第8話 元服の儀Ⅱ
◎伊勢国・楠城 川俣正顕
1551年 1月初旬
それからしばらくの後、皆が落ち着きを取り戻し顔色が戻ってきたことを確認すると、俺は再び語り始める。
「先程皆に体験してもらったのは覇気や威圧と呼ばれるもので、簡単に言えば殺気に近いものになる。力加減で言えば本来の百の一にも満たないものだ。まぁこれは俺の力を少しでも体験してもらうことで、これからの話を信じてもらうようにする為に行ったもので、この度の本題とは余り関係はない。」
先程の威圧が全く本気ではなかった事実に皆が皆、一様に唖然とした表情を浮かべていた。
「さて、それでは本題に行こうか。俺が昨年より領地としている楠城一帯の五千石の領地について、田畑を中心に農作物全般、山野の実り、魚介類を含めた産物が異常な取れ高になっていることを、聞き及んでいる者もいるように思う。皆は不思議に思わなかったか?あからさまに俺の領地だけ様々な産物の収穫量が異常に増えていることを…俺の領地とそれ以外の領地の収穫量が正に境界線を引いたが如く、綺麗に分かれていたことを…皆は不思議に思わなかったか?」
「まっ、まさか!?…い、いや…それは流石に…」
名前を知らぬ一人の男が思い当たった様に口を開く。
「ふっ、そのまさかなのだよ。俺には天命の成就を補助する為にと、お伊勢様より賜った様々な力…いわゆる【権能】を有している。その中に様々な【神の知識】と呼ばれる様々な知識、そして俺の支配領域に限ってだが、天災の発生を無効化し、収穫される産物の品質を上げ、さらに収穫量を倍にする【豊穣の大地】と言う力がある。大事なのはこの俺の支配領域の部分になるのだが、これの効果範囲を拡大させ、効率良く適応させる手段としての此度の家督継承であり、このあと発表する分国法である。」
次々と明らかにされる爆弾発言に、特に根回しをされていない者らは動揺を隠せない。
「この度、こうして集まって貰ったのは、俺の家督継承の件やお伊勢様の神子の件、そしてお伊勢さまより賜りし力ついて可能な限り公表し、これから発表する分国法の説明を聞いてもらった上で、皆に自らの立場を明確にして貰う為だ。満和、皆に詳細を説明せよ。」
俺の言葉に満和は承知の言葉を述べ立ち上がった。満和の指示で前持って用意していた分国法について書かれた大きな和紙を掲示して説明を始める。柱の法は10ヶ条だが、細かい物を含め全部で50ヶ条にもなる。
予想通り所領の扱いの部分で言葉を荒げる輩もいたが、概ね予想通り進んだ。そして最後に俺の言葉となる。
「最初に話した通り、皆にはこの場で己の立場を明確にして貰いたい。分国法を遵守し、俺と共に歩むと言う者は、満和の前に準備した紙に署名血判して欲しい。そして領地替えのみ不承でそれ以外は従う事が出来るという者は血判はせず署名のみしてくれ。対して俺には従うことが出来ないという者は…誠に残念ではあるが、この場を辞して戦の準備でも始めてくれ。
フゥ…とまぁ、何故俺がこのような事を無理強いするのか…不満に思う者も居ることだろう…しかし自分自身に置き換えて考えてみて欲しい。先程申したような強力な恩恵を何の見返りも無く、ただ己の権利のみを主張し、全く協力する気のない身勝手な輩に、何故俺に真に忠誠を誓うであろう者たちと同様に、与えなくてはならぬのだ?…おっと、愚痴ってしまったな。
因みに、その和紙はお伊勢様に頂いた特別製でな…署名後誓いを反故にした場合、必ず天罰が降る故、よくよく考えて署名血判する様に。それでは一刻後に、また結果を見に来るとしよう。」
俺を先頭に父上とお爺様、護衛の正輝は殿にて大広間を後にする。
「さて…一体どの程度の者達が残るだろうか?様子を見るとしようか…とその前に」
父上が家督継承の件を発表した瞬間からずっと視界の端に映り続けているお知らせの表示が気になっていた為、この時間を利用して確認する事にした。
表示には、
『楠木家の家督を継承しました。よって楠木家の全支配領域に豊穣の大地の効果を適用致します。GDP[石高換算]:31万石』
『領域最大人口が10万人を突破しました。以下の設置可能施設が増加しました。図面データー管理室、港(近世:小)造船場(近世:小)』
因みに追加された施設の概要は次の通りだ。
〓〓〓〓〓特殊施設リスト〓〓〓〓〓
⚪︎図面データー管理室:100,000P[現時代で再現可能な設備や装備の図面データーをPC管理している部屋、紙面に印刷可能、本人以外入室不可]
⚪︎港(近世:小):50,000P[18世紀前半の港、一部手動設備が機械化されている]
⚪︎造船場(近世:小):50,000P[18世紀前半の造船場、一部手動設備が機械化されている]
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(成程…国内総生産(GDP)が石高換算では31万石か…塩水選等の導入で40万石は超えるな。設置可能設備が増えた様だが、現状鉱山施設が優先だ。基準石高は10万石だから10日毎のPPは100、現在のPPが135…金鉱山まで4990日、約13年9か月…か。くそ…まだまだ厳しいな)
そうこうしている内に一刻が過ぎ予定の刻限となった。父上とお爺様を伴って大広間に戻ってみると殆どの者たちが署名血判を押し、その場に残っていた。署名のみで残っている者は居らず、署名血判した者は13氏、辞した者は2氏と予想よりも少なかった。
「辞したのは浜田城の浜田宗武と伊坂城の春日部太郎左衛門のようじゃな。気持ちは分からんでも無いが…折角、従属勢力としてではあるが、生き残れておったに、馬鹿な事をするものよ。」
お爺様の言う通り、一時の感情で家門の未来を閉ざしてしまう愚かな行為だ。周りの勢力と徒党を組んでの反乱であれば可能性はあるかも知れないが、浜田も春日部も周りは全てこちらの支配領域だ。これでは他の勢力に協力を求める事も出来ず、滅びを待つのみである。
改めて当主の席に座った俺は言葉を発する。
「まずは俺の意図を理解し、賛同の意を示してくれた事に礼を言う。そして俺はこの皆の覚悟と忠義に報いる為、俺自身も一つの覚悟を示そうと思う。これまで我が家門は長きに渡り朝敵とされ、苦渋の決断として別の家名を名乗ってきた。しかし俺は今日この日より川俣の名を封じ、再び楠木の家名を、覚悟と誇りを持って名乗ろうと思う。そしてお伊勢様の神子として、また楠木当主として、天命である天下統一を成し、朝敵の汚名を返上し、この日ノ本に静謐をもたらす。その手始めとして、俺の初陣を兼ね10日の後に浜田と春日部を攻める。満和、兵の手配をせよ。1,000人も集まれば良い。これが我ら楠木の最初の狼煙である。」
俺の言葉に気を良くした父上とお爺様の決定により、評定の後、そのまま新年の宴会に突入した。しかし俺自身は元服したとは言え、流石に6歳の童に酒を飲ませる訳にもいかないと、父上とお爺様に宴席の場を追い出されてしまう。
手持ち無沙汰となった俺は母上へのご機嫌伺いを済ませ居室へと戻った。次の日には予定通り310のPPが加算されており、445PPとなっていた。
それから10日の後の初陣当日、城門の前に集まった兵は1500を超えた。俺はこの日のために誂えた鎧を身に付け、異世界でよく使っていた【魔刀神殂】を腰に挿す。この魔刀は魔王を殺すために龍帝ティアマトの逆鱗と神狼フェンリルの牙を使って製作された異世界産のユニーク武器であり、サイズ調整機能、不壊が付いている。
情けないことに幼児体型であり、まだまだ補助無しで馬に乗れない俺は父上と共に馬に乗り、満和と正輝に左右を護衛され、浜田氏の居城へ向けて馬を進める。この時の屈辱を胸に、早急に大きくならねばと決意を固めたのだった。




