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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
上洛編

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第67話 今川の上洛Ⅱ

※ 現在執筆の時間を余り取れない為、投稿を優先して話が短くなっております、ご了承ください。


◎尾張国・清須城 楠木正顕

 1560年 6月上旬


 援軍を引き連れ清須城に到着した俺を義兄上は歓迎してくれた。そして間を置かず評定の間へと通される。そして俺は義兄上の右手側の席へと座らされた。


「正顕が到着した故、早速評定と致そう。五郎左!」


「はっ!まずは現状の説明から致します。今川勢は途上の各地で軍勢と合流しつつ遠江を行軍中で、尾張国境まではおよそ六日と言った所です。そして我らと今川の戦力比ですが、織田の兵が美濃国境の守備兵を除いて五千、これに楠木様の援軍二万一千を加え総勢二万六千となります。対する今川勢ですが物見の報告では総勢二万五千となり、戦力的には五分の状態となっております。」


「おぉ…楠木様はそれ程の数の援軍を…」


 何処からか感嘆の声が聞こえて来る。


「流石に五千対二万五千では厳しい故、助かったぞ正顕。」


「気にしないでください。市の身内は俺にとっても身内ですから。ただ一色さえ動かねば、もう少し兵を回せたんですがね。」


「その事よ。義龍めが攻め寄せておるに、これ程の援軍を連れて来て良かったのか?」


「ええ、父上が一色に倍する兵で防衛に徹する予定なんで、問題ありませんよ。」


「ふっ、正具殿も楽隠居かと思いきや、息子に遠慮のうき使われて、本に不憫な事よ。」


 義兄上の冗談に笑いが洩れ、場の空気は和む。しかし中には場の空気を読めぬ愚か者もいるようで、約一名ではあるが俺に対して敵意のある視線を向けている髭面のやからがいたが、大人な俺は華麗にスルーを決め込み、評定は順調に進み作戦は決した。


 因みに作戦の詳細だが防衛戦の為、今川のルート次第な所があるが、基本的には野戦に持ち込み、楠木と織田の鉄砲隊にて敵を迎え撃つ。そして本軍が今川勢を押さえている間に、遊撃部隊にて義元の本陣を急襲する作戦だ。通説通りであれば雨が心配だが、一応対策として火縄に蝋を塗り火を消え難くしたり、火皿を革製のカバーで覆うなどの対策を行っている。


 さらに言えばこの後直ぐに我らも三河に向け出立し、安祥城あんじょうじょうとその周辺、可能であれば岡崎城とその周辺までを抑え、小豆坂あずきざかで野戦に及ぶ算段でいる。


 これだけの日数で本当に可能なのか?という所だが、二万を超える軍勢を目にした場合、降伏するか、逃げ散るかのどちらかであろうと言うのが大方の見方である。


 とまぁそう言った事で、俺は義兄上と共に清須を立ち、一路三河の安祥城に向けて行軍を開始した。もう少し滞在時間があれば義姉上(帰蝶)の様子を伺いたかったが、今川を退ける事が第一なので仕方ない。


「そう言えば、五徳ごとくを産んだ後に産後の肥立ちが悪かった吉乃だが、お前に貰った薬液を服用したら半刻後には良うなっておった。今は週に一度の雉肉きじにくと毎朝の散歩で体調維持に努めておる。」


「それで良いと思います。吉乃殿は食が細く身体があまり強いとは言えないので、無理をせず続けて行く事が大事です。そうすれば身体も徐々に強靭になるでしょう。」


 そう言った会話を続けながら行軍を行い、現在は丸根砦を過ぎた辺りで、明日の午後には三河に入国出来るだろう。そしてもう少しで本日逗留予定の桶狭間に辿り着く。ここはご存じの通り、前世の世界で今川義元が討死した地だ。


 故にこの地は大軍を展開するには不向きな土地なので、今夜の野営は桶狭間には踏み込まず、野営の陣地を設置する事になっている。


 それから午後の三時を過ぎた辺りで彼の地に到着した我らは、陣を構築する為に必要な荷解きを行い、陣の設営に取り掛かった。


 この段になると俺や義兄上のような身分の者は手持無沙汰となるので、護衛を伴って二人で立ちションに興じる。殆ど休みなく行軍していた事もあって、相当溜まっていたので、排出の快感に酔いしれていると、同じように横で用を足していた義兄上が不意に言葉を掛けて来る。


「ふむ…デカいな。それで市を泣かせておるのか?」


 最初は何の事か分からなかったが、視線を追うと意味を理解し唖然となった。


「いやいや…いきなり何を言ってるんです?(間違ってはいないが、自分の妹の旦那に掛ける言葉では無いだろう…市に聞かれたら殴られるぞ?)」


「それに背も大分伸びたな…俺よりも高いのではないか?武将としては体格が大きいに越した事は無いからな。」


 確かにこの一年で身長は10センチは伸び、15歳で170センチを超えていた。因みに市の身長も俺の首元辺りまであるので、13歳で160センチ近くあるだろう。この時代の平均が男で160センチ、女で150センチ程度であった事を考えると、二人とも大きい部類になるだろう。


 それは兎も角として、なぜそのような事を言い出したのか聞いてみると、俺には妊娠薬があるのに、どうして市に子が出来ないのか、不思議に思ったそうだ。


 俺は幼年期での妊娠、出産の危険性を説き、時期を待っていると言う事、そして俺にはこの妊娠薬は効かない事などを話し、市の身体も大きくなって来た事もあり、そろそろ考えている旨を説明した。


 それからついでと言う事で、春齢女王との再来春での降嫁の件を話した。流石の義兄上もその事に驚き、「話して良かったのか?」と聞かれたが、特に秘密としている訳では無いので、問題ないと回答した。


「しかし、市が正室で、殿下が側室とは…朝廷も良く了承した物よ。」


「降嫁の件は朝廷からの申し出でしたからね、主導権はこちらにありました…それに俺の正室は市以外には在り得ませんよ。」


「ふっ、そうか。」


 義兄上はそれ以降この件に関して何も言ってこなかった。


 それから野営の準備の整った我らは順次夕餉を取り、そして睡眠を取った。次の日は早朝から早めの朝餉を取り、早々に出立した。


 そして件の桶狭間を抜けた我らは三河国へと入り、野田城、箕輪みのわ城と進行方向に位置する周辺の城を危なげなく接収して行き、昼過ぎには安祥城を囲んでいた。






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