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ホラゲー世界の怨霊に転生した 念力マジ便利、わたし動かないよ


 転生したら幽霊でした。

 いや、生きてねーし、死んでるし、と思ったけど、死んだのだから死人で当たり前か。

 ただ、わたし、どう考えても有名なホラゲー《ブラッドパラダイスー死の学園》のメイン悪霊ちゃんなんだよね。イジメで死んだ少女の姿。血色さえ良ければ美少女なんだけどなー。

 

 わたしは転生?してから、この閉鎖的な学園をウロウロしていました。この領域から出られないんです、残念ながら。

 学園を歩けば、そこらじゅうに血と肉と骨の痕。それから、わたしの怨念に吸い寄せられた少女の霊と、ここで殺された人々の霊。

 死んだら死んだで、だいたいみんなあっけらかんと受け入れているのが怖い。殺した霊と殺された霊が仲良く談笑していたりする。 

 もちろん、そんな霊たちはわたしの管理下にいる霊だけで、かなり怨霊のレベルが高い霊、地縛霊のように保健室や空き教室や屋上にいるやつとかは言うこと聞かない危険な霊だ。


「ここは……」


 わたしが怨霊ちゃんをやり始めて、444人目のお客様。ええ、443人は死にました。わたしも初めは頑張ったんですよ、殺されないように。

 でもですね、ここ食べ物がない。水はかろうじてあるけど。

 いや、食堂にはあるんだけどね。食堂の霊は言うこと聞かない。そして、食糧をもらえても、どこかで毒を盛ってくるんです。最長生き延び期間が45日です。

 ちょっとした傷から感染病で死ぬ時もある。だって保健室以外に消毒液なんてないし。保健室の霊とは関わりたくない。

 死ぬ理由の残りは自殺です。こんな幽霊だらけのところに生身で生活し続けるのは苦痛だろう。それに、わたしのおかげで幽霊も悪くないかと思わせてしまうし。楽しく幽霊やってまーす。怨霊ちゃんでーす。

 生きてても、元の場所に返してあげれないし、良き幽霊ライフでいいではないですか。いやわたしは自殺を教唆してないけど。


「どーも、怨霊ちゃんだよ」


 美少女スマイルで可愛く微笑む。まぁ青白いし足もないから、恐怖で絶叫される時が多い。


「ひっ、え、きゃぁああああああああっ!」


 はいはい、もうその反応はわかってます。

 でも、やけに黄色い悲鳴だなぁ。


「はーい。落ち着きましょう。ここは、私立あかね中学校です。まぁ、かなり昔に取り潰しにあってますが」


「ここって、まさか、ノワールクロウ社が初めて出して大ヒットしたホラゲー《ブラッドパラダイス》の世界。やったー。噂はほんとうだったんだ。あ、怨霊ちゃん、初めまして。大ファンです」


 抱きついてきた少女は、わたしを素通りして床にダイレクトアタックした。ボロそうだけど、崩れないんだよね、この校舎、不思議。

 反応に困る子が来た。いや、わたしの同類かな。

 ホラゲー世界にやってきて喜ぶとか。本当だったら、結構グロい殺され方されたりするよ。内臓ぐちゃぐちゃにされちゃうよ。しないけど。


「えっと、ようこそ」


「あれ、怨霊ちゃん。今は狂気に堕ちてないんだ」


「いえ、わたしは怨霊転生したので、中身が違います。わたしは、あれ名前が出てこないよ。まぁ、怨霊ちゃんでいいよ」


 ニコニコ。第一印象が大事。怖くないよ。悪い幽霊じゃないよ。


「…………わたしの推しホラゲーが、ゆるふわ系コメディホラーになってる、だとっ」


 ガックリと四つ這いになって床を叩く少女。やだ、怖いわ。


「まだ来て3分も経ってないのに。どう判断してるの。全員死んでるよ、来た人は」


「いやいや、後ろで微笑ましく怨霊ちゃんを見ている幽霊は何なのっ。お化け屋敷でももう少し頑張って驚かそうとするよっ!こんなのブラッドパラダイスじゃないよ」


 そう言われても。わたしに猟奇的な殺人願望はないし。

 グロ画像とかネットや映画で見るのはいいけど、自分で作るのはちょっと遠慮したい、死体だけに。

 

「みなさん、こんなのでいいんですか。もっと私立あかね中学校はおどろおどろしい雰囲気を見せるべきです」


 少女は怨霊を前に演説をし始めようとしていた。


「プロ意識はないんですか。幽霊として生きている人をビビらせましょうよ。せめて、こんなほんわか空間じゃなくて、死の恐怖を感じさせろぉー!!」


 なに言ってんだろう。いや、死ぬよ。あなた、餓死か毒殺かで。

 餓死が多いかな。わたしが少し餓死の苦痛を楽にさせてあげられるから。眠るように死ねるよ。

 だいたい、出会っていきなり「大ファンです」と抱きついてきた人間に言われたくない。


「まぁ、ちょっと落ち着いて。どのみち食料が手に入らないので、あなたは死にます」


「大丈夫です。わたし、食べなくてもいい体質だから」


 そんな体質を幽霊以外に知らないんだけど。


「冗談です。とりあえず、一年分の食糧を持ってきました」


 あー、そうだね。やたら大きなナップサックがありますね。さらに段ボール箱が五箱。どうやればこんなに手荷物を預けられるの。

用意周到、準備万端。もしかして余命一年宣告の患者気分ですか。ホスピスじゃないですよ、私立あかね中学校は。

 とりあえず、やってきた変な少女に現在の私立あかね中学校の様相を説明した。近づいてはいけないエリアは特に念入りに。使っていいトイレは決まっているし、渡り廊下は一階はダメ、プールも泳いじゃダメだよなど。

 まぁ、彼女は《ブラッドパラダイス》の知識があるから大丈夫だろうけど。


「だいたい理解したよ。でも成仏して、この世界を終わらそうとか思わないの。443人死んでるんでしょ」


 変人がマトモなこと言ってる。たしかに、わたしがこの怨霊ちゃんと一緒に成仏すれば、この世界に迷い込む人がいなくなって、この世界で死ぬ人はいなくなるかもしれない。


「たぶんさ、《ブラッドパラダイス》のラストみたいに、別の怨霊ちゃんが生まれるだけだと思ってる。霊磁場が強すぎるみたいな設定だったし」


「あー、そっかー。じゃあ、あなたが死ねば、ここはわたしのパラダイスに」


 ちょっと、なに乗っ取りを算段しているの。

 だいたい、あなたが新しい怨霊ちゃんになれるか不明だし。

 そもそも幽霊をどうやって退治するつもりかな。ゲームと違って、現実には退魔師なんていないのだよ。


「って、なに、大量のお札をダンボールから出してるのっ!」


 やってきた少女は嬉々として除霊グッズを並べていた。やめて、幽霊成り立ての子達がビビってるから。


「ご利益ありそうなものはいっぱい持ってきました。いきなり惨殺されたらつまらないから」


「それで食堂解放できないかな。そうすれば、ずっといられるよ」


「ちょっと、幽霊退治してくるね」


 食堂に大量のよく分からない効力のありそうな物を持って駆けていった。






「天国。ここは天国」


 くつろぎ過ぎでは。こんなずっとアカネ色の世界で。

 食糧問題が解決すれば、快適なのは分かるけど。

 パラダイスでも、血のパラダイスなのに。


「でも幽霊っていいなぁ。食べても太らないし、排泄もいらないんでしょ」


「そうだよ」


 わたしは、食堂のラーメンをすする。どこから食材が無限に調達されているのかは知らないけれど。食堂の食材は減らない。

 食堂解放バトルは、激戦だったよ。割愛します。だって、ホラゲーで、バトルってね……幽霊ガンバレ。


「わたしも幽霊になろうかなぁ。肉体から解放されたいよー」


「まぁ、次の来客が来れば、楽しくやればいいんじゃない。生者同士」


「どのみちここから出れないから死人のようなものだけどねー」


「ゲームだと最後脱出してたよ。地下道から」


「そこ、悪霊放置状態でしょ。やだよ。食堂でこりました。ホラーでバトルはしちゃいけない」


 まぁ、基本幽霊の方が圧倒的に強いよね。わたしも念力で、目の前の少女のクビぐらいグルッとやれるし。幽霊増え過ぎで、わたしの念力は53万を突破しているよ。


「保健室のベッドとか欲しいんだけどなー」


「用務員室ので我慢しなよ。あと、体育館のマットもあるよ」


「くっ、なんでふかふか布団を持ってくることを忘れたのか」


 ねえ、私立あかね中学校の入り口大きすぎない。そんなものまで入るぐらい開いてるの。現世と繋がり過ぎじゃない。


「きゃあああああっっ!!」


 食堂で女子中学生のように、中身のない会話をしていたら、悲鳴が学校に響いた。じょうきょうはミステリ小説のようでも、わたしは完全に落ち着き払っていた。

 ええ、もう何度も経験しました。女子の悲鳴で驚く時代は過ぎました。


「事件だっ!!」


 生身の少女は大喜びで走り出した。

 食堂で取り残されたわたしは、伸びた麺をすするのであった。



 わたしが現場に来た時、全ては終わっていた。


「あ、たまにいるんだよ。空き教室や屋上に出現しちゃって、殺されちゃうの。運がなかったね」


 空き教室の中で、少女がバラバラ。あんまり見ないようにしよう。中に入ると、悪霊が攻撃してくるかもだし。


「ねえ、こうやって死んだら、幽霊になれるの」


「うーん、あんまりにも痛みが強いと記憶が飛ぶから、幽霊になりきれず、さまよう火の玉にみたいになって、霊磁場に吸収されるよ」


「あぶなー。わたしもこうなるところだったのか。幽霊やりたいよ。幽霊やらずには死ねないよ」


 うん、幽霊になったら、死んでるけどね。

 

「新しい悪霊になったりしないの」


「うーん、見たことないかな。きっと、そういうパワーも食っちゃってるんだと思うよ」


「わたし、最後は怨霊ちゃんに膝枕されながら天寿を全うする」


「あなたもだいぶコメディ世界のホラーに慣れてきたね」


 平和が一番ですよ。

 怨霊ちゃんでも殺害なんてしないよ。

 でも、こんなに長い間、この世界に生きている人がいて大丈夫なのかな。なんか憑かれたりしないのかな。

 まぁ、和気藹々とした幽霊たちだし、大丈夫か。フリじゃないよ。




 ドーンッと爆弾が爆発するような音がした。

 曜日感覚も季節感覚もないから、時間把握はしてないけど、少女が来てから二年目ぐらいかな。


「私立あかね中学校、まさか実在したとは」


 聖職者のような男たちの集団が来ていた。白い装束が、ブラッドパラダイスの世界に不似合いだ。

 って、なんか無理やり成仏させまくってる。

 やめてー、彼女たちは、たグラウンドで楽しく運動しているだけだよ。


「ちょっと交渉してきて。わたしが正気なうちに」


「あれ、もしかして、狂気に堕ちそうなの。あー、まー、敵だよね。あれは。楽しくパラダイスしているだけなのに」


 彼女は、頬を掻く。

 

「ごめん。きっとわたしのせいだ。腐ってもわたし聖少女だし」


 うん、バトルしていたときに、なんかの関係者なのはわかっていたけど、へんな除霊集団を連れてこないで。帰ってもらって。わたしは、この世界の神として食っちゃ寝してるだけでいいの。

 ホラー大好き聖少女ちゃんは、聖職者集団の方に歩いて行った。


「はーい。皆さーん、わたしは無事なので。安心してください」


「これは、ミラ様、よくぞご無事で。安心してください。我が教団の最精鋭を持って、この霊障を封殺します」


「いえ、しなくていいです。ここは平和な場所でした。怨霊ちゃんがきちんと管理しています」


「しかし、わたしたちでも分かりますよ。禍々しい瘴気が屋上やプールにも」


「あっ、そうですね。そこは解放していきましょう」


 こうして、私立あかね中学校の危険区域は全て除霊されていった。

 わたしは、コソコソと校舎からその様子を見ていました。

 



「で、聖少女様、なんでお帰りにならないのですか」


「やめてよ。怨霊ちゃん、わたしたちの仲でしょ」


「いや、帰れるでしょ。ドカーンッと一発穴を開けられたし。そこから帰りなよ」


 なに、ちゃっかり羽毛布団だけ仕入れてきてるの。

 わたしに念力で運ばせるし。

 聖職者集団はお酒がないのが問題とか意味不明な捨てゼリフを残すし。


「だって、現世に帰ると、永遠と地獄の除霊仕事だよ。過労死するよ」


「はぁー、わたし、もう悪霊になっちゃおうかな」


「そうだ。温泉を掘りたい。ここ、用務員室にシャワーがあるだけで不便なんだよね」


 温泉はね、掘ればどこでも出るような者ではないんです。聖少女ちゃん。

 え、なに、ドカンと開いた穴を温泉の土管で塞ぐって。

 うんうん、わたしの念力で工事を…………。


 ホラゲー世界が異世界からの侵入者によって快適化されようとしている件について。

 ようこそブラッドパラダイス、血の池地獄です。

 あーん、観光地じゃないですか、それ。


「念力って便利だね。わたしも死んだら使える幽霊がいいなぁ」


「暇つぶしの手段がいるわね」


 聖少女ちゃん、ここは、時間潰しをしていい空間ではないはずなんだけど。というか、聖職者集団さんが教会のようなものを建築し始めているのは、なぜ。

 うん、霊には影響しない素材で作っているから大丈夫らしいけど。幽霊が教会に通う姿に……そこ神社か寺で良くない?


「ん、スマホなら繋がるよ」


「いえ、最新のテレビと家庭用ゲーム機がいるわ」


「テレビとかホラーのアイテムなのに、持ってこようとしないでよ」


「薄型テレビから出てくるのって大変そうだね」


 まぁ、貫通するから関係ないけど。触りたい時に触れて、透過したい時に透過できる、幽霊って便利。成り立てだと、失敗も多いけど。たまに、モノを落とす子が多いんだよね。稀にだがよくある。


「そうだ、園芸部が、もっと広大な農地が欲しいって」


 部活動って。ここは死後の世界ですが。さておき。


「どうやって広げるの。というか、自給自足する必要もないのに」


「暇なんでしょ。彼女たちも。もっと怨霊としての格をあげないとね」


「聖少女が怨霊を育成しないでよ」


 ホラゲー世界、開拓中。

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