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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
伊勢国統一編

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第6話 分国法と覚悟

◎伊勢国・楠城 川俣天王丸

 1550年 9月中旬


 俺の目の前には黄金の実を大量に付け、首を垂れた稲穂の海が広がっていた。


「見事な光景ですなぁ…ここまでの豊作は見たことが御座いませんぞ。これが若様のお力に依るものとは…」


 満和から定期的に報告は受けていたが、実際に見ると圧倒される景色だ。俺の治める領地の田地全てで同等の風景が見られるとの事だ。


 そう、俺の治める領地では…だ。それ以外の領地の田地では…いや、田地以外の産物も全て俺の領地と比べ、他領は半分以下の収穫量になる予定だ。


「ここまであからさまに差が出てしまっては、いささか良くないな。特に、所領の境界では異常さが際立っている。これは今後の動きについて父上やお爺様と話した方がよさそうだ。正輝、早急に父上へお目通する!」


「畏まりました、急ぎ戻りましょう。流石に他領の実りよりこれだけ差があっては、何かあるのでは無いかと勘ぐられそうですな…。」


 正輝と共に急ぎ館に戻った俺は書院である物を取り、それを持って父上の書院へと向かった。


 書院には父上とお爺様が一緒にいらした事もあり、米を含む産物の収穫予定、特に俺の領内とそれ以外のあからさまな差について、俺の考えを含め報告をした。


 父上たちも当然報告は受けていたそうで、ちょうど今その事について話し合っていたそうだ。


「…と言うわけで天王丸、来年早々、お前は家督を継げ。当初の予定では、お前が10歳になるまでは俺と親父が地盤を固める予定だったが、これだけ極端な事になっては流石に隠しきれんし、何より臣下の者たちに納得の行く説明が出来ん。よって年始の評定でお前の元服と家督継承、そしてお前がお伊勢様の神子である事、授かった知識や権能のこと等、話せる範囲で公表する。」


 こうなるであろう事は覚悟していた為、特に問題はない。寧ろ領地の発展を思えば、俺の家督継承は早い方が良い。ただし、年始の評定までに決めなくてはいけない事がある。


「畏まりました。それに伴い、お二人にご承諾頂きたい事が御座います。実は今川仮名目録いまがわかなもくろく甲州法度之次第こうしゅうはっとのしだいの様な分国法を制定し、新年の評定にて同様に発表したく思います。」


「分国法か…親父はどう思う?早急過ぎないか?」


内容如何ないよういかんにも寄ると思うが、少し早急な気もするのう…天王丸よ。」


「いいえ、寧ろ遅いくらいです。何故なら俺の制定する分国法は所領について規定する内容が含まれる為、大領地になってからでは遅いのです。因みに柱になるのは次の10箇条です。


■前提条件

 一、川俣家当主の判断は、以下の全てに優先される。


■喧嘩両成敗

 一、家臣間の喧嘩は、双方の理由の善悪にかかわらず処罰する。ただし、相手にしかけられても、こらえて喧嘩をしなかった者は処罰してはならない。


■婚姻の許可制

 一、川俣家当主の許可なしに他国から嫁をとったり、婿を迎えたり、娘を他国に嫁にやることは、今後は禁止する。


■城砦の建築、改築

 一、川俣家当主の許可を得ず、城砦の建築、改築を行ってはならない。

 一、敵対勢力等からの侵略行為等に対処する場合などは処罰の対象にならない。


■守護不入の事

 一、領内の守護使不入地の規制は認めない。また以降これに反対してはならない。ただし、川俣家当主の許可書をもらい、個々についてもそれが明確な所は問題としない。しかし、新たに不入地とすることは今後禁止する。


■関所の廃止

 一、川俣家当主の許可を得ない関所の設置及び、通行料の徴収は禁止とする。 


■検地と年貢

 一、検地は川俣領となった時点で即時行い、以降5年ごとに再検地を行う。

 一、従属勢力の領地も対象となる。

 一、検地を妨害する行為は厳罰の対象となる。

 一、耕作地を隠す行為は厳罰の対象となる。

 一、年貢の割合は四公六民とする。また、米以外の代替品での納付も可とする。その場合は金銭的に同等の品でなくてはならない。


◾️領地替え

 一、領地替えは必要に応じて行う。ただし替えの領地は前の領地と同程度以上とする。

 一、従属勢力の領地も対象となる。

 一、不承とする事もできるが、以降の褒賞は知行以外となる。


◾️土地の扱い

 一、川俣家支配領域の土地は全て川俣家の所有であり、管理者は年貢の徴収の権利、徴兵の権利など各種権利を川俣家より委譲されている物とする。

 一、領内の整備[治水、道路整備、田畑整備など]などを反対、妨害をしてはならない。


◾️戦について

 一、川俣家当主の許可を得ない侵略行為は禁止とする。

 一、作戦上必要な場合を除き、乱暴取り等の略奪行為は禁止とする。


 特に、所領に関しては滅ぼす場合は兎も角として、従属や臣従を希望して来た勢力がいた場合、分国法を遵守する事が条件です。これは現在の臣下も例外ではありません。」


 俺の説明を聞いたお爺様と父上は渋い顔をしている。


「天王丸よ。これは相当に困難な事じゃぞ?…特に領地替えの件は反発を招こうの。」


「俺も簡単に行くとは思っておりませんが、これは絶対に必要な事なのです。別家を立てる場合を除き、飛び地の管理など労力の無駄ですし、何より領境いが複雑になり後々揉める元です。それ以外についても決して無理難題とは思いません。大体、この程度の要求が受け入れられない、その意義も理解できないような者は必要ございません。そもそも我らの傘下に入れば俺の権能の恩恵を受けられるのですよ?それだけでも、天災は無くなり収入は倍増します。これ以上、一体何を望むのか?俺としては必要十分であると考えます。」


 俺は別に土地にしがみつく生き方を否定するつもりも無いが、代わりに知行の加増は諦めてもらう事になる。如何にするか、自らの責任において選択すれば良い。俺としては強制するつもりもないし、選択肢は与えているつもりだ。ただ目先の利益に惑わされず、先を見据えている者は大を成すと言うだけだ。


「まぁ、その通りなんだがな。それでも欲深いやつは多い。そして現在の権利を侵されたく無い奴もな…何にしてもこの件はお前に任せよう。うまく乗り切って見せよ。」


「天王丸よ、分国法が完成したら儂らにも見せよ。親族、譜代の者らには前もって根回しをしておこう。」


「はい、有難うございます、恐らく従属勢力の幾つかは離反する可能性がありますが、その際は俺の初陣として、ついでに潰してしまいましょう。」


 神子であるしかも5歳である俺からその様な言葉が出るとは思っていなかったのか、二人とも驚きの表情で固まっていた。


「お二人とも、何を驚いていらっしゃるのですか?よく考えてみてください。神々や御仏ですら争いを起こすのですよ。それに今は戦乱の世の中です。俺は聖人君子を気取って手を血で汚す事をせず、後々大事な者たちの命を危険に晒す様な事にはしたくありません。」


「ガハハハ!天王丸よ、全くその通りだ。いざとなったら俺と親父が盾になってやる。思う存分やってみると良い。」


 俺の背中をバシバシ叩きながら、父上は笑い声を上げ、お祖父様は腕を組んで何度も頷いていた。





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