蝶
ある日、終わりが来て私は蝶になることにした。
私は、私など初めから影も形もなかった世界でひらひら風に興じていた。
蝶になるまで知らなかったが、風はきらきらと光るものなのだった。
蝶になるまで知らなかったが、世界の光とはより光る世界の影法師なのだった。
夜は夜色に光り、朝は朝色に光り、昼は昼色に光っていた。
夕暮れが不意に訪れて、
私はそのまま夕暮れの囚われものになった。
光の世界は恋しかったが、この明るくも暗くもない世界も居心地はわるくなかった。
ぼおっとした世界で私の羽も体も、ほんのちょっぴりずつ消えていった。
一つまみの自分すらも消えてなくなった時、
──白い扉と白い階段の上に姿のないまま立ち尽くし、私はおんおんと泣いていた。
声も姿もなかったけれど。
私はその、優しくて辛くて温くて悲しい味の階段を泣きながら降りていった。
今まで蝶でいて、現在何者でもない私に、その階段は刺さるように染みたのだ。
そうして、私は私になったのだった。