サイ点
8月中旬、ほとんどの課題は終わった
唯は羽を伸ばすため麻衣と市民プールに来ていた
「ゆい~」
麻衣がアイスクリームを両手に走ってきた
走っちゃダメだぞ!なんて思ってると監視員のお兄さんに笛を吹かれる
ピピーっ!そこ走らない!
麻衣は反省した様子で俯きかげんに歩いてきた
「怒られちゃった」
舌をペロッとする麻衣のハニカミ笑顔に癒される
アイスを食べながら課題の話しになる
「あとは自由研究だけだね‥」
二人はあの事件が気になっていたが、少し気持ち悪さを感じていた
「どうする?」
唯が麻衣の様子を伺う
バニラアイスを食べながら麻衣は空を見上げる
「やっぱ気になるよね」
あの日から頭の片隅にあの事件が常にあった
唯が何かを決意した様に突然立ち上がる
「よし!やろう」
「やらない後悔よりやって後悔する方がいい!
少し気味悪いけど私やるよ!」
麻衣も意を決し立ち上がる
「やった後悔はいずれ薄くなっていく
でも、やらなかった後悔はどんどん大きくなるって何かで読んだもんね」
『やろう!』
二人はあの怪死事件を調べる事にした
「ところで唯?
私達って何を後悔するの??」
「なんだろ?」
二人は顔を見合せプッと吹き出す
アハハハハっ
笑い声が市民プール中に響き渡った
まずはネットで事件について調べるところから始まった
唯の部屋はクーラーが活躍してくれている
快適にネットの波に乗る事が出来た
怪死事件の割には記事が少ない
テレビのニュースで扱った形跡も何故かほとんど無かった
あっという間に船は座礁してしまう
「う~ん、どうしよう」
唯が頭を抱えていると麻衣が閃いた
「同じような事件がなかったか調べようよ」
選手交代とばかりに麻衣がキーボードを叩き出した
ネットの中の情報を全て信じる事は出来ない
そんな事を考えていると、気になる記事が一つ見つかった
23ちゃんねる
ネットのラクガキサイトだ
唯も麻衣もこの手のサイトが嫌いだった
人の悪口や貶める内容ばかりで見ていて嫌な気分になるからだ
(名古屋密室殺人)そんなタイトルに目を奪われる
これだ!顔を見合せ頷く
クリックして窓を開ける
この事件は隠された
独り暮らしの男が殺害されたのだが、警察は早々に捜査を打ち切った
時効まで捜査をしていたのは二人だけだ
結局この事件は解決する事なく闇に葬られた
事件の概要はこうだ
部屋の窓や玄関はカギがされており、玄関ドアにはチェーンロックもしてあった
死因は絞殺
捜査初期は他殺と判断
犯人を追ったが手懸かりは一切なかった
目撃者ゼロ
隣人も人の出入りがなかったと証言している
首に付いた手形が自死ではない事を明らかにしている
最後まで残った捜査官は人成らざるモノの犯行だとした
唯は麻衣の肩を掴む
「唯、痛いよ‥」
「ご、ごめん」
二人は息を飲んだ
似てるよね‥
というか酷似し過ぎて同じ事件かと思う程だ
画面を下にスクロールすると記事が書かれたのが10数年前だという事が分かった
不思議大好き麻衣の目がキラキラ輝いている
火傷しそうな熱視線
まずやる事は一つだ
投稿主に連絡を取りたい
既にかなりの時間が経過している
もしかしたら投稿主はもうこの記事に関与する気がないかもしれない
そもそも連絡先も変わってるかもしれない
一抹の不安を抱えながらも投稿主にダイレクトメールを送った
3日後、投稿主だと名乗るパインから連絡が入った
唯は急いで麻衣を家に来るよう呼んだ
パインと名乗るその人は今回の事件も知っていた
メールで数度やり取りをする
相手の素性も分からない人間に話せる事は少ないと言われてしまった
それならと、二人は勇気を振り絞る
唯麻衣コンビは会って話したいとパインに連絡をすると割りと近くに棲んでいる事が分かった
次の日曜日に名古屋で有名な喫茶店で会う事になったのだが、こちらは高校生二人だ
やはり知らない人と会うのは多少不安が残る
何か作戦を考えなくちゃ‥
唯麻衣は悩んだが答えが出ずに日曜日を迎えた
仕方がないと意を決する
お互いに特徴を伝え待ち合わせの場所へ向かう
「なんか昭和みたいだね」なんて言いながら自慢の自転車を漕いだ
カフェではなく喫茶店
その前には淡いブルーのスーツを着た老人が立っていた
メールのやり取りでは相手の姿が分からない
まさかの相手に唯麻衣は驚いた
「パインさんでしょうか」
老人はコクりと頷く
唯と麻衣は丁寧に挨拶した
お店の中へ入る
ホットコーヒーにクリームソーダ
アイスカフェオレを注文すると麻衣が口を開いた
「不思議な事件だと思っています
この事件を夏休みの研究課題にしようと調べてました」
そういうと老人はニコっと笑った
「私はこの事件をずっと追いかけてきたんだよ、もう40年近くなるかな」
そんなにも‥
唯は驚きを隠せない
興味本位で、しかも夏休みの課題の為だけに調べようとしていた事に僅かながら申し訳なさを感じた
「さて、どこから話すかな」
老人は中本という男性の事件について教えてくれた
捜査を担当したのパインであり、時効になっても追い続けた事
コンビを組んだ若手刑事の話し
呪いや祈祷、祈りの力
不思議な少年やその一族の事
辿り着けない山村の事は特に細かく話してくれた
山村の屋敷には一度行く事が出来たが、二度と辿り着く事が出来なかったと言っていた
本当にそんな事があるのだろうか?
二人は少し戸惑っていた
「ところでお嬢さん方、占いや魔法みたいなものは信じるかね?」
二人は顔を合わせたかと思うと強く頷いた
「そうか、なら君たちは辿り着けるかもしれないね」
当時のパイン老人は全く信じていなかったという
あの少年に会うまでは‥
2時間程パイン老人の話しを聞いた
今後も何か聞きたい事があったらいつでも連絡してきなさいと電話番号を教えてくれた
別れ際に唯が訪ねる
「あの、パインさん、お名前を伺っても宜しくでしょうか」
老人は一息付くと《松田》とだけ名乗った
つづく




