた。
「普通はあの世に行って前世の記憶も消えて転生して終わりよ。でもあなたは特別。……あなたたちが倒したあの三体の魔獣が現れたのって私のせいなの」
「……どういう事ですか?」
リファロたちが倒すまで三体の魔獣のせいで騎士や民間人を合わせて五万人程の人間が犠牲になっていたので聞き捨てならない発言をした女をリファロはにらみつけ、そんなリファロを女は慌ててなだめた。
「そんな怖い顔しないでよ。私たちにとっても予想外の事だったんだから。一から説明するわね?」
「はい」
あれだけの被害を出した魔獣出現に納得いく説明が受けられるとは到底思えなかったが、女を責めるのは説明を聞いた後にしようと考えてリファロは女の説明を聞く事にした。
「ここはあの世じゃなくて神様たちとその使いしか来る事も認識もできない世界よ。で、私たちは時々見込みのある人間を別の世界に送り込んでるの」
「……それって誘拐って事ですか?」
「そんな酷い事しないわよ。あなたみたいに誰かに殺されたり事故や病気で死んだ人を送り込んでるわ」
「何のために別の世界に人を送り込んでるんですか?あんな魔獣まで産み出してまでする意味があるんですよね?」
自分の様な死に方をした人間に第二の人生を用意しているのなら別に悪事というわけではないがその度にあんな魔獣が現れたのではたまったものではない。
こう考えたリファロの質問に女は困った様な表情で答えた。
「だからあれば私たちにとっても予想外だったんだって。先に別の世界にあなたを送り込む時の話をするわね?私たちは選んだ相手を別の世界に送り込む時、能力を一つ与えているの」
能力と聞きリファロは自分が生まれ持った能力について考え、そんなリファロに女は得意そうな表情を向けた。
「あなたが知らないだけで私たちが観察してる世界には色んな世界があって、その中には能力を持ってる人間が一人もいない世界もあるの。で、そういう人間を別の世界に送り込んでも何もできずに殺されちゃうから激励の意味も込めて能力を一つ与えてるの。あなたの持ってる能力もなかなかだけど私たちが与える能力は段違いよ?」
リファロの世界では数百人に一人の割合で能力者が産まれるので、能力者がいない世界とやらで人間が魔獣にどうやって対抗しているのか不思議に思った。
そしてここまで女の説明を聞いたリファロは魔獣出現の理由に大体の見当をつけると同時に話が逸れていた事に気づき女に改めて質問をした。
「話が逸れましたね。どうして別の世界に人を送り込んでるんですか?」
「あなたの世界はうまくいってるからいいけど時々せっかく神様たちがそれぞれの世界に用意した物を活かせない世界があるのよ。能力の高い種族が迫害を受けて絶滅しそうになったり、強い能力を持った存在の封印を解けなかったりって感じで。そういう時に世界に刺激を与えるために別の世界の人間を送り込むの」
「……あなたが直接迫害されてる人たちを助けたり封印とかいうのを解くんじゃだめなんですか?」
外の世界からは認識すらできない空間に存在する。
遠く離れた世界を観察して必要に応じて別の世界の人間を送り込む。
任意に他者に能力を与える。
女がこれまで言った事が全て事実なら女は自分の想像などはるかに上回る存在だとリファロは考え、そんな存在なら他者を送り込むなどといった面倒な事をせずに直接出向けばよさそうなものだがと不思議に思った。
そしてそんなリファロを前に女は説明を続けた。
「やろうと思えばできるんだけど神様たちや私たちが直接外の世界に干渉するのは禁止されてるのよ。ほら、あなたたちだってあの魔獣たちを瞬殺できるような存在に好き勝手干渉されても困るでしょ?」
「……あの魔獣たちを瞬殺ですか?」
リファロがヴィルアスたちと共に倒した魔獣はあらゆる物を斬り裂く斬撃をまき散らしながら跳び回る兎、周囲の水も土も消滅させながら泳ぎ回る魚、殺した相手の能力を使い暴れ回る五つの命を持つ狐の三体だった。
どの魔獣もリファロ一人では絶対に勝てない相手でそんな魔獣たちを瞬殺できる存在と聞き表情を硬くしたリファロに女は安心するように伝えた。
「大丈夫よ。昔は規則も何も無くて酷い事になってたみたいだけど今は神様たちの間でちゃんと規則守って外の世界観察するだけになってるから」
「……でも人は送り込むんですね」
「それぞれの世界に用意されてる物ってその世界特有の物で全部神様たちが創った物なの。だからそれが活かされないってなると神様たちも不満なのよ。で、神様たちの能力の一部を分けた人間を送り込むぐらいなら大丈夫って事に神様たちの中ではなってるのよ」
「……そっとしておいて欲しいっていうのが本音ですけど言うだけ無駄なんでしょうね」
「そうね。諦めて」
自分たちの世界がはるか上位の存在の気まぐれでいつでも弄ばれるという事実に深いため息をつくリファロを相手に女は説明を続けた。




