カイ線
竹下は中本について調べると悲惨な人生が見えてきた
あの有名な山村で起きた事件の被害者家族だった事
両親は殺害され、犯人が自害した事で事件は幕を閉じている事
中本自身は近所の親戚に連れられ名古屋へ落ち延びていた
幼かった中本は両親の事を知らされず、親戚の養子となって暮らしていた
中本を引き取った夫婦は数年後に車の事故で亡くなっている
車の外へ弾き出された夫婦はガードレールや広告看板にぶつかり身体が引き裂かれ亡くなっていた
まるで刀で斬られたかのように、夫婦共にである
その後中学卒業と同時に土木会社に就職
真面目に仕事をしていたが、数年前から様子がおかしくなっていた
定期的に仕事を休み、どこかへ行っていた
仲の良い同僚には墓参りに行くと言っていたようだ
それ頃からだろうか、仕事中に突然大声で叫び出したり、頭を抱えて何か独り言をブツブツと言うようになっていた
上司が悩み事でもあるのか聞くが、元々そう言った事を他人に漏らすタイプでもなかった中本は答えなかった
また、中本が亡くなる少し前に一週間程休んだ事があった
理由を聞くと小さな声で「呼ばれたから‥」とだけ答えたという
周りの同僚達は精神的に疲れてるのではと心配していたのだが、その数日後大量の御札を買ってくるのを見た者がいる
それが中本が確認された最後の姿だった
竹下は勘が働く
あの少年に会ってからだ
明らかにそれまでとは思考回路が違う
何か特別なモノをもらった気がしていた
竹下の考えはこうだ
墓参りとは自分を引き取った育ての夫婦ではなく、山村の本当の両親ではないのか?
忌み地となってしまった村へ行ったのではないか
中本自身も松田と共に導かれて山村に行く事になった
そこであの少年に出会った
何かの力によって死へと誘われた‥
頭の中で事件がグルグルと回り出す
しかし竹下は刑事だ
呪いを答えにする訳にはいかない
当然犯人がいる!
その信念は曲げることが出来なかった
松田と竹下は長年に渡って捜査を続けた
捜査を続けたが物証が一つもなく、目撃者が一人もいない状況では何一つ前進する事はなかった
当たり前の様に捜査規模の縮小でついには捜査の打ちきりが決まる
松田と竹下は抗うが上の決定に逆らう事に意味はなかった
最後の願いとばかりに、二人が向かったのは少年の所だった
以前は迷うことなく辿り着けたが、今回は全く見付けられない
近隣の町で聞き込みをするも知っている者は一人もいなかった
狐につままれる
まさに、その一言
その後何度か訪れたが結局少年の元へたどり着く事はなかった
事件から数年経過している
当然他の事件も担当しなくてはならない
二人は少しずつ捜査から離れていった
松田は公に捜査が出来なくなったが一人で犯人の足取りを追った
中本が見付かったアパートも既に取り壊されている
同じ場所にまたアパートが建とうとしている
車の中から窓越しに見る景色にふと子供が映りこむ
どこか儚げなその子はこちらに気付き軽く微笑んだ
松田は何かに呼ばれた様な気がした
車を降りて子供の元へと向かうが子供は笑いながら死角に入ると姿を消してしまった
子供の気まぐれなどよくあることだ
気にせず帰宅する
松田はその日から不思議な夢を見るようになった
一人の少女の記憶とでもいうのか、まるで走馬灯を見ているような夢
その少女の夢に音はなく、何かの会話をしているが聞こえない
周りでは男達が薄気味悪い表情を浮かべている
松田は少女の心が同調したように酷い恐怖心が伝わってくる
その後肉体に何度も何度も痛みが走った
松田も経験したことのない痛みに目が覚める
息を切らし汗が止まらない
恐怖と絶望のその夢はあまりに生々しく、まるで自分自身が本当に体験したかの様だった
数日後、その日は捜査が遅くまで続き、帰宅したのは午前0時を過ぎていた
松田の住むアパートの2階はすぐ脇に階段のある作りだ
階段を上がるとスグに松田の部屋がある
昼間、他の住人が2階へ上がってくると、カツンカツンと足音が聞こえてくる
捜査の疲れもあり早々に布団に入る
うつらうつら意識が遠退くとカツンと音が聞こえた気がしたが、眠気が強く寝落ちする
その日は少女の夢を見なかった
毎日の捜査が夜中まで続く
翌日、また床に付くとカツン、カツン
誰かが階段を上がってくる
それは階段を上りきる事はなく、静かに消えていった
それから毎日カツン、カツン、カツン
今日は3段
金属製の階段は足音を反響させる
松田は少し気になり出していた
翌日は4段階段を上る音が聞こえる
5段、6段、7段
日々音が近付いてくる
今日は8段か?なんて思っていても仕方がない
松田は音が聞こえた瞬間飛び出す用意をしていた
しかし、その日は階段を揺らす足音はしなかった
深夜、松田はいつの間にか眠っていた
あぁ、またあの夢だ
夢が夢であると理解できている
いつもとは様子が違う
少女がこちらに何かを訴えている
必死の形相で明らかに松田に対して何かを伝えようとしているが、この夢はいつも音がない
少女は目に涙を浮かべている
伝わらないもどかしさ
目の前の少女は何故これ程必死なんだろうか
松田は何度も夢に出てくるこの少女が誰なのかも分からない
心苦しさと申し訳なさで息苦しくなった時
ピリリリリ、ピリリリリ
目覚ましに叩き起こされた
ガバッと起き上がる松田は変な汗をかいていた、額から滴り落ちる汗を追うと自分が泣いている事に気付く
少女の心がリンクした感覚が抜けるのに少し時間が掛かった
今日も捜査だ
部屋を出る松田はふと思う
そういえば階段は何段あるんだ?
いち、に、さん‥
じゅうに、じゅうさん
13段か‥
という事は後6日で何かが分かる
何か大きな力に気持ち悪さを感じ始めていた
つづく




