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 まあ、兎に角だ、前の世界(あっち)には魔力だの魔素だのがあって、この世界(こっち)の世界にゃ俺の言うそれらが存在しねえって事に遅まきながら気が付いたわけだ。

 なんでこっちに無いもんが俺に備わってんのかは知らん。

 俺が転生したから魂だかなんだかに引っ張られる形で体が変質したとかそう言う話なのかもしらんが、そんなん解り様がねえ。

 で、それに気が付いた時にまあ腑に落ちたって言うのかね。

 5歳ぐらいまで靄がかったような感じがして頭が、思考がイマイチはっきりとしなかった訳ってのが。

 精神的に色々あって参ってたのもあるんだろうが、それ以上にこの症状ってのがあっちの世界で言うとこのなんつーのかね、魔力切れ前というか魔素欠乏?酸欠みたいな状態に似ていたわけで。

 体が成長してないから自前の生成量が足りてなくて常時酸欠みたいなもんだったんだろう、と。

 あっちでは自前で生成する魔力と、口やらで呼吸と共に魔素取り込んでそれを体内で精製してるんでこんな事はそうないんだろうが。

 ついでに、すぐにこの違いに思い当たらなかったのは色々理由があるんだが、精神的に参ってて頭からすっぽ抜けてた、環境の変化ってか未知のモンばかりが溢れてて俺の中で当たり前だったソレに思い至らなかった、魔力が切れかかった状態やその手前辺りから無意識で抑制が働いて強く意識しない限り魔力を使用する行動を取ろうとしない本能、まあどれも当てはまるとは思うんだが所詮は後付けの理由だな。

 ただ言えることはその気付きを得るまで俺は魔力・魔素の使用やその有無についてド忘れしてたって事だ。

 ここまで言えば分かるとは思うんだが、そういったファンタジー的な力があるって事は当然あるわけだよ『魔法』だの『魔術』に該当するもんが。


 だがそんなもんはどうでもいい、今重要なの何?喰いモンでしょう!?


 と言うわけで俺は山深くへと立ち入った。

 何を言っているのかわからないって? ば か め 喰いモンが美味しくない→魔力・魔素がない→俺にとっての旨味の素が恐らくそこにある→この世界に俺の知りうる限り魔力・魔素が存在するのは俺の体だけ→じゃあ作らなきゃ!

 こうなるわけだよ、作る・育てる・俺食べる、無いなら創り出すしかないだろうが!

 幸いと言うべきかはわからんが、前世の俺は元々は農家の倅で家業が嫌で村を飛び出したのだが、出ていくまでは仕事はしていた。

 その経験が今活きるっつーのは皮肉なのかなんなのか。

 あっちでは肥料やら飼料に自前の魔力を混ぜ込んで使うって方法もあったので、これを使えばきっと魔素なり魔力なりを持った動物なり植物が出来る筈。

 だが、人目につくところでやるのは不味いと考えて、元々人が訪れる事が稀な村から更に誰も立ち入らない山奥へとちょうどいい場所を求めて分け入った。

 元々山歩きは前世で経験豊富だったし、5歳児だろうが魔力を使用することを思い出した俺には身体強化というドーピングがあったので、それを使いながら躊躇せずに奥へ奥へと進んだ。

 そうして丁度いい大きさの池のある俺が求める条件が揃った場所を見つけた。

 そこで帰り道で使うであろう身体強化の分を残して、池とその近場で耕した土に可能な限りの魔力を叩き込んだ。

 ガキの自前の生成量なぞ多くもないのでそう大した量ではなかったが、きっとこの池の水を吸ったり飲んだりした植物や動物が、耕した土に適当にぶち込んだ家や近所から適当に拝借した種が、何某かの成果を齎してくれることを期待しながら家に帰った。


 戻ったら村中が俺が居ないってんで大騒ぎになる一歩手前で、滅茶苦茶説教される羽目になったが。


 そして、こっちで生まれて初めて魔力による身体強化をしたせいで、それによるオーバーワークで全身筋肉痛と尚且つ魔力的な意味での筋肉痛っぽいものによる二重苦で動けなくなったが。

 いや、ついでに言うと帰り道での魔力使用の配分をしくじって再び魔力が欠乏して暫く頭にモヤがかった状態にもなって三重苦だった。

 更に無断で山に入って心配を掛けたせいで1か月ほど山に行く事を禁止されてしまった。 


 そして一月後、様子を見にやって来た俺は愕然とした。


 何と言うことでしょう。

 

 山は枯れ


 鳥は消え


 海は元々ないけど、池が荒れまくっていた。


 と言うのは冗談としても、実際酷いことになっていた。

 池の周辺の木々の多くが枯れたり萎びていて、様々な動物の死骸や骨が腐臭を漂わせて転がったり浮かんだり打ち上げられていたり、なんというか酷い有様に。

 でもその酷い有様の中でも普通に動いて腐肉を漁っているカラスやら他の動物やら、枯れたり萎びたりしている中でも普通に生えている植物やら、池にも生き物が動いてると思われる波紋が。

 唖然としたが暫くして我に返って適当な大きさの穴を掘って辺りに散らばる死骸やら何やらを放り込み、荒れていた畑を整えて家に帰った。

 家に帰りついて風呂に入って飯を喰い、その後自分の部屋で頭を抱えた。

 まあ、前世で農民の倅やってたとか言っても、言われた通りに土を耕して、言われた通りに肥料やら飼料に魔力をぶち込んだりしてただけで、それも途中で投げ出して村を出た俺が一からやり始めてすぐ上手く行くわけないわなー。

 そんな事を考えながら、いやいやそうじゃねえだろもっと根っこからおかしいだろなんだあれ、前世で鉱脈が出たっつー山の近くをうろついた時に似たような光景見たような気がするが、とか色々と考えた。

 散々考え・・・る前にそもそも長々と考えるほどに知っている事なんぞなかった。

 もちっと前世で色々と学んでおくべきだったと後悔しつつ、こっちではさっさと文字覚えて本を読もうとこの時に思った訳だ。


 そう考えて次の日にお勉強を始めたのだが、10分程度で投げ出して気が付いたら山にいたわけだが。


 で、昨日の今日で池のある場所まで来たが粗方片づけたせいか前日程はアレな光景は広がってなかった。

 それでも付近で鹿やら鳥やらが、動物の死骸を叩き込んだ穴の付近で猪などがくたばってたが。

 それらをまた穴の中に叩き込み、畑で枯れずに残っていた野菜の周りの雑草を引っこ抜き、そこでもくたばっていた動物、ここには猿もいてげんなりしつつそれも穴に叩き込んで畑を整えて家に帰った。

 そっから毎日、字を読めるように勉強しようとして投げ出し、山へ行き、畑を耕し整えた。

 徐々に勉強を投げ出すまでの時間が伸び、字も僅かに読めるようになった。

 畑に行っても動物がひっくり返っているという光景も徐々に少なくなり、その分野菜が食い荒らされる頻度が上がったので柵やらを作ったりした。

 勉強時間は最初の頃よりかは長くなったがやはりそう長時間は持たずに畑に行った。

 柵が、恐らく猪の仕業だと思うがぶっ壊されていたので直したが、腹が立ったので魔力で強化を掛けたら次の日から柵と関係ないところで死骸が増えて畑の野菜が幾つか枯れたり萎びたりした。

 そんな事を続けているうちにようやくある程度簡単な本ぐらいなら読めるようになったので村で本を沢山持っている爺さん、というか村には爺婆しか基本いねえんでどこも爺さんか婆さんの家だが、から本を借りて読むようになった。

 畑仕事の合間にもちょくちょく読んだりし始めた。

 そんなこんなで毎日を過ごし、大抵の本は読めるようになり、畑までたどり着く時間も今までより大分短くなり、なんか家の爺様の畑の面倒も見るようになっていたり、本を沢山集めていた爺さんが死んじまって本を全部譲られたり、畑の周りでひっくり返ってる動物が殆ど居なくなったがそこにたどり着くまでにくたばっている動物をちょくちょく見るようになったある日、俺はふと気が付いた。


 あれ、なんか、池の周りにいる動物やら植物から、僅かだけど、『魔力』感じね?と。


 速攻で猪と鹿となんかよく知らん野鳥をひっ捕まえて焼いて喰った。

 美味くはなかったがわずかだが旨味は感じた。

 畑の野菜とそこら辺に生えていた喰えそうな蔦に生えた実を喰った。

 不味かったがほんの毛ほどだが旨味はあった。

 そして体に僅かだが、ほんとに僅かだが魔力(ちから)が沸くのを感じてテンションが爆上がりして、高笑いしながら辺り一面に、池に、木々に、畑に、魔力を垂れ流して気絶した。

 目が覚めると既に陽が大分低いとこまで来ていて焦った。

 魔力切れでぼやけた頭とだるい体をやっとかっと引きずってなんとか家に帰り着いたがそのまま熱を出して腹も下し、何日か寝込んだ。

 お陰で爺様に叱られまた暫く山への出入りを禁止された。

 まあ、1週間位で我慢が出来なくなり山に入ったが。

 池のある山に入るとある程度の動物の死骸や萎びた木々が見られた。

 だが池の周辺も含めて前回やらかした時に比べるとそこまで死屍累々ってわけじゃあなかった。

 くたばっていた動物の死骸はいつも通り喰わずに穴に叩き込み、辺りに居た魔力の気配を感じる動物のうち兎を一匹だけ仕留めて焼いて喰った。

 やはり非常に薄っすらとだが旨味を感じたが、世辞にも美味しいとは言えなかった。

 ほんの僅かに湧き上がってくる魔力を感じながら俺は笑った。

 最初はどうなる事かと思ったが、というか途中から本来の目的をすっかり忘れてたような気がするが、間違いなく成果が上がっている。

 間違いなく前世で喰っていた喰いモンに近づいて来ている。

 そう考えながらいつも通りに過ごした後に家へと戻った。


 それから毎日同じように過ごしていった。

 勉強して山へ行き、畑を耕して合間に本を読み、時々爺様の畑の様子を見て家に帰り飯を食ってTVを見ながら本を読んで寝る。

 その間にも色々あったが、大きな事と言えば家の婆様が死んでしまったり、村にいる何人かの爺さん婆さんが死んでしまったり、台風とかいう大風や大雨で山に入れなかったり、なんか学校に行けとか言われたがあまりにも遠いしめんどくせーしで結局行かなかったり、山で魔力持った猿の群れに襲われて返り討ちにしたり、熊に襲われたり、猪に襲われたり、カラスの群れと激闘を繰り広げたり、鹿を追い回したり、兎を探し回ったり、時々思い出したかのように池やら畑やらに魔力ぶっ込んでみたり、再び猿に襲われてキレて叩きのめして屈服させたり、カラスとまた激戦を繰り広げ従えたり、池の魚を喰って腹を下して寝込んだり、いつの間にか池に鴨が居たり。

 兎に角色々とあった、色々と。

 そして、色々あったが遂に、10歳になって暫くしたこの日、俺はようやく『普通に喰える』喰いモンに辿り着いたのだ。

 

 

 

 

 


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