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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
上洛編

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第53話 伊勢神宮へⅢ

◎伊勢国・皇大神宮・正殿 楠木正顕

 1559年 9月中旬


 この正殿に入ってからというもの、見知った者の気配を強く感じている。現時点で高天原にパスが繋がっている事は間違いなく、俺がここにいる事は彼女らも分かっているはずである。


 にも拘らず、一向に話しかけてくる気配も無く、息を殺している感さえしている。


(あの駄女神共め…気配を殺して嵐《俺》が通り過ぎるのを待ってでもいるのか?)


『『…………』』


「こぅぅぉんのクソ女神どもがぁぁぁ!!!いるのは分かってるぞぉぉおお!!!さっさと出てこんかぁぁああ!!!」


 普段は出さないような俺の怒声が神聖な正殿内部に響き渡る。その怒声に皆驚き、様々に反応する。


『はぁ…もう、分かったわよ。アルテナ、覚悟を決めて顕現するわよ!』


『えぇぇぇ…なんで私まで…アンタだけでいいじゃん、アマテラス…あんたの管理世界なんだからさぁ…。』


 正殿内部に二柱の女神の声が響き渡る。皆驚きを隠せず、神宮関係者は特に腰を抜かすほどに驚いている。


『さぁ、行くわよ。あなたは私に借りがあるんだからね。サッサとしなさい!』


『はぁぁぁぁ…もう!分かったわよ…仕方ないわねぇ。』


 そうして覚悟を決めた二柱の女神は我々の前に顕現を果たした。顕現した二人は神々しくまさしく神としての威厳に満ちていた。


「いやはや…女神アルテナ様に女神アマテラス様、()()()ご無沙汰に御座いますね。待ちに待って十余年…待ち過ぎてあなた方の顔も声も忘れてしまう所でしたよ…。」


『えっ…ええ、そうですね。本当にお久しぶりですね。』


『……』


「おや?そちらにおわすは嘘つき駄女神のアルテナ様では無いですか。お元気でしたか?」


『失礼ね?!嘘なんてついてないわよ!』


「ほぉ…この期に及んで嘘に噓を重ねられるとは、神の風上にも置けませんね。まぁ、嘘つきなのはアマテラス様、あなたもですがね。」


 俺の全く遠慮しない無礼な物言いに周りの皆は唖然とし、冷や汗を流している。


『私もですか?!』


「へぇぇぇ…違うと仰るのですか?あんた等、俺と約束したよな?由那の様子を定期的に連絡すると…。それなのに十年以上も音沙汰がないのはどういった事なんだ?あぁぁん?!」


『ひぃっ?!ごっ、ごめんなさい!いろいろ忙しくって…』


()()()()()…ねぇ…二柱の女神様が十年以上に渡って数分、数十分の時間も取れない程忙しい事って何なんですかねぇ…俺みたいな凡人には想像もつきませんよ…俺なんてアマテラス(あなた)との約束を守って日々領地運営と、戦にと忙しく働いているってのに、そんな俺に対して僅かな時間も割くことが出来ないんですかね?」


 俺が本気で怒っているのを察した駄女神たちは平身低頭、最終兵器の土下座を繰り出した。


「んな?!女神様が…土下座…」


 そんな様子を皆は遠目から眺め、特に神職衆は俺に対して畏怖の感情を抱いている。


『それで、どうしたら許してくれるのよ?』


「それはお前とアマテラスが考える事だろう?!俺に対して最大限の誠意を見せればいいんじゃないか?それとは別に由那については、明日の朝までに400字詰め原稿用紙20枚以上に纏めて、インベントリに()()送っておいてくれ。」


「えぇ、お詫びについても明日の朝までに用意しておくわ。いいわね、アルテナ?」


「はいはい。」


 アルテナの投げやりな態度にはいささかカチンと来るが、一応は言いたい事は言ったし、取り合えず解決したと言えるだろう。後は皆に彼女らを紹介しておこうかな。そう考えて後ろを振り向くと、皆が一様にドン引きしていた。


「ん?そんなに離れたところで、どうしたんだ?」


「旦那様…お伊勢様に向かってあのような態度で、大丈夫なのですか?」


 市が心配そうに尋ねて来た。


「あぁ、特に問題は無いぞ?彼女らは俺に対して大きな借りがあるからな。それに俺は間違った事は言ってないから、大丈夫だ。それよりも皆を紹介したいので、集まってくれ!」


 俺の号令に従って恐る恐るではあるが集まった。


「先程までの遣り取りで分かったと思うが、こちらの二人…二柱?…面倒なので二人で行くが、こちらが天照大御神あまてらすおおみかみであり、一応俺は彼女の神子と言う事になっている。」


『一応とは酷いですね。とは言え、今まで放って置いたのは事実ですから、甘んじて受け入れましょう。』


「で、こちらが彼女のご友人である、女神アルテナ…此処とは別の世界を管理する女神だ。」


『理解出来るかどうか分からないけど、こことは別の次元にある【アルティミシア】という世界の女神をしているわ。』


 俺のように現代の特に日本人であれば、日頃から異世界物に慣れ親しんでいるので、容易たやすく理解出来るだろうが、この時代の人間にいきなり別の世界、別の次元と言っても理解する事は難しいだろう。


「あの…一つお伺いしたいのですが、楠木様はどうしてそのようにお詳しいのでしょうか。それに、女神様方とも随分と親しいご様子ですが…。」


 藤波殿が遠慮がちに訪ねて来る。まぁこれまでの様子を見れば、流石に気になるだろう。しかし今の時点で本当のことを話す訳にはいかないし、話しても理解出来ないだろう。


「そうだな…様々な制約があって、全てを話すことは出来ないが、俺は楠木の嫡男として産まれる前…所謂いわゆる、前世の記憶があるんだ。これは使命を果たす上で必要なために消さずに残している。そして彼女らと親しい様子に見えるのは、詳細は話せないが、前世での繋がりがある為だ。」


「な…なるほど…前世の記憶と繋がりですか…何にしても凄い御方である事は良く分かりました。」


 それから暫くの間、二柱の女神と俺に対する質問タイムのようなことが始まり、皆にとっては有意義な時間になったようだ。


「ところでアマテラスに聞きたい事があるんだが、どうしてこの場所だと顕現できるんだ?」


『それは八咫鏡があるからよ。高天原と現世を繋げる媒介としての役割をしているのよ。』


「他に媒介となる物は無いのか?」


『三種の神器は基本的には媒介に成り得るわよ?』


「他には?」


『他にはって、一体どういうことなの?』


「いや、他に媒介になるものがあったとして、それを各地に設置すればアマテラスと連絡が取り易くなるし、二人も現世に降臨しやすくなるだろ?そうすれば、現在、過去、未来関係なく現世を満喫できると思うんだけど?」


 俺の何気ない提案に二人は衝撃を受け固まる。


『その考えは無かったわね…とてもいい考えだと思うわ。ねぇそう思わない、アルテナ?』


『そうね、素晴らしい考えね!!』


『と言う事で…はい、インベントリに【神代桜しんだいざくら(神体桜)】を100株入れておいたわ。それを主要となる地に植樹してくれれば、直径100㎞の範囲が聖域化するわ。そうすればそれを触媒として高天原とパスが繋がり、顕現出来るようになるわ。』


 それから暫くの後、遅い時間となった為、質問タイムはお開きとなった。神職衆は特に残念そうであったが、いつまでもこのままと言う訳にはいかない。そこで後日、このような場を設けると言う事で納得させ、皆で二人を見送った。


「では最後にだが、これを…」


 インベントリから用意していた一万貫を取り出し、床に置いた。


「こっ、これは…」


「寄進だ。遷宮が出来るほどの金子では無いが、建屋の修復にでも使ってくれ。これ程荒れ果てた状態では、お伊勢様に対して申し訳が立つまい?それから一応申しておくが、絶対に私的な事には使うなよ?」


 若干の威圧を込めて強めに注意しておく。俺の立場を理解したこの者らが俺の言を無碍むげにする事は無いだろう。


 そうして細々とした用事を済ませた我々も、祭主殿らに別れを言い、神宮を後にしたのだった。





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