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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
伊勢国統一編

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第9話 初陣

◎伊勢国・浜田城 楠木正顕

 1551年 1月中旬


 電光石火とはまさにこの事である。


 楠城を発った俺は幻斎へ情報封鎖を徹底させ、敵軍の偵察兵や素波の対処など行わせ、軍の場所を徹底的に秘匿させた。俺の事をただの童と侮っていたのであろう、浜田宗武は偵察任務さえ行わせていないようだった。そういった状況もあって浜田宗武には我らが楠城を発った事が伝わっていない状態となっていた。よって緩々《ゆるゆる》と籠城の準備を行なっていた浜田宗武は完全に意表をつかれ、簡単に楠木軍の接近を許した。


 その結果、軍の接近に気づいた時には既に城壁に取り付かれ、簡単に場内に侵入を許していた。実際、楠木軍と浜田軍との直接の戦闘時間は、半刻にも満たない時間で終了していた。その証拠に俺の目の前には既に捕らえられている浜田宗武が連れて来られていた。


「浜田宗武殿、これがその方の選択の結果だ。目先の権利や利権に目が眩み、俺の事を侮ったが故に浜田家は滅びる。何か言い残すことはあるか?」


「それでは一つだけ…某の室は嫁いで来て三月みつきにもなりませぬ。何卒、寛大なご対応をお願い申し上げます。」


 浜田宗武は神妙な顔をして頭を下げた。


「良かろう。奥方及び此度の件に無関係の者の罪は問わん…これで良いか?」


「はっ!大変なご配慮を頂き、誠にありがとう御座いまする。」


 俺の言葉に安心した宗武は再び深々と頭を下げた。そして静かに庭先まで歩み出ると見事に腹を切って見せた。前世を合わせても切腹を見るのは初めての事なのだが、10年以上過ごした異世界でグロ耐性を身につけていた事もあり、最後まで見届ける事が出来た。


(この辺の武士としての覚悟って言うのは本当に凄いな。異世界でも貴族の自死ってのは稀にあったがそう多くは無かったし、身分が上の奴に限って往生際の悪い輩が多かったな…。)


 俺は浜田宗武の亡骸を丁重に弔う事、浜田の一族への沙汰を約束通りに満和へと指示を出すとこの場を離れた。

 そして次の日の早朝、その後の処理のため満和を浜田城に残し、春日部太郎左衛門の居城である伊坂城に向けて兵を進めた。因みに星川城、萱生城も春日部氏の城であったが、従属したおりに楠木家で接収している。


 さて伊坂城までの道のりは引き続き情報封鎖を行なっていた事もあり、待ち伏せなどの様子は見られなかった。そして伊坂城まで一里の距離に至った時、月夜見の幻斎より第一報がもたらされる。


「若殿、我らが昨日、浜田を打ち破りし事、春日部へ露見しておりました。その結果、敵は300の少数ではありますが、籠城の構えを見せております。大変申し訳ございません。」


 幻斎が神妙な面持ちで頭を下げている。俺は問題ないと言って幻斎を下がらせた。


「援軍の無い籠城に意味など無いが、逃亡という手段は取りたく無いのだろう。ふむ…父上なら如何なされますか?」


 伊坂城への進行速度はそのままに、父上に問い掛ける。


「俺なら兵力差にモノを言わせて、力攻めだな。相手の兵力は300前後、此方は1000、その方が時間も掛らんし、結果的には被害も最小限で済むだろう。ところで…だ、春日部との戦だが、俺に任せてもらうぞ?お前は当主になったとは言え初陣だ。そして更に言えば6歳の童だ。これ以上は駄目だ、絶対に許さんぞ、でなければ俺が千に怒られる。」


 父上の言は尤もだ。俺が只の童だったらだが…。しかし父上の必死の形相と、母上の顔が脳裏をよぎった事もあって、この場は素直に従う事にした。確かに母上は普段はおっとりとした方だが、怒ると本当に怖いからな。



 それから暫くして、視界に伊坂城を捉えた父上は皆に号令を放つ。


「皆の者!此度は俺が指揮を取る!我が倅、正顕の初陣の最後を飾る為、皆の力を貸してもらうぞ!」


 そこからの父上の動きは素早かった。梯子はしごを持った足軽部隊を広範囲で展開させ、場内への突入を敢行させる。防衛側は広範囲での防衛には対応し切れず、早々に場内への侵入を許す形となる。


「崩れた場所を集中して狙って行け!!よし、城門が開いたぞ、全軍突入せよ!!」


 ここまで僅か一刻半である。この辺りの父上の用兵は、戦場で培った熟練の職人を思わせる。俺は前世の日本時代は勿論のこと、異世界でも軍勢を率いての戦いの経験は無い。あるのはパーティー戦程度までだ。


(この辺りの戦場での立ち回りは、多くの経験と良い意味での感だな。ふむ…やはり早急に人材を確保する必要があるな。全てを自分一人で熟す必要は無い、優秀な人材を集め、適材適所で任せてしまえだ!)


 俺は城内へ向かった父上に代わって護衛についた正輝に守られながら、安全の確保された道程を進む。因みにこの年代の城は、城とは言っても現代人のイメージする天守閣を持つ様な城は存在しない。木材を使った櫓や土塀や掘っただけの堀が基本で、当然石垣なども存在しない。小城は特に砦と大差ないのだ。


 よって、攻城戦は防御が有利と言っても兵力差が大きければ、そこまで手古摺てこずることも無い。まあ、誰が指揮を取っているかにも依るだろうが。


 よって場内に侵入出来たら後は消化試合のような物だ。油断さえしなければ状況が引っ繰り返るような事は無いだろう。暫くして城の中心部に近づくと威勢の良い男の声が響く。


「春日部太郎左衛門の首、この滝川一益が討ち取ったりィィィ!!」


「えっ?っちょ?!たっ、滝川一益?!はあっ!?」


 余りの驚きに声にならない声が出る。イヤイヤ、仕方ないだろう。てか、そんな事より、何でこんな所に一益が居んの?えっ?!近江の実家を出て尾張に向ったんじゃ無いの?織田に仕官しないの?いやまぁ、嬉しいけどさぁ、いいのかなぁ…。


 そこはまぁ、嬉しさが勝った事もあって早々に気持ちを切り替えた俺は、声のした方に向かって駆けていく。そこには口髭を蓄えた若い男が、春日部太郎左衛門と思われる男の首を掲げていた。


「滝川一益と申したな、見事な手柄首よ!後日、城へ出仕せよ!」


 俺は一益を得られるかも知れない期待感で小躍りしそうになる自身を押さえつけ、平静を装いながらその場を後にした。その後、父上と合流した俺は城に守備兵を残し、楠城に向けて馬を進めた。






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