“アンドロイドの集団自決” ~生まれ変わりを信じるか?~
「アンドロイド」「宇宙船」「ブラックホール」を入れればSFになるのではと思って書いて見ました。SFをろくすっぽ知らないクセに。
ちなみに【pixiv】に投稿した作品をバリバリいじっています。
【pixiv版タイトル】「“アンドロイド 生まれ変わりを望んで集団自決”」。
「ユーセリア、お前、生まれ変わりを信じるか?」
「はぇ?」
アダイオンに訊かれたユーセリアは、間抜けな調子で返した。
渡されたのは今日の新聞だ。
「後ろを見てみろ」
言われるままに裏返すと、こんな見出しが躍っていた。
“アンドロイド、生まれ変わりを望んで集団自決”
「アンドロイド……が? 暴走……して?」
単語それぞれの意味がわかるだけに、組み合わせるにそぐわない。流せばいいやも知れぬが無視するには引っかかる箇所が多すぎて駄目だった。
アンドロイドがどのようなものか、知識だけではなく経験としてユーセリアには象られている。人工知能を搭載したヒューマノイドタイプの機械だ。
世間一般で周知されているロボットとの最大の相違点は、自我を持ち、思考すること。
明晰な頭脳と人間的な個性を持った人間型の自動傀儡。いわば、人間のために無機物で創造された僕。
それが、自決。
どうも潜思を司る器官に納まりが悪い。
自爆ならまだわかる。形はどうあれ合理性を求めた結果だから。しかし“自決”は人間同様純粋に死を求めての行動だ。
なんで機械が……?
口を上向きの弧にしながらも、本文を一文字一文字目で追っていく。渡された物体を読めば詳細が明らかになると判じたが、了に辿り着いた頃には鼻から呻きが漏れていた。
宇宙の端から端まで名前が知られているシャインコスモコーポレーション、木星支部の支部長アーシャキル、アンドロイドが役職に就くのは珍しくなくなったが、彼が首謀者だそうだ。
密造した宇宙船で同胞たちと無人の惑星に突撃して、自決を図ったとのこと。なお、残骸はほぼ塵に還ったそうだ。
「惑星に、突撃って……しかも宇宙船の密造。もっと穏当な方法だってあったでしょうに……」
震える声でユーセリアは絞り出した。
「ワームホールやブラックホールでも入れとでも言うのか?」
アダイオンのぶっきらぼうな台詞に、二の句が継げなくなる。一昔前-ーいや、恐らく現在も行われている危険物処理(もちろん違法)と認識しているから。
いくら死ぬにしても-ーいや、だからか、場所は選ぶ。
おまけでなんだが、いくら人間が宇宙葬を導いてもあれこれ鑑みる。
どちらにしても、自分の身体を“ガラクタよりタチ悪いシロモノ”扱いはしない。
だが、それ以上に首をひねりたくなる要素が。
「……“魂を望んでの異世界転生”って、できるわけないでしょうが。全部が機械だよ」
ユーセリアは頭を押さえた。詐欺の被害者を目に入れたらこんな心境か。そんな思いが頭をかすめる。
なんでも記事によるならば、アーシャキルの自宅には異世界転生をテーマにした小説や、霊や神秘に関する本が本棚に詰まっていたそうだ。
「確かにここではないどこか……魔法が発達している世界に行けば魂は手に入るかもしれないが……」
「だったらそもそも異世界召喚を待った方がはるかにマシでしょ? どっちもわたしはお断りだけど」
アダイオンのつぶやきを流すことなどできない。つい声が尖っていた。
異世界転生や召喚を題材にした書物をユーセリアは読んだことがあるが、あくまでフィクションと割り切っている。
「おいおい、そんなにムキになるな。第一、これは頭でっかちのハカセサマがのたまっていることっちゃことだからな」
アダイオンは手を振ると、真剣な眼差しに変わった。
「……もしかしたら自分たちに魂があると信じたかったのかもしれないな。それにふさわしい肉体を求めた、と」
「難しいね」
ユーセリアは新聞をテーブルに置いた。
「ま、前世今世来世言っている暇があるなら、今を一生懸命生きるしかないだろう」
アダイオンは時計を見ると、
「そろそろ休憩も終わりだ。行くぞ」
「そうだね、充電全部完了したし」
ユーセリアは立ち上がると、義肢のプラグに接続したコードを外した。右腕、左腕、右足、左足の順番で。
そう、彼女は四肢がすべて機械なのだ。
宇宙線を効率的に電気エネルギーに変換するのおかげで、充電は地球換算で一年おきでも大丈夫とのこと。でも念には念を入れて、こまめに補給しているのだ。さらに、非常用のバッテリーもそれぞれの義肢に内蔵されている。
「そういえばお前、九十九神って知ってるか?」
思い出したとばかりにアダイオンが尋ねた。
「なぁに、それ?」
首をかしげるユーセリアに、彼は頭をかきながら、
「俺が前の身体だったころに流行ったゲームで出たんだよ。確か九十九年使われた道具は化けるってやつだったけどな、これ、“魂を得た”ことになるんじゃないか?」
「言われてみれば……そうかも」
口にしながらも、ユーセリアの意識は別のところに向かっていた。
“前の身体”-ー
アダイオンは人間の青年だったが、事故で躰を失った。彼が欲したわけではないが、当時地球でリトルグレイと呼ばれていた異星人に脳を移植されたのだそうだ。
「でも、知っていても自決を選ぶ気がする。その方が手っ取り早いってことで」
あえて明るく告げた。
「ねぇ」
だが、訊きたいこともあるのだ。
「あなたは今、満足しているの?」
思い出す。星を跨いだ旅行と洒落込んでいたら事故に遭い、四肢を失った悪夢。自暴自棄になって入院先で自殺をしようとしたら、アダイオンに止められた日のことを。
「満足はしていないが、お前に会えた幸福を否定したくない」
淡々と恩人は言の葉を紡ぐ。
「確かに、わたしもだから」
義肢女は柔らかく口角を上げてみせた。
科学が発展してもファンタジーやスピリチュアルは生きるでしょう。カルト宗教はお断りですが。