シ線
8月も終わりが近付いていた
唯麻衣の二人は自由研究の内容を変更するしかなかった
圧倒的に時間と情報が不足していたからだ
仕方がなく共同研究という事でセミは本当に7日の命なのか!?という小学生男子が研究題材にしそうなモノを作り上げた
実際には1ヶ月以上生きる個体もいるようだ
あれ以来松田と名乗る老人とは会っていない
唯は高校生が研究していいレベルではないと諦めかけていた
しかし目をキラキラさせている相棒が隣にいる
小学生の時にコックリさんや一人かくれんぼを満喫した麻衣だ
麻衣は諦めるなんて事はしない
唯が身構えてると予想通りの言葉を発した
「松田さんに連絡しようよ♪」
ほらきたよ
唯は少し不安だと伝えるが麻衣の好奇心に負けてしまう
そうなると考えるより行動だ
デコレーションだらけのスマホを取り出すと目にも止まらぬスピードで電話を掛けだした
3回コールすると渋い声で「もしもし」と聞こえてきた
スピーカー機能を使って唯と麻衣が挨拶をする「こんにちは」
松田はすぐ気付き「ああ、こんにちは、久しぶりだね」と軽く挨拶を返してくれた
あの事件が気になる事を伝え、研究ではなく真相に迫りたいと真剣な眼差しで二人は協力をお願いした
松田は少し悩んだ
学校の課題程度の薄いものなら問題ないが、深い所まで教えてしまっていいのだろうか‥
目の前には真剣に向き合おうとしている若者がいる
松田は決意した
この子達なら大丈夫だろう
「分かりました、少し時間を下さい
すぐに繋がると思いますので、そのままでいいかな?」
「ありがとうございます!
待ちます!」
見えない相手に二人は深々と頭を下げた
松田は携帯電話を一旦手放す
固定電話で誰かに連絡を入れてくれている
「もしもし、松田です
久しぶりだね
少し頼みたい事があるんだが‥」
自分達の為に誰かに連絡を入れてくれている松田に感謝する
すると松田は「元気そうで何よりだったよ、それじゃあまた」と挨拶を交わし電話を切った
「お待たせしたね、申し訳ないが子供が首を突っ込む事ではないと断られてしまいましたよ」
そりゃそうだ、考えたら分かる
殺人事件かもしれない
そんなものに子供を巻き込んでいい訳がない
しかし松田も協力すると首を縦に振ってしまっている
そこで松田は自身が捜査をしていた資料を見せる事にした
既に引退をしているとはいえ簡単なものではない
条件としては個人で調べたこと、尚且つ刑事として捜査で分かった事以外に限定する事で二人の了承を得た
唯と麻衣はそれでも嬉しかった
真剣に向き合ってくれる大人がいる
きっかけは些細な興味本位だったかもしれない
それでも目の前にいる老人は真剣な目をしている
二人は真面目に取り組む事を決めた
後日、松田から資料を預かった
間引きされたであろう部分に関しては口頭で質問する事が許された
資料を唯の部屋へ持ち帰る
唯と麻衣は資料を少しの漏れもないように読み続ける
松田の時間を無駄には出来ない
また、それを自分達の解釈を加えた形で作り直す
その作業は季節が変わっても続いていたが、秋が深まった頃にようやく資料が完成した
挿し絵を加えたそれは松田も感心するばかりだった
完成した資料から今度は事件の真相に迫っていく
中本の死
加賀美の死
二人の共通点や死因、山村で起きた大量殺人
その全ての点を線にしたい
唯と麻衣は二部作った資料を互いの部屋に持ち帰ると各々の考察を始めた
麻衣は元々の不思議好きも手伝ってか、勉強机に根を張ってしまう
資料を読み解いていくと明らかに松田が隠している何かに気付いてしまう
夜8時過ぎ
老人に連絡するにはギリギリの時間かもと思いながらも電話を取った
数コールすると松田は電話に出てくれた
「もしもし松田さん、麻衣です。
夜分に失礼致します。
どうしても聞きたい事があって連絡させてもらいました。」
麻衣は資料の抜けた部分について質問をぶつけた
松田は快く話しを聞いてくれている
「やっぱり呪いや呪術と考えた方が自然なのでしょうか?」
少し間を置いて「私もその考えに至ったよ」と松田は同調した
しかしそれが答えになるのか?
目に見えないものの正体が答えでは今まで何をしていたのか分からない
麻衣は松田に最後の質問をした
「呪いや呪術を証明する事は可能でしょうか?」
「可能です」小さな声だった
松田も長年追ってきた事件の答えが呪いでは納得がいかないのだろう
それでも可能だという言葉はとてつもなく重い
麻衣はありがとうございましたと伝え電話を切った
資料が完成した日、松田に可能だと聞いたその日だった
遅くまで思考に耽った麻衣はいつの間にか午前2時になっている事に気付く
明日も学校がある
焦りながらも就寝支度をする
パジャマに着替えベッドに入る
羊を数える間もなく眠りについた
トントン
トントンっ
トントンっ!
何か音が聞こえる
夢?
自分が起きているのか寝ているのか分からない
その音は少しずつ近付いてくる
トントン
トントンっ
何の音?
何かを叩く様な音
どこから聞こえるか分からない
そっと目を開ける
自室が暗闇の中にある
暗闇に目が慣れる
ドンドンっ!
その音は麻衣の足元から聞こえてくる
足元の空間?中空から聞こえてる気がする
麻衣は恐る恐る体を起こす
体を起こした刹那、何かに押さえ付けられた
体が動かない
恐怖が脳から全身に伝わる
指先まで恐怖に浸された
その恐怖は暗闇から現れる
和装の男が刀を持って立っている
刀の鞘を床にトントンと叩き付けている
こちらをギロリと見下ろす
気を失いそうだった
だがこれが夢なのか現実なのか分からない
気を失った方が楽だろう
その瞬間恐怖から逃げられる
それでも逃げられない
眠っているからなのか、それとも既に気を失ってる状態なのか、それすら分からない
男は音もなく麻衣の足元からベッドに上がると少しずつ上半身の方へと歩いてくる
男の重みを感じる
布団が沈む
ベッドの軋む音がする
男は刀を手放し麻衣の首に手を掛けてきた
苦しい‥
苦しいよ‥
やめてやめてっ!
動かない足をバタバタさせる
これはきっと現実だ
首に男の指が食い込む
助けて!助けて!
お母さん助けて!!
苦しい‥
麻衣の絶望はピークに達した
気が遠退く
意識が消える最後の瞬間に光る何かを見た
それは温かく優しい光だった
気付くと夜が明けていた
部屋には朝陽が射し込んでいる
昨夜のあの出来事はやはり夢だったのだろう
麻衣は少し困惑しながらも制服に着替える
気だるさを感じながら1階に降りると食卓へ向かう
あれ?誰もいない‥
「おかあさーん」返事はない
朝ごはんも用意はされていない
お腹空いたなんて思っていても何もない
昨夜はかなり遅くまで起きていたのもあって眠気が襲ってくる
これでは家を出る前に二度寝さてしまう
洗面所へ向かい顔を洗う
顔を上げて鏡を見ると麻衣の首には赤く爛れた手形がくっきり付いていた
つづく




