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 稲生いのう 裕孝ひろたか、それが今の俺の名前だ。

 歳は10歳、今は日本人だが別の世界で生きていた記憶がある。

 この世界で言うとこの所謂『前世』ってやつの記憶を持っている『転生』をした『異世界』の人間らしい。

 最近ようやくまともに読めるようになった本やらTVとか言う箱を見て知った言葉なんでこれが正しい言い方なのかイマイチ自分でもわからねーが、多分そういうことらしい。

 俺の前世とかいうのの記憶じゃ、転生だの異世界だのは言葉自体が多分ねえんで多分としか言えねえ。

 まあ、使ってる言葉やら文字がそもそも全く違うから何とも言えねえが、なんつーのか転生やら異世界っつー概念?みたいなもんが無い、無かった、と言うべきなのか。

 お陰様でこっちに生まれて数年は混乱しっぱなしだったわ。

 死んだと思ったら赤ん坊でしたとか想像もしない、するわけがねえ。

 振り返ってみればそりゃ生まれてすぐで言葉がしゃべれないのも体が動かせないのもわかるが、ついでに目も満足に見えないってーのも後付けで知ってなるほどと思いはしたがね。

 いきなり大人であった状態からそんな状態に叩き込まれてみろ、発狂もんだっつーのね。

 挙句に異世界だと来たもんだ、意味が分からんわ。

 いや、もしかすっと過去とか未来とかの可能性もあるのかも知らんが確かめようもねえ。

 少なからず確認できる範囲ではここが俺の前世とやらと歴史上で地続きになってるようには思えんから、多分異世界ってやつなんだろうとは思うんだが。

 とにかく、死んだと思ったら生きてて、体が動かない、まともに喋れない、挙句周りに見えるのは何かよく視認できない理解不能なナニカの音を発する動く物が居るって状況だ。

 時間の経過と共に徐々に視界はハッキリしていって、周りに蠢いてるのが人間だと理解できるまでにどの程度の日数を使ったかなんてまるで覚えてねえ。

 覚えてねえのか思い出したくないのか、兎に角振り返ろうとするとおぞましい感覚が背筋を震わせて深く考えたくねえ。

 そんで気が付いたらこの寂れた爺婆しかいねえ集落に居た。

 なんでも都会の方で生まれたらしいが、他のガキと比べても凄まじい泣き方で恐ろしく手間のかかる赤ん坊だった俺に散々煩わされて母親が育児ノイローゼとか言うもんになっちまったらしい。

 それで、周りの目を気にしないでいい田舎に、父方の実家であるここに俺と母親でやってきたらしい。

 なんでも母方の実家はそう田舎でもなく、尚且つ折り合いが悪かったからこっちだったらしいとか。

 で、来たのはいいが今度はあんまりにも何もなさすぎるド田舎で、別の意味で母親の頭がやられちまったらしく俺を置いてどっかに行っちまったらしい。

 ちなみに父親はずっと都会で働いていているらしくこっちには全く顔を出していない。

 仕送りはしてくるらしいんだが、両親の事はそれ以外は何も聞いてねえ。

 詳しく聞こうと思えば爺様も教えてくれるのかもしらんが、あまり聞く気にもならん。

 正直な話、両親の事なんざ殆ど覚えてねえ。

 いや、殆どというより全くと言っていいかもしれん。

 多分記憶に薄っすらとある俺の周りで動いていた影のどれかではあろうと思うんだが、当時は正直それどころじゃないってか、それどころもどれどころもクソもない状態だったからサッパリだ。

 気が付いたらこのクソ寂れた村に居て、一緒に住んでんのは爺様と婆様で、数年前に婆様が死んで今は爺様と二人暮らしだ。

 大体だ、気が付いたらこの村だったってのも、その時の記憶からしてなんか頭が霞がかっていてはっきりしない。

 これは記憶が曖昧っつーより、当時の俺自体が頭がモヤがかっていて体がだるくてろくすっぽ動く力だか気力だかがなかった。

 こっちで生まれてからのアレコレで俺の頭がやられてたせいでそうなったのか、それとももう一つ心当たりがあるんでそれが原因なのか、両方なのか。

 そんなモヤがかった状態でろくすっぽ動きもせずに恐らく1~2年は過ごしていたと思う。

 俺の記憶がはっきりしてんのが大体今から5年前ぐらいからなんで多分そんぐらいじゃねえかな、と言った所だがそこら辺の時間の感覚すら曖昧だ。

 まあ、何はともあれ5年前ぐらい、大体俺が5歳ぐらいの時から色んな意味で全うに考えたり動いたりだの出来るようになったわけだ。

 んで、全うに回るようになった頭で色々考えたり、行動したりしながら過ごすこと5年、紆余曲折あったがようやくここまで来た。

 TVとか言う原理が意味不明な箱に驚かされ、軽トラとか言う謎の荷車に跳ね飛ばされ、電気とか言う謎のビリビリにビリビリさせられ、レンジとか言う卵を爆裂させたり部屋の明かりを全部消す謎の箱に悪戦苦闘し、突如異音を鳴り響かせる電話とか言う物体に常に警戒させられ、水が流れ出す鉄の筒から水の止め方がわからず自分と辺り一面をびしょ濡れにしちまったり、なんか毒々しい色の粘液で毒霧みたいなもんを発生させて気持ち悪くなり、あとは何言ってるわわかんねー言葉を理解しようとし、そして只管に本を読むために字を覚えたり、字を覚えたり、字を覚えたり・・・。

 うごごご、平仮名、片仮名、漢字、うごごご、どれか一つにしろよ意味わかんねと何度叫んで書き取り練習用のチラシを細切れに変えたことか。

 1・2・3・・・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・・・一・二・三・・・いち・にい・さん・・・わん・つー・すりー・・・ひい・ふう・みい・・・うごごごご。

 前世、転生、異世界っつー言葉なり概念なりを知り、多分ここが全然知らねえ場所でなんか若返ったか別人になっちまったっつー認識が変化し、そっからも色々あった。

 そして紆余曲折を経て、俺はこの外から全く人の来ないド田舎で、更に誰も入ってくることのねえ山奥で、ようやく前世の味に近い喰い物を手に入れることに成功した!


 ・・・ん?なんか話が一気にすっ飛んだような気がするが大した事じゃあねえな。


 重要なのはちゃんと俺が美味しさ、ってーのを感じる事の出来る喰い物をやっと作る事が、育てることが出来たって事だ。

 長かった、本当に長かった。

 もうね、色々と違いがありすぎてこれからもなんつーの、カルチャーショック?ってやつがぽこじゃか出て来るんだろうとは思うんだが、これだけは、これだけは声を大にして言いたいけど大っぴらには声に出せんがそれでも言わせてもらいてえ。



 メシが美味しくねえんだよ異世界! 


 味がなんかうっすいんだよ! 


 絶妙に一味ってか二味足りてねえってか、イマイチどころか今二だか今三ってぐらい足りねえ!


 なんか変に偏った味がすんだよ!


 あと、喰った時にこれ以上は喰えないけどなんか喰った気がしねえっつーか満腹感を感じねえ!


 こっち風に言えば出汁取ってねえ吸いモンとか、灰汁抜きしてねえ具材が混じってるとか、下味がちゃんとついてねーとか、湯がきすぎて味が旨味が抜けすぎとか、なんかお麩喰ってるみたいだとか、諸々そんな感じでなんかこう喰えないわけじゃねえんだけどガッカリするってかモヤっとするってか、喰った気がしねえってか、そんな喰いモンばっかりなんだよ!

 見てくれの豪華さ、多様さ、料理法・調味料・食材の数、諸々が前世と比べりゃ雲泥の差ってぐらい豊富だが、ちっとも心が躍らねえってかむしろ喰うと気分が沈むんだよ!

 味付けやらの好みが、味覚が違うからなのかとも思ったが、どう考えても体はこの世界のモンなんだし違えと思いつつ色々試したが理由がわからなかった。

 まあ、割とすぐに理由は分かったんだけどな。

 自分の汗が口に入った時に、この世界に生まれてから喰ったどの喰いモンよりも旨く感じた時に。

 むしろなんでそれまで気が付かなかったっつー話なんだよ。

 文明だの文化だの、生活の水準だの言語だのよりよっぽどでっけえ差があったのに、前世で当たり前に使ってた物が、在ったものが無いってのに。

 前の世界(あっち)にあってこの世界(こっち)に無い物、最も大きな違い。


 こっちで『●●』持ってる生き物が、植物が、いねえ。


 というか、空気に、土に、水の中にも、全く『▲▲』が含まれてねえ。


 でも、何故かこっちで生まれたはずの今の俺の体には『●●』がある。


 

 ●●ってーのは何か、前世の言葉なんでこっちの世界に置き換えると何だ?

 多分、魔力とか霊力とかそんな感じの、もっと厳密に言えば世界の(ことわり)がどーたらとか神官が言ってた気もするんで理力の方が正しいのかもしらんが。

 うーん、確か原初だか原始より世界に満ちる云々とかも言ってやがった気がするが・・・原力?始力?めんどくせーから魔力でいいだろ。

 そう、『魔力』だ。 んで、▲▲ってのはまあそれの力の素になるやつなんで『魔素』とでも呼べばいいんじゃねえの?

 前の世界(あっち)にあってこの世界(こっち)に無い物、所謂こっちの世界でいうとこのファンタジーってやつだよファンタジー。

 俺にしてみりゃこっちの機械だの兵器だのの方がよっぽどファンタジーだっつーの。

 いや、この場合はこっちで言うとこのSF、っつーのかね?


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