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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
伊勢国統一編

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17/27

第17話 祝宴にて

◎伊勢国・楠城 楠木正顕

 1559年 3月下旬


 市と家族との顔合わせは特に問題はなく、と言うよりも大成功に終わったように思う。


 皆は素直で愛らしい市を大変気に入ったようで、何かあれば皆は俺より市の味方をするだろう。それは市が家族として認められた証拠であり、俺としても嬉しい以外の何ものでもなかった。


 閑話休題それはさておき、現在、大広間では織田家の代表団を交えて祝宴が開かれている…のだが、俺たち夫婦の披露が終わり市が奥に下がった後、面倒なことに俺は義兄殿《酔っ払い》に絡まれている。


 歴史上、織田信長という人物は弟妹ラブな人物だったという説があるが、その説は間違いないと言えるだろう。事実、市のことを自分から嫁に出しておいて、俺に絡んできているのだ。


 やれ「市を悲しませたら殺す!」、やれ「市を手籠めにしたな!」、やれ「不貞は許さんぞ!」等など、面倒臭くて敵わん。基本的に俺は市を悲しませる気は更々ないし、夫婦で手籠めとか意味が分からん上に、不貞は許さんとかどの口が言ってるんだと思わんでもない。


 そうして好きな事を、好きなだけ言った後、義兄殿は酔い潰れて眠ってしまった。


 まぁ、これについては正直なところ申し訳なく思う。祝宴で提供されている酒は昨日に引き続き、清酒“伊勢の海”である。この酒は癖がなく飲みやすい事もあって酒が進むらしい。そして飲む相手である俺は【状態異常無効】の効果で良くも悪くも全く酔えない。スキルがアルコールを毒判定して中和してしまうのだ。そんな俺と飲み続けた結果、このように酔い潰れてしまったと言う訳だ。


 酔い潰れてしまった義兄殿が織田家の小姓衆に運ばれて行った事で、周りの遠慮していた者たちが提子ひさげを持って一斉に動き出す。一益から始まり正輝、満和、慶次郎へと続き、最後は遠慮がちな光秀だった。


 皆の酌は全て受け、献杯で返す。14歳の若輩がこれだけの酌を受けて平然としている様はある種、異様な光景に映るのであろう、殆どの者の顔が引きつっているように見えた。


 酌の流れが途切れたのを見計らって席を立とうとした時、今度は織田家臣団側から動きが見られる。


「丹羽長秀と申します。織田家の家臣団を代表致しまして、楠木様にご挨拶申し上げます。」


 そこから先程までのやり取りと同様、丹羽殿から酌を受け、献杯を返す。


「この度は殿がご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありません。拙者もあのように羽目を外される殿は初めてで御座います。殿は御兄妹の中では、特に於市様を可愛がっておられましたので、それは然もありなんでありましょう。」


「ハハハ、義兄殿の気持ちは分からなくもありませんから、気にしてはおりませんよ。まぁ少し鬱陶しくはありましたが、あの程度は可愛いものです。」


 それから暫くの間、丹羽殿と他愛もない話をして過ごした。丹羽殿が離席されてからは挨拶の列は途切れ、一旦落ち着いたようだ。


 そして人心地ついた俺はUIを表示させて時間を確認した。すると祝宴が始まってから6時間(三刻)も経過していた。


(もうこんなに経っていたのか…。信長のウザ絡みを含めて大勢相手をしていたから、気が付かなかったな。そろそろ寝所に戻るか、市の寝所に顔を出すか…いや、昨日の今日でもあるし、時間も遅いから戻って寝よう。)


 俺は近くにいた女房衆に寝所で休む旨を伝え、その場を後にした。


 次の日の朝は昨夜の祝宴の影響で、大広間は死屍累々の様相を呈していた。一昨日の酒宴の時も思った事なのだが、この時代の者たちは何故こんな状態になる前に、飲む事を辞めないのか?正直なところ馬鹿なのか?と思わなくも無い。まぁ、この時代は酒以外にストレスを発散する術が皆無な事と、死と隣り合わせであり、食べれる時に…飲める時に…と考えてしまうのだろう。


 異世界でも酒場でいつも飲んだくれている冒険者が、そんな感じだったので何となく分かるのだ。あちらの世界でも国家間での戦争、魔王軍の侵攻、賊の侵入等、常に命の危険に晒されていた。魔物いない分、こちらは異世界よりマシと言えるのだが、死と隣り合わせという状況には変わりがない。


ここは一つ俺が頑張って天下泰平を…と決意を新たにしていると、俺を見つけた光秀と幻斎が声を掛けてきた。そう言えば光秀は昨日も一昨日も引き際を弁えて、酔い潰れる前に酒宴の場を退散していたな。


「光秀、朝早くからご苦労な事だな。それと忍んでいない幻斎は初めて見るな。二人とも、こんな早くから如何したのだ?」


 こんな朝早くから光秀と、何より忍んでいない幻斎を見かける事が珍しい為、気になって尋ねてみる事にした。


「ああ若殿、丁度今伺おうとおもっておりました。幻斎殿、先程の話を若殿に…」


「そうですな…っと、その前に…若殿、拙者も四六時中忍んでいる訳ではありませんよ?っと明智殿、そう睨まないでください。実は昨日、手の者からの報告で北畠と長野工藤ながのくどうが手を組んで北進する準備を始めたと言う情報が上がってきております。」


 幻斎からもたらされた情報は予想外なものであると同時に看過出来るものでは無かった。


「確か先年、北畠は長年争っておった長野工藤と和議を結び、その条件として、実子である具藤ともふじ殿を養子として送り込んでおったな。もしや乗っ取りに成功でもしたか?」


「いいえ、まだ長野稙藤ながのたねふじ藤定ふじさだ親子が健在であるため乗っ取りまでは行ってはおりませんが、徐々に親北畠派が勢力を拡大させている事で、北畠の意向を無視出来ぬようになっているようです。」


 確か歴史通りであれば、1562年に稙藤、藤定親子が同日に死去していた筈。たしか暗殺説が濃厚だと言われていた。


「何にしても、この弥生やよい(3月)から皐月さつき(5月)の間は農繁期のうはんきゆえ動けまい、まぁ我らは常備兵ゆえに関係無いがな…と言う事で光秀、先手を打ってこちらから仕掛けるぞ!陣容は任せる故、警ら隊以外の部隊は20日以内に伊勢亀山城へ集結させよ。その後、長野工藤家の領内深くに攻め入り各城を攻略、最終的には長野工藤家の居城、長野城を落とす。幻斎は長野城への諜報活動を活発化させよ。」


「「はっ!」」


 俺の指示を聞いた光秀と玄斎は頭を下げると素早く動き始める。先ずは長野工藤家を全力で潰し、その威勢を買って北畠をも屈服させてやるとしようか。



◎伊勢国・楠城 織田信長

 1559年 3月下旬


 昨夜は久方ぶりに羽目を外し過ぎてしまった。


 帰りの安宅船あたけぶねの甲板で心地よい風を受けながら、昨夜の失態を思い出すと同時に発生した頭痛に顔を歪める。


(クッ?!頭が痛いな…しかし余りにも油断が過ぎたぞ本当に…常在戦場じょうざいせんじょう…少しの油断が命取りになると知れ。)


 いくら市の嫁ぎ先である楠木家とはいえ、この体たらくは反省せずばなるまい。この親兄弟でさえ殺し殺される戦国の世では、少しの油断が命取りになる。そんな事はこれまで嫌という程味わって来たではないか…。


 俺は昨年の師走、まだ数か月前の事だが弟の勘十郎かんじゅうろう信勝のぶかつの事)を・・・殺した。勘十郎は何度も俺の命に背き、終いには自分の方が織田弾正忠家の当主に相応しいとして、謀反を起こした。一度は母の助命嘆願を受け許しはしたが、再度の謀反を企てたことを受け、仕方なく騙し討ちにして殺した。


(その時に思い知ったではないか…それが例え母親だろうと…弟だろうと…こちらが如何に大事に思っていても、人は裏切るのだと…ゆえに決して気を許してはならぬ。)


「最初から信用しておらねば…気を許しておらねば、裏切られても苦しむ事はない…」


 無意識のうちに口をいて出た言葉に、この時の俺は気が付いていない。


「殿、五郎左に御座います。」


 かなりの時間、思考の海に沈んでいたのであろう、突然の五郎左の声に驚いてしまった。


「おぉ、五郎左ごろうざか…如何した?」


「殿は…殿は楠木様をお信じになって居られるのですね。昨夜の酒宴での事、そうで無くば…」


「いいや、未だ決めかねておる。そして昨夜の事…あれは大きな失態だ、反省しなくてはならん。どうも俺は市の事となると、暴走する嫌いがあるようだ…まぁどちらにしても…だ、此度の婚姻同盟は我ら織田にとっても大きな益がある事だ。五郎左も見たであろう?楠の城下町の発展具合を…ここで協力関係を築いておけば、我らにも莫大な富を我らにもたらす事だろう。そしてその富を利用し、力を付けて大きく飛躍するのだ。」


 俺は五郎左には勿論の事、自分自身にも言い聞かせるように言葉を紡ぐ。そんな主君を幼き頃からの付き合いである五郎左こと丹羽長秀は、愁いを帯びた表情で見つめているのだった。






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